隠された思惑
ウィンストンの雰囲気が徐々に変化してゆく。
「貴女に隠し事が出来る人に、是非共 お会いしたいものですね」
貴女は、本当は何歳なのですか?
『言えない』……『答えられない』のでは無く
ひょっとして貴女自身ーーー……
『自分がいつから生きながらえているか知らない』
……んじゃぁーーーーないですか?」
「〜まさか?
ーーーー流石にそれはないわね」
城主はフフフと謎めいた蠱惑的な微笑みを浮かべる。
「真剣に考えると ホントウンザリするから経験上、深く考えない様にしてるだけよ」
「凄いセリフですね」
「別に凄くは無いわね、『事実』をここで言ったまでよ?」
平然とする彼女の答えに、ウィンストンは微笑む。
「で? 貴方は私に言いたい事は他には何??」
「それはもう、色々ーーーー有りますよ」
ウィンストンは口調を変えず訥々と語り始めた。
ーーーー自分は実は知っていた
城主が永い時をーーーー……
幾世紀にも渡って、そのままの容姿でーーーー
生き長らえている事を。
コロニーDー01のヘルヴィム元王太子が、かつて私室・執務室床の「秘密の部屋」に秘匿していたセピア色のモノクロームの写真。
『あれっ……っ?…?』
ヘンだなぁーーーーーと。
何度も何度も見つめている内に、とある可笑しな事に彼は気がついたのだ。
「ねえ どうしたんだよ?」
「いいや 何でも無い」
「?その平面写真がどうしたの?
ヘンですわ?ウィンストンーーーー??」
「ーーーあの時は咄嗟に誤魔化しましたから、クリス様とキャサリン様はご存じ有りません」
「ーーーそうだと思ったわ?
私とお会いしても特に何も仰らなかったですからね」
「秘密は守りましたよ」
ウィンストンはカサカサの乾いた笑い声をたてる。
「私は不思議な〜『美少女』に心引かれました。
何度も何度もーーー時間軸が明らかに違う写真に、それも決まって激動の時代の時に限ってどこかに必ず写り込む〜とある黒髪の少女に。
その謎めいた東洋の少女に、一目見て何故か〜ね?」
「ふぅん……それで?」
「留学中〜
たった1人で通い詰めたジャパン首都『デジタルセンター』資料庫 資料室。
チャンと許可は取りましたよ?
で……多数の〜ーーー……
ジャパンの辿った歴史を映像記録した、膨大な保存キューブの数々。
その中にも……、どう見ても『全く同じ人物』と思われる姿が、あちこちに小さく写り込んでいましたよ?
何枚も何枚も、過去何度も繰り返して見つめた為、すっかり姿形を記憶してしまいました。
まだ幼い面影を色濃く残した一人の長い黒髪の少女。
コロニーで見た記録写真と
ーーーー確かに同一の見覚えのある可憐な姿でした。
丹念に、トリミングしていないネガフィルムーーー
貴重な大本、古くはガラス原盤をも調べました。
古代は薄い樹脂への焼き付けでは無かったですからね。
割れやすい特殊細工をしたガラスへの映写でしたから、たいそう取り扱いに気を遣いましたよ?
そうしてーー……何世紀もの記録を丹念に必死に辿り、とうとう総てが『同一人物である』という確証を得、事実を確認した時。
ーーー予め予想していた事だったとはいえ、ガタガタと体の震えが止まりませんでした。
自分の目がとても信じられなかった。
妄想のあまりーーーとうとう自分の頭がおかしくなったのか?、とも」
「続けて」
「っフッ、しかし〜よもやーーーー……!!
その”追い求めた当事者”が、城ーーーー
銀河でも最高機密、トップシークレットである極秘収容施設であるこの場所の、最高責任者である事は全然知るよしも無かったですよ。
ただーー……
ずっと出来る事なら、随分な子どもの頃から、いつかどこかで絶対に会いたいと密かに願っていましたよ。
ーーーミステリアスな人物に、偶然本当に出会えて、魂が震えるほどの驚きと興奮をしました
これについては 嘘偽りもない気持ちでした」
「そう、でも”何故”?」
「ーーー”何故か”〜とは……ぇえ。
自分でも曰く言いがたい気持ちなので、上手に説明出来ません」
「ここでは無い何処かに行きたいという夢みがちな若者に多い、よくある『現実逃避願望』じゃあないですか?」
身も蓋もなくズケズケ答える城主に彼は苦笑する。
「ああ ……確かにそうかもしれませんね」
ウィンストンはスゥ……1度大きく息を吸った
「あなたを見た瞬間、永遠の時を生きる貴女を見て。
あの時私はーーーーー
自分を信じて遠き国『ジャパン』までついて来てくれた全員の部下の命の行く末と
……ひょっとして貴女ならばキャサリン様を生かす為の手段をご存じなのでは?
瞬時に直感的に考えました。
ーーーーーその時から今までずっと、私は絶え間なく……
それについて深く黙考してまいりました」
『……まぁ、そんな事だろうと思ったわ!』
城主は心の中で呆れながら毒づき呟いたが……
表情は少しも動かず、思考・内面が一切うかがえない仄かな微笑でカムフラージュした侭だった。
城主は視線をそらさず静かに思惑を消して、ただ黙って聞いている。
ーーーー漸くぽつりと言った。
「成る程ね、最初はまず、何はさておいても大切な配下の部下の人命の安全。
人を統べるリーダーとして、善良で大変良いご判断です。
そして『本命の方』の為にはーーー
最強の『切り札』をその方の為に、懐に最後まで貯留していた訳ですね?」
城主は見せつける様に、机の上で優美に白く長い指先を組み合わせる。
「〜で、化け物の私がその脅しに屈するとでも?」
投げやりに淡々と言い、薄い笑みで笑いかける。
「……まさか?」
するとウィンストンもひっそりと微笑むのだった。
「私もそこまでは図々しく思ってはいません。
ただ私も貴女と、『同じ側の人間』です。
どんなに綺麗に隠して誤魔化されたとしても、私には全部 判りますよ?
どこか……同じ匂いがします。
私も貴女もイザとなれば……愛する者を守る為には、悪魔にも魂を躊躇わず売り渡し、理念も倫理も超越する。
決して手段を選ばず〜その為に何を犠牲にしようとも厭わずにーーー!
何処までも非情に……冷徹になれる獣だとね」
「ふぅん〜貴方、ホント、よく知ってるじゃない?
……本当の私の事をね」
「それはもう」
ビシッーーーーーーーーー……ッツ!!
その場の空気が凍りつく。
城主が しなやかな腕をサラリ組み合わせる。
一流の舞踏家に似た美しさでーーー
花の顔にゆっくりと、凄絶な完璧すぎるアルカイックスマイルを浮かべた
「貴方のお望みは。
キャサリン王太子妃殿下の『完全なクローン化』ーーーですね?」
城主はフフフと小さく可憐な笑い声をたてて、真っ直ぐに瞳を視線で威嚇する。
それに対し、『でもあなた自身だって、そうでしょう??』
心の底の底を見透かす、一際鋭いウィンストンの瞳。
『一体何がどう違うんですか?』
研ぎ澄まされた空気を纏う沈黙が、それを告げている。
「今の貴女で、一体『何代目』ですか?」
城主は男を凄然とにらみ返す。
漸く、彼の禍々しい本当の実体が現れたと確信する。




