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クリストファーからの依頼。転送移植での旅

「では私からも貴方に1つ お願い事がございます」



ウィンストンは驚愕した

『自分にはとっくに、利用価値など無いというのに?』



まじまじと相手の顔を見返した


城主は至って真面目な表情をしており、からかっている訳ではなさそうだった。



「ーーーそんなに怯えた様子で、目を泳がせたり動揺しないで下さい」


ウィンストンの挙動不審な姿を見て、今度は城主の方が困ったように、んんん〜っと眉を寄せる。



彼の懸念を察したのかふふっと微笑む。


「利用価値があろうがなかろうが

ーーー相手を好きになるのが普通の人間ですよ?」



本音の所を心の内をズバリ読み取られた気がして、思わずカッと赤面してしまった。


ーーーー確かに、もっともな切り返しだ





「実は クリストファー王太子殿下様からのご依頼なのです。


王太子殿下は、貴方様の事を最後まで気遣っておいでになりましたよ?

それで、こんなことを言いました。


『城に訪問した僕自身にも、たった1つだけの願いを〜聞いていただける権利はございますか?』と


〜前例が無い事でしたし?

聞けばそんなに技術的にも難しい事ではございませんでしたので、まぁ。


五人会議メンバーからも個別の通話確認のみで、揃いの会議無しであっさり了承が取れました。


貴方の仰るとおり、城の職員全員 上から下まで彼にことごとく参ってしまい


ーーー綺麗に骨抜き状態だった訳です、本当に影響力は物凄いですね」


「……」


「で〜クリストファー王太子様のお望みは


『もしもここにウィンストンが収監されたならば、僕の立体映像のメッセージを彼に見せて欲しい』


ーーーーーでした


どうされますか?」




濃い墨色の、底光りする黒真珠に似た美しい艶めくつぶらな瞳で青年の目をじっと覗き込んで尋ねるのだ。


ウィンストンは絶句して言葉が出ない。




クリス様に逢える??


……もう一度だけーーーーー


王太子様に悪しき襲撃者の自分なぞが、おめおめお目通りが叶うなど、1瞬でも考えるぐらいだったら全身を、〜鞭でくまなく打ち据えられる懲罰を受けた方がいいとすら思っていたからだ。


逆に言えばそれ程に1目、夢の中でも会って跪いてお詫びをしたい、無意識の中で強く願っていた。


許されないと解っていながら 叶うことの無い想い


ジーーーンと嵐のような感情で熱く胸が満たされて苦しくなる。



「ありふれたーーーー立体映像と言えども、この城のホログラム再生能力は馬鹿にした物ではありません。


なお今回は、『転送移植』という特殊技術を使う事が前提の立体映像制作の撮影です。


ですので、ご想像のこれまでの体験とは1味も2味も違います。


彼からのメッセージをお受けすることを、個人的にはお薦め致します。


装置の映像のセッティングに〜実は 少々準備時間がかかりますので、次回の面接まで24時間以上差し上げます。


『転送移植』は高度の技術が伴う為、主要な専門研究スタッフが揃う就業時間にて行います。

 

ですのでーーー

それまでにゆるりと ゆっくりお心を決められては如何ですか?」


「・・・・・・・・・・・・・・」


 

ああ〜喉も声も硬直して言葉が出ない。



〜バクバク心拍数も上昇し、よくわからない汗まで出て来た。


ウィンストンは ガクガクと強い焦りを感じ、いきなり緊張度が高くなる。


『それにしても転送移植とはなんだろうかーーー?』ここは知らないことばかりだ。


 



