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救出作戦 ①


重苦しい緊張が研究施設室内を支配していた



信繁の言った「ループ」とは



「まれに『出てこられなくなる方』がございます


カンにすぎないですが、私もそうなりそうな気がいたします


そうした取り返しがつかない可能性が捨てきれないので」


つまり、城主の紫が危惧して言った、正にこの状態のことを指す。




「後どれくらい持ちそう?」


城主はパチリとも瞬きもせず脳波と心電図を追跡モニタリングする〜


中空に浮かぶホログラムの巨大画像をキリッと見上げ主席研究員に尋ねる


既にあれから小1時間が経過していた



「ーーーっと、ですね? 

今のままですー〜と、後30分程です。

それを越えると明らかな意識障害が確実に出ます。


肉体的には残り1時間ーーー未満と言った所でしょうか?」



「かなりまずいな」


「ですね」


背の高い子龍は長い腕をガッチリ腕組みして何やら考え込み、ずっと彼より小柄な華奢な雅は不安げにオロオロと目を泳がせた。


生命が辛うじて持つ制限時間は約1時間ーーーーー


「たったそれだけかよ」


眉をしかめ信繁は毒づいた



「お前がチクチク嫌みを言うだなんて珍しいな、俺じゃあるまいし?」


「ーーーっ、俺だって腹立たしい事があるんだぞ?子龍」


ニシャッと笑った子龍に、むっつり不機嫌そうな信繁は言い返す。



「何か方法はない?」


ぐるり周囲を見回す城主の問いかけに、すると末席で、カチカチ細かい装置の操作をしていた職員が。


〜まだ城に入館したばかりの若い新人研究スタッフが、ぴょこんと手を上げた。


「無いわけじゃあありません」


予想外の小さなその声に、思わずその場にいた皆が振り返る。



「言ってみて」


城主の良く通る声に、おずおずとだがハッキリした声色でその新人研究スタッフは自説を披露する。


「あのぅ……新型実験機で、1度に3つの意識を圧縮して、1つのメインデータに送り込むことが理論上可能なんです。


現在それに基づく新型装置を 私は研究開発中です。


勿論、まだ正式な臨床試験はしておりませんが、あの装置内にはすでに、大人の成人男性が2人分『入っている』ので。


新しくは、容積容量の少ない子ども1人分の意識しか転送移植出来ません」



ーーーーその場に不気味な沈黙が降りた。




「サルベージに私が行きます」 


ギョッとした全員の視線がその声に集中する。


城主は如何にも何気なく、しかもまるで「そんなの当然」と言わんばかりに全く何事もないように平然と言い切ったのだから。


場は蜂の巣を突いた様に騒然となるに決まっていた。



中でもーーー急先鋒


発言を聞くやいなや、信繁が猛然と怒りだした。



「っちょっと止めて下さい! 臨床試験前でしょう? 


それに安全が確約されていながら以前1度、挑んだ試みは、大失敗!!


あと少しで死んでいた、命にも関わる酷い精神的ダメージくらったじゃあないですか?


そりゃ確かに、確かに収監者は救助できましたが?


貴女は又『あれ』を繰り返すおつもりですか?!」



『忘れたとは言わせない、どれだけあの時職員が心配したかーーー!』


信繁はスタスタと足早に前に進み出て、城主の側に恐い顔で立つ。



「オイオイ、どうした班長…!」


びっくりした子龍が思わず駆け寄る。


怒り心頭の信繁と、逆に平然とした顔を一切変えない城主の間に滑り込み、盾として割って入らなければならない程の凄い剣幕だった。



「えー?そうだったっけ?」


「ーーーだそうだ」


「〜〜〜!!

五月蠅い子龍! 

お前は余計な事、口挟まず黙ってろっっ!」



「いやーーーー従来の旧型機は確かに信繁さんの仰るとおりに不完全で、不安定さがございました。


がーーー現行の私の開発機は、そこまでの危険は無いと考えています。


何故なら、非公式実験で、私自身と、私の意識を3分の2程、完全コピーしたアンドロイド2体とで、計3体分で。


実は7日前、細かくデータ取りした上で検証実験いたしましたから」


「ナンジャソリャ」


「……」


「ふぅん?」


「アンドロイド達の体の精密な人工知能測定計測部位に、能力的な欠損は何ら見られませんでした。


私の肉体状況も同様ーーー

ホラこの通り、現在でも極めて健康体です」



「へーーーヤッパ研究者って、いっかれてるわー!!」


「子龍さんっっ、そういう問題発言、しかもこういう場でしないで下さい!!


偶々、そういう大胆な人も居るってだけですっ!


