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襲撃者の男、ヨン ②


贅沢なしつらえの飛行艇で依頼主と共に到着した場所は、アッと目を見張る巨大な屋敷、ヨンは呆然、あっけにとられた。


コロニー都市で居住区画は設計システム上、ギチギチに刻まれていて狭いのだ。


なのにこんな風に広域の空間を存分に使い、庭などムダな極みとし庶民には高嶺の花であるのにこの家は果たしてどうだーーー!


屋敷の主の息子、若君は中空にフワフワ浮かぶ、目が飛び出るほど高価な特別注文のムービングチェアで、ヨンの目の前に極普通にあらわれた。


何とはなしに、随分物静かな雰囲気の少年だなぁとヨンは感じた。


聞けば幼き日、若君は乗馬で落馬、脊椎を痛め現在の姿だという。


ヨン自身もお世辞や無駄口を叩くのが格別に苦手故、最初の自分の名を名乗った時と軽い挨拶以後は、ずっと黙っていた。


「ふぅん君は随分静かなんだね」


「ーーーー(こっくり)」


「皆僕に変に話しかけたり、空々しい見え透いたおべっかを言うんだ。


僕、足のことで気を遣われるのは嫌いなんだ、本音を言うとね」


「……」


沈黙を守り、話をしっかり聞いてはいるものの、積極的には進んで答えないヨンに向け、当主一人息子である若君は染み入る様な純粋な微笑みを浮かべる。


「君信用出来そう。

ーーー僕と友達になってくれる?」


「……」


ヨンは小さく目線だけで頷いた。

 


こうして支援者の巨大な屋敷の一室でヨンは生涯初めての不思議な友達を得た。



ムービングチェアでの生活を送る彼の事は嫌いになれなかった。


繊細で真面目、ひとり静かに電脳書籍の読書をこよなく好む少年。


今まで全く出会ったことの無いタイプの、美しい飛び切り上流階級の男の子。



ヨンは時々は命じられ、彼をベッドからムービングチェアに軽々抱きかかえ下ろす作業など、相当気を使う重大な責任を伴う肉体的介助も行う様になった。


もっとも力持ちの武道で筋肉関節を柔らかに日々鍛えたヨンにすれば。


大人が「大変だ大変だ」と騒ぐ程は、軽く細い薄い体の若様の肉体的移動などなんの造作も無く、丁寧に彼が望む場所までお姫様抱っこでスラスラ運んだ。


若君も無口なヨンにだけは心を開いた



「ヨン、いつもすまないよ」


「ーーー(いえ)」



屋敷の勤め人にとって悪夢の落馬事故以来、若君は常にヒステリックで気難しく扱い辛いと、まるで腫れ物に触るかに敬遠ぎみだったのだが。



ヨンが来てから、明らかに雰囲気が明るく柔らかになったと大いに喜ばれた。



こうして無口な二人はいつの間にか気心の知れた深い友人、掛け替えのない無二の親友になった。


そんな二人の側で、華やかに花々が咲き誇る素晴らしい夢のような庭園を、ヨンの妹は木製イーゼルを立て、依頼通り丁寧に古典的画法の絵に描いてゆく。


静謐な細やかな宝石の輝きを放つ作品、描かれた見事な花々の絵画群は、王室発行格式ある電脳ガーデニング紙の表紙を幾度も飾った。



「お願いします!!」


「ぉお今日も良く来たな」


給料により、月々のレッスン費用を払うことが可能になったヨン。


”動画の少年”と同じ系列の、とうとう武道の末席に名を連ねることが出来るようになり、メキメキあっという間に頭角を表してゆく。



練習に次ぐ練習ーーーー

厳しい〜訓練。


いつか手合わせ〜対戦する日を心地よい疲労の中で夢見た。


向こうも学生時代は年齢や階級の縛りがある、しかし社会人になったらフリー

  

ーーーー全然オッケーだ。


勝負はそこだ。



さてヨンの夢を知った周囲は、大真面目な彼の「野望」をあざ笑った。


それも世間知らずで身の程知らずと軽蔑し、ゲラゲラ笑いに笑ったのだ。


「おいおい馬鹿だなぁ〜!!

『アイツ』がどんな猛者か知ってんのか?」


「幼年時よりそのジャンルで勝てる奴は居なかったって言う生きる伝説だぞ?」


「オマケに奴はーーージャパンっていうーーー


ニンジャが未だにウジャウジャいるって言う噂、アメイジングな国の、しかもとんでもない金持ち家の坊ちゃまだぜ?!」


「D-01の国家予算くらい、あっという間に稼ぎ出す大企業の、しかも創業家の若様なんだ。

まぁ、夢は夢、馬鹿みたいに見ず止めとけ止めとけっ!!」

 



ーーーーだったら尚の事


『自分は絶対に、決して負けるわけにはいかない』



ヨンの脳裏に自分達を毛嫌いし、実の娘の母を苦しめ自分達の存在そのものを否定した、鼻持ちならない富貴な人間達の醜悪な顔が浮かんだ。



プライドばかりの極悪非道なカネモチが許せなかった。



**************



ヨンは暇さえあれば「彼」の試合動画を研究し実践し


ーーーD−01に「彼有り!」


そう言われる程の、ひとかどの男として勇名を轟かせる。


そしてついにD−01名宰相嫡男、ウィンストンの身辺を警護する護衛官の地位にまで上り詰めた。

 

