恐竜の木の下で
「王宮に滞在中ーーー……
キャサリン様に守ってあげられなくて済まないと!
随分時間が経過しておりましたが、今度こそ何とか告白しました。
切っ掛けは元はと言えばーーー私が
尊き彼女の幸せを祈らんが為に、ワザワザ学園内部で主立った力のある男子学生同士でかわした神聖な協定〜
皆で納得し、男同士での、プライドと魂をかけた不可侵の絶対的な誓いを破り、しかもそれどころか、彼女のあれ程嫌がった事を。
自分の子どもっぽいプライド、我欲に負けて企てて……!
クリス様の大切な許嫁であられる彼女に愚かにも、邪悪なよこしまな想いを寄せたせいなのです。
もぅーーー申し訳なくて……!
彼女に合わせる顔などありませんでしたが、それではいけないと思いましたので
必死になけなしの勇気を全力で振り絞りました。
”もう会わない”、と決めた時ーーー世界から美しい色彩が全て消えました。
目の前には……
深い途切れの無い闇しかありませんでした。
”きちんとした謝罪”ーーーー
懺悔を行う場所は、今回絶対に人目が無い場所が良いと思いました。
もうご迷惑は掛けられません。
何処が良いだろうか?ーーーーあそこしかない!!と。
王宮庭園内の最奥に、こんもりとうっそうと茂っている……木々がございます。
かつて……子どもの頃の私達が、「恐竜の木」と、勝手に命名し名付けた場所で会う事にしたんです。
これならば私達しか知らない、暗号めいた言葉です。
時間と日時を書いた手書きのメモを。
彼女宛の午後のティーの茶器の、カップの裏側に、お付きの古参メイドの方にお願いして挟ませて貰いました。
私が余程、深刻な思いつめた顔をしていたからでしょう……
じっと無言で聞き、自分からは何も言わずーーー依頼を聞いて下さいました。
ーーーこれでいい
全てを終わらせる為にはここしか無い!!
懐かしい〜心がヒリヒリしそうな、今となっては幸せしか思い浮かばない場所
闇に堕ちた私にとって、燦めく子ども時代の思い出の象徴、秘密の場所でした」
**************
「恐竜の木とは?」
城主はウィンストンが懐かしげに訥々と話した、摩訶不思議な言葉を聞きとがめて口を差し挟む。
「ぁあ、まるで絶滅した恐竜が食したシダの様な形状のーーー
大きな緑の羽のような、大ぶりのわさわさの葉を持つ、見上げるような巨木の事です。
そして何かがいつもブラブラ、カーテンを止めつける房の如くに、ジャンジャン上から釣り下がってたんです。
ーーーそれがまるで、恐竜が住むジャングルの蔦みたく見えて。
〜地球に恐竜が居た時代こんな木があったらしいわ?!〜
〜ふぅん!サッスガ物知りのキャシーだねぇ!?〜
私は
”その事を”本当に良く覚えており、なんの憂いも無かった当時を回想すると胸がギュッーーーと締め付けられる思いがしました。
もう来てるだろうか?
……覚えていて下さるだろうか。
ーーーーーお忘れになってるかもしれない。
尾行されないように気をつけながら目的地に急ぎました
それに大体が、”来てくれる”ーーーーだろうか??
そんな何も保証などなくて。
来てくれないならばそのままそっと、この国から居なくなろう。
コロニーから出て行こう
でも何所へ?
もう……
生きている事そのものが嫌でした。
時間よりも早くそこに到着すると……
驚く事にーーーーー!!
すでにキャサリン様はいらしておりました
『!!』
キャサリン様ーーーー!
彼女は……上をすっと見上げていました。
高く高く
その美しいお姿に、声も無く、思わず息を吞みました。
恐竜の木は、想像よりも、もっと巨大に成長していたのです……!
そう、悠に大きくこんもりと枝をはっていました。
見上げるような迫力のーーー大木に成長し、圧倒的な迫力と存在感を周囲に放射していました。
今まで無骨だと思い込んでいた巨木の、見くびっていた弾け沸き立つ生命力〜
瞬きすらーーー呼吸すら出来ない 素晴らしい光景でした。
大きなしだれた枝には、小さな黄色の粒の花穂が満開で
ふんわりと柔らかに……!
