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王太子暗殺未遂事件の真実

城主の謝罪によりウィンストンの激高は去った。


 

「15歳のあの日の出来事、今でも夢で再現されます。

 

ーーーー自分の罪を1日足りと忘れた事はございません」

 

 

 

『この人其所まで、本気で彼女を愛していたのね』



確かに素早く気分を切り替え〜凜とした表情で 涙を零してはいない。

 

しかし何故かーーー泣いているようにしか見えない。




そしてウィンストンの話は、居住区〜自宅屋敷に帰った以後の事に移っていく。



「……で、”お家の人”とはーーーどうなったの?」


「毎日、父母に転送されていたーーー……

 

クリス様のホログラムメッセージ映像の事を、屋敷に帰宅後初めて姉から知らされました。


何と言う事を貴方は……!!


私はーーーー……クリス様からーーーーー……

本当に全く何も知らされてはおりませんでした。


〜あぁもぅ王太子様は〜銀色で神秘的で綺麗な方ね!〜と母は。


うっとり目を潤ませながら単純にニコニコ声を弾ませて少女のように喜んでいて

 

しかし〜……対照的な気質を持つ姉は、メッセージにおける煌びやかな上辺の華麗さには誤魔化されはしませんでした。



長女ーーー姉である彼女は、理系女子で、医師を目指し、物事の本質を鋭くズバッと見抜く洞察力の備わった賢い希有な人です。


〜こんな年長の私よりも、遙かにまだ若くお小さい高貴な方なのに。

あの方は本当に気高く素晴らしい方ですね〜


姉は乾ききった低い声でそう語りました。


私はもう……どうしようも無い事を、知らないうちにサイコロは振られてしまった事を知りました。

 

もう撤回は出来ません。

クリス様と父上との間で交わされている”命がけのゲーム”は、私があずかり知らない内に、既に開始されてしまっていたのです。



〜……わかってる?〜


〜わかってるさ〜



姉のスカートの裾を左右からギュッと引っ張り、不安そうに私たちを見上げていた妹達は。


私達2人の間で巻き起こる、ただならぬ不穏な不気味な空気を察し、怯えてしくしくと泣き始めました。


気丈でしっかりした姉は、静かな声ですがはっきりとした口調で言いました。



〜……家族なのに情けなく、貴方を父の暴力からーーーー

 

貴方もお友達も……

全ての非道な事柄から守ってあげられない無力な私を許して欲しい……〜



深く頭を下げました。


もうーーーーー……堪りませんでした。

僕は姉と抱き合って泣きました」


「……」



城主とウィンストンは、共に暫く黙り込んだ。




「……ふぅん

家庭内における貴方の苦しい立ち位置はわかりました


いえ寧ろーーーー……

その状況でよく頑張られましたね?


当時未成年の、僅か15歳の少年なのですから無理もありません。


でーー……

王太子様のホログラムの意味ですが……?」


城主はフゥッと溜息をつき、眉間を強くギュッギュッと指で押さえながらユックリと、”話のその先”を続ける。

 

しかし声色に静かな……暗い激しい怒りがにじみ出ているのは隠しようが無い。



「全てはウィンストン様ーーーー……

ひとえに〜『親友である貴方を助ける為だった』


息子である貴方のバックにーーーー今や『王宮』がついている事!


しかし王太子である自分〜〜はーーーー……


ウィンストン様の御父上の、”政治上実質的な『臣下に下る事』”


ーーーーいわば条件闘争……!


宰相様への言外の宣言及び、交換条件として。


王族で無いお父様が、D-01、コロニー都市政府における『真の支配者』だと自分もこの先、”認め”


自ら膝を屈した『恭順の意』を伝える告白だったと……


つまりーーーーー”そういう事”、ですね?……」



「ええそうです。

クリス様は第1王位継承者、王家唯一の尊き嫡子であられます、ご兄弟はございません。


私はーーーー……!

何という取り返しがつかない愚かな事を、と思いました」


城主はーーーー王太子様が『そこまでした程』


ウィンストンが彼にとっての、唯一無二の心の支え〜


絶対的な心の拠り所だった〜と言おうかと迷ったが結局、口には出さなかった。



だって言ってどうなる?


此処まで……拗れてしまっているのに?


他人の口出しは無意味な事だ。





「時は過ぎーーーー……父上はあろう事か


『クリス様を殺害する事』をーーーーーー……!


ーーーーーこの私に、やれと命じました。


〜お前は本当に父親の私、ひいては我が一族の為に何でもする、犠牲に出来る人間かを知りたい〜


……と。


私は必死で父に懇願しました。


それだけは止めてくれ!!


何もクリス様の命を取らなくてもいいじゃないか!と。



許しがたい政敵というならば〜……


彼の気持ちを翻意させる様に、私が何とかどんな手段を使っても説得するから〜


ところが、真顔の父上は更に恐ろしい事を言い始めました。



〜…それならば、身体の機能の自由を奪い植物状態にしろ。


しかしーーーだ、白くて可愛い顔は 絶対に傷つけるなよ?