しかしなんと彼は、ヨンが毛嫌いするブルジョアーーーー


富貴な人間達と、”新しい雇い主”

ウィンストンはまるで様子が違った

 

『嘘だろ?』


信じられない程彼も又、心を許したムービングチェアの親友と同様「真面」だったのだ。


ヨンは出会えた自分の幸運に感謝する。



あの運命の動画に出会ってから、既に何年も経過していた。



兄の事をこよなく慕う美しき妹は、夭折した両親と同様、素晴らしい優秀な画家へと成長。

 

嬉しい事に、彼女の事も心から愛する、ヨンの無二の親友ーーー

知的で物静かな若君と結ばれた。




ヨンにこんなにも次々に、素晴らしい幸福が舞い込む事になったのだが〜


どうにも心は晴れなかった。



というのも、彼が人生をかけてあんなに渇望し切望した対戦相手。


文字通り運命を変えた「茶色の瞳の少年」


手合わせは結局、果たせぬまま未完に終わったからだった。



というのも”彼”はどうしてなのか、生国の大学、最高学府を卒業後、警察学校に入学。


望まれ、家業を継承する恵まれた将来をアッサリ袖にし公務員へ、国家警察の職業を選択した。


ヨンも事件の事は知っている。

立ち直ったと信じていた。


ーーーしかしこれはない。

 

「どう言う事なのか?」

 


しかしーーーやれうれし!!

見方を変えるとこれで堂々、社会人向けの本格的な競技会に出場する事だろう。


出会える機会が余計に増えたじゃ無いか!


思わず顔がにやけ心がウキウキ弾んだ




ーーーさぁそこまではよかったのだが


どうしたことか、そこからふっつりと足取りが途絶えたのだ。



手を尽くしどんなにか調べても、あれ程の男の行方はようとして解らなかった。


当然、競技会に参加は一切無くなった。



ヨンがどれ程無念で残念だったかーーーー!

 

悔しかったか

残念だったか


心の中にポッカリと埋められない喪失、大穴が空いた。



堂々とした体躯に成長した「悪たれの少年」ヨンは、ウィンストンの身辺の警護担当の鋭利で優秀な護衛官として、今回ジャパンでのD-01王家・王太子暗殺


ーーー極秘作戦遂行に同行



人気の無い樹海に潜伏中の彼等の艦が突如急襲、ありえない、謎めく武装集団に急襲された。



如何にも慣れた様子で手際よく、司令部に突入した襲撃者の斬り込み隊長役は恐ろしく背の高い男

 

目算でザッと2mはあるだろうか?


ニンジャのように付き従う配下も皆全員、スッポリ目出し帽を着用しているから顔立ちはわからない。


ヨンは乗り込んできた正体不明の男に、あっという間に風が如く間合いを詰められる。


すんでのところで、辛うじてカウンターで防御防戦した。


でなければ正拳を脾臓に打ち込まれ、蛙の如く惨めに床に沈められる寸前である


永年、骨の髄まで徹底的に身につけた動き、研究し尽くした結果の咄嗟の反応だった。


「……」


「〜〜〜〜!!」

 

トントントンーーー


相手の軽やかな重力を感じさせない優雅なステップ


蝶のように蜂のように


ニヤッ……不敵に相手が笑う



『お前けっこーやるじゃないか』キラリ明るい茶色の瞳が嗤う。




奴だ!!

夢に見たほどの「奴」だ!!



この動きは間違いない!!



ーーーーが、反撃は残念ながらそこまでで




ドスッッ!!



気がついたら首筋に、重い蹴りを鮮やかに食らっていた。



脳が揺れ、一瞬気が遠くなる


多分僅かな”隙”……!!


相手には充分過ぎる時間が、どこかに自分にあり、あっという間に拘束具付きの体をゴロリ床に転がされていたのだ


信じられない高速技!


がーーー……


何故かヨンの心は驚くほど穏やかに幸せに凪いでいた。




確かに惨めに瞬殺、制圧はされてしまったが、少年時代からあれ程渇望し、幾度も夢にまで見た相手との「奇跡の手合わせ」



ーーーーーそれが本当に叶ったのだから。







「聞いたわよ?……さっき


何だか凄い相手が あっちに居たそうね

あなたでも一瞬戸惑ったそうじゃない?

ーーー信繁?」




「はい、このまま収監は、実際どうなのかーー?と


メンタルとフィジカル、パフォーマンスの腕が落ちるのは、個人的には勿体ない気がします」


「ふぅん……考えとくわね。


でも人員補充、改めてそうなったら言い出しっぺの信繁が、指揮する班内にこの先欠員が出たら正式編入、ずっと『面倒』を見るのよ?


発信器は埋め込むけど〜ここから絶対に逃げ出さないようにね。


ーーーいいわね?」



「わかってます」

 


ヒソヒソと城主と信繁との間で、そんな密やかな取り決めが交わされた事を


まだーーーーヨンは知らない


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