白龍と城主の遠足
城主に鞍を外して貰い、スッカリ身軽になってゴッキゲン、パァぁ♪〜とイイ気分の白龍は、本当に久しぶりに訪れる富士の裾野の湖に狂喜する。
お気に入りの美しい水質抜群の水中での泳ぎをスイスイ、思うがままに楽しみ始めるのだ。
クリーチャーの龍は言うまでも無く水を司る神、本質的に山奥の綺麗な河川や湖、池が大好きなのである。
黒龍は白龍と違って何故か「海洋が好き」
「あんな塩分のある水 何処が良いのかしらね〜?」
「べたべたするしねーーーーーッッッ?」
白龍担当飼育員は挙ってフンッっっと、上から目線でバカにして鼻を鳴らす。
それを洩れ聞いた黒龍担当飼育員は、やっぱり斜め上から見下しせせら笑う。
「あぁらイヤだぁ、うちの黒龍ちゃんは雄大な場所が好きなのよ?」
「河だなんて何所もちょっと潜ったら直ぐジャリジャリの川底じゃ無い?
合理的ではないし、アーーつまんないわーーーっっっ!!」
「うちの子は、ネオアメリカ軍最新鋭の原潜よりも、ずーっと深く潜れるし?」
「それに何より文字だって読めて賢いからジャパン政府の行う海底資源探査に。
『環境への負荷をかけないから』って、協力要請来てるの知らないのかしらね?
遊泳スピードもこちとらぶっちぎりよ?!」
……念の為だが
白龍の飼育員と、黒龍の飼育員は、「城」創設以来、伝統的に仲が悪い。
理由はわからないが……?
「龍の騎手」はたった1人〜城主だけであることが遠因と言えなくもない。
「両雄並び立たず」と言ったところだ。
白龍の飛翔は、言葉に表現出来ないほど極めて美しい。
鱗は透き通って、滑らかな首筋以外、全身全て戦闘用に研磨したものである。
ジャパンの某研究機関で製造されたこの国純正の最高難度技術、特殊強化ダイヤモンドだが、普通のものではない。
「ダイヤより硬質なダイヤ」と言わしめる超高硬度ナノ多結晶ダイヤモンド製である。
微粒子をより一層特殊技術で結合、強度を上げた多結晶体なので、単結晶のダイヤの持つ致命的な弱点である ”劈開性”。
衝撃を加えられると、一方方向に割れるという癖も一切ないのが利点である。
飛翔時はキラキラ虹色に光り輝いてそれはもう見事。
だから偶々訓練姿を目撃した、地元にお住まいの御婆様が思わず手を合わせて
「おおおお、ありがたや、ありがたや、富士の湖の龍神様の降臨だ』仰られた程
誰もが眩しすぎる、ダイヤモンド独特の、強烈な光の屈折による光線での直撃。
一般的な遮光グラスでは到底遮れず視力をやられ、有視界での射撃の狙いが定まらないと言われている。
白龍の尾の先に植わった鱗と同じ素材の沢山の棘は、一撃必殺のもと、ありとあらゆる物体の破壊を可能とする。
最新型宇宙戦闘艦の超合金製の装甲を、いとも簡単にまるで薄紙を破る様に突き破る為、例えほんの少しの接触でも機体がバラバラになる様に設計されている。
意外だがステルス機能についてはこちらの龍、白龍も可能である。
ダイヤモンドは油に親和性が極めて強いからである。
さて今日は幸い、観光客の姿が綺麗に1人もいなかった
近隣の市町村で何年かに一度の「天下の奇祭」が今週執り行われると言う事をここ数日、大々的にマスコミがどの局もこぞって盛大にアナウンスをしていた
「確か〜〜〜……今日がその祭り『初日』だと言う事だったわね」
富士を訪れた全員の観光客の人々が、おそらく其方に吸い寄せられるように流れたのだろう。
きっと、気持ちの良い時間帯は心ゆくまで天下一品の珍しい祭を楽しまれている
城主は、だから白龍の好きに、自由にさせた。
世にも美しい活動する白龍の姿を、城主は持参した愛用の携帯式ホログラム用〜記録映像機器媒体に丁寧に録画してゆく。
白龍は口腔の鋭い牙の隙間から シュッ!と湖水を強く吹き出した。
透き通った水が弧を描き、大きな滑らかな放物線を作り出す。
見事な清水の橋をキラキラ、幾筋も空中に飛散
シュッ… シュッツッ シュッッツッーーッ!!