でもッッ、ホントなんでしょうか?信繁さん?」


「ぁーーーーーどうだかな」



信繁は、自身の相棒であり優秀な自班の班員である子龍と、かつて不夜城研究者として働いていた雅の疑問に何とか穏便な返答だけをした。



がーーーしかし、『ウソつけ』


信繁は心の中で、その”自分を”ーーー


自らの肉体全てを、危ない研究材料に悉く捧げたと得意げに胸を張る研究員に、滅茶苦茶な罵詈讒謗を浴びせていた。


そして更にーーー


子龍の言う〜”ヤッパ研究者っていかれてる”ーーの張本人。


喜々と追加で、”こんな事”を言い出し精神を益々逆撫でするのだ


「今、転送移植データ容量をオールチェックしてみましたら、何とか肉体が20歳未満〜


脳の重量も同等くらいでしたら安全にいけるかと思います」



城主の表情がピクリと微かに動く


「〜〜〜〜〜〜!」


信繁は

『コイツ〜ッッ全く余計な事を!』


提案した研究員を2メートル近くあるしっかりした見事な長身から、ジロッ〜


意識的に思いっきりの殺気を込めてメンチ切りをして見下ろす。


「ひぃぃぃぃっ〜!」


誰しももれなく怯えるという、というか、城を襲う襲撃者ですら


「こいつ悪魔だ!」

「伝説の死霊がジャパンに存在した!」な、恐い顔で睨み付ける。


『彼女がそれを聞いてしまったら、俺にはもうどうしようもなく打つ手が無いだろっ!!』



信繁は力を込めてグッと拳を握りしめた。

 

安全だと確証を得たら、仕事中毒の滅茶苦茶なあの人が引くわけが無いのだ。


ーーー”絶対”に。



「信繁、しっかりしろーーーーらしくないぞ?


いいか??ーーーこの場でお前が荒れたら収拾がつかなくなる。

兎に角お前 感情を押さえろ」


ボソリと、何気に直ぐ側に顔を寄せた子龍が 密やかにフッと囁く


微かな「耳打ち」は効果抜群ーーー


ハッと我に返った信繁は「チッ」と、至近距離にいる子龍にしか聞こえない程の音量で小さく舌打ちをする。



その様子を見ていた雅は 昔の 「有る出来事」をーーー思い出していた。





様々な死線を〜特殊部隊に属する自分達は、城率いる所長〜


総責任者であり かつ優秀な龍の騎手である城主と共に必死に今までくぐり抜けて来た。


『だってさ〜 ”あの人”は頑固だもん……』


雅は深い諦めの溜息をついた。



「あの人ーーー”城主”


その場にいたおそらく全員、どこかの作戦の経験上ーーーで、城主の気持ちを変えるのはもはや不可能だとわかっているだろう。


ーーーそう思ったのだ。



以前〜最悪の事故が起こった。




収監者が今回と同じ様に、転送移植内で『ループ』に入り込み、城主が矢っ張り同じ様に救出の為〜……


単身 サルベージに出動した。



「絶対 大丈夫です」


「前」役立たず〜無責任な忌々しき主席研究員は自信満々、そんな風に太鼓判を押していたのを昨日の事の様に今でもよく覚えている。



不吉なーーーあの日の警護も、今日と全く同じく信繁班だった。


雅が胸を躍らせ、憧れの信繁班班員として迎え入れられ、日も浅い時分の悲しい


ーーー呪われたとしか思えない、辛い出来事だった。



収監者は何とか無事だったのだが、救助者であった城主に意識障害が出た。


およそ2ヶ月と半月


意識不明ーーー

サルベージに向かった救護者が植物状態という大事故が起きたのだ。



こうした、何らかの脳障害で意識が戻らない場合〜

一般的なドクターは「3ヶ月」を一応の目安にするという。


城主が目覚めたのは、正に脳死判定が出るギリギリ!

 

「奇跡ですね!」


つきっきりで、昼夜構わず彼女に付き添い処置をし続け、経緯をモニタリングしていた優秀なドクターは思わずこぅ洩らしたという。


それ程危険な紙一重の状態だったのだ。




事故直後のその時ーーー当時も「そういう事も含めて」



厄介な頑固な性質の城主の暴走「も」、押さえるようーーー”付き添い”


特殊部隊精鋭班長達、代々の”暗黙の了解”で了承されていた。



あの日、護衛をつとめた信繁は、声紋と貌を隠した『五人会議メンバー』から直接の『査問委員会』への出頭を命じらている。


恐怖の、何日にも及ぶ厳しい長い事情徴集を受けた。



しかしーーーところが実は、これで終了では無かった。


イイヤ寧ろ、”これ以後”が「本番」ーーー!!



その後、大切な仲間であり同僚〜

命を守りあう戦友達である筈の、名のある特殊部隊隊員全員からリンチを受けたのだ。


「一体全体、有能だと評判なお前が、彼女についていながら何やってたんだ!」


「信繁〜ぇ、貴様何をボサッとカカシみたく側でつったってたんだッッッ!!」


「黙ってねーでーーー何とか言えよっっゴラァッツ!!」


「ぁあ?若手エースと持ち上げられ調子くれてんじゃねーっぞオンドリャァ!」



ガツッツッーーーーー!!


