大親友ウィンストン ④ 反撃
ウィンストンは、人前では穏やかなおっとりとした優等生で、まさに理想的なお育ちのお坊ちゃまにしか見えない。
「王太子の自分の方が余程お品が悪く思えるんだよなぁ……」
が!彼は実は恐ろしく、とんでもなく心が熱い男だということをクリストファーは知っていた。
彼は案外に情熱家で自尊心も高い
『さぁてどうする……?』ウーンと知恵を絞る
『そうだっっ! 昨夜の事は一晩寝たら、全部忘れちゃった事にしよう』
〜そうだそれがいい、僕までうっかり繊細な彼を傷つけてはならない。
チラリと〜
横目で気配をうかがい見れば、何とか昨日よりも随分顔色が良くなって来たように思えた。
これはきっと料理長特製スープのお陰だろう。
後で、甘党の彼の大好きな好物の差し入れを持って、丁寧に沢山お礼を言いに行こう!
なんだかウキウキと心が弾む
ーーーーさあ作戦開始だ!!
王家の家族が揃う朝食の席に「大切な友人」としてウィンストンを招待した。
「そんなのマズイだろ?!」
奥ゆかしく控えめに分を知る、聡明な出しゃばりでは無い親友は散々辞退の言葉を言ったがここは強引に話を進める。
『だって入念な計画の為に、絶対に来て貰わなければ困るんだよねぇ〜』
思いっきりニコニコとぼけたふりをしながら、引きずるように準正装に着替えさせた彼を連れてゆく。
友人が病み上がりで体力の落ちているのをいいことに、ダイニングルームまで無理に連行したのだ。
『忙しい父上も母上も……今朝は珍しく揃って王宮にいるのだもんね』
チャンス到来
ーーーー絶好のこんなチャンスを逃す手は絶対に無い
……
「ぁのね僕、 直ぐに留学したいんだ」
今朝のオムレツはことのほか美味しい〜んだと思った。
料理長の卵料理はいつだって絶品!
しかし残念ながら、今朝は何を食べても紙のように味がわかりそうも無い。
内心、激しい緊張と動揺で舌が震えそうだからーーーー
お皿にチョコンと乗っている、ただでさえも苦手なトマトを睨む。
……香りがどうにもダメだった、しかし今日だけはお陰で冷静でいられる気がして来た。
父王は先程から今朝に限り妙に頑固で強気な、最早挙動不審ともいえる愛息子のことをじぃっと見つめていた。
クリストファーはコフンと小さく可愛らしい咳をする
朝食の席上で、「如何にもたった今」〜〜
我が儘な僕が気まぐれでフワフワ思いついた、そんなふりに擬態を行う。
堂々、計画第一弾
「地球への留学」、シャラーっと父王に、先ずおねだりした。
再びウィンストンの顔を横目で何気に観察すると、赤くなったり青くなったり、可哀想な位動揺しているのが見えた。
『いいねえ 実はその表情が欲しかったんだ』
今や銀髪紫色の瞳の、虫も殺さない美貌の王太子は結構な策士であった。
『ーーーーごめんよ
でもこれで彼と僕との共闘の疑いは晴れるからね!』
〜そう、飽くまでも僕一人の思いつきであり、気の毒で可哀想なウィンストンは 全然何も知らないのだ。
昨夜立てた計画では、我が儘な自惚れ屋の迷惑極まる王太子に振り回されているばかりの、善良なあわれな最大の被害者でなくては困るのだ。
突飛すぎる話にクリストファーの両親は今にも目玉が、ぴょんぴょーーんと飛び出して、溶けるアイクリームのように、へなへなへなと椅子から滑り落ち卒倒しそうに見える。
こうしてーーーー
「計画 第2弾発動」にはクリストファーにとって絶好、又と無い、二度と無い大チャンスが巡って来た。
計画第2弾発動!
「でもぉ自分一人では心配だしぃ〜〜
地球の高度なお勉強について行けるか自信ないし……?
ーーーーわからないからぁ〜」
いいぞいいぞ、2人ともいい感じに食いついてきたぞ!
これは勝機とみてググッと、ここぞとばかり身を乗り出す。
「でね〜っ……僕思いついたんだ、秀才の〜彼ウィンストン。
それから常時行動のお目付け役で、僕の許嫁のキャサリン。
で…僕ーーーの 『計3名』で。
治安のよいとコロニー外務省のお墨付きの地球国家へさ?
うん、だからねぇ〜
『ジャパン行き』、許可して欲しいんだなぁーーー」
ーーー……と、昨夜ベランダで
コッソリと明け方、一人でブツブツ猛練習したとおりにニコニコ、ここぞとばかり如何にもさり気なく、超お気楽な様子で会話を誘導し、計画を仕上げて行く。
「忍者だって見てみたいしー」
〜自慢ではないが、自分の忍者好きっぷりは王宮ではつとに有名なのである。
超有名故に今回の留学の行き先については、全然変では無く問題にすらならないだろう。
コンモリ部屋中至る所にニンジャグッズも溢れている。
これではダメな方がおかしい
クリストファーは更に蒼白の顔色の両親に畳み掛けた。
「ウィンストンだって……将来的に。
Dー01でお父様を越える偉大な政治家、宰相職を目指しているんですよね?」
さあーーー頑張れ自分、根性見せろ、一晩中かかって練り上げた「留学作戦」の肝に勇気を持って突き進め!!