ぁあ〜……哀れでお可哀想な王太子様の御看護は王家を支える名宰相のこの私。


自ら〜食餌から投薬まで!

隅々着替えに至るまでーーー手厚く行うとしよう!!


コロニー最高の医療施設の準備ーーー!

 

その為に我が家に、『最高の居室』を……!

 

彼の為に新たに大々的に増築し提供しなくてはな!

 

成程この方が、事実お前も嬉しいだろ?


昔……仲のよかった美しく大切な親友が再び従順になり、お前の手元に舞い戻るのだからな!


もぅクリス王太子殿下はお前の言いなりーーーー…

生かすも殺すも生殺与奪はお前の気持ち次第。


我が大切な息子のお前に2度と酷い悪態は言わない。


どうだ?

こんな素晴らしいアイディアは無いだろう?〜



そうーーー目を輝かせてうっとりと言いました。



破廉恥な父上は なおも続けて言いました。


私の蒼白な表情を、いつもの様にニヤニヤ〜楽しげに見やりながら。


〜”一時”は、余りの清らかな美しさに情け心を出して私も許した。


が、お前も必ず覚えておくとよい。


賢い芽は大きく育たぬ様、美しく純真で 未だ手に負える今の内に摘む事だ〜



ーーー父はおかしい!


彼の、精神構造のおぞましさ〜底知れぬ闇を、ここまで……

心の底から感じた時はありませんでした。



ーーーぇえ。

父上は決して、忘れてはいませんでした……!


言質を取って自分に反旗を翻し、私という最高の、お気に入りの玩具を


留学という手段で巧妙に奪った事を!


執念深く……蛇の如くにーーーー


じっと復讐の機会を伺っていた事を、この時初めて気がつきました。




〜仕返し、という果実は……時が経ちーーー最も冷やした時が1番甘い。


今がその時だ〜



そう嘲笑う父に、自分は再び、何でもするから、彼だけは助けてくれ!


床に頭をこすりつけて頼みましたが、冷然とつきはなされました。




〜…あの時ーーー……お前は何と言った?


えぇ? キャサリンを助ける為に……!

もう忘れ果てたのか?


私はお前の頼みを 優しく聞いてやったじゃないか?


お前の祖父だったら絶対に ああはならなかったぞ?


だから今度はお前が、私の望みを叶える番だ!!〜






〜もしもーーーー……

私が殺害を実行しなければ、父上は、母と離婚する……と言いました。



続けてーーーーー……


無駄な下らぬ美容やドレスや宝石に、巨額の学費……


社交と、全く役にも立たない勉学で、際限なく金のかかる役立たずの金食い虫の母やお前の姉妹……!!


ーーー姉や ーーーー妹達を、まとめて宿無しにして放り出す!!


ころあいをみて自活の道を、徹底的に叩きつぶすと言い放ちました。




今まで 人を疑うことを露とも知らず……


父をひたすら信じ切って愛して頼り切りの……!


生まれてこの方〜

おとぎ話のお姫様暮らしだった、おっとり美しい母。


医学博士となって……

待ち望んだ最愛の人との婚礼をーーーーー

 

……ほんの…もうじき


ーーーーあと少しに控えた姉。




漸く長年の……

努力し努力した果ての、血が滲む思いで邁進した夢が叶いそうな、豊かな才能ある兄思いの、優しい2人の大切な妹達の将来……


ーーーーか弱い 優しい彼ら。


父の悪意と謀略を受け、世間に丸裸でなんの庇護も無くポンと放り出されたら一体どうなる……か?


足下が、ガラガラと音を立てて崩れる恐怖を感じました。


もし……私がお約束を守れば、母や姉や、妹達に手を出したりしませんか?


今まで通り、多大なる御支援をして下さいますか?


ーーーーお父様は?



〜まぁ〜…お前の私への善行ーーーー……行動次第。

考えてやってもいい〜



……有難うございますーーーーー



〜ぅむ 今の自分が言ったその言葉、ゆめゆめ忘れるなよ?〜〜





ーーーーーこの暗殺が成功したら、父やクリス様との軋轢、経緯を……

 

つぶさに何年も側で見て来て……

今までの何もかも知っている姉妹達は『卑怯者』の私を軽蔑ーーーー……


絶対に許さないでしょう。


もはや私は、父の完全な操り人形



ーーーー人生最大の恩人をも……情けなき恥知らずに…


今や自分達の安楽と栄誉の為に、平然と裏切る、唾棄すべき人殺しに堕ちました


計画を聞いた、永年私によく使えてくれた私側の部下達は何も言わず、私に此処まで従ってくれました……


どうしようもない『父上』という強烈な現実。


私に”運命”は、神は動かせないからです。



それ程、私にとって父……”あの人”は、父上は底知れない絶対者で、本当に恐ろしい存在なのです」



「ふぅん……」


「……?」


「あっそうッ……?」


「!!」



城主はなんとーーーーー事も無げにウィンストンに言い切る。



「フーーーーン……

やはり本当の黒幕は閻魔大王、貴方のお父上だったのですね?


