襲撃者の男、ヨン ①
信繁が成敗した「芋虫」君達の中にこんな男がいた。
今回の作戦の中、テロリストであるウィンストンを警護する武闘派メンバーの中最若手の青年。
彼の身長180㎝台、髪は白に薄いイエローを混ぜた地球の北欧系の色味の短髪、鋭いアイスブルーの瞳。
「もしかして怒っているの?」
ボーッとしているだけで周囲よりおそれられ、畏怖でヒィッと怪しまれてしまうという無口で厳つい体躯のヨンである。
ヨンという名付けは両親が心より愛した、地球の夭折したカリスマ的幻想画家にちなむという。
ヨンは少年時代、コロニーD−01の養護施設で訳あって成長する。
ヨンの両親は各各コロニー内でそこそこ地位が上の良家出身者、家業は同じく貿易を生業にする一家であるのだが、お互い同業という関係で互いに反目、宿命の関係
ーーー激しく憎しみあう関係。
そんな雰囲気の家庭、一族間で奇跡が起きた。
彼等の掌中の珠、最も愛した子ども達が燃えるような恋に落ちたのだ。
「貴女は心の灯火だよ」
「お前無しでは生きてはいけないよ!」
そんな風に両親の溺愛を一身に受けて養育されていたのが逆に災いした。
禁じられた恋人達。
共に芸術を愛する感受性の鋭い優しい性格だった故に、意気投合すると身も世も無く夢中ーーーー
そうなれば、親達にとって、”かわいさ余って憎さ百倍”……!
「「この裏切り者!」」
烈火の如く怒り狂った親達の手で、とうとう屋敷に監禁、軟禁状態にされたが、真実に愛し合う2人は隙を見て手に手を取って駆け落ちを決行する。
「いつかあの人達も判ってくれるよ」
しかし運命の女神は意地悪で過酷だった。
父親は画業、スケッチ旅行に出掛けた際、乗船の飛行艇が墜落。
幼い幼児達と愛妻を残し、還らぬ人となってしまったのだ。
頼みの人を失い泣き崩れ、縋る者が居ない弱り切ったヨンの母親の元にある日忽然と弁護士がやって来る。
彼は彼女の両親から、”言付かった伝言”を、感情の無い冷たい無表情でこう言い放つ。
「お嬢様ーーー
『もうイイだろう帰ってこい。
ーーー但し、呪われた罪の子どもを捨てることが絶対条件』
以上が、ご両親のお望みだそうです」
「!!」
娘の不幸な境遇を聞きつけた”譲歩策”
耳を疑う非情な、ヨンの母の実家からの申し出だった。
彼女はきっぱり怒りと共に撥ね除けた。
「そんな事は出来ません、あの人との間に出来たこの子達は、何にも代えがたいわたくしの宝物です!」
母は強し、決心は固かった。
以後女手1つで、愛する人との忘れ形見、最愛の子ども達をどんな事をしても育てる事を決意した。
元々大切に何不自由なく育ったお嬢様暮らしだった美しい彼女は、不断の努力で子どもの頃から周囲より嘱望されていた「絵」を描いた。
生活苦と育児の中、天性の才能を大きく開花させる。
沢山の作品のモデルは天使の様に可愛い盛りの息子ヨン、そして彼女が貧しいながらもありったけの愛を注ぐ赤ん坊の娘だった。
彼等が存分に愛されいてる事が、誰の目にも一目ではっきりわかる素敵な優しい絵を沢山描いた。
男の子のヨンは、実際はジッとしているのは大変だったが、愛する大切な母のためにお行儀良く頑張った。
そしてとうとう彼の母親の絵は王宮主宰コンクールで最高賞を見事受賞、受賞作は国王の命により「御買い上げ」
画家としての最高の名誉、晴れがましき美術館収蔵作品の栄誉を授かる。
その後彼女は死に物狂いで激増した注文をさばくべく、夜寝る間もなくひたすら描いて描いて描き続けた。
油絵は大工仕事が多く、巨大専用布を木枠にピンと貼るのでもかなり力を要するし、しかも何もかも重いのだ。
