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救出

クリストファーを乗せ、上空から落下する緊急用脱出シャトルは独楽のように高速で旋回飛行しながらまるで吸い込まれる様に広大なグリーンの絨毯ーーーーー


眼下をビッシリ覆い尽くすMt.Fujiの森へと。


銀河でも有名な、山岳信仰でも気高い霊山である富士山、美しい単独峰の雄大な裾野に広がる樹海に真っ直ぐに凄まじいスピードで潜り込んでゆく。


ガゥンーー……!!


ーーーー途轍もない衝撃


堪らず意識が飛び目の前が真っ暗、意識が暗転する






ーーーーーーーーー……


ーーーーー……


「ここは一体どこだ?」


左右どちらを見渡しても、どこもかしこもうっそうと深い木々ばかりだ。


それでいてほんのり薄明るい。


「これだったら紫外線の影響を肉体が受けずに済むかも知れないな」


クリストファーは自嘲気味に乾いた笑いを浮かべる。


ーーーーまだ運が良かったとでもいうのだろうか?


 

ブスブスと白い煙を上げるシャトルのカプセルから漸く脱出すると、体中の関節が一斉に痛いと悲鳴を上げる。


ーーーというか足が満足に立たない。


仕方なくその場にへたり込むと、暫くボーーーッと思案にふけった。


鬱陶しく汗と涙で額にかかる 長めの銀色の髪を振り払い考え込む。


僕の菫色の何でも眩しいと我が儘を言う両目ーーー

 

『これならば安心だ』彼はホッと息をついた



ジャパンにキャシーと共に訪れた「本当の理由」


実はハネムーン旅行とは別に、とある人物に極秘裏に会う為でもあった。



この国の「城」〜

特殊収容施設にはかつて王太子だった伯父が収監されているのだ。


父の兄君の”罪状”は「父王殺害」


施設の正式名称はわからない

極秘収容施設

銀河有数、究極の監獄……!


通称『城』


シローーー……

隠語で呼ばれている特殊建造物に収監されている為、細かい詳細や位置情報も決して自分には教えてもらえなかった。


ただ~……お時間のある際Mt.Fujiの樹海まで、誰にもわからない様に来いという

 

『目立たぬ様にいらっしゃれば、こちらはわかる』と。


但し所在地〜正確な座標については

「国王様でない以上お知らせする事は出来ません」


~お父上様が存命である以上、王太子様である貴方様は知らなくても良いことですよ……



何とも失礼千万!!


無礼な「それ」が施設側からの責任者、城主

~シロヌシからのクリストファー王太子への正式回答だった


ーーー舐められている

疲れ果てた痛む体に沸々と怒りが満ち、更なる悔しさに涙が零れる



その時だった。

疲れ果て虚ろな心でぼんやりと思索にふけっていると、後ろからガサリ、突然薄気味の悪い音がしたのは!!


『コロニー都市D-01の聖地、惑星デメテルには肉食の植物が数多く居るというけれども、この星はどうだろう?』


クリストファー王太子はブルブルと恐れおののいた



「!!……熊~クマだ!きっとそうだ!!」


大型の肉食の獣が食害〜年間何人もの人々を生きたまま食らうと……!!


コロニーで地球自然科学研究の第一人者という有名教授に聞いて、思わずガタガタ震え上がってしまった、熊の生態に関する話を急に思い出した。


「彼らは嗅覚が優れており、一度狙った獲物は逃さないのです。

全速力で走った場合、案外にスピードが出て、人などあっという間に追いつかれてしまいますから御用心を。

あとは狩猟が趙下手なので、結果トドメを刺せずにやむなく獲物を生きたまま食べるのですよ。

食べ残しは穴を掘って、雑に突っ込んでおく習性があります

取り返す、と『横取りされた』と執念深く必ず追ってきますからね、お気を付けを!」

 

クリストファーは慌てて立とうとするが、益々脚に力が入らず、血が逆流し心臓が早鐘の様にドクドク言うのを感じる。


最後の力を振り絞る様に這いずり、何とか下半身に力を込め強引に体を反転すると、わずかな木漏れ日でボゥッと薄明るい木々の間



ーーーーー……ソレはいた。




頭から踝近くまでとどく、鈍い沈んだ光を反射する真っ黒なコート


同じ素材に見える細身のブーツ。


顔は口元までフードの下に隠れているので全く見えない。


ただ白磁のような白い肌と、左右対称ふっくらと形の良い口元だけが覗くのみ。



思わず喉の奥がぐううと鳴るのだが、引きつったように恐怖で舌が石の様に動かない。


こやつは一体どこから現れたのか?


思えば……!!

移動用の乗り物の重々しい動力の重低音なぞついぞ聞いていない。


この森に棲む禍々しい死霊や、物の怪のたぐいなのだろうか?


 

その不気味な物の怪は彼にむかい、突然流暢に話し始めた。


唇から紡ぎ出される言語は美しい滑らかな発音の連邦英語である。


「コロニーDー01から来日されました、クリストファー王太子様であらせられますね?」

 

?!……

思わず隙を突かれた感があった


それもその筈

まだうんと若い……!

