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第2章 大親友ウィンストン ①

……クリストファーが覚醒したのは「真っ白な部屋」

ゆるゆると意識を取り戻した


『どこだここ?……』


部屋中真っ白のカラーリングに統一された正体不明な場所。

ーーー温度湿度の管理されているクリーンな空気が満ちた清潔な部屋。


そんな室内、中央設置、床からフワリと浮き上がる無重力ベットの上に丁寧に寝かされ、ススと砂や泥で汚れた衣類は全て取り除かれ、上下別れた2部式デザインである純白で軽量、なんとも言えず着心地の良い介護服を着用。


様々な医療用チューブと電極シールが体にはられたはいたものの、いきなりで収容者にパニック的嫌悪感を与えない配慮なのだろうか?


さりげなく視界に始終入らない目立たぬ場所に置かれた医療用機器、及びノート型心電図計が微かな電子音をたてていた。

 


『助かったんだ……』

ホッとする余り、張り詰めていた緊張感がほぐれたのか?

再び夢の中に、意識が泥のようにゆるゆると何所までも沈んでゆく。


『ーーーでも僕だけが……』


半覚醒状態ーーー

ぼんやり記憶がクリストファーの頭を掠めて甦る。


悪夢以上の厳しい現実。



……でもあいつがあそこまでするとはなあーー……


宇宙巡洋艦での襲撃は本当の事だったのかーーー


……どうか悪夢であって欲しい。


クリストファーは現実から逃避したかった。


例え現実がそうであっても、何か必ず事情があるに違いないとも思うのも確かなことだった。


最高の頭脳でーーーいつも先回りして考えて

……考えすぎ…て


いつだって、いらぬ苦労ばっかりしている様に見える親友、ウィンストン。


自身が幼い頃から心配で心配で仕方が無かった。



しかし彼はーーー

親友の、常に何か言いたげな困惑の眼差しを成人してからは無意味な意地を張って無視、いい年して大人げなく、わざと見て見ぬふりを決めこんでいた自覚があった。


取り返しがつかない後ろめたいモヤモヤ引き摺る気持ち


「そうだーーー”事件”の切っ掛けを作ったのは僕だ」


『何故なら優しい彼に嫌われている事を認めるのが、どうにも辛かったから』


体ばっかり大きな、臆病な自分勝手な子どもだったと苦しい。


そんなこんなをボンヤリ考える。


もっとーーー……もっと話し合うべきだった。


もう 言葉は彼に届かないのだろうか?


いつの間にかーーーあいつが……

自分に背を向け始めているのに薄々は気がついていた。


ーーーでも……王太子という立場と重大な職務と、自分の気持ちを処理するのに精一杯だったのだ。


罪と罰


最愛の妻と、最高の友人とーーーー!

最悪の形で


同時に両方全て失ってしまったのだ〜と目頭が熱くなる。



ウィンストンが悪いんでは無い

悪いのは絶対に僕だ!!


今回の事は思慮の浅い愚かな自らが招いた、自業自得の結果だ


あんなに熱く大切にしていた気持ちが、こんな無残な週末を迎えようとは……!


ーーーこれっぽっちも、あの輝く日々……


向こう見ずだった15歳の頃は想像すらしていなかった


再びスーーーッとクリストファーの意識が遠くなる。


瞼が重い、まるで鉛のようだ。


でも懐かしいなぁ、この香り、えーーっと……なんだっけ?


うーーん?

そうだ!! この香りは〜確か〜……


……〜 ラベンダーだッ!


間違いない!!


どれ位の永い間、この豊かな優しい香気を嗅いでいなかったか?



そういえば、アイツは「あれ以後」

ラベンダーの香り系を愛用していたのに突然思い当たる。



『全く〜全然気が付かなかったよ?』

どうして解らなかったのか……


様々な気持ちが

後悔が


甘やかな思い出が


残酷な記憶が



彼の脳裏に泡のように浮かんでは消え、消えては浮かび、精神を責め上げ胸を苦しくさせてゆく。


オイデオイデとゆっくり手招きするーーーー


暗闇の中にトロトロと落ちこむ蠱惑的な甘い毒に似た眠りの中……


ひょっとしたらこの部屋にふんわりと優しく漂う『よい香り』の芳香の中


密やかに

ーーー睡眠導入剤が含まれているのかも知れない……な?……

ぼんやり霞む意識の中で感じ取る。


トロトロの甘やかな香り、そして心臓を突き刺す苦い後悔が引き金になったのか


 

白い白い無重力ベットの清潔で安心する手触りのよい純白のシーツに包まれ……


自分しか知らない心の最も深い最奥にしまっていた、懐かしいがどこかヒリヒリする甘酸っぱく切ない優しいひとときの、過去の自分達の子どもの頃の夢を見た



ーーーーーーーーー……

 

ーーーー……


 

……

 

……ゼウス星系にある惑星デメテル


デメテルは、恒星ゼウスを巡る気象変動の激しい多くの惑星中、最も環境が穏やかで地質学的に調査した結果、地下資源も豊富。


数少ない人間が居住可能と言われる豊かな星である。


クリストファー王太子達の住む、デメテルを回る最大にして最古のコロニー

コロニー都市、Dー01(ディー・ゼロワン)


