城主の秘密
「あらまぁそれはーーーご期待に添えず済みません」
城主はワザと奇妙に優しい口調で微笑みかける。
「私自身を作った『父』ーーーー!
『旧 日本時代』の某大学名誉博士であった彼の全ての実験製造研究データは今はもぅございませんので。
『関東大震災』『東京大空襲』のトーキョーを襲った、過去2度の未曾有の大きな壊滅的な火災で全て焼けて灰燼に帰しました。
折角ですが、残念でしたね?
期待させておいて済みませんが、天才の業績と秘技は総て失われてしまいましたよ、結果的に完成品であるこの私以外は。
お望みの『クローン技術』は、出来ぬ事ではありませんが、望んだとしても新たに構築された現代の技術でしか執り行われられません」
ウィンストンの瞳がギラギラ光を帯びる
「それは嘘だ!」
「貴方も科学的な事柄にご興味がおありならばわかるでしょ?
本当に危険な物ーーー
父もそう考え、そういったものは敢えて無用なバックアップ、”他”は極秘すぎて作っていませんでした。
よく有る事です、技術大国のこの国ではーーー技術漏洩を全ては防ぐ為です。
それというのも元々ーーーー
父の天才的頭脳の中に全てが集約され、丁寧に圧縮記憶されておれば別段誰も困らず都合が良かったからです。
そして部分的には『私』……
ーーー政府中枢の人間も事が事だけに、物が物だけに異端の研究故に、最重要の機密保持 及び保安上の観点の為にそれを強く望みました。
どうしてもの場合、記録の大元である父を消せば、全て完了ですものね。
こんなにも狙い通りの容易いことなどございません。」
城主は美しい唇を綻ばし、うふふと話を続ける。
「それからーー……貴方は何か思い違いをしておられますわねぇ……
もう一段私の業は深いですよ?
だって……」
ーーーーーー 冷えたゾッとする笑い顔をする
「なぜか結局、私だけは死にませんでしたからね?
オマケに何時までたっても、年だって取らない侭。
だから、父は『研究者』として。
全くのーーー……完全なる異能を持つ、完璧な異端者だったんです。
果たしてーーーー偶然の産物だったのか?
それとも或いは??と。
意図的に操作の物かを、政府中枢の人間は、それはそれは知りたがりましたよ。
〜人間の体内の細胞中、男性の生殖細胞の『とある1つ』だけが、永遠に同一細胞を、形状その他を劣化せず増殖させる力を持つそうで。
スペルマという超巨大な生体なんかではありません、それよりももっともっと原始の命の根源に近い細胞段階です。
それこそ人、個体によっては延々と一生の間、ひたすら限界数値を作らずに製造し完全なコピーをするという驚異的神秘の能力がある事を。
近く近代になり……
某国立研究所の1研究員が不断の努力でそれを発見しました。
細胞には必ず分裂させる限界、劣化が『緩慢な死』と定義すれば、しない細胞はありません、いつか必ず役割も生命も終えるのです。
ーーー父は、旧時代の当時、既に発見していた節があります。
それを応用し、『私』がまだ細胞状態、ヒトですらなかった時に天才的手腕でもって抽出培養した神秘の細胞を用いて実験、キメラーーーー
私という一代交配のクリーチャーを生みたしたのでしょう。
莫大な残された資料から当時の真実を推理考察し、一体何が実験室内に於いて行われたのか私は感じました。
『証拠』はーーー現在は総て私の肉体の内部、この中にあります……
父は決して死なない劣化もしない私の臓器、つまり頭脳を、格好の極秘研究記録の保管庫に充てましたから、そういう意味でもです」
城主は面白そうに、トントンと額を指でつつく。
「なお『生体サンプル』は、”私”です。
他は総てーーーー様々な内紛や、先程のどうしようもない理由で失われました。
年ーーーーつまりは『老化』を一切、一定時期から取らなくなった私及び、一人の姉の事を。
当時の政府特務機関は目敏く素早く『結果』〜
”姉”よりも早くに、何故か成長がここでピタリ止まってしまった私に目をつけました。
それでーーー……
父をなんとか国内に引き留める為、大切に生存中、あらゆる事を支えて研究施設を任せ重用致しました。
『本当に重要』な事は、まず決して公開しないんです。
技術の流出ーーー盗用やコピーを恐れてね?
