思い出のスープと、思い出の戦いの話について
城主は腕の端末をピピピッと操作する。
するとーーー
どこからともなく中型ドローンが現れ、湯気の立つ温かなスープと飲み物を彼等の前に器用にサーブし始めるのだ。
「ーーーーこれは?!」
「毒は入っていませんよ?
貴方も多分、そろそろ小腹が空いた頃でしょう」
「ーーーーーーでは戴きます」
城主には熱々の、ハニー入りミルクティーで。
ウィンストンの前に丁寧にドローンより給仕されたのは、1杯の温かなクリーミーなスープ。
それは見るからに沢山の野菜がじっくりほっくり煮込まれた美味しそうな様子で、側からぱっと見でも蕩けそうな優しい味のしそうな逸品である
「むー〜このティー材料も信繁のと一緒の筈なのにどこかちょっと違うわね?」
ブツブツ言う、ちっとも有り難がらない城主の前で、逆にウィンストンはハラハラ泣きながら食べるのだ。
彼はそれこそ、最後のひと匙まで白木のスプーンで器の底からしっかりこそぎ取ってまでして堪能している。
そうーーーー実は”このスープ”には仕掛けがある。
調理が趣味、特技である信繁がクリストファーの話を聞き、弱りきったウィンストンに彼自ら、15歳の夜に食べさせたというその時のスープの概要を、あらかた教えてもらっていたのだ。
出汁は野菜出汁か、それともフィッシュか?、チキン?ビーフ?
「ビーフでもフィッシュでもなく、臭いを消したあっさりしたチキンだった筈です。
それから具材とは別に、確かトロトロの濾した狐色の玉葱エキスをかなり多く入れるのが、料理長の秘伝レシピです。
健康にもいいですし、あの日のスープは確かによく知る馴染んだ味でした」
それを元に、更に記憶映像を参考〜
城が誇る管理栄養士のシェフに依頼し、彼の為に特別に「思い出の味を再現させた料理」なのである。
城主はほんのちょっとばかり、良い事をした気になった。
だって人が喜ぶ姿を見るのは、やっぱり嬉しいいい気持ちだからである。
「スープはまだございますよ?」
すっかり食べ尽くし、ボーッと魂が抜けたかに残念そうだった翠の瞳。
うっすら涙ぐむ充血した眼差しが瞬間、パァーーーッと喜びに輝いた。
「貴方は今は亡きお祖父様に似ていますね」
”現在スープのおかわり3杯目”、の、ウィンストンの目がクリクリと丸くなる。
まるで少年ーーーの、ごく自然な表情
『マサカこんな表情をするとはね!』
城主にとっては、兎に角ひたすらに可笑しい。
「もしかして……貴女は。
今は亡き、我が家でも伝説である祖父の事を直接ご存じなんでしょうか?」
「?、そうですよ…」 ーーー城主は何故なのか苦笑いをする。
「あーーーーー別に知りたくて知った訳じゃ有りませんけどね?
私にとっては振り払っても振り払っても喧嘩を挑んでくる、迷惑な方でしたよ」
しなやかに腕組みをしてうーーーんと難しい顔を更にする。
「まぁ、だからこそ色々と仮説が立てられたのです。
私が〜とある時代に、某国で入学していた首都大学の後輩でした。
地球に留学された当時から野心的で、素晴らしく頭の切れる最っ高にーーー
”嫌な奴っ〜〜〜〜!!” ーーーーーでしたけどね?
少々お下品な答え方になり、申し訳ございません」
城主はそう言うとフフフと可憐に微笑む。
だがそれは今夜1番の麗しい貌ーーーーー……!
美しすぎる表情で。
『……参ったなぁ、これはーーー』
ウィンストンは余りの悪魔みたいな先程との存在のギャップに、つい顔を赤らめて思わず胸が高鳴ってしまう。
『全然違うじゃ無いか!』
もはや詐欺師としか思えないぞ……!!
ーーー全然違いすぎて、心が今にも「ぶるるるッ」肺炎を起こしそう。
城主はポツポツ遠い記憶を探りながらいう。
「彼ーーーは、フランス風長い名前を持つお祖父様なので、性別名の先頭の名前
『アルマン』ーーーそれとも”名前”か?姓か?ーーーどうしようかしらね?
まぁ本名も今更だから、ごく内輪でヘルヴィム元王太子殿下様がお呼びになっていたアルマンと、敬称略で便宜上お呼びしますねーーー
お祖父様〜アルマンはいつも、どんな時も。
学内でも名だたる、本当に飛びきりの有名美女生徒に十重二十重、取り囲まれていました。
でーーーー、目をつけた、”お気に入りの女子学生”の中で、恋の告白をどうやら私だけがお断りをしたようで、以後は絡まれまくりました。
『お誘い』は、心を込めて丁重に断ったので、別段無礼を働いたわけではありませんのに。
どうしてなのか、ポカンとした顔をなさっていました
よもや”断られる”、自分が拒否されるとは思ってもみなかった、そんな御様子でしたわ?