優しくゆで卵の黄身をほぐしたかに樹木全体、豊に満開に、きらきら咲き誇っておりました。
「〜ウィンストン?」
名前を呼ぶ……優しい声にハッと我に返ると……
どうやら私を見つけたらしい、大きく目をパッチリ見開いたお姿が目に飛び込んで参りました。
彼女の側にゆっくり歩み寄り 御側に向き合いました。
視線が、目と目が自然に合いました。
まさかのまさかーーー……再び会えたのです
もう、思い残す事はありません。
クリス様は留学の話を御父上様お母上様にーーー提示して下さいましたが
……とんでもありません。
お引き受けせずーーーー断固当然断る心づもりでした。
ーーーと……困った様に。
キャサリン様の視線がそれて、ついっと上に向きました。
心が凍り付きました。
本当にーーーー今度こそ嫌われたんだと思ったのです……
往生際が悪くこの後に及んで何を。
笑止と思われるでしょうが。
そんな私の悲しげな様子を察したんでしょう
目線を私に下ろしーーー
微かに魅惑的に笑い……
「ほら見て」
『??』
「ここから……凄いでしょ?」
綺麗な細くて長い指で、上を指さしました。
「え?」
「この木の事、今でも覚えていてくれて有難う」
「ーーー」
ぅわぁ……!
お互いーー…… 暫く無言で顔を上げて
頭上の金色の花の粒を見つめていました
「凄いですね」
「まるで金のトンネルでしょ?」
私達は隣り合って見上げました。
遠くからもそれは美しかったんですが、下から見上げると木全体が呆然とする程
燦然と燐光を放つ金の光……塊でした。
びっしりの……上から降り注ぐ聖なる、金の光に包まれている気分で。
「とても…綺麗ね、ウィンストン!」
「はい」
私はーーー……
『…いいえ 綺麗なのは貴女です……』
心の中で強く思いーーー
コッソリと聞こえぬ様、実際にもそう呟きました。
キャサリン様はーーーー……
この日、周囲から言動を不審に見とがめられぬ様にシンプルに……王宮庭園で目立たぬ様。
白いーーーー……
レースも何も目を引く飾りの無い、袖も裾も長い、生成りの無彩色のドレスを身につけておいででした。
学園誰もが憧れている、艶やかな長い髪を編んだり結ばずに、背中に下ろしておられました。
私は〜……逆に僧服を思わせる墨染の黒を。
父に必ず着させられていた派手な衣装では無くて、本当は自分が好きな……色。
色味も形状も素朴な、似た感じの着衣でした。
庭園の黄色の優しい花々の小さな粒は、まるで光の精霊達。
キャサリン様の、穏やかな癒しの色彩で包まれた、私のせいで身も心も傷ついておられる華奢なお体を
……まるで御守りするかの如くに。
はらはらと……音も無く静かに舞い降りていました。
甘くかぐわしい香りを周囲に振りまき、静かな粉雪のように、ドレスは天然の金色の飾りに優しく静かに包まれていました。
儚い美しい夢の中の光景ーーーーー……
キャサリン様自身が荘厳な、金色の光明に包まれた尊き白い天使〜…
巨匠の御手による、静謐な聖なる宗教画に描かれている清らかな聖女
美しき精霊のお姿の様でした。
「本当に済みませんでしたーーー……!」と。
私はキャサリン様に、取り返しがつかないことをしてしまったと!心より懺悔し
膝を地面に屈し、謝りました。
「〜そんな事しないで〜」
恐竜の木の下で、ひたすら謝る私に、心に染み渡る微笑みを浮かべ優しく仰られました。
私の手を取り、すっとーーー立ち上がらせました。
「貴方は一欠片も悪くありません。
仰られるような大罪はございません。
ーーーだからもうお気になさらないで下さい」
「……しかしっ…!」
「あなたには、お気持ちを傷つけまいと言いませんでしたが……
お父様がどんなに怖い方か、よく存じております」
「……」
「ーーーあなたがあの場にいて……ーーーー
心優しいあなたがあそこまでーーーー……
お父様に必死に頼んで下さったからこそ。
私はあの場で、人知れず殺されずに済んだのですよ?」
ニコッと……
柔らかく消え入る様に、私の目を見て微笑まれました。
そして……
キャサリン様から恥ずかしげにーーーー……
「これからもウィンストン様とーーー申し訳ない私の我儘ですが〜……
これまでと同じように、色々と御一緒にお話しをしてもよろしいでしょうか?」
金色に香しく咲き誇る木の下で、恥ずかしげに頬を薔薇色に染めて提案された時ーーー
もはやーーー……
私は。
壊れたように泣きじゃくる様を、自分でも止められませんでした」
「ふーーんーーへぇ、ジャパン名、”房アカシア”
愛称ーーーーミモザの木でしたか……」
全く夢が無い感想で済みませんねえ〜……!