「そんなに緊張しなくても」


端で見ていると 最高に面白い取り乱した様子を城主はフッと微笑で包むと…


「今夜は既に遅いので、これにて失礼致します。


ではご次回お会いする時に色よいーーー良いご返事を、私は期待しております」



魅惑的に艶やかに笑いながら城主は涼やかにスルリと、引き連れたドローンと共にウィンストンの収監されている区画ナンバーF3776房を退出した。




**************



ウィンストンは城主の後日の訪問で、城主からの提案を丁寧な受け答えで了承する。



「お話しをーーーお受けしたいと思います。


クリス様の映像、『転送移植』というシステムで、是非内部に入って確認をしたいです」


「わかりました、ではその様に取りはからいます」



ーーーー面会後、城主は研究施設区域の某部屋に彼を厳重な警備体制の元、いざなった。


ウィンストンの身体は、通称「チェア」に拘束する。


台座に水素エンジン搭載の自動型拘束具装置に全身を固定されている為、意思があっても一切 何もすることが出来ない。


チェアは、無重力状態で高次元帯の空中を、制御装置で真っ直ぐに浮遊しゆるゆる〜スイスイと滑らかに氷上を滑るように施設内を移動してゆく。




『変なところだな』


視覚的には狭小な密で狭い感じを受けたが、どういう空間なのか、行けども行けどもちっとも辿り着けない、体感的には恐ろしく広い体験をする。


錯覚なのか遠近感が奇妙だとウィンストンは体が震える。


列の最前列と最後尾には特殊部隊小班精鋭、つまり「信繁班」が付き従い、城主脇には 彼らを率いる信繁本人が寄り添う。



城が誇る立体映像再生室ーーーー


微かに響く重低音のせいなのか、妙に生々しい重圧感がある。

 


「気味が悪いよな」


「まぁいつものことですよ!」


子龍の問いに、チェアの操縦を行う雅が答える。


ぬるりとした空気が漂う閉鎖された歪んだ時空ーーーー


『俺は昔から息苦しく何となく苦手だ』


信繁はフッと笑う〜 いつだってここは相変わらずだなと思う。



映像再生室の心臓部とも言える広大な場所に、部屋の天井まで届きそうな程の背の高い巨大クリスタル球が設置されている。


クリスタル球は、ジャパンでも最大級の巨大特殊タンクで様々な化学物質やら熱水やら何かを投入、装置内部、高温でジックリ時間をかけて結晶を育てる方式で造られた人造石である。


つまり地球創世記の、地中奥深くの状態を人為的に科学力で再現して造られた物である。


研磨に又〜そうした専門職につく者達の職人魂が炸裂する、それは恐ろしい程の膨大な手間暇と時間をかけている。


城主は改めて装置の説明と、彼の心象の再度の確認を行う。


「転送移植という技術を使わないで、内部に立体映像のみ照射、ここクリスタル外側から『安全にご覧になる事』も出来ますが」


「……」


「しかし多くの方は、映像そのものに自分ーーーー


『自我意識』を入り込ませて映像投影しております。


でーーー全く現実と区別がつかないという感想を、皆さん仰られて大変満足されております」


「ーーーーー?」


城主は拘束状態のウィンストンを見ずに、悠 遠い目をしている。


彼は彼女こそ、本心この装置の中に入りたいのでは無いかと思った。



「貴女は、体験したことがございますか?」


つい…〜ふと聞いてみた


「はい、でも”個人的興味”で〜と言う状況では1度もございません。


私の場合ーーーー装置での体験を望めば、果てにきりがありませんから」


「そうーーーですか」



「ぇえーーーそれに ”まれ”に、『出てこられなくなる方』がございます。


カンにすぎないですが、私も、そうなりそうな気がいたします。


そんな取り返しがつかない可能性が捨てきれないので、城の総責任者である以上

私は、個人的探求を求めた体験が出来ないのです」



ウィンストンは聞いてはいけない事を聞いた気がして己を恥じた


この人は今まで、どれ程諦めたものがあるのだろうか?


実はウィンストンにとって城主は初めて会った時の印象は 決して好ましいものではなかった。


『あれ程憧れ抜いたのに!!』

 

正直ーーーこの皮肉屋で攻撃的な人物が、会いたいと長年請うてボウッと憧れた人間か?と、内心落胆で、激しいショックを隠しきれなかった。



がーーー僅かでもこうして個人的に会って話をしてみると、当初の失望や当惑が嘘の様にさらり淡雪の如く熔け去ってゆく。


極めてわかりにくいーーーー捻れながら内に複雑な心象風景を持つ、心根の真っ直ぐな女性だと知るからだ。



哀しさも 苦しさも やるせなさも


果てしない気の遠くなる長い時空の間で


ただ1人でーーーーー平然とした顔をして、様々な辛く厳しい物事を解決してきたのだろうか?




