タダ程高いものはない
「『親父さん』〜達は”今回”ーーー貴女に何か言って来ませんでしたか?」
信繁は城主に『一応の』確認を取る。
『まーーーー言うに決まってるしなぁ……!
あの変態暇人ごうつくばり達が、堂々見返りを求めない筈ないしなー』と、彼は思わず身構える。
信繁の言う所の「親父さん」というのは、城主の本物の父親でもなんでもないし、ましてや親類縁者ですらない。
これは、ある特定の収監者達を指し示す「隠語」である。
後はーーー「お母さん」「女将さん」「姐さん」というものもある。
別に、”女将さん”はともかく、こちらも実の親でも親戚達でもないが比喩的に、そういう言い方で、収監者の中の「情報提供者」の事をいつの間にかそう呼んでいたのである。
元々ここの収監者は全員、ある種の天才、犯罪マイスターばかりである。
彼等はとにかくやる事がなく暇すぎるのか好奇心旺盛なのか?
はたまた『自分はマダマダいける』というーーー
政治的 経済的力量を知らしめ、並み居る銀河中に知れ渡る猛者の中で存在を表し、傲然と覇者としての自己主張、承認欲求がしたいのか〜?
ともかくも常人には全然よくわからない衝動と理由にて。「隙あらば」。
城を統べる美しき最高権限を持つ所長「城主」にチョッカイ〜……というか。
職員として傍迷惑なイッチョカミ、ワラワラ波状攻撃で仕掛けてきているのだ。
確かに〜城で実力者と認識されると言う事は、銀河で隠然とーーーー
現在ですら絶大な勢力を持つ「闇のフィクサー」
「アイツはとうとう神になった」と畏怖されてもむべなるかな、ではあるのもまた事実。
……そう
元々、大体がここの施設に入った時点で「ぉいっ、凄いぞアイツ!!」
「アイツすげー!!」のお墨付きを、公的にドーーン、キングの中のキングという称号トロフィーを正々堂々、貰ったようなものだと言えなくもないのだ。
余程でなければ送られやしない狂乱の場所(と言う世間での噂)。
しかも完璧に「暗殺」は防御される。
食事は「城」がジャパンだから当然三食美味いし、しかも栄養計算もバッチリで健康的、すっかりスリムになった。
毎日地の利を生かした温泉三昧。
収監の部屋は生真面目な清潔好き潔癖な民族の特性でピカピカ、塵一つない。
多少変な空間で気分が悪いが、子どもの頃のアミューズメントパークを連想させまぁ楽しいとも言える。
考えようによっては彼等にとって実に美味しい話だ。
そうだ、少しぐらい彼らの恩義に報いても?!どうせ無期懲役、暇なんだしな。
”噂”では〜
「何でも良いから益になる情報拾ってこい!!」
「誰のおかげでソッチでデカい顔が出来ると思ってんだよ〜ぁあん?!」
という鬼指令ーーー
ローラー作戦が、外部
”表の世界”に残してきた彼らの腹心の手下達に有るとか無いとか?
「裏社会」
暗躍する多種多様の非合法組織内では、まことしやかに語られていた程である。
よって大抵がガゼとかインチキ情報ではなく、実際途轍もなく「素早い」「貴重な情報」ゆえに、自由奔放な彼等の行為はそこそこ黙認されていた。
元々、城は成り立ちからして、まともじゃ無い、イカレテ普通じゃない、この世の究極の監獄。
例えばーーーーー
ベッドに入っても全然寝ない、手強い子どもをピロートークで脅しつけるに格好の場所。
恐怖の、「特殊収容施設」なのだ(一応……)
「一体全体どっちが『主』なんだよ!」
信繁に、よく口の悪い自信家のバディ〜子龍が強烈な突っ込みを入れていた程。
恐る恐るの信繁の問いかけにーーーー
「あぁーー……」
急に突然 城主は何気なく見上げた。
奇妙に無防備などこか気の抜けた貌。
不意打ちーーー!
思わずどんな男でもドキッとするような、小さく微かな微笑は優しく、あらがえないほど魅力的な眼差し。
「・・・・・・・・どうなんです今回?」
ーーー大きな動揺を、何とか平坦な声色と周囲を取り巻く暗闇で誤魔化す。
「今回の襲撃について。
親父さん達、女将さん姐さん達に問い合わせをしてみましたら、各国の最大級シンジゲートや集団、名前が知られるマズマスの大手や組織に依頼は無かったそうです。
”あったとしたら”、もっとーーーー!
自分達が絶対に手の出せないハイレベル上位組織が、今回の事を綿密に計画。
立案実行した犯行だと、全員一致で意見が合いました。
その場合はーーー
クリストファー王太子殿下が押さえられなかった時点で ”マニュアル通り”
速やかに手を引くのがセオリーだろうとも、彼らの常識ではと言っていました。
”行う襲撃は精々2度”だーーーって、ね。」
「ーーーそれってどんな『組織』だよ。
〜あのおっさん、マダム達〜
あんな世界最高度の厳重な警備の中、よくぞ易々情報収集出来るものですね?
毎度毎度、全く感動ものですよ?」
「まぁね、そう言う煮ても焼いても食えない人物だからこそ、母国で手に負えず匙を投げられたんでしょうね。
『何とかしてくれ!』
『必要経費は全額〜いやそれ以上支払うから!!』
ーーーと毎度毎度、ホ〜〜〜ント好き勝手な無茶ぶりを言うワガママな国王や各国首脳にメソメソ泣きつかれて。
〜やむなく、あの天才達はうちの房に収監されているんです」
「そんで…今回は交換条件で 何をーーー?