ガサツな城主は心の中で詫びた。
けれども彼は、懐かしい特別な記憶の海に精神が総て埋没、幸か不幸か、怒濤の現実主義者である城主がポロッともらした事〜
全然色気が無い無神経発言には、さほど気に留める事も無く別段、特に気を悪くする様子も見受けられない。
なんとどうやら少々、個性的な人柄に慣れて来たらしい。
「ええ、ミモザの木だと。
芳しいイエローの花穂を見て、私は初めて気がつきました……
しかし原始的な野性味溢れる葉や樹木の形状から、よもやあれ程ーーー……
可憐な小粒で、小さな花が沢山咲く樹木とは私は思ってもみませんでした」
「ところで、花言葉ご存じですか?」
「え?」
城主はサラリと……ウィンストンに尋ねる
当然、ウィンストンは、”知っていて”
敢えてその場を選んだのか?……と考えたからだ。
正しだ、そうなると残念ながら、今まで話した部分部分の辻褄が合わなくなる。
そうーーーー……つまり、巧妙に”嘘”ーーー
今の話に織り交ぜている可能性が考えられるのだ。
「本当の事を語って言っているのか?」の…以後以降の「これは目安』
〜彼に対する取り扱い方の、大きな指針になる筈だろう。
「いいえ?……
???
繊細に花壇に花開く、たおやかな園芸用草花にならともかく、巨大な天をつきそうな移植された元々が野生の樹木〜
種苗業者の宣伝ならともかく、それらに咲く花に、各各”花言葉”等は、あるのでしょうか?」
「まぁ、そうですねぇ」
「私を揶揄わないでください」
おっもしろ〜〜〜〜!!
『ーーー鳩が豆鉄砲を食らったみたいな貌ねぇ〜』
城主は思わずブーーっと吹き、笑い出しそうになってしまい自制心を働かす。
〜〜〜〜危ない危ないっっ!
『だけどこれ、言葉の成り立ちや自然科学に異様に知識を持つ信繁が聞いたらどう答えるでしょうねぇ…!』
「これだから学校の勉強のみした事が無い、頭の硬い優等生は〜〜!」って。
城主に言わせれば信繁だって十二分に優等生なのだが、彼だったら絶対にプンプン激怒りしそうだわ?とついつい罵倒の姿を連想してしまい、この楽しい妄想のせいで笑わないように必死に勤め上げた。
笑いをかみ殺した奇妙な表情の城主。
反対に、”意味がわからず”に、きょとん?〜
首をかしげながら躊躇わずに返答をした彼に、ほっと安堵する。
『まぁ、どうやら”嘘”じゃなさそうね』
作為的な匂いは感じられず、彼は本当にそう思っているのだ。
『良かった事!』
間違いない、彼に嫌らしい気持ちは無かった
本当に、考えも及ばなかったのかもしれない。
”あの木”の、房アカシアに”花言葉”は、無論ちゃんとある。
聳え立つ樫の木には、「力」、「勇気」、「長寿」が。
菩提樹に咲く素敵な花には、「夫婦愛」があるように。
”ミモザの花言葉”
「友情」「秘めた恋」ーーーー……
そしてーーー……「真実の恋」と言う。
城主は脳裏にーーーーー…………
風花の如く舞い散る満開の金のミモザの花の下、視線をお互いにヒタと合わせて。
幸せそうに心からの微笑みを交わす15歳の、純真な2人の姿を思い描く
「キャサリン様の事を、そこまでお好きだったんですか?」
「えぇーーー……
ご理解出来ないかもしれませんが、彼女を忘れる事はどうしてもーーーー……」
ウィンストンはフゥッと苦しげな溜息をこぼす。
まるでーーー
自分で我が身を容赦なく切り刻むかの様な、辛く哀しげな瞳が苦しげに、城主に向けられた。
城主は少し意地悪な質問を敢えてぶつけてみる事にする。
『……これで彼の本気度が知れるわね?』
本当に愛していたら、間違いなく怒りを顕わにするだろう。
但し”マドンナ”
愛を越えすぎる、偶像崇拝かも知れないので見極めが肝心だ。
逆にーーー……
”世俗的な肉欲”を欲していたならば、私の発言に簡単に迎合するだろう。
ーーーーサァどう出る?
ウィンストン、貴方は……?
「あの御方は、ですが王太子様の許嫁でーーー
どんなに好きになったとしても、諦めるしかないじゃないですか?
それとも……?貴方は強引にーーー?
又は 言葉巧みに彼女の優しさにつけ込み、玉体を手込めに、いつか組み敷き我が物にするおつもりだったんですか?」
ダンッッツ!!
……硬く握りしめた拘束具付き両手の拳が机に叩き付けられた。
ウィンストンの雰囲気がガラリと変わる。
「ーーーおやまぁ怖い怖い
そんなにムキに本気で怒らなくとも、冗談ですよ」
「たとえ冗談でも、言って良い事と良くない事が有るんではないでしょうか?
しかも女性が〜同性の女性に対して。
そういう、魂を殺す死に勝る残酷な事を、いとも簡単にそのように発言するのは酷すぎると思いますが?」
「ごめんなさい、今回に限り 貴方の方が正しいわね。
確かにそれは正論よ?
よく似た性質の部下がいますわ?
今の発言、彼が聞いても間違いなく激怒するわね。
ーーーー重ね重ね御免なさいね」
『ふぅん……』ーーーー成る程ね…
”私が言い過ぎた”と…城主は素直に謝った