最後まで……

ウィンストン様がひた隠しになされていた最大の秘密はこれだった……


ーーーーーそうですね?」


「ーーーーー」



「叙情的な感傷ーーーー

感情論に水を差して大変申し訳ないのですが、秘め事はほぼ見当がつき想定しておりました」


城主は感情を挟まない乾いた機械じみた声色でツラツラ言った



「一体…いつから、この事に気がついておいでだったのでしょうか?」




「……『ずっと疑っていた』


そうですね、疑惑を持ち続けていたーーーという方が1番近い心境です。


それは……襲撃事件の当初からです。


クリストファー王太子殿下の『きっと何か訳がある!』


強いて言えば、”切っ掛け”はそれで、そのお言葉を私は今回ずっと信じました。


やはり、王太子様の直感は正しかったのですね?


あの御方のーーー……

お友達を信じる気持ちの深さとお強さには、ホトホト脱帽です。


この理屈では撥ね除けられない疑惑がぬぐい去れず、あえてあなた方を当施設に引き取る為にーーーー


城を統べる総責任者として あのような形で幕引きを致しました」


「……え?」



「……貴方のお父様は、ずっとジャパンの私どもにシラを切り通されました。


”親不孝者の不肖の嫡子の暴走”……を、ついつい子どもかわいさ故に目が曇り、貴方の妄想と愚行に気がつけなかった〜


自分は哀れな、年老いた馬鹿な父親〜だとね?」



「……そんな…!馬鹿な!」


「……ウィンストン様のお父様は 嘘泣きが大層お上手な紳士ですね。


ーーーー私は涙を信じません。


大体本物の大物政治家が人前で、重大な〜国と国との風雲急を告げる交渉時に、あんなにワァワァこれみよがしに泣く訳ないじゃないですか?!


選挙演説じゃぁあるまいに〜〜〜!!

 


ですのでーーー情に篤く、情け深い温厚な宰相としての顔をして。

 

ハラハラ大粒の涙まで盛大に零しながら、私に言い張る独特の雰囲気を何か異様だと感じ、完全に疑っておりました。


ーーーー信用なんぞする訳がありません。

 

全くもぅ……随分この私も見くびられた物です。


で、何処か何かが、どうしても不調和、違和感がぬぐえず不自然すぎで。

 

それから、クリストファー王太子殿下が仰っていた言葉ーーーー


〜彼が黒いものを白だと言ったら白になる、白いものも黒だと言ったら黒になる


国王の父も頭が上がりません。

そういった強大な権力を持つ政治家です〜



城内の、彼が心を開き 信頼出来た人物に……

必死でそう訴えかけた言葉が、私の心にずっと引っかかっておりました。


あの言葉は 嘘には聞こえませんでした。


記録にも、一言一句相違なく保存されております。



根拠が無いのに絶対に、一方的で批判めいた事を仰らない方だと〜!


本当に短い時間でしたが、私は王太子殿下と接していて、そう確信致しました」



「〜〜〜」


「〜仮説確認の為に何度ーーーーーー


執務室デスク人工知能端末・マザーメインコンピューターまでも総動員し駆使して様々なケースを入力し、思いつく限り数限りなくシュミレーションし直してみましたが。


どのパターンも、どのシチュエーションも、最後の結果ーーーー


”帰結”は同じ回答でした。


ウィンストン様のお父様が〜ご子息である貴方様を”実行犯”にさせた上で……


自らは手を汚さずに仕組んだ、ジャパン上空での襲撃事件〜


そのシンプルな結論にーーーー

最後の最後には必ず行き着きました」


「ーーー」


ウィンストンの表情は硬く蒼白だった




「いいですかーーーーー?


貴方のお父上は……

 

貴方を無理矢理汚れ仕事をさせた上に、無常にも切り捨てたんです……!!

 

貴方方を終生〜極秘裏に収容する事を条件に、多額の契約金が既に当施設に支払われました。


ですので、恩赦が〜

たとえばクリス様が新王に即位され、D-01を統べる国王陛下として直々に我々にお命じになされない限り……

 

貴方方全員、此処から故郷に再び戻る事は無いでしょう。

脱獄不可能な、この要塞の機能すら持つ城から、絶対にね」



「ーーー……」

 

「お父様は息子を許してくれと仰られましたよ?


腹立たしいーーーー”どの口が言う?” ですね。


果たしてそれがーーー


”息子を心から愛していた”と、散々力説する、素晴らしき親のする事でしょうか?」



城主の目がドロリと昏い光を帯びる。



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