恋の結末、深い悔恨と慕情について
城主の前で、漸く精神的落ち着きを取り戻したウィンストンは言葉を、何とか絞り出そうとしていた。
「〜〜ーーーっっふ」
「ゆっくりで構わないから」
「……」
成る程ーーーー強い自制心ーーーね。
極めて真面目で、打たれ強かった、こうした忍耐強い部分が更に父親の嗜虐心を誘発したのかもね?
ホンット、腹立つ皮肉な事だけれども……!!
悪い奴らは心正しくて口の堅い、しかも何らかの事情で反撃に出ない犠牲者を。
ーーーそしてここが肝心な事だけど、彼らは自分の悪事をそこら中で吹聴しない大人しい人間が大好物!!
恐るべき嗅覚で嗅ぎ分ける様に見分けて、生け贄に選ぶから。
ホント今だに全然理解不能なんだけど、彼らは優しいと弱いの区別がつかない。
いくら話し合っても、第三者立ち合いの場を設けても、話がまるで通じず噛み合わずーーー
「だったら自分にその場で嫌だと言えばいい」
「何故言ってくれなかったのかい?!」
「言ってくれれば改めたのに!!」
ーーーーとかなんとか誰も彼も、超絶面白い事を言い出すのだ。
これも何故か、ド定番の展開だが〜
いよいよ自身が劣勢に追い込まれ逃げ場が閉じられると、歪みすぎてアホらし過ぎるホラ吹き男爵系の詭弁、偽善的御託を嬉々と、せっせとさも正しい様に並べ始めるから可笑しい。
だが多分きっと、これが彼らの見ている世界の真実なのだ。
本当に、本能に近い破壊衝動、依存的行動しか、脳が受け入れられないのだ。
身内の暴力程、限りなく陰湿になり易い。
何所までも増長、エスカレートし、暴力による報酬系〜
脳内における莫大な快楽物質の放出に限りなく依存、過激化しやすい……か」
ウィンストンは、はったと前を向き、低い太い声を絞り出し城主に答えた。
「おつきの人間を大勢従え……
父がーーー……
彼気に入りのシガーを咥えて立っていました。
私の父はーーー……
「そういうことか……」
ふうっと煙を吐き出すとシガーを床に投げ捨てて、ギリギリと靴で踏みつぶしました。
ぬらりと、自慢のオーダーメイド製、ピカピカの靴先が光りました。
ーーーーゾッとしました。
チラと目配せで父上の身辺警護の逞しい人間4人が、一斉にキャサリン様に襲いかかりました。
私はーーー残りの〜……
父に付き従っていた側近に取り押さえられました。
皆、僕を子どもの頃からーーー好いてくれて穏やかで優しい人達。
特に大切に、まるで息子か弟の様に本気で愛してくれていた人々でした。
「変な気を出して逃がすなよ?」
私を押さえる彼等の、手が小刻みに震えるのを感じました。
僕は顔を背けられない様に……
スタスタ側に寄って来た父に、髪と頭を鷲掴みにつかまれ彼女に向けられました。
「やれ」
父の命令にーーー……
キャサリン様を後ろ手に膝を付かせ、有無を言わせず身体を押さえていた男達が無表情に動きました。
彼らは自身のベルトを解きました。
純潔は流石に、「王太子様の許嫁」というお立場で汚されはしませんでした。
ですがーーー魂を打ち砕く陵辱は可能なのです。
「お父様!!」
何とか側近達の押さえつけた拘束を全力で振りもぎ、転げる様に父の足下に身体を投げ出し、靴に口付けをし、すがりつきました。
「お父様お許し下さい!
どうかキャサリン様をお助け下さい!
御免なさい!
