特別な、かけがえの無い宝物について
城主は今後の話と、それにおける自らの考察をウィンストンに伝え始めた。
彼の涼やかな目元がより一層スッと綺麗な眼差しになり、整った顔立ちに華を添える。
『これでーーーーこの顔を見て、女性が騒がず胸をときめかせない方が変よ?』
城主は目の前の黒髪の美しい青年をチラッと流し目で見て頸をすくめる。
ーーーー事実滅多に居ない美形だと思う。
その事が本人にとって悦ばしきことかは又別なのだろうが。
城主が滑らかに自身の意見を述べる。
「王太子妃殿下のキャサリン様についての今後におけるお話です。
コロニーD-01で表向きの『新婚旅行中の悲劇的な突然の死』と言う一連の公式発表
ーーー例えばですが。
『隕石の直撃』などーー〜今流布されている、そういった何らかの偽の発表をでっち上げる為。
偽証を感じさせない様に、ご遺骸はおそらく盛大な式典〜国葬クラスの扱いになるでしょう。
そうなれば……華やかな舞台の演出上、どうあっても肉体を必要と考えると思われます。
葬儀を国際的に大々的に〜『大いなる悲劇』としてお披露目するためにです」
「……」
「つまり今後ありとあらゆる媒体で『キャサリン王太子妃様』を駒とし、利用し尽くそうという思惑がハッキリ予想出来ると言う事なのです。
Dー01側のーー
今でも頻繁に圧を受けている『ご遺体の返却依頼』を拒否するのは、人道的、建前的にも、現時点で正当で、合理的な理由が無い以上、正直難しいと思います。
サイボーグ手術を施されておられるとはいえ…〜ボディの綺麗なままの保持は、そろそろ限界に近づいておられます。
とはいえ治外法権を盾に、超法規的処置として突っぱねることも可能です。
『それ以外』でもーーー ”王太子殿下様をお助けしたのは我々だ” 〜とね?
〜で、文句を『ねじ伏せた』上で、キャサリン様ーーー彼女の『遺言』で。
心の故郷ジャパンで 荼毘に付したとしめやかに発表すればいいのです。
それはそれで格好はつくのです。
貴方の願いを聞いても良いのですが、そうなるとーーーーー
今後ジャパンで成長を遂げる『クローン生体』への一切の介入、必ず起こることが予想出来る『誘拐』『殺人』の防衛が難しくなります。
ではこれを回避する為にどのようにすればいいか?
私といえど、極秘交渉として提示する材料にせざるをおえません。
だって死者よりも、クローンベビー みどりご 〜生者の方が大切でしょ?」
「ーーーーー」
「極秘交渉が成立したあかつき、当然D-01に『見返り』として。
ーーーー貴方様が心を込めて手を尽くし、サイボーク手術を施されましたあの方を、遺憾ながらお渡しする事になります。
そうなれば立体映像ホログラムならばともかく、今後2度と貴方は、死しても尚お美しい、最愛のお方のボディに会う事は出来ません。
流石に個人的にはそれは忍びないのです」
「ーーー」
「今から〜いいですか?貴方が過ごすのはーーーー
気の遠くなるほど絶望的に長期の、脅かしでもなく、狂気と隣り合わせの想像を絶する五次元の世界です。
キャサリン様の美しいお姿の保存には、地球には過去の歴史上の偉人達が伝統的に行ったエンバーミングという手法もございます。
これもご存じかと思いますが?
宇宙最高峰の科学的特殊技術も、ここには十二分に完備しております。
ここはそういった無法な機関です。
ーーーでもですね?
あなたが今回起こした蛮行で命を落とされた方々だけで無く。
それぞれのお方の周囲には、大変な数の人生そのものが歪曲されてしまわれ、深い喪失を生涯抱え生きていかねばならない方が大勢いらっしゃいます。
その方々のーーー今後の生命の永き時間の事をもご理解下さい。
私はここを管理する最高責任者『城主』として、また永い時空を生きながらえて来た者として。
唯1つ、これだけは絶対に見過ごすことができません。
いいですね?