急に増加した我が儘な注文主のオーダーに答えるべく大奮闘し続け、真面目な彼女はある日突然自宅でバッタリと倒れてしまった。
「お願いママを助けて!」
必死に救命救急センターへ、悲愴な舌っ足らずの声で震えながら救助要請コールを入電したのは、まだ充分幼い息子、ヨンだった。
漸く世に出る寸前だった子ども想いの善き母親。
残された2人の遺児の兄妹は「悪魔の子」「罪の子ども」と唾棄された。
「お前達のせいで、あの優しい美しい私達の宝物の娘は若くして死んだんだ!」
「なんでそれなのに、意地汚く生きてるんだ!!」
ーーー口汚く罵られた。
ヨンも妹も、両親の各実家から引き取りを完全拒否され、この世の行き場を失い養護施設に収容される。
彼は生きるためには絶対に強くなければならなかった。
彼を慕う天使、妹の為にも。
良い食料も保育士からの愛情も、全てライバルを排除〜蹴落とすことで手に入れてゆく。
妹は母親の美貌を丸ごと受け継ぎ、誰が見ても抜群に可愛らしかった。
社会的庇護者がいないのに、そんな”目立つルックス”は、美点どころかむしろ呪いでしかない。
容姿の見事なか弱い存在が無傷で、なんの保護もなく生き抜けるほど甘やかな環境では無くて。
兄としてーーーー
子どもながら必死に、悪どい拐かしや最低最悪の性暴力より妹を守って守って守り抜いた。
「お兄ちゃんごめんなさい、ごめんなさい私のせいで!」
「いいさ、何にも心配することないさ」
「俺の妹に手を出すな!!」
気がついたらーーーー自分1人になっていた。
「アイツには近づくな!」
「何されるか解らないぞっ!」
別に〜小さな手で、全力で懸命にたった1人の家族を守っていたに過ぎなかったのだが、周囲はそうは取らなかった。
「手のおえない乱暴者、嫌われ者」
ヨンは、いつしか悪しき存在に祭り上げられていた。
彼を変な暗い目で敬う取り巻きは居ない訳では無かったが、彼にそういうつもりはなかった。
その結果、自らをかえって後戻りの出来ない孤高の存在、袋小路へと追い込んでしまっていた。
そんなイメージが、彼を取り巻く小さな世界にすっかり定着する頃
ーーーヨンは衝撃を受けたのだ。
切っ掛けは偶然、妹が見つけて来た1本のホログラム動画だった。
某武道流派・幼年部、チャンピオンに輝いた少年の決勝戦の模様である。
審査員である大人をも唸らせるーーー速攻
見事すぎるフェイント、ヒラリ蝶の如くに軽やかに仕掛ける攻撃。
けれども動画の中で光輝く少年には、重苦しい重力が一切感じられない。
一体何が起こったのか??何度繰り返し見ても訳が解らない
素人目には意味不明なほど、手業が高速すぎるのだ。
ひらりひらりカウンターアタックでの”突き”、鮮やかに着実にポイントを稼ぎまくる勇姿の様。
ーーーーヨンは瞬きも忘れ見入り、言葉を失った。
動画はトーナメント方式で全勝、シード制や優先権がある試合ではなくブロックで双方勝ち上がって来た者同士の最終決戦の試合だった。
そしてとうとう最終局面、未成年子ども同士とはいえ仮にも決勝、双方強い。
ーーーにもかかわらず、どう見ても片方に華があった。
背の高い人なつっこい茶色の瞳の男子。
整った綺麗な顔立ちの少年の方、圧倒的実力の違いが素人目で見ても理解できる殆どワンサイドゲーム
圧倒的な、一方的試合だった。
「こいつスゲぇな……!!」
ぐぅっと息を止め見守る中、茶色の瞳の少年が目にも止まらず繰り出した上段回し蹴りが華麗に炸裂、対戦相手を仕留めた。
ーーーー試合の勝敗はあっけなく決する。
「お兄ちゃん!!この子って凄いよねっ!!