でもおかしな事、あんなに沢山、山盛りの、煌びやかな美しき日替わりの恋人が門前市を成す程いらっしゃったのに。
昆虫採集の蝶と同じくで、それでも満足ではなかったのでしょうかね?
私も学問を極めたいと、貴重な無い隙をかき集めて、時間のやり繰りに苦労して通学していたので、ある日とうとう『いい加減にして!』と、心のゲージが満タンになりました。
で、上段回し蹴りで、自ら誰の手も借りずに付き纏いを一瞬で成敗しました。
だって貴方だって、同じ立場になればしますよね?
でーーーそれ以後は、天敵でした。
首の後ろの最大の急所をあえて蹴られず外してもらい、怪我しないようにありがたく手加減してもらったのがなんでそれ程ムカついて腹立つのか理解しかねますが〜
お祖父様は、学内のシンポジウムだけで無く、ありとあらゆる様々な討論の機会を拾い、論理による議論を挑んでこられました。
私は片端からそれらを撃破してまいりました。
鬱陶しいとは思いましたが、私にも『手加減したことが、かえって高いプライドを傷つけたのかも??』
〜少々負い目があったので、最後までお付き合いしたのです
議論の腕前ですが、お祖父様はまだ本格的に政治の世界で揉まれてはいませんでした。
ーーーなので私にとっては容易い事。
しかし手を抜くのは、彼にとって無礼に当たります。
ですから私も本気で論戦に挑み戦いましたね
ーーーですが、まぁ、今思うと。
若い血気溢れる学生相手に、全く大人げない事をしたものだと多大に反省をしております。
ーーーー思い出しても赤面する限りですが、プライドが誰よりも高かったお祖父様の、そんな血の熱い雰囲気が、貴方はほんの少しだけ似ていますね」
「そうですかーーー実はよく言われます。
私はーーーお前は祖父似だと。
”考え方がそっくり” だと。
ーーー特に父上にーーー」
ウィンストンはふーっと顔を赤らめ、両手で鼻を覆って下の方を向いた。
城主は思わずクスリと笑ってしまう
『なるほどねぇーーーホントソックリ!!』
貴方の祖父アルマンも、照れると顔や鼻を両手で覆って同じ癖で下方を向き〜
〜〜バタバタ、慌てる気持ちの整理を自分で何とか必死につけようと格闘しては私の前で誤魔化していたのよ?
その仕草は何だか可愛らしく思えて決して不快でも嫌いでも無かった。
ひょっとしてウィンストンが必要以上の暴力と溺愛を父親から理不尽に受けたのは、これがあったせいなのかもと思う。
留学させずに手元に置いて外に出さず、自分を徹底的に厳しく仕込んだ伝説的人物の父親。
その自分にとって創造主と言える偉大な父親と、面差しその他が何から何までそっくりな我が息子。
ーーーこれは相当イヤな呪いかもね。
『まぁ親も子どもを選べないって事かもね、両者にとって非常に不運な事だけど』
城主は微笑みながら、遠い昔を思い出すように呟く。
「ーーーー何だか懐かしいですよ?
あなたも困った策士ですが、話していて素晴らしく楽しいお方ですね……!
こうした悲惨な状況と関係で出会ったのが、個人的に非常に残念でたまりません
あの当時ーーー
アルマンは今の貴方より少しお若い位のお年頃でしたしね……?
彼があまりにもヘコタレたので見かねてドリンクを奢った事がありました。」
「!!!〜どうされましたか祖父は」
「別に?
ブスッと大人な態度で容器を受け取り、近くの二人用ベンチで並んで飲みましたよ?
だって立って飲むだなんてお行儀が悪いでしょ??
あっとそういえば、横顔の頬と耳の縁が真っ赤だったので、実際は私といる事が相当イヤだったのでしょうね。
でもちゃんとゴミは持って帰った様子でしたので、やっぱり育ちの良い若様だなぁ紳士だったなぁ、と今でも尊敬の念で思い出しますよ」
「ーーーーーーーそれは少々違うと思いますが」
「???え?どうして?」
ウィンストンは返事に窮し頭が痛くなる。
だって憧れの先輩から貰った飲料ボトル、飲み終えても、〜というか本来は未使用で恭しくいつまでも飾っておきたかったのでは??と男心を思うのだが。
しかも戦う宿敵の男女が一時休戦。
二人用のベンチに並んで座って、だなんて、なんというーーーー尊きーー