その方達への何らかの償いを、あなたは自身の苦しみで1生を通じてせねばなりません。
その『お手伝い』は不肖未熟の身ながら責任を持って必ずさせていただきます。
人としてーーー真実に恋する男性としてしっかりと、よく考えご選択ください」
城主の問いかけに、迷いの無い真っ直ぐな眼差しで、しかしウィンストンは これに即答する。
「私が傷つけた方々の為に、出来うることは全てさせていただくと誓います。
ーーーですが、最愛のキャサリン様を そこまで永久に自分に縛ることは望みません。
何故ならばーーークリス様及び自分はーーー
愛してると言う気持ちや言葉を免罪符に、散々彼女を振り回しながら。
〜男として最後まで守り通せず、結果的に不幸にしました。
好むと好まざるを得ず、宿命的に私達は共に『理想』や『大義』を優先してしまうのがわかっています。
ーーーーこれまでも これからも。
私も王太子様もその業から永久に離れられません」
ウィンストンは悲しげに自嘲し、自身を痛めつける様に苦しげに笑う。
「そんな我が儘で自分勝手な私達は、キャサリン様に元々相応しくなかったのです。
ーーーでも、彼女を手放して諦める事が出来なかったのですよ、どうしても。
自身の『寂しい』というーーーーー
エゴイスティックな感情を満足させる為に。
私もーーー結局 あれ程嫌っていた父上と同じでした。
再び、どういった形でも人生をやり直せる、彼女に幸せを生きるチャンスが与えられるならば、代償として自分に何をされても構いません。
ーーーー何も望みません。
抵抗は誰に対しても生涯いたしません
貴女に……これから過ぎゆく私の全ての時間を差し上げる事を。
ここに お約束致します」
「わかりました。
そこまでお覚悟されているのでしたら、その様に取り計らいましょう。
そこで一つ、提案があります。
ヘルヴィム元王太子殿下が余暇の特別に与えられた時間に絵画をモノにされたように、キャサリン様への慕情と過ぎ去った15歳の甘く切ない純な頃の青春を追慕して日記調に綴られてみては?
その後にお立場も何もかも偽名、恋と青春の詩集の体裁の自叙伝、回想録として出版したらいかがでしょうか。
収益は、今回の事件で心に取り返しがつかない傷を負った人々への贖罪に回すのです。
貴方の恋心の柔らかさは、私の胸を打ちましたから、詩集を待ち望む方々もいらっしゃるかと?」
立ち上がりぐいっと顔を一気に接近させ耳元で囁き、甘やかな吐息がかかりそうな程、少し首を捻り口元を男の頬に近づける。
ウィンストンは思わず心拍数が上がるーーーと、フイッと身体を離すと居住まいを正す。
全く何事もなかったかのように話を続行、真っ赤になったウィンストンを城主はあっさりと無視をする。
「ところで?
前々から気になっていたその光る鎖のネックレス、私に預けて下さいませんか?
頑強に常に肌身離さず大切にされているようですね、しかし〜」
城主は言葉を切る。
「紐状のものは、事故や自殺を防ぐ為に、どんな如何なる物でも回収という事がこちら管理者側の絶対のルールです」
その言葉に軽く頷くと、ウィンストンは銀色に輝く一条の、しっかりした鎖をシャラリと首筋から外した。
「ああ大概の監獄ではそうでしたね」
ウィンストンの外した鎖には、キラキラぶら下がった物があった。
つまりは男性には珍しいペンダント……!
大きさが鶉の卵程ある、蒼く〜時に水色に輝きが交差する謎めく煌めいた宝玉が一石、先端についていた。
宝玉は頑丈なアラベスク模様の台座と、タガネによるシャープな切り子細工に似た硬質な対比が美しい、手の込んだ美しい細工で石止めされている。
それが更に、付け心地は柔らかそうだが極めて頑丈な、しっかりした太めのチェーンに通されていた。
「ふぅん? 見た目よりも以外と軽いですね?」
スゥッと、城主の眼が細くなる。
見た瞬間思わず目が奪われた、実際それ程美しい品である。
「実は『これ』…は〜
キャサリン様から『幸運』を呼ぶというお守りとして、成人の歳のーーー
誕生日プレゼントとして戴いた物なのです。
ジャパンでの留学中ーーー
偶然、この国の海底資源探査のボーリング掘削作業中に、某地方沖合ジャパン海底にて発見された鉱物資源です」
「ふぅん、これは、また何というかーーー
まだ1度も見たことも無い、息をのむほどおそろしく綺麗な宝石ですね!」
「貴女程の人にそう言っていただけると大変嬉しいですよ。
でも極めて美しいでしょう?