それも動きとかすっごい綺麗〜〜〜〜!!」
ワクワク妹が声を上ずらせるのも〜むべなるかな、事実、何もかもの所作の動きが美しく鮮烈。
ーーーとても自分と同じくらいの年の子とは思えない。
「これ〜いつぐらいの映像?」
「うん……
でもそんなに昔のじゃ無くって、お兄よりも実年齢はちょっと上みたいってだけだよ。
撮影時の映像では見た目、今の私達と同じくらいだけど」
「そっかーーーじゃぁ習ったら、うまいこと手合わせ出来るんだ?
もっともっともーーっーーーと強くなったら、彼と同じ『競技会』で」
「うん!そうなるかも♪
応援してるっ〜〜〜〜!!
強いお兄だったらきっと勝てるよ!
でもって観覧席からあんな風に応援するんだもーん♡」
兄と妹は顔を見合わせて、幸せそうに目を輝かせて微笑んだ。
目指すものーーーー共通の希望
兄妹、生きる目標が出来たのだ。
ヨンはその日から「変わった」
ただの「喧嘩屋」から自分も、会場を声限りにこんなにも爆発するほど湧かせ、魂を燃やさせ声を上ずらせる程感動させる、絶対的存在になりたい。
映像〜ホログラム内での彼は本当に別格。
ゾクゾク神がかるほど「特別」
ヨンは会派を調べて貧しい中、入門を夢みる。
世に露出されている様々な「彼の動画」をつぶさに研究、独学で技を吸収した。
妹はそんな兄の姿を毎日、安い録画装置での動画撮影以外も紙と鉛筆で得意の絵に大きく起こしスケッチしてゆく。
これは後で何所が悪いか、或いは良いかの比較検証、体幹や技の研究材料にするためである。
タブレット等は高価すぎて手に入らなかったから、最も合理的な手段であった。
容姿がひときわ美しい妹の絵の才能は早熟で大人達の目を自然に引く事になる。
線自体に独特の膨らみと動きが有り滑らかで、最も低価格の紙に描かれた作品なのにもかかわらず、今にも平面から飛び出してきそうで凄かった。
画面で勢い良く動き出しそうで、本当に生命を持ち生きているかの如くで
「お前、母さまの血を引いていて、やっぱり上手だな!」
「〜〜〜そんなことないよ」
「いいやお前は才能も含め、生前の母さまソックリだよ!」
今は亡き愛する母親の画力が、妹に萌芽が丸ごと遺伝していたのがヨンには唯々嬉しく誇らしく、鼻が高かった。
『惜しい
このまま埋もれさせるのは絶対に惜しいーーー』
施設長は慎ましく生きる彼の妹にタブレット等、電脳絵画用備品を貸し出した。
彼も又、彼女の描く生き生きとした素晴らしい世界ーーー
良き理解者、熱烈なファンになり、心底才能の燦めきに惚れ込んだからだ。
これによりやっと様々なコンクールやコンテストに登録出来る権利を得、メキメキと入賞しだす様になる。
とうとうチャンスのーーー
運命の可能性の門戸が大きく開いたのだ。
「彼女を引き取りたい」
ヨンの妹について、そんなこんなの申し出が急激に増加した。
しかし兄に心酔する、優しく容姿の優れたヨンの妹は
「最愛の兄と一緒で無ければ私は絶対にイヤです」
そう言った趣旨の内容でいつも丁寧に断り、愛人にする気満々、下心メラメラの嫌らしい大人達をその度にチッと残念がらせた。
しかし唯1人、いやに頑強に粘る支援者候補がいた。
「ではパトロンとしてヨン、君達に援助をさせてくれたまえ」
「タダほど高い物はないので結構です」
「では君達二人にキチンとした仕事を私が与えるのはどうかね?」
「??」
「実は家にはね、君と同じ年齢の息子が居るのだよ。
ずっと病気でーーー
繊細な子だから彼にしっかりした強い友人が欲しくてね?
で、妹さんには我が屋敷の自慢の、ガーデニングを思う存分絵にして欲しい。
客人に大いに自慢する為に家に飾りたいのだよ」
「ーーーーー」
粘り強い、謎めいた支援者は優しく渋面のヨンに微笑んだ。
ヨンは『話がうますぎやしないか?』
かなり胡散臭く感じたが、妹の為にも、申し出を一応は検討することにした。