そう言う場合は、特許は当然取りません。
稀少な技術の世界中への『一般公開』ーーー危険すぎるそのものですからね」
ウィンストンはゴクリと喉が鳴る。
澄んだ綺麗な瞳は嘘をついている様に見えない。
ーーー瞬きをしない魅惑的な黒い瞳から……
ウィンストンは催眠術にかかったかの如くどうしても目が離せない。
彼女は目をそらさず、緩やかなまま、何事も無かったかにスルスルと事実として話続けてゆくのみで、ハッタリなどの動揺は感じられない。
城主の美しい黒髪が揺れた
「結局ーーーー……
今この世に『オリジナル原型モデル』、しかも生体サンプル『成功例』で生存しているのは。
第1段階の試作品、プロトタイプ10体の内、NO,5の私だけです。
父は識別の為と政府高官への説明責任から、ジャパン古代平安時代にしたためられた物語『源氏物語』より、五番目の物語のヒロインの姫君にちなんで名づけました。
それ以外ーーーー
後年、私を作ったときのデータを元に、私以降に造られた大勢の『妹』達も〜
そして幾人もの『姉』も皆はるか遠い昔に全員死亡しました。
先程示した、くだんの姉が。
第一段階の試作品の仲間や、妹達を全員、グルーミングで手懐けた愚かな妹に毒殺、抹殺させたんですよ。
よりにもよってクリスマスイヴの日に、自らは殆ど手を汚さずにね。
私は偶々、体調不良で優しい父の手で病院に担ぎ込まれていたせいで難を逃れましたが
ーーー嘘吐きな姉の本当のターゲットは、誠に目障りな化け物の私だったんです
私が他の姉妹と何処がどう違うのかについてはーーー……
とどのつまり創造主の父ですら完全には解明出来ず、謎の侭でした。
でーーーー
父の残す、たった1つだけの『結果』が、こうして今、貴方の目の前にあるのみです。
事件後、父と共に彼女達を懇ろに埋葬いたしましたから、今の話は確実な事象です。
姉妹が生存当時、私は常に『不安定・不完全』といわれ続けた出来損ないでしたね。
初代モデルの中の試作品の中でも始終、病の床に伏せる極めて弱い作品でした。
ですので『オリジナルの日本女性』ーーーも含めると、言葉通りに何代目かと問われれば、『私は2代目』ということになりますでしょうか?
ですから『お尋ね』とはーーーー
シャーレの中で、培養コピーとして私は生まれては来ましたが、少しばかり趣旨が異質になります。
長期における調査のお期待に添えず、がっかりさせてしまい誠に申し訳ございませんが、こちら側の説明としては以上です」
城主はサラッと、絶句し石の様に固まる男に、そう明るく告げたのだった。
「さてーーーーーー
ここまで個人的な極秘中の極秘情報〜
自らの手の内を晒した以上、私も貴方に質問をする権利があります。
世の中は等価交換です、貴方にとって……
『クリストファー王太子殿下』はどういった対象のお相手だったんですか?」
城主は視線を反らさず、一気呵成に話す。
暫くーーー沈黙のとばりが降りる
共に口を利かない。
「唯のお相手……
でも下世話な恋人とも少々、雰囲気が違う様にお見受けしますが?」
「彼は、私にとって特別でした……
特別だったからこそどうしても絶対に譲れない事、そして、我欲のそれを上回る目もくらむ愛しさがありました」
「ふぅん?」
城主は不敵に意地悪な質問を続けてゆく。