周回の立地上、首都機能を持つDー01

他の……数多くの小さなコロニー群を他に従えている。


クリストファー王太子はその環境で産まれ育ち、幼き日、大勢の大人達に囲まれて十重二十重に大切に守られ、かしずかれて過ごしていた。


だからこそ、ただ1度のあの”奇跡の期間”、ジャパンへの留学は特別だった。


今回の襲撃事件のリーダー、最新式武器及びボディアーマーにて完全武装した襲撃犯、背のスラリ高い王太子にとって大切な親友「ウィンストン」は留学を共に果たした仲間であった。


「いやーーーー

もうお前なんか友でも何でも無い!と、きっと……向こうはそう思っている事だろうなぁ」



クリストファーはそれでも未だに未練たっぷりの自分が辛かった。


心がーーー痛い


ウィンストンはコロニー生粋の超名家出身。


偉大な大政治家が父君の彼はクリストファー王太子にとって、許婚であるキャサリンと同様、一体いつからだなんて単純に区切りなんかつけられない人物。


兎に角、記憶に無い位の幼い子どもの頃からの、一目見てから直ぐに意気投合した大親友、そんなのは「彼」しかいなかったのだ。


ウィンストンは学園のどの女生徒よりも美しいと評判の端正に整った白い顔の少年で、艶々サラサラの、ホログラムコマーシャルモデル以上の上質な黒髪を持ち、キラキラ理知的に情熱的に煌めくグリーンアイズがチャームポイント。


そんな彼が何かに夢中な時の、凜とした格好良さったら格別だったと回想する。


「誰だってあの顔を見たら友人になりたいと願うだろう」

 

ーーーーしかも極めつけは性格すら良かった事。

補佐するスタッフの皆にも、公平で平等で良い主人だったと傍目にも思うのだ。


「悪戯ばかりでハラハラ困らせる自分とは全く格が違う……!」


明らかに生まれながらに人を引きつける求心力を備えており、嫌らしく媚びを売る様子なぞ見られないのにも関わらず、常にクラスメイトや先生に明るく賑やかに囲まれていたのを遠い記憶に思い出す。


特に女生徒からの人気は圧倒的だった。


頭脳明晰

学園開設以来の神童と言われたーーー秀才。

 

ゆうゆうと学年1位どころか、記録的な最優秀な成績をいつだって涼しい顔で取得。


彼が静かに何か言うと説得力抜群、皆自然に耳を傾けた。

 

長老格のお堅い先生方ですら、進んで彼の意見を聞きたがった。


かといって、ひけらかしはしなかった。

 

 

代々ーーーー宰相職、それどころか国の中枢の大臣職を多数出す家柄


家族全員もれなく凄い聡明、しかも洩れなく美男美女!!


弟ウィンストンを頼りにする賢い姉君の美貌と、お人形みたいなカワイイ二人のとびきりの妹達。

 

王太子クリストファーですら、端で見ていても羨ましくなる程の幸福な姉弟、兄妹関係だった。


家族お揃いの映像なんぞ、何処のホログラム・ムービースターがD-01に大挙来訪したかと勘違いする程!

全員飛び抜けたルックスで一応は見慣れた振りをするが、毎度腰が抜けそうになる。



しかし〜……

「しかし」であった


クリストファー王太子は知っていた。

親友の家には誰にも言えない仄暗い、途轍もない「秘密」があったのだ



確かに外側から見ると、一見華やかで社交的だが「家訓」


内々の規則とかに関してはとにかく石の如く厳格な事から、おそらくは由来するのだろうが、特に国の宰相である父親が、傍で見ていて最悪と思う程に嫌な暴力的で陰湿な性格を隠し持つことである。


あそこまで行くと、言い切ってしまえば「異常者」なのだろう


労りの心が無く、どこか人として「おかしかった」


ーーーーサディズムの信奉者


合理的である事を異様な程に何よりも第一義として尊ぶ、冷徹で外面ばかりが1番に大切な血も涙もないエゴイスト


二重人格どころか度を超す異常過ぎる、表向きは気高い教育熱心な人物だった。


王家に仕える口やかましい、礼儀作法と部下の教育に厳しいことで名を轟かす侍従長も余裕で負けるとクリストファーは確信していた。


ーーー別にこれについては錯覚では無い。


なんと侍従長本人自身が陰で「ヤレヤレ〜あの古狸は!」と、コッソリある時顔をしかめてブツブツこぼしたから間違いないと感じている。


つまりウィンストンの父親は社会的に活躍する大人の目から見ても「そういう評価」を得ている、誰もが思わず引く程の強烈に筋金入りの硬派なのである。

 

「自分があそこまで厳しくされたら酷い嘘つきに成長するか、反抗的になるか王宮から逃げ出すに決まっているし?」


「探さないで下さい」ーーーー


電子ホログラムメッセージを残し、絶対スタコラサッサと脱走すると賭けてもいいと思うのだ。


高い王宮の壁を忍者の様によじ登って、何処か宇宙の片隅で世捨て人になる方がずっとまし!!


そんな風に子ども時代よりクリストファーは確信していた。

 

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