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大親友ウィンストン ② 虐待


「あれは中等部最後の年ーーーだったと思うから15歳くらいの出来事じゃなかったか?」


医療人工皮膚テープで何とか本人的には隠そうとしていたが、1度ウィンストンは口元をパンパンに腫らして登校した時の事を思い出す。


見た瞬間 ーーー『幽霊みたいだ』と仰け反った。


ジャパンに伝わる個性的アニメーション、確かソレに出てきたキャラクターだった。


昔々コッソリ見つけた、父の兄〜

今は「城」に追放されたヘルヴィム伯父の残した、超貴重な宝物ーーーー!


人は死すと漏れなく一旦霊魂がそうなるらしいと知る。


それから善行次第で「天国地獄」とシステム的に振り分けられるのだ。


全く別の、同じくお宝2次元アニメーションのお話でも確か?そう語っていた。


概念で、ひゅーどろどろどろーーー……

恨めしやぁ……

がお約束とのこと。


本当に、あの朝の時はギョッとしたのである。

 

「うわぁ本物が現れた〜〜〜〜!」


学園で尻餅着いて腰を抜かしそうになったのは今でも覚えている。


『そうだーーーー

確かにあれは中等部最後の年、15歳の時の出来事だ』


恐怖から気分が立ち直り、医療人工皮膚テープで隠そうとしていたパンパンに腫らした口元を無理に晒しあげる。


「見せてみろよ!!」


「嫌だ!」


「馬鹿っっ 何言ってんだよ!!」

 

小さなゴリゴリの押し問答の末、嫌がるのを無視して手を伸ばし一気にザッとテープをはがすと、そこには幽霊よりも悠に恐ろしい恐怖のーーー


今迄見たことが無い異様な紫色の痣があって「ひぃぃ」仰天した。


「ぎゃっっ!!」


思わず王太子としてはお品が悪くクリストファーはつい言ってしまった


「痛いーーー」


「ぁ〜〜こういう時は ジワジワ剥がすより良いかなっと思ってさ?

 でもゴメン」


顔がジンジンし、もはや赤目ーーーー


白ウサギちゃんソックリのウルウル涙目、美しい親友のそれは哀れな姿、気の毒過ぎる、踏んだり蹴ったりの親友に彼は丁寧に謝罪をした。


「それ誰?

ーーーー御父上にーーーだろ?」


口元を彼の耳たぶに寄せ、クリストファーはボソボソ小声で囁く。


「〜ーー…………ーー……ーー」


「……もういいよ そんなに悩まなくても」


どうしようもなく、その様子を見てフーー〜っと大きく溜息をついた。



状況は『いつも』と全く同じ、どんなに体と精神が最悪に酷い状態でも彼が口を割ることは絶対に無かった。


有名な家名の家柄のしかも嫡子である若様に、手を出す輩がいるはずが無い。



”居るとしたら”ーーーー

何をしたって処罰されない相手である。


明らかに……彼の身内の暴力。


絶対に誰にやられたって言わなかったが、平時の父親に対するビクつく畏怖は常軌を逸していた。


つまり友人の目の奥を覗き込めば、犯人なんかすぐにわかったのである。


「殴ったのアイツなんだろ?!

こんなになるまで殴るなんて、とんでもないだろ!」


あくまで名前を出さず、泣きながら訴えた


ーーー誰が聞いているか解らない


よってあえて名前と父親というワードは言わなかったが、それで友人に充分通じたはずだと手応えを感じていた。



「何処かで体を休めよう、医務室の先生と顔なじみだから一々理由を詳しく言わずに寝かせてもらえるんだ。


だいいち君 熱っぽいじゃないかっ!

何かあるといけないから 今すぐそこにいこう!!」



「……おまえはいいなあ。

全ての人に愛されてーーーー」


「〜〜〜〜!!」


眩しい様な顔で言われ、流石にカッと頭に血が上る。


……オィィ… 一体全体何言ってるんだよ!!!!

いい加減 怒るぞコラァ〜〜!




クリストファーは王太子特権で有無を言わさず、カリキュラム全終了の授業後。


学園から王宮へ、王太子専用〜彼を迎えにきた直通電脳リムジンに、今だに体調不良である大切な友人を引っ張り込んだ。


いつもと同じ、可も無く不可も無く。

如何にも普通な生活態度が大人が満足安心することを知っていた。


この時ほどクリストファーは、大袈裟でやたら滅多等目立つ、無駄に大きな戦車みたいな装甲の特殊車を有り難いと思った事は無かった。


心情としては「矢でも鉄砲でもドントコイ!」


自身の王宮のプライベート空間に着くまで、広々とした革製リクライニングシートに、心身ともにズタズタに傷ついた親友を体をのびのび伸ばし寝かせた。


「……」


「ごめん」


「ばーか」


見るからに酷くだるそうで、口数も少なくて。

強引な様に突っ込むことはおろか、軽く明るくふざける事すら最早しない。


『これは本当にマズイかも知れない……!』


本当に様子がおかしい。

ーーーー生きた心地がしなかった


彼の体は限界なんだと、異常過ぎる危機的状況なのは子どもでも感じた。


どうする?