会話中、情報提供をしてくれる収監者の事を思い出した。


等価交換的な対価は 当然払うのだろうが〜手助けしようとする人物達の心情に想いをはせた。



何となくその心理が理解出来る気がした。

何故か涙が出てしまう


自らが孤独の受け皿になり、人として、自分に甘えて欲しいと願うからだろう。



ウィンストンは深く考える。


『サァどうするーーーかーーー?』


曰くーーー


「転送移植でのメッセージをお受けすることを、個人的にはお薦め致します」


〜という内容のことを推奨していた。


守秘義務が派生してる為〜

王太子からの伝達内容は、他人に言う事が禁止されている。


しかしーーーー

彼女からの「この申し出」


なにか隠された『大きなヒント』がある事なのかも知れない。


「きっとそうなのだ!」ーーーーという確信に近い閃き。



転送移植は、生まれて初めての肉体的体験だから実は〜本心では〜情けない程かなりの勇気がいった。



決断には体が震えた。


理由のない根源的な恐怖。


研究施設内の 余りの得体の知れ無さに、ブルブルと気持ちがぐらついてしまう



奥歯を嚙み締め 必死でグッと怯えをこらえた。


「自分は部下達にとってのリーダーなのだ!!」


情けないところを、城職員スタッフに見せたくない。


ーーーーウィンストンは覚悟を決めた。



『城主をーーー彼女の言葉を信じよう。

きっと必ず 私に対し必ず意義のある事なのだ』



城主が彼に、何度目かの口頭での転送移植における最終確認を行った。


グッとお腹に力を入れ、ハッキリした声でこたえる。


「転送移植を、私は希望致します。


誠にお手数をおかけいたしますが、私の事をどうぞよろしくお願いします」



ウィンストンは城主の目を見て、キッパリと自信を込めて答える。

城主は小さく頷いた




ウィンストンは、「チェア」の拘束を解かれ〜


無重力で中空に浮かぶ四肢を…厳重に束縛していた拘束具を、丁寧な迷いの無い作業で解除暗号コードナンバーを1度の間違いもなくインプット、城主は解錠した。


拘束から解き放たれたウィンストンは、各種様々な電脳許可書類に両目の網膜のスキャン画像、及び直筆サインを規約に基づき入力してゆく。


手際よく美しい筆記体で、流れるようなサイン入力。


差し出される〜

被験者である 彼自身の許可が必要な電子書類総ての文面に隈無く目を通し粛々と確認作業も滞りなく行う。


ーーーその後


彼の肉体にぴったり沿わせたウエットスーツを着用。


様々な注意事項を、研究員からレクチャーされた後、特殊ジェル溶液を なみなみ充填した強化樹脂カプセル内に入ってゆく。


装置内は被験者が同調しやすいように、低周波刺激が行われており心も体もざわめいてゆく。


冷たい様な温かい様なーーー摩訶不思議な、ぬるぬるした独特の感触。



クリストファーも全く同じ体験をしたかと思うと、ホッと安らぎに包まれる。


酸素マスクに顔面をぴったり覆われ、ゆっくりと呼吸を整えてゆく。

 

それにしてもーーー何という温かな気持ちだろうか?


 

極上の入眠直前のーーーー幸せで、何も憂うことがない優しい精神状態。




夢すらも遠く、まして おぞましい悪夢は遙か彼方の世界だ。



もはや眠っているか、それとも起きているのか、自分自身でもわからない。


蒼い大海の波間を漂う、大きな鯨になったイメージーーー


ゆるゆると 精神そのものが溶解してゆく。



指示通りのシンクロ化が出来るのか?


3名の慇懃な研究員から丁寧に説明されても、正直自信が無かった。


ところがいざ実行してみると、実際は極めてスムーズに シンクローーーー



ーーーー同調に成功する。



純度が最高度に高い透明なジャパン最大級、人造結晶体を研磨し作り上げられたクリスタル球体。



ブーンという低い羽音に似た微かな音と共に、結晶内に、次第に鮮やかな映像が浮かび上がってゆく。



「無事に転送移植に、成功しました」


主席研究員が、心底ホッとした表情で城主に告げる。




『がんばるのよ』 城主は心の中で呟いた。



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