「だったらとっても都合いいよねぇ〜〜!
『生きた経験』は、絶対絶対ぜーーったいに、彼の将来の糧になるしさぁ~っ」
父も母も、はしたなくも口をあんぐり開け、呆然と立板に水の息子の演説を聞くばかり。
「生きた経験」~このワードはウィンストンの暴力親父〜
いや名命「クソジジイ」の
「輝く大好物言葉ベストテン第1位」である。
清廉潔白(表向き)、ハンサムで子煩悩な有名政治家と自負する御大。
キラキラアイドル並みにイイカッコし、恥ずかしげもなく、あちこちの演説会場でこう言うのだ。
「若人には生きた経験を~」と声を張り上げ、支援者のおばさま方〜マダムや
うっとり目をトロンとさせる〜お年頃妙齢レディの前にて、如何にもキザに言いまくっていることをクリストファーは十二分に知っていた。
ホロ映像でも確認済み!の、この姿。
今回の発案の「留学」を認めないのは即ち、未来と可能性に満ち溢れる若者が本来享受するべき「生きた経験」ーーーー!
王太子が気まぐれで言い出した尊いチャンスを土足で踏みつぶし、言論不一致で阻止するということなのである。
ーーーつまり
今回の王太子が行った提案〜の否定は
「今までの発言は全~部、きれいごとでしたよ?
……皆さんごめんね? てへっ!」
ーーーー言う事に他ならない
「政治家として……私めは!
D−01の全国民様と支持者様はおろか、自分は銀河中に対し嘘を言っておりました」
〜と自ら世間様に調子の良い言動を認め謝るという、最大級、致命的失策になるのだ。
クリストファーとしては本当に生まれて初めての政治的交渉。
如何に自分を無条件に愛する甘々な父親とはいえ、仮にもプロフェッショナルな強大な国策を握る相手を向こうに回しての一撃必殺、伸るか反るかの、全神経を集中させた本当に負けられない大きな駆け引きだったのである。
「たかが15歳の子どもの戯れ言……!!」
見くびられて足下を見られ、言質を取られないよう計画を練りに練った。
心臓なんてばくばくに鼓動を打ち、声が裏返り上ずりそうだったが必死に堪えて頑張ったのである。
それもコレも、友達を思えばこそであった。
「……そうか
では大臣達と協議、いつか相談してみないとーーーー」
「うん、いつかは嫌だなぁ、今直ぐがいいんだ。
先延ばししても僕の願いと気持ちは変わんないよ?
宜しく検討のほうをお願いね!!」
クリストファーはニッコリと、息子として最高の微笑みを両親に向かい、艶やかに頬に浮かべるのを最後に添える。
「ヤレヤレーーーお前には敵わんなぁ」
でーーーその後直ぐに、クリストファーは抜け目なくもう一つの手筈を整えるのだ。
ウィンストンの自宅から学用品を届けて貰い、親友をその後も自分のプライベートルームに匿った。
より親密さをアピール……!!
学園にもピッタリ一緒に、戦車みたいな馬鹿みたく無駄に巨大なリムジンカーでお揃いで通学する。
と言うのも彼が生家ーーー
自分の屋敷に帰ったら今度こそ何をされるかわからない。
『そこまでは僕も読み切れない』心の中で昏く呟いた
「お勉強がとてもよくわかる様になりました。
彼は教え方も本当に上手で完璧で、ふつつかな私は感服致しました。
流石の学園一秀才のご子息様です。
今後とも不甲斐ない僕とのお付き合いを是非に、もしもお家の方がお嫌でなければお願いしたく存じます」
歯の浮く様なキラキラメッセージ。
〜しおらしく華麗な最新ホログラム映像と共に、毎晩必ず彼の父上と母上宛に別々に転送した。
彼らの愛息子の、王宮の皆が認めた「模範的な素晴らしい好印象」ぶり。
ウィンストンには内緒、こそこそせっせと 地道に毎日アピールしまくったのである。
”未来の国王”
自分という美味しい後援者を得たという高ポイント。
そして息子である彼には「既にもう力のある王宮の大人も、全員味方についているのだ」という言外の無言の圧力。
さぁどうする……?
どう出る?!
最後の大きな秘められた「取引」
これは大政治家の彼ならば確実に理解出来る筈だと踏んだ。
”彼程の男”ならば、わざわざ口に出して言わずとも……わかるだろう。
『ウィンストンが知ったら悲しむだろうなーーーきっと。
でもーーー……しょうがない、これが僕の選んだ選択なんだ。
未来の為に仕方が無いんだよ、うん』
親友がここから出た後、本当に帰る場所を失ってはマズイという心配。
今回の行為は全てはそこから来ているのだ。
クリストファーの王太子としての”最大級の切り札”
『その為にはプライドなんて構うものか!』
大切な人を守る為に何だって出来ると念じた。
”留学話”は御前では上品に流されて保留だったが
ーーーその後は案外トントン拍子に認められた