サァどうする?


ーーーそうだ……いくら何でも。


あの外面の良い滅茶苦茶な暴力親父も王族のプライベート空間までやって来て”返せもどせ”ーーー


心の折れきっている息子を連れ出しには来ないだろう


『そう……いい考えがある!』そこでぴかっと閃いた


取りあえず今晩はこうしよう!!


「悪戯をしすぎで成績が下がったからと反省しました、もうしません。


学年1秀才のウィンストンに勉強を教えてもらいたいと懇願して今王宮に来ていただいています」


如何にもな、もっともらしい理由をつけ彼の実家のお屋敷から外泊許可をとる。

 

「こうで無ければ認められない筈」の、体裁を整えチャンとした滅多に出来ない宿泊許可を取り付けた。



「〜〜〜さあこれで大義名分が出来た

 やったぜ!!

だって……悪いのは秀才のウィンストンではなく、ろくでなしの僕なのだ!」


とにかくウィンストンを帰宅させ、これ以上傷つく体をいじめるような孤独で、1人ぼっちにしておくのは心情的にどうしても出来なかった。



義を見て為ざるは勇無きなりってね!

 

「居ないよな?」


「〜何やってるんですか? クリス様?」


「うんちょっと……えへ〜……厨房に行くんだ!」


「そうですか〜侍従長様でしたら御母堂様の所です。

では今夜はお疲れで 

『もうお休みした』と、彼らに伝えておきますね?」


「いいの?!」


「どうやらご一緒のご友人も『そのよう』で……? 

以上で差配は宜しいですね?」


「有り難う!!」

 

思わず顔をピカッと耀かす。

幼い頃から王太子のガードを専任で勤めている、優しく賢い顔見知りの衛兵にお礼を言った。


勝手知ったるなんとやら。

その後こっそり目を盗み、厨房にスルッと忍び込んだ。


従業員専用の裏口の通路からひょっこり入ると、たちまちどうしたどうしたと周囲から声を掛けられた。

 

「おやぁまあ〜!」

「今晩はーーーッッ!」

 

クスッと照れ笑いをしつつぐいぐい進み、顔なじみの話のわかる責任者の男性〜


つまり大好きな料理長に、今ここに来た事情をザックリ……ごく掻い摘まんで短く話した。

 

というのも彼は口が堅く絶対的に信用出来る、数少ない大人だとクリストファーは信じていた。


『きっとさり気なく、僕達の味方になってくれるだろうっ!』


ーーーそれに彼は、気難しい性分の侍従長とも何故か阿吽の呼吸。

という訳で料理長を味方につければこう言う場合、とりあえず他は何とかなる気がしていた。





「……なる程ねぇ〜」


「お願い助けて!」


クリストファーの予想した通り、大の子ども好きの彼はプリプリ怒りまくる。


「ふてえ野郎だ!!これ持ってけ、若様」


そう言うなり丈夫な密閉袋と、この袋一杯にカクテル用に細かく砕いた粒氷を快くジャラジャラキンキンと入れてくれた。

 

作りたての、機械で削ったのではない繊細な氷。

今夜のパーティーに大切に使うはずだった品だったから驚いた。


「いいの?!」

「んなのまた作ればいいさぁ」


冷えた凍える冷蔵室にて大切な、料理人の命の手を冷やしてアイスピックで一生懸命造った料理長に心から申し訳なく思った


……だけども

彼しか出来ない、こんな柔らかにフワフワ泡雪の様に砕いた氷でも、直接患部を冷やしたら痛そうに思える。

 

今朝からの酷い様子では、女子が騒ぐ、清楚で端正な彼の顔に今からしようとする事は、かえって逆効果

ーーー何か嫌なダメージが出そうで不安を覚える。

 

確かに〜そういう事はちょっと避けたい気もした。

 

……〜困り果て、丁寧に理由を言って「なる程そりゃ心配だねぇ」


ウムウム頷く料理長から小型の密閉袋及び、キッチンにある高級ディッシュ用の薄地の消毒済みリネンも分けて貰った。

 

「ごめんなさい」


「?!……はっはっはっ〜 若様、ちぃっさい事気にするねぃ!」


しょぼくれる姿に、大胆な料理長はガッシリした体を揺すり豪快に笑った。

 

クリストファーにとって、彼はずっと父親に次ぐ憧れの人物である。


ーーーー病弱ですぐに熱を出すひ弱すぎる肉体の自分。


対する料理長は子ども好きで優しく、どんな王宮の大がかりなパーティーも快刀乱麻、命令一下ーーー……!!