父上のお慈悲を、情けをおかけ下さい!!」
……必死で泣きながら頼みました
ーーーー地獄絵図でしたよ
キャサリン様の悲鳴、惨めな息子の姿
ソファーに腰掛け、脚をブラブラさせながら。
代わる代わる視線を向け、様子を実に楽しそうに見物していました。
私が足下にひざまずいてーーーー
「許して」
「ごめんなさい」
そう繰り返し這いつくばって何度も懇願した事で、ある程度は父も高ぶった気持ちが晴れ、鬱屈が消え満足したようでした。
まさかあそこまで、サディスティックだとは想像だにしていませんでした。
その後今度は、僕がーーー
床の上に正体も無く崩れはてた彼女の前で、記憶が飛ぶまで、父愛用の鞭で打たれ続けました。
ボーーーっと気がついたら、自室ベッドの上でした。
側に付きっきりの姉が体中びっしりの外傷を、あちこち冷却用の氷嚢で冷やしながらさめざめと泣いていました。
意識が戻りーーー……
外傷で身動きが出来ない私の元に。
回復した様子を側近に連絡で聞いたらしい父上が、イソイソとやって来ました。
奇妙に得意げに、ゾッとする甘く優しげな声で、膨れあがる赤黒いミミズ腫れに爛れた鞭痕に、自ら鼻歌交じりに塗布しだしました。
「コロニー最高級の、即効性の非常に良く効く塗り薬〜医薬品なんだぞ!!」
そしてウキウキと、こんな事も言いました。
「あの娘も、これでこりたろう……!
憎々しい、馬鹿なあの両親どもはともかくだーーー
本当にいたいけで、面白い可愛い子どもだったから親とは違い命は取らずに、あの時生かしておいてやったものを!!
折角の恩情をーーーふてぶてしい仇で返すとはなあ〜!」
くっくっくと喉の奥で笑いながら、先程からのお気に入りの鼻歌でノンビリ唄う様に言いました。
私は愕然としました……
父上は人の姿をした悪魔でした……!!」
ーーーーーーーーーーー重苦しい沈黙が流れる。
城主は、しばらく経ってから尋ねる。
「子息である貴方に
わざと強引にーーーー
見させながら、暴行の行為に及んだんですか?」
「ええ。
彼女の泣き叫ぶ声や口を、敢えてふさぎませんでした」
「敢えて聞きますが、何故ですか?」
「ここでの事は記録にも残らないし、入り口に人もいるしな。
聞こえても誰も来やしないから、せいぜいわめきたいだけわめき続けさせろ……と。
制服や衣類を、行為の最後まで、完全には身体から脱がせませんでした……
でも決して、父の掛けた温情ではありません」
「まぁそうでしょうね」
「〜折角の、金のかかる堅く格式のある有名ブランド学園の制服。
身体からすべてはぎ取ると、とたんにその辺のガラクタ女と一緒になって面白みがなくなる〜
ーーー父は最低でした。
私に向かってーーーいっさいの表情も変えず。
言い放った言葉に続けて
〜そんなのは当然じゃないか? 〜と……
新たに用意させたシガーを燻らせながら、実につまらなさそうに言いました」
言い終えたウィンストンは、脱力し力無く俯く。
**************
私はそれから数日間学園を休み、自宅で療養していました。
全く寝返りすらうてない悲惨な状況でーーーーーその間の事です。
私には年の離れた長子の姉の他に……まだ2人の小さな幼い妹達がおります。
妹達は、私が1人ぼっちで寂しくない様にと……!
いつも帰宅すると、「「おにいさま〜!」」
可愛らしい笑顔と声で、私の部屋に身支度もそこそこに、真っ先に駆け寄ってきました。
「おにいさま、おかげんいかが?」
「はやくよくなってね〜〜!」
1人は幼稚舎で習ったばかりの、新しい童謡のお歌を高い可愛らしい声で沢山歌ってくれました。
もう1人は得意の画力で一生懸命に、私の似顔絵を描き、先生に習ったばかりのたどたどしい文字の綴り方でこう書いてくれました。
「♡だいすきなおにいさま♡
♡はやく いっぱい いっぱい げんきになってね♡」
「♡おにいたま はやく げんきになって♡♡
たくさん♡ たくさん♡ わたしとあそんでね♡」
ピンクのハートマークの飛ぶ〜私宛の手紙を如何にも子どもらしい文字で書き。
強く握りしめた筆記具のせいで相当手が疲れただろうに、長時間頑張って、何通も何通も私の為にしたためてくれていました。
特に幼い、幼児期の子どもは、大人と時間の感覚が違います
数分間でも集中して、何かを成し遂げ、行う事は非常に大変な事。
脳も身体も疲労困憊〜ーーーー疲れる事なんです。
でもーーー……2人とも毎日そうしてくれたんです。
不甲斐ないーーー……この私の為に…
有りがたくって有りがたくって涙が出そうでした。
「おにいたま、またどこかがいたくなったの?」
「おにいさま、とうさまのではなく、おねえさまのごよういのおくすり。
あたしがぺたぺたぺったん〜 してさしあげましょうか?」
「ぽんぽんが まだいたいの…?」
まるで小動物の様に
グッタリーーー自室の広いベッドに横たわる私に身体を投げ出し、ペタ〜っっと両腕で可愛らしくひっつき。
プイッと顔を上げてはまた〜、ペタンとフワフワな頭と顔をすり寄せて。
……脚をパタパタ、交互に上下にさせては甘えて。
本当に、涙をこらえるのが大変でした。
姉もうんと早くに外出先から帰って来て……は、父の部屋への侵入を言葉巧みに切り上げさせ、巧妙にニッコリ美しい微笑みを浮かべながら追い払ってくれました。
「医学を専攻する自分が居ますから。
日々お忙しいお父様は、是非お体を労ってお休み下さい」
「そうかそうか〜〜〜〜」
「ぇえ! 気の張る大変なお仕事お疲れ様でした。
全てお父様が居ればこそ、コロニー全国民が幸せで居られるのですから」
「お前のような物わかりの良い娘が居てくれて、私は父としてなんと果報者だ」
「ありがとうございます、では直ぐお部屋にーーー
新しいお気に入りのメイドに、素晴らしいコニャックをご用意させ、すぐにお持ち致します。
お父様、”お好き”、でいらしたでしょ?