~手加減の無い 肉体的・精神的激しい糾弾の嵐ーーー




雅は総てを 震えながらずっと全部物陰から見てきていた。


『いつか絶対に仕返ししてやるーーーー!』


〜〜〜アイツらムカつく許せないと思った。



がーーー雅の直の上司であり憧れの上官〜


そしてべらぼうに頼りになる友人でもある信繁は、日々それら全てを 何故か甘んじて受けた。


そして鉄拳制裁は、事件当日同じく職務についていた班員には全く及ばず手は出されず、信繁ひとりのみに集中しているのだ。


どうやら「そういうこと」に、あらかじめ猛者内部で根回しされていたらしい。



「信じられないっっ!!」


『いったいどうして?!』 雅は悔しくって悔しくって堪らなかった。


「真実なんて人の数だけあるのに〜〜〜!!」


綺麗な目に涙が浮かぶ。


とんでもない無茶苦茶な言いがかりに、火の玉の如し燃える怒りが収まらない。


誰よりもバランス感覚に長けた、しかも頭脳明晰の信繁はその事を重々知っている筈なのに…


理不尽に一方的に殴られ蹴られまくっていたのだ。


なのにーーーー


”言い訳”は驚くべき事に一切しなかった。





しかもーーーー


毎日毎晩ーーーー

 

信繁はただひたすら…!

この最悪の原因を作った城主の意識の回復を願って、祈りを捧げていたのだ。


「人が善いにも程がありますよッッ!!」


雅は無性に腹が立って腹が立って〜


怒りすぎて煮えくりかえりそうな程ムカついてしまって、カッカと気分が収まらなかった。


夜だって腹が立ち過ぎて眠れない程にそれほど怒髪天をついていた。



なのにーーーー

自分の気持ちを幾ら直訴〜訴えても


「そうだな……」


少しもの悲しい目をするばかりの憧れの、肝心の信繁は、彼女が生命維持装置を取り付けられ、シンッと人形のように横たわる集中治療室前ーーー



ソファーベンチに それこそ何時間も


本当にずぅっとーーー



ずっとーーー


ずっと




彼の持ち時間、時が許す限り項垂れてーーーー


指を〜…万国共通の「型」


手を〜祈りの形に組み合わせ座っていたのだ。




「信繁さんのほうが 僕心配です…っっ」


「俺のことはいい。

別に、俺に雅がつき合わなくてもいいから早く休め。


ーーーー明日も忙しいだろ?」


 

「そうはいかんだろ? 班長


肉体的には器用によくもま、あの武闘派先輩方相手に上手く〜〜〜〜急所を外させて。


”受け身”を悟られず、じょうずに誤魔化して〜ーーーだ?


マジ傑作に、超見かけ派手に殴られまくったとマァ、ホント、呆れたけどさ??


それでもお前あっての精鋭『信繁班』だ、大将のお前が潰れたら部下の俺らは正直困る。


下は優れたリーダー次第、つまりはお前あってこそなんだよ。


それにーーー未だ俺も死にたくない。


でもまぁ〜部屋で休めって言っても、その調子じゃ心配しすぎで、まぁ無理そうだけどな?


今晩は、俺が此処で様子を見ているから兎に角寝ろ。


雅ーーー悪いが、チャンと頑固なコイツがベッドで寝るかどうか見張ってろ。


わかぁっーーーーったな??、このクッソ相棒。


それからコイツ、飲めや、すぐ効く入眠の薬だ。


優しい雅にツンケン八つ当たりで当たったら、その時は俺がお前を本気でぶっ殺すからな?


ーーーせいぜい覚悟しとけよな、俺の相棒??」



「・・・・・・」


「〜〜っっ行きましょう? 信繁さん、子龍さんなら信用できますからッッ!」


 

「・・・・・・」



雅は殺気立つピリピリした雰囲気の、ムッツリ、不満げに一切無言を押し通す信繁を半ば見張り、何とか彼の自室までかなり強引に付き添った。


怖い貌でーーーあの優しい普段の姿とは別人のようだったが、この時、側で面倒を見る雅の言葉には怒りの矛先を向けず黙って本当に従ってくれて安堵した。


子龍さんから預かった睡眠導入剤も、とりあえずは飲んでくれた。


『こんな状況でも子龍さんの言葉はなんだかんだで聞くんだ…!』


雅は『この明らかな明確な差』に傷つき、ほんの少しシュンと、もの悲しい心寂しい気分を味わった

 


「これーーーー子龍さんのくれた薬、飲みやすいマイルドな軽い安定剤です


成分を見ると、内臓を守る胃腸薬も既に予め調合してあります。

〜負担はありません」


雅はニコッと健気に微笑んで、信繁のためだけに子龍が医局にてワザワザ処方して貰ったらしき特別製内服液の瓶をさしだした。


緩いとは言え液状の物は特に効き目が早い。

直ぐに効果は出るだろう。



「・・・・・・・・・・・・」



信繁は雅から差し出された瓶の薬剤をグッと1度に飲んだ


そしてーーーーーー

着替えを済ませ潜り込んだ自室ベッド内で何度か大きく寝返りを打ち、苦しげに深く溜息をつきゴロゴロ反転してから漸く深い眠りについた。

 

信繁を崇拝している雅にとって、これは、見ているのが辛いったらなかった。



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