キャサリン王太子妃殿下の行方について
城主が、そんなヨンについての意見交換、信繁との会話後のことだった。
「いらっしゃるんでしょ?あの方がーーー…?」
「ーーーええ」
城主の問いかけに……
宇宙巡洋艦を襲って墜落させた暴漢達のリーダー、長身の美しい黒髪の男ウィンストンは、不可思議な透明感のあるうっすらとした微笑みを浮かべる。
「????」
ーーー何をこの男は隠しているというの?!
城主は制圧後、宇宙戦闘艦艦内における居住が最も良いとみられる格式ある最上級クラスの客室をホログラムマップで探した。
「どうやら此処ね」
後は現場を守る戦闘ドローンの排除だ。
コックピットのどこぞにそれらを一括でコントロールする制御盤は有るはずだ。
そんなこんなの必要事項は、ウィンストンを締め上げ全て直接聞き出した。
「信繁 忙しい所悪いんだけれど、今から私についてきて」
「ーーーー了解、後はもう大丈夫ですから。
バックアップに俺の所の班員は、いかがしますか?」
「じゃぁ 一応お願いね。
これから向かう行き先では、現場を守る人間はいないと言う事だけど……
彼の吐く、でまかせの嘘かも知れない。
罠ーーー少数でも『待ち伏せ』られたら目も当てられないわ!」
「そりゃそうです、オーイ子龍!」
「ホイ来た、俺様の出番だな〜〜〜♪」
城主は自分の腰のホルダーに携帯した、エネルギー銃のパワー残量を確認、勧めに従い 念の為〜
信繁が率いる子龍を含む班員全員を招集、とある場所に向けて同伴する。
彼等と共にーーー……
艦内マップで確認した、広大な目的ゾーンに潜入。
「行くわよ!?」
縦型チューブ移動装置の扉が開く前に、「あらかじめ危険が無いか?」
雅が素早く生体反応確認装置作動、またトラップ式爆弾や、小型地雷がどこぞに密やかに埋め込まれていないかも抜け目なくチェックする。
綿密に扉前の全ての環境状態を調査し終え、全ての安全確認後、ここでようやくシュッと扉を全開、サササッとフロア内部に全員散開し降り立つ。
動力とプログラムを遮断され、静止した戦闘ドローンが何基も居た。
一応、ウィンストンは約束は守ったらしいと推察される。
『ーーーーにしても、ねぇ、これは……』
城主は呆れて眩暈がした。
「!!なんだこれーーーーー!!」
「全く いかれてるな」
「なんじゃコレ、高級ホテルかよ……」
「ジャパンのドビンボーな国防の人間が見たら頭沸騰、キーッと発狂もんだな」
「チッ、これだから特権階級者は……!」
ザワザワブツブツ悪態を吐き、ぼやきまくる部下達に、城主は「もっともだ」と大きな溜息をつく。
「確かに戦闘艦内にこれは凄いわね……!
でも彼等にとっては、これ位の居住レベルなんか極々日常風景なんでしょうね」
「ーーーー馬鹿なんじゃ無いの?!」
「ケッ……!」と、それに続く正に「立板に水」の悪口雑言。
信繁班の中でも最も口の悪い子龍がキレッキレのツッコミを吐きまくりすぎて、とうとう班長である信繁にボコッと喝を入れられるのが目の端に入った。
ブースは本当に、目に入る全ての物体がゴージャスの極みで手が混んでおり華やか、信じられないほど豪華絢爛の内装である。
ーーーーとても戦闘艦内部と思えない。
見るからにその国の特権階級が暮らす王族専用〜
フロア全てが貴賓室風の「特別階」というしつらえの、設計者の気が触れたかの物凄いフロアだった。
天井の金箔張ーーー
どこまでも続く、曲線を活かすアラベスク模様の植物を模した精密な飾り彫り。
おそらくは地球産マホガニー製の、重厚な木材専用ワックスが幾重にも塗り込められた腰板張りの艶めく廊下。
チリチリと……
虹の光を乱反射させる、煌めく精緻な本物のクリスタルガラス製シャンデリア。
廊下のあちこちに設置、床に固定の、最高級ブロケードが惜しみなく用いられた、触ると指が蕩けそうな揃いの絹張りの長椅子の数々。
とにかく何もかも調度品と室内装飾の贅沢さが桁外れで違うのだ。
どこに目を配っても至る所、最高級な素材、備品ばかり。
「ーーーーーー!」
「……??」
ハンドサインで信繁から巧にサインが送られる。
信繁班メンバーは、涼しやかな高原の動画が流された飾り窓枠に掛かる、デザインがロココ調の重々しいダマスク織りカーテン前ーーー
ドラマティックな内装装備の施された、他とは明らかに差別化された別次元の空間を、彼等は音を立てず散開。
ーーーリーダーの指示にて油断無く目配りをしつつ、俊敏に進行してゆく。
最奥に位置する、金製の紋章が埋め込まれた大袈裟な装飾が下品一歩手前、スイートルームの装飾ドア前に辿り着く。
雅はマイクロ波レーダー照射装置パットを貼り付けるとキュッと眉を顰め、内部における安全確認を素早く行う。
「大丈夫です、信繁さん」
「よし」
ウィンストンより聞き出した暗証番号を、壁の小さな解錠装置に入力、一気に扉を開け放つ。
バァンンッ!!
ーーーー強い消毒液の臭いがした。
〜むせるような特徴的な花の香り。
季節外れのミモザの花の香り
『やっぱりねぇーーー』
城主は自分の予想が見事に的中したことを知り、目を閉じ深い溜息をついた。
彼女も正直、これだけは予想が外れて欲しかったと心から思ったのだ。
〜室内に突入の全員が、ほぼ入り口で棒の様に固まったまま動かない。
ーーーというか、動けなかった。
しとやかで、繊細な庭園の景観を描いた華やかな風景画が幾枚も上品に飾られている絹張りの壁。
パステル調の色味のブロケードが張られた猫足長椅子。
奥まった場所の、決して使われない飾りの為の暖炉。
座り心地のよさげな優美な、長椅子と同じデザインに揃えられた優美な2脚の椅子が配置されている。
壁際の 背の高い黒檀の花台には補助器具で固定された、高価で珍しい口径の大きな異国風白磁の壺。
ーーー壺の縁まで、輝く金色の
何故なのか、ギッシリと香り高いミモザの花がいけられていた。
部屋には、「亡くなったはず」の キャサリン王太子妃が居た。
繊細なカッティングのシルクとレース製のドレスを身にまとい、無言で悲しげで不思議そうな表情を浮かべ、長椅子に浅く座りこちらをジィッと見つめている。
首筋には痛々しいギブス。
装具の様子を隠す為なのか、濃い色彩のスカーフが美々しく巻かれている。
しかしーーーー
濃い色彩の「訳」はもう1つあったのだ。
城主にはそれが何を意味するのか、永い経験で直ぐに察しがつく。
全くアイツ、なんてことを……!
「キャサリン王太子妃殿下様ですね?」
怒りのあまり目眩がしそうになりながらも、自身の声の震えを押し隠し何とか確認を取る。
すると明らかに「人工知能の電子音」で作られたとおぼしき、「プログラムの返答」が返ってくる。
信繁はあまりの痛ましさにとても正視できず、たまらず顔を伏せた。
ーーーーーさて
生者とはとてもいえない、サイボーグ化された「お妃様」の処遇を
「どうしようかーーー」
流石の百戦錬磨の城主も思案投げ首、コレには途方に暮れた……