この石に3人はーーーーー
ジャパンで、電脳科学ジャーナル・ホログラムの特集記事を見て以来、不思議な輝きと神秘さに皆、全員虜になりました。
この石の輝きは、地球で絶滅危惧種といわれている”蝶”
〜とある地方に住むモルフォ蝶の、美しい羽と同じ構造の仕組みらしいのです。
しかし不思議なこの結晶の硬度は、政府調査機関測定値では地球で採掘する宝石中最高値でした。
鉱物に、ここまでも様々なインクルージョンがある状態で、有り得ない事なんです。
それが何故なのか解明する為に 地球の高名な科学者達は寄ってたかってこの結晶を調査致しました。
でも結局ーーー科学的な分析が未だ出来ない謎の物質らしいそうです
ですから『ひょっとしたら』
銀河宇宙から地球創世の太古の昔に、何処からか地球に飛来の未知の巨大な結晶物質だったかも知れませんね。
私達はそんな風に結論づけました」
「くすっっ、それはまた夢のある想像力豊かな、大変にロマンティックな考察ですね。
〜私もそういうお話しは大好きですよ?
ーーー確かにそうなると当時、地球への落下地点が、必ずしも”海底だった”とは限らないわけですし?」
「はい、クリス様。
キャサリン様、私の3人で様々な自由な意見を思う存分語り合いました。
地球の大陸が移動した経緯を表した地図をホログラムで出し、皆で霧中で様々に想像しました。
隕石落下による気候や大地に与える大きな影響、天変地異はなかったかどうかとか〜
で 落下したならば一体いつの時代のことなのか?ーーーとか?
あれ程、議論が白熱し、心からウキウキ楽しかったことは今でもございません。
それはキャサリン様にとっても〜おそらく私と同様だったのでしょう。
キャサリン様は、堅実に運用のご両親より託された遺産をお持ちでしたし、真面目さから政府からの給付金を無駄にお使いになることはありません。
ですので留学における生活での費用には困ってはおりませんでした。
しかし僕たちには秘密でーーー
この『新しい美しい宝石』を〜私の”留学生活の記念”に手にいれる為に、お姫様育ちの彼女が私達に内緒〜
秘密で大使館〜領事館経由でジャパン政府より労働ビサを発給して貰ってまで一生懸命働いたんです。
どんなに私がーーー”あの時”
ーーー無論プレゼントの宝玉も、感謝しかございませんでしたが、私の為に骨をおって手に入れてくれたそのお気持ちが尊く嬉しくて。
涙が出そうでーーーー…
その場で飛び上がりたくなるほど気分が高揚し大感激でした
心が舞い上がってクラクラし倒れそうな程に嬉しかったのです。
……ですが父譲りの見栄っ張りの私は、表面上、ごく丁重にお礼を言って押し頂き 静々と受け取りました。」
ウィンストンはうっとりとーーー
当時の幸福な情景を思い出したのか?ぼぅっと幸せそうにはにかんで呟く。
目が潤みーーーその姿は美しかった。
自分まで心が温かくなり、幸せのお裾分け
ーーーー決して悪い気分では無い
恋する青年はこんなにも可愛いものか?と変わり者の城主も表情が思わず緩んだ
「そうですか……その美しい宝石は、貴方達のかけがえのない日々のーーーーー
あなた方3人の、心の絆、象徴だったのですね」
「はいそうです」
明るく得意そうに顔を上げたウィンストンは再びニコッと微笑む。
『本心からーーー心から嬉しそうだわ?』城主はなんだか感動する。
ええーーーー
ここーー城で、本心から笑ったのは今が初めてでしょう。
幸福とはーーーー今みたいな感情を抱く事
しかし突然フッとウィンストンの顔が歪むと、苦しげに悩ましげに溜息をつく。
「?何かあったんですか?」
「はい、まぁ、実はこの話には余りよくない後日談がございます」
「?それはなんでしょう?
大変感動的で良いお話、何所からどう聞いても、むしろ気持ちのよい美談ではないのでしょうか?」
するとウィンストンは、しおしおと困った顔を向ける。
「この『特別な宝物』を見たクリス様が『お前だけ狡い』とむくれてーーー御我が儘を。
ですので、仕方なく。
彼女は別の同じ種類の石を彼の為に、同じく”お働きになって”、私より少し遅れた彼の誕生日当日に何とか用意しました」
「キャサリン様は随分頑張りましたね、それはーーー!
でもそれって男として、ちょっとどうなの??ーーーーって思えますが?畏れながら。
誠にコメントし辛いですが、相手にとって特別なお祝いの品を、その様に駄々をこねられて言われてしまっても困ります」
城主はフゥッと溜息をついて呆れた。
ウィンストンも少々情けない貌を見せる。
「〜はいその通りだと、実は私も。
おまけにーーーーやっとの思いで彼女が手に入れたそのペンダントを。
クリス様はキャサリン様から貰ったその日に、どこかに落として無くしました」
「ーーーーーーーーーーーーーー最低!」
城主は思わずグルグル唸るようにフンと吐き捨てる。