巧にキビキビ、大勢有能なシェフ達を指揮する格好いい豪傑であった。


彼がテーブルに送り出す、センスがいい目にも美しい、舌が蕩けそうな美味しい料理の数々は本当に何を食べてもクラクラするほど超美味しい。


しかし

「仕事以外、皆の手を煩わすのは苦手でサァ……!」


自分はレタス丸ごとむしって、何かを挟んでサッサと食べる事と。


炊きたてライスに新鮮エッグを割り入れ、有機ソイソースをシュパッとかけて、ぱっぱとムシャムシャ食べるのが大のお気に入り!


料理長の様な心が優しく強く豪気な男性になりたいといつも心から思っていた。


クリストファーが友人のピンチをしのぐ為、思い描いた品々を携えてプライベートゾーンにある自らの寝室に戻ると、ぽつねんと、うつろな表情で親友は待っていた。


〜と言うよりもぼんやり中空を見つめ、壊れた人形の如くダラリと床に直に座っていた。


絨毯敷きとはいえ冷えた硬い人工大理石の床に腰を下ろし、ペタンと脚を大きく投げ出し、ベットの木枠にグッタリと上体をもたせかけ、瞳には全く何も映ってない様子に心を痛くする。


『見ているこっちが参りそうだよ……!』思わず溜息をつく。

 

『体調悪そう〜じゃなくって実際最悪なんだから!


せめて備え付けの、温かな電動ソファーに堂々伸びていればいいのに!!


馬鹿!大切な体が冷えるだろうよ!

何でお前はいつも変に気を遣うんだよ!』

 

むっっかーーーーっっっ

様子を見て更にモリモリ無性に滅茶苦茶腹が立って、よくわからない、どこから来るか知れない怒りに目眩がした。


「ねぇっ!」


「……」


「ウィンストンッッ!」


目の前に座っても名前を呼んでも何も反応をせず、瞬きすら何の動きもしない。

 

そのまま見つめていると、急に頭がガクンと落ちた。


俯き加減で黒い絹糸みたいなサラサラの髪がバサリと顔に被さっている為、眠っているのか起きているのかーーー


それすらも……覗き込んでもさっぱりわからない。


仕方なく、大袋に詰めた氷を小分けにしたものを1握り、柔らかな薄いリネンに包む。


ポロポロポロ…氷の粒が床に零れた。

まるで彼の落とした涙みたいだと思った


そのままそっと、口元の痣に当てるとピクリと動いた


「あ、ごめん」


「ーー……」


「いきなり冷たくてビックリして痛かったよなあ~、ゴメンね?」


「……」


「でも今は冷やした方が良いから〜熱を取らないと……」



するとウィンストンは、のろのろ顔を上げた。


自分の目の前にいるクリストファーを穴が開きそうな程、黒いドロッとよどんだ深緑の潤んだ瞳でじいっと見つめる。

 

そのままーーーー……肩をふるわせて嗚咽し出す。


『何かというとメソメソピイピイ泣きじゃくる自分に対し。

常に爽やかで知的で冷静、今まで1度だって彼は感情の爆発を見せたことは無かったよなぁ……』

 

そう言えば、この数日ーーー

彼は学園を休んでいた(らしい)


実はクリストファー自身 体調不良でやはり休んでいた為

「え?」ーーー

学園の友人に聞いて知ってビックリ驚いた


他のクラスメイトにも、さり気なく惚けたふりで聞くと「家業の勉強の為」というもっともらしい理由だったのを思い出す。


『絶対に嘘だよ!そんなの隠蔽工作に決まってるしっっ!』


ワナワナ怒りに体が震える。


とにかくこの数日間の間に、我慢強い彼の心を打ち砕く強烈な事件があった事は確定だった。



氷を詰めた小さなリネンを、もう一度そろそろと当てると、いきなり抱きつかれたから、ゆっくりと細やかに震える友人の背中に左腕を回した。


激しい嗚咽が、直接互いに抱き締めた体に伝わって来る。


そのままにして、小さなコドモにするようにヨシヨシしてみる。


「殴ったり叩いたり蹴ったり、僕はおまえにしないからさ?」


「ーーーー」


そのままクリストファーは、彼の体の震えが落ち着くまで何度も何度も背中をさすった



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