澄み切った水の帯は、まるで水芸の如く、連続し鮮やかに湖を彩るのだ
”技が決まった”ーーーー時は、特に最高!!
それはそれは清らかで比べるものぞなき美しい情景を、大自然の中に浮かび上がらせるのだ。
白龍の特殊ダイヤモンドの、「この世で最も美しい」と飼育員達が自慢げに話す透き通った光の塊と言える鱗が何度も霧の飛沫を受け、虹色に乱反射。
そして水流による眩く強い光の反射が、うららかな陽光にくっきりと艶やかに7色の二重の虹を造りだす。
爽やかな、ほどよい天候で微風が肌にとても気持ちがいい。
まるで生まれ変わった様な、楽しげな様子の白龍を遠目で見て城主はほっと一安心する。
ーーーこれで大丈夫よね!
湖水と戯れ、光と水との華麗な円舞の共演。
こうして心からリラックス、白龍の遊びに無心に興ずる様子を見れば、怖いお歴々も安堵……
安心し満足、きっと心癒やされるに違いない。
がさがさがさ……
岸に設置された木製ベンチに座り、プンスカプンの信繁が用意してくれたお弁当を開いた。
「うわぁ〜美味しそう!!」
それは彼女の大好物の ジューシーな稲荷寿司弁当ーーー!
他は緑茶と小さな海藻サラダと、地元特産「白桃のゼリー」
それから、ちょっとした個包装のオヤツ菓子〜
「黒い稲妻」という1口で食べられるチョコ菓子と、口当たりの良いビスケット菓子「汁粉さんど」もコロンと1パックずつ入っていた。
「ホントにマメよねぇ」
何にせよ軽い甘みとチョコは嬉しい……!
「いただきます!!」
そっと手を合わせての食前の祈り〜古来よりの儀式をしてから昼食をいただく。
「信繁は矢っ張り気が利くわ!!」
外の開放的な昼食は、当然素晴らしく美味。
爽やかな風……!
美味しいお弁当に、目の前の美しい景色。
元気な相棒の姿……
全てが完璧に満ち足りている
ーーーージーーーンと何だか胸がいっぱいだ。
感動的な昼食が終わるとーーーーー
来るときに着込んでいた、上空防寒対策のロングコートの大型ポケットから取り出した、一冊の古い分厚い布張りの本を開く。
はっきりと思考の整理がつかない時や、徒然な漠然とした考え事をする時、昔から白龍とよくここに来ていた。
ーーーーしばらく希望の場所を開いて読む。
直射日光が当たらず爽やかな場所。
気持ちよくうつらうつらしていると、人っ子1人いない湖水に斜めに陽の光が差し込み、太陽が西に、やや傾きかけてきたのがわかる。
彼女はそっと本を閉じた。
清浄な空気が身体にやや冷えて感じる頃、遊び疲れた白龍は満足げに、城主の手から、お気に入り好物の「遠足おやつ」〜
魚肉ソーセージと 鯛で造った最高級竹輪を、それぞれ何袋分かを目を細めて美味しそうにパクパクとお腹に納める。
城主も「黒い稲妻」と「汁粉さんど」をもぐもぐといただく。
「ん〜〜〜〜美味しい〜〜♡」
蕩ける甘味が本当に、心を隅々まで癒してフンワリ生き返った気がした。
城主は漸く、ウィンストンとの難しい話し合いの道筋が見えてきたのだった。