ーーーついでにお食事を、寛ぎながらお部屋で取られては?」
「ふふふ、それは楽しみだ」
姉はーーー父の好みを、「全て」を。
本当に……良く解って熟知していました。
彼の身の回りの世話を担当するメイド達は、全てが父好みの女性……!
姉自身が急遽方々からスカウトした、接客業プロフェッショナルのレディです。
息子への面会と接触をごく短時間で終わらせる様言い含め、相場よりも遥かに高額で雇い入れ、必死に知恵を巡らせてくれたんです。
姉妹達にはこの様に、私の事で随分と迷惑と心配をかけました。
漸くして 這う様にして学園に行きました。
もう何もかもーーーどうでも良かったんです……
キャサリン様も、私なんか顔も見たくないどころか、細切れにバラバラにして殺したいほど憎々しいでしょう。
全ては私が振りまいた罪と罰です。
男子生徒間で取り決めた、尊き誓いを欲望に負け、愚かにも破りましたからこうなりました。
そして何よりクリス様に対する罪悪感ーーー……
相思相愛の大切な関係に、知っていて横入りした罰。
取り返しがつかない最悪の事態に、心と体が地の底に吸い込まれそうでした。
フラリーーー幽鬼のように無茶な様子で出かけようとする私の姿。
学園に行く為の、支度を調える様子を見た姉妹達が必死に、泣きじゃくり体を張り引き止めるのをなんとか振り切りました。
これが私のケジメでした。
私はクリス様に、大切な許嫁であられるキャサリン様と陰でコソコソ面会していた醜い事実。
あろうことか、会って心を躍らせていた裏切りの酷い事を、告白するつもりでした。
キャサリン様にもーーー2度と会わない事
「学園を辞め、どこかひっそり遠くに行くつもりです」
ーーーー懺悔する予定だったんです。
ところがーーーそんな私の身体の様子に登校し真っ先に気がつき……
何も聞かず、言わせずに、迷う事無くスッと手をさしのべてくださったのは、あろう事か
……他でもない王太子クリス様だったんです。
卑小な私は、とどのつまり醜く保身を選び、告白も懺悔も結局〜彼に出来ませんでした。
クリス様がーー……自室で傷跡に薬を塗って守って下さった時
まやかしではないーーーーー
彼の本当の強さを初めて知りました。
クリス様は一切私に、胸の内を仰いませんでしたが、何らかの事情を既に幾ばくかはご存じだと雰囲気で感じました。
父の施す優しさとの違い……
心が震え胸が温かく疼きーーーーーーー
何もかもが 全然違いました。
申し訳なくて、悲しくて……
嬉しくってーーーーーー……有り難くて。
ぇえ、確かに、恋に限りなく近い慕情だったと思います」
最後の発言の語彙はまるで空気に消えるかの声で……
再びウィンストンは 唇を震わせながら顔を伏せた。
そしてまた、城主も話の腰を折ったりせず、決して焦らなかった。
ウィンストンが混乱する気持ちの整理をつけ漸くーーー自分から口が開ける様になるまで。
あくまで城主は根気よくジッと待ち続けるのだ。