 

しかも決して野太い男の声では無かった事に驚いたのだ


しかもどう聞いても明らかに、高い波長をもつ未だ未だ子どもの声色、やっとティーンエイジャーに差し掛かる世代特有の独特の澄んだ声だった。


おまけに「少女の声」


……信じられない!!

こんな閉じられた、もの悲しい場所に居る筈が無い


ーーーやはり妖怪の仕業だと覚悟を決めた


「初めまして」


やはり聞き違えじゃ無いスッと流暢な連邦英語


「お会い出来まして嬉しく思います」


「……」


そう言いながら如何にもサラリと躊躇いなくフードを取った人物の顔を見て、彼は今度こそ目玉がコロコロ何処かに落ちて転がって行ってしまいそうに錯覚を思えた。


やはり声で想像の通りの年齢ーーーー!


掌で余裕で隠れてしまいそうな人形のように整う小さな顔はどうみても10代半ば、しいて言えば精々プラス1〜2年にしか思えない。



クッキリとした切れ長の二重の瞼、縁を取り囲む、ゆらりと悩ましげに揺れるたっぷりした量の長い睫毛。


コロニー都市Dー01で珍重され高額で取引される、高価な地球産の最高級黒真珠よりも更に艶のある瞳が見つめている。


高揚した薔薇色の頬

ぷるると形良く動く柔らかそうな綺麗な唇

 

微かに覗く……白玉の歯


ーーーー本当に小さな顔


すんなりと長い手足


つまり極めて美しいのだ……どこもかしこも。


重厚なグローブを嵌めているからわからないが、きっと防具に隠された指さえも美しいのだろう。


すぅーーーっと接近、音もなく側による姿を見て確信に変わる。


これほどの東洋系黒髪の美少女を地球以外でも、今まで何処でも見た事が無かったと。



それが「城」

〜シロと呼ばれ凶悪犯ばかりを収容したと内々で語られている分厚い極秘ベールの彼方の監獄を統べる最高責任者。


特殊収容施設・所長ーーーーー



城主との最初の奇跡の出会いだった




城主はスタスタとそのまま躊躇いも無くクリストファーに近づくと、やおらグイッと右手をつかんで立ち上がらせ、ふいっと滑らかな動きで身をかがめる。


そうしてボロボロの着衣をまとう彼の疲れ切った身体の可動域、骨折や怪我が無いかのチェックを手際よく行うのだ。


「……ふぅん大丈夫のようですね」


言うなり右手のグローブをスルリと脱ぎ、大きなポケットの中の、何か輝く短い銀色の物体を、白く長い細い指で取り出すのが見えた。

 

キュッと形の良い唇に咥え迷いなく頬を膨らます



「ピイイイッッ〜〜……」



ーーー鋭く吹く

或いは大きく……細く……長くーー……


『笛だ!』


ジロジロ怪訝そうな視線を感じたのか?彼女はさも当たり前のように疑問に答えた。


「このあたりは特に磁場や次元が不安定なので、我々はシンプルであり確実な方法を採用しています」


ピイイイー…… 

ピイイイー…… 


ピイイイー………

 

すると木々の合間からーーーー

遠く様々な別々の方向らしき所から次々と、清涼な空気を振るわせ同じ様な高音の反応が帰って来る。


1つ、2つ……

少女はあえて指を折って正確に確認を取っている様だ。




「城主!」


その時突如、彼女と殆ど同じ格好の、今度は見上げるほど長身の正体不明の男がガサリと深い藪をかき分け現れた。



『!!

ーーーーこの男もどこから現れたのだ?』

 

まるで足音〜

イイヤ誓っていいが今の今まで気配すら全くしなかった



「では今から帰還します」



最後にもう一度、鋭い笛の音……

短音長音の複雑なミックスで合図を彼女はどこかへ送る


 

「クリストファー王太子様……

大変申し訳ございませんが場所が極秘の為、少々の我慢を」



ーーーはっと気がつくと、彼の後ろにさっき出現した男がいつの間にやら幽鬼のように立っている。


その上でガッチリ凄い力でもって、万力の如くに易々と逃げられぬ様に腕と両肩を押さえているのだ。



さっきもだが今度も、ぬっと推定2m近く上背のある逞しいこの正体不明の大男の気配に何故なのか、すぐ後ろにつかれるまで全く気がつかなかった。


『どういう事だ?』

心の底からワナワナと震える。


どんなに振り解こうとしても、捕まってぴくりとも身動きが取れない

バタバタ必死に藻掻いたが蟷螂の斧、全て無駄な努力に終わった。



城主がゆらり更に接近、異様に整った貌がいきなり近い。


 

笛を取り出したポケットとは別の場所からカチャカチャと……振り、透明吸い込み用樹脂マスクがついたスプレー缶を武器みたく取り出す。



迷いも無く……

怯えて震えながら目を見開く王太子の口にピタリと押しつけると一気にノズルを深く押す。


瞬間シュ~っと甘い香りのガスが噴射されーーー




その後の森での記憶は無い。



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