ヘルヴィム元王太子殿下の心情
城への収監からーーー随分な永き時が経ち。
婚姻をした最愛の弟に漸く「息子」が誕生したという一報を受けた際、「城」独房内に於いて、ヘルヴィム元王太子がどれ程喜んだか?!
城主はその事をまるで、昨日の如くに鮮やかに思い出すのだ。
その総ての姿を、複数設置の監視カメラで観察していた。
ーーー彼は父親に腹部を撃たれ直に殺されそうになった男。
父王はそれでも飽き足らずに息子の首を絞め、これにたまらず開けた口腔内に銃口を無理やり殺意たっぷりに捩じ込むとんでもない凶行に及ぶ。
完全にアルコール中毒で躁状態、感情のコントロールがまるで効かない。
事実後少しでトリガーを大喜びで面白半分に引かれる寸前だった。
〜もしも彼の父に軍配が上がったら、あたり一面すわ恐ろしい血の惨状となるのは必至。
コロニー都市群の全国民の末代まで語り種、永遠に脅し文句として語り継がれる様な、狂気の血生臭い死を迎えていた事だろう。
ーーーただしどうやら運命の女神は、父王の事が酷く嫌いだったらしい。
寸前で現場に飛び込んできた溺愛する弟の手により回避、悪行は成敗されたのである。
普通だったらこれだけで酷い、Post Traumatic Stress Disorder〜
ーーー略してPTSD。
繰り返しのフラッシュバック等々、生命の危機にひんするほどの重大な心的外傷を一生負っても全然おかしくなかったのだが、運命の女神に見込まれた彼の精神力は鋼だった。
事件の実際は正当防衛スレスレの過剰防衛、過失致死ーーー
禁忌である尊属殺人を自ら肩代わりした、自身の弟の事を彼は本当に、自分の将来全ての事よりも、迷わず一番に最優先出来るほどに、大切に愛していた。
だからこそ、気を張ってーーーー
病弱の体で兄の恩赦を勝ち取る為だけに強行即位した弟の事を、国の外側よりなんとか守らんと、銀河最悪の監獄と言わしめる地獄の中でも永く頑張りぬけたのであろう。
甥に対する世間での評判ーーー!
最愛の弟の息子クリストファーが祖国コロニーD-01だけでなく、銀河世界でも「極めて稀な可憐さを持ち、性格も格別に可愛らしい」という好意的な電脳マスメディアの評判に胸を躍らせていた事。
その夢の様に愛らしいという世継ぎが、急に体調を崩したという連絡を聞いただけで、青ざめ1人オロオログルグルと。
〜まるで檻の中の大型野生動物みたく、極めて大柄な肉体で部屋の中を行ったり来たり彷徨い、髪を掻きむしり心を痛めていた超絶面白い姿。
繊細だが好奇心が極めて強い、心優しき美しい甥、クリストファー……
嘗て自分が子どもの頃、夢中で大切に収集したコレクション。
「クリストファーがとうとう発見した!!」
〜という嬉しい報告が王宮に残してきた、”密かな連絡役”……
忠実なる密偵から、彼の元に上がって来た最良の善き日。
ーーーーヘルヴィム元王太子の心は決まった。
今までの調査資料データ全てを残らず「何故それを求めるのか?」
わかりやすい裏付けとして「城」に提出した。
ーーーずっと保留にして来ていた「生涯たった一つの願い」として……
「甥が将来ジャパンに来日したら、いついかなる時も必ず生命を守ってやってくれ!!」
その様に、ヘルヴィム元王太子は城主に願ったのだ。
もはや推しと言って良い、甥クリストファーに対する純粋に無償な清らかな愛。
彼は自分の利する益の為にでは無く愛する甥に「賭けた」ーーー
生涯ワンチャンスの”最大の切り札”、彼が唯一持つたった1つの「権利」を行使したのだ。
あの「コレクション」群を発見した以上、最愛の甥は必ずやジャパンに来日する事を望むだろう。
ーーーー元王太子にはそう絶対的な確信があった。
**************
甥の留学中、実は「城」へ何度も、祖国の弟君から息子、”クリストファー王太子”との面会の打診があった。
しかし元王太子はどれもハッキリキッパリ拒否し
「冗談じゃ無いーー……!!」
折角の、ノビノビ明るく純粋に育つ明るい甥が……!
大切な汚れ無き子どもの甥が、「ここへ来れば知ってしまう!!」
ーーー必ず大人が振り撒く恥知らずの毒を吸い、変質してしまうだろう。
大人達の汚らわしい薄汚れた、権力争いの顛末を知る必要性が無い。
聡明な彼はその様に割り切り、断腸の思いで判断したからだ。
勿論一目でも会いたい。
だが確実に呪われた真実を知ってしまうーーー
厳重な警備をされている、極秘特殊監房施設にて、好奇心旺盛な彼が面会する以上、それらは先ず避けられない事態だった。
表向き「城」施設は、最悪の犯罪者が来ることに建前上標榜されている。
城主の経験的に本当の悪党。
いわゆる「絶対悪」と名指しされる、人物はここにはめったに来ない。
よって「来なかった」以上ーーーーー
ヘルヴィム元王太子の「父王殺害事件」における推論は、皮肉な事に十二分にあり得る考察だと「五人会議」でも判断された。
その様な職務経験上の事柄から来る、逆説的なロジックで「五人会議」全員一致の評決が出たのである。
こうした様々な過程を経て元王太子の望む、「たった一つの願い」の了承サインがなされている。
城主の、行った留学中における防衛策は、きめ細やかな鮮やかな作戦行動だった
依頼者〜「ヘルヴィム元王太子」
当事者の彼だけで無く、例の如く密やかにいつの間にやら経過を知った人物達はもれなく、喜びの涙と感嘆の声を発せずにはいられなかった程である。