……『提示』されたんです???」
「あらなんで?」
「またー…… ”やばい”んですか?」
信繁が 言いにくそうに口ごもりながら、おずおず心配そうに言った。
そう……世の中ーーータダほど高い物は無い。
提供される情報の「見返り」〜
情報料として、多少の「娯楽的特権」要求が加味されていた。
これが又毎回、全部が全部、城主個人が行うささやかな労働だった。
しかし、喧嘩以外は極めて潔癖なタチの信繁がウワーーーッッと叫びだしそうな
ーーートンデモ労働案件。
ワザワザ聞いたのは頭を抱えそうな前例が、山のようにあるからなのだ。
それも一々が「まともじゃ無い」
中々に渋い、ユニークで、各自が知恵を絞りアイディアを凝らした、実に個性的な依頼ばかりだ。
「ええ……っと……確かねぇ……紺地の浴衣姿で対面で麻雀、残りメンツ2名は人工知能搭載のアンドロイドでって。
〜それと深紅のスリット入りドレス着用で、ダイヤモンドの櫛で髪をアップにまとめてドレスアップし、タンゴのパートナーを1時間つとめる。
他はーーー
日本と呼ばれた頃の、古〜〜〜い古〜〜〜い古典ロマンス小説の朗読一冊分。
作者はーーー何とかって言ったかしらね?
『鬼』がペンネームについたような、確か”そんな感じ”のーー作家先生の名前は言いましたっけ?
『千』とかなんとか?の漢数字がつく和風ネーミングの方とドッチがいいか?と聞かれたので。
ここに因むと言うことで鬼の方、変わった独創的なペンネームの方にしました」
「ーーーーーーーー」
「後は、ケチャップでハート&LOVEを描いた、お手製オムライスを食べさせる
ああ、そうそう!
浴衣やダイヤモンド造りの櫛、深紅のドレス、電子書籍と調理の材料は、全て先方で前もって用意して下さるそうです、全くお優しいですよね!!」
~城主はサラサラと無関心そのものの調子で信繁に答える。
心底「どうでも良い」……と言わんばかりの気持ちが透けて見える声色である。
「……! 〜〜〜〜〜っっ、もう約束しちゃったんですか?!」
「ええ、なんで?」
信繁はクラーッと目眩がし、声がハイトーンで完全に裏返る。
『ぉい、その両作家先生って〜!
ジャパン文学史上屈指、最狂の、超有名官能作家先生でしょうがっ!」
それに食べさせるって食べさせるって〜〜っっっ
親父さん、増長しすぎだっつーーーんだよ!!
タンゴの”スリット入りドレス”って〜〜〜〜!!
スリットが……!
どれだけ厳しい位置までスパァーーーッと大胆に入ってるかわかってるのかぁ!
しかもーーー深紅ッ!!
何考えてるんだこの人ーーー?!』
ーーいや……!
セクハラとかきっと何も考えておらず〜 お気楽にOKしたんだろうなーーー
思わずひっくり返りそうな声を押さえつけて、動揺をギュウギュウ押し隠し〜
何とか次なる質問を続けた。
『とにかく怒ってはいけない怒ってはいけない〜 冷静に冷静に!!』
「全部危ないものばかりじゃあないですかっ!!
俺 代わりに……
皆に頭を下げ断ってきましょうか??」
……言ったところでどーせ無駄だとは思ったが、それでも取りあえず言ってみる事にする。
もしかしたら聞き入れてくれるかも知れない、と信繁は淡い期待を胸に抱く。
「?なんで?、どれも全然大したことじゃないし??
??……っっ……どうしたの?
なんか声がワナワナ震えて怒ってるみたいだけど?」
「……怒ってはいませんよ?
ぇえ…俺は全然怒ってはいません気のせいです。
ーー全て勘違いです。
ちょっと驚いただけです」
「ふーーーーん… 信繁でも驚くこと有るのねぇ?
ビックリしちゃった」
城主は不思議そうに コクンと小首をかたむける。
「〜〜〜〜〜!!」
「〜収監が長いので、何方も御自身の孫娘と私と、頭の中でごちゃごちゃに混同しているんでしょう」
城主は、またもやまるで興味なさそうに答える。
「・・・・・・・・・・・・・・」
〜〜いやそれ多分違うし?!
恐らく違うし?!
絶対絶対絶対! 大間違いだしっっ?!
信繁は心の中でダラダラと冷や汗をかいたが、何とか持ち前の強い驚異の自制心でグッと〜
ーーーーグググッと
突っ込むのをやめた。
何であれ程度胸もあって賢いのに
ーーーー仕事以外のそこんとこの感覚が、どうしてこうも毎回鈍いんだろうか?
……この滅茶苦茶な人は。
何だか見てるといつも、親父さん達にいいように騙されてるし?
ーーーしかし
”紺地の浴衣姿”
〜〜これだけは自分も一度見てみたい気もする
まあ自分も彼らと余りかわらないか?
「隠し撮り」された各種ホログラム映像が、全館にあっという間に出回るのも
今回もーーー!
すでに時間の問題だと信繁は確信した。




