信繁の密かな想い
城主と信繁は今後に展開する作戦の打ち合わせに入る。
「子龍達別働隊は既にスタンバイ完了です」
「では 本当の腕の見せ所は今からですね。
ーーー知ってますよ?
黒龍と飛行艇と連れ違う度に、粘着性マイクロ発信器を特殊銃で撃ち込みぺたぺた壁面へ取り付けていたでしょ?
あれのお陰ですね?
ここまで素早くーーーアジトが、奴らの居場所特定が可能だったのは……!」
「信繁、何の為に危険を冒してまで出動したと思ってるの?
今回は本当に危険な任務でしたからね?
全くーーー冗談じゃないわ!!」
変に明るくふざけて言う信繁に、彼女は横目でフンと苦虫を噛み潰した表情を浮かべながら答えた。
「でも機密、手の内はバレてないんでしょうね?
城、次元の入り口とか?」
「当たり前です!!
城の所在地、万が一政府機関に逮捕された時、取り調べ時にぺらぺら漏らされたら困りますからね!!
うちの事が杓子定規な融通の利かない警察での記録に残ろうもんなんぞ〜!
全く、言語道断の、城始まって以来の失態です!!」
城主のムッとした顔。
「そんじゃあ いっちょッーー彼方さんにもご挨拶、事情徴収行きますか? 」
「・・・・・・・・・・・・」
「させてくれれば、ですが? 」
ニヤッと信繁は不敵に笑う。
「何言ってるの信繁」
城主は ゆっくりと彼の方に体の向きをかえる
ーーーーー雰囲気がまるで別人に変わる
「城の存続が脅かされている以上、強制介入はやむなしといった状況です。
ーーー王太子様のお家騒動に差し出がましく、何光年も離れた部外者の我々がしゃしゃり出る筋合いも道義も全くありません。
無駄な不幸が出るだけです。
しかしーーーこうなれば状況が違います、自衛の為、致し方ありません」
信繁は彼女ーーー城主の、こういう場合に見せる様子
自らの決断に迷いの無い、隙が無く、強く下から真っ直ぐに自分を見つめる黒い瞳にゾクゾクするのだ。
彼女の細身の全身からビリビリ見えない凄まじい放電……気の塊が放出される。
信じられない程、強烈なオーラが迸るのを感じ取る。
じりじりっとーーーーー圧倒される。
気圧され。つい〜ボーッと見とれそうになるのだ、
ーーー毎度思わず息を吞む
ぶぁっと、ゾクゾク鳥肌が立つのを感じた。
と同時に胸が高鳴る。
クリストファーは信繁本人に、”見せてもらった時”
ブレスレットにあしらわれている、ブラックダイヤモンドの丸玉の事を
「あの女性の方の瞳みたいですね!」 無邪気に揶揄していた。
ーーーーそれは間違いだ。
大いなる誤解だ、本物は小粒な宝玉の輝きなぞ軽く凌駕する。
信繁はぶるりと武者震いをした
「我々はジャパンを陰から守護する闇の者です。
最初から〜それは全員が納得して職務に就いています。
ですからーーー誰も犯すことが出来ない超法規的権限を与えられ…!
国防や警察では絶対に認められていない『強力な力』を持ち得るのです。
彼等は我々の不可侵の領域に踏み込みすぎたのです。
それを全員の身をもって償って貰いましょう。
この国は八百万の神々が存在するカオスーーーー
それがどういうことなのか?…
あの方々は全くわかっていなかったようですね」
突然ビョウゥーーと暗い闇に強い海風が吹いた。
フワァッッと、漆黒の長い翼のように
城主のーーー
ヘッドの高い場所で1つに固く結わえた黒髪が、音も無く伸びやかに広がった。
背後には燦然と散らばる銀や青や朱の輝く星々の光
全ての光の中心に信繁がリーダーと仰ぐ魔物、この世ならぬ美しき魔女がいた。
ーーー闇よりも黒々と鈍く艶めく絹糸の髪。
雪よりも白い、最高級磁器に似た 悩ましい透き通る白い肌。
皮肉を囁くーーー
花よりも可憐にふっくらと甘く誘う唇の艶めかしさ。
何もかも見通す、黒真珠に似ていると方々で讃えられる蠱惑的な瞳。
ヒヤリと輝く黒い瞳の奥に何が映っているのか……?
永く見つめると魂が抜かれてしまいそうな謎めく光
そうだ……!
自分と最初出会った時と、彼女は全く変わっていない。
「ちゃんと聞いていました?」
「勿論です。全部復唱しましょうか?」
「……だったら それには及びません。
貴方の記憶力はよく知っていますからね」
城主はキラキラとーーーー
黒く濡れた瞳に星々の光を吸い込ませながら妖しい魔的な微笑みをゆっくりと浮かべる。
フワリと信繁に迫る 強烈で圧倒的な輝きーーー……
そうだーーーー……!自分はこれが見たい。
比類無き求心力
どんな者もかなわない、絶対的強者の下で能力が認められ、自身の肉体のポテンシャル上限目一杯の実力を発揮したい。
この世の”究極”ーーーーを体感したい……
「?……どうかしましたか? 信繁」
「別に?」
ぁあそうだーーー……!
この輝きがある限り、彼女から自分は離れられない。
自分は魅せられてしまっている。
城主は年を取らない。
成長は即老化だ。
女性として容姿が劣化しないという下劣な意味合いでは無く”人間という生物、生き物としての”
ーーー肉体の成長が決して見られないのがいい。
それに気がついて随分立つ
だからいい。
今は亡き妹は「20歳まで生きられないでしょう」
妹を除く家族全員は医師にそう余命宣告……通告されていた。
「どうして!
今の高度医療技術でも駄目なんですか!?」
「大変お気の毒ですが……”彼女の場合”〜
感染症で併発する、様々な合併症の可能性が残念ながら予想されます。
こうして現在命を繋いでいるのも実は奇跡的な事なんですよ?」
「!?」
家族は絶対に本人に言わない事を誓い合った
よもやーーーまさか
”それ以下の年齢”で
しかも家族全員が同時にこの世を去るだなんて、信繁は想像だにしなかった。
生物の殆どは死から逃れられない
人間も長寿と言っても〜……100年と少しでこの世を去る。
が……彼女は絶対的なサイクルの外側にいるのだ。
だから自分は、何も気に病むこと無く安心してこのまま歳を重ね、自由に老いて戦って死んでいく事が出来るのだ。
大切な人の命が日に日にジリジリと、「時」という名の残酷で鋭利な刃物で僅かずつ確実に削られるのを感じる焦燥感
ーーーーあのどうにも出来ない、血の凍る哀しみを再び知らずに済む。
自分の命以上に大切な人の、この世の命の終わりを見届けなくても良いのだ。
ーーーーそれがどれだけの幸運か!!
この人は……
自分と出会った「最初の日」の事を記憶してるかすら実際怪しいところがある。
ーーーいいや
きっともう覚えてすらいないだろう。
俺は……
貴女に出会った瞬間から捕らわれていると言うのに……
何だかあまりにも不公平な気がする。
信繁はコッソリ小さく溜息をついた。
もし ”いつか”……
俺が死ぬ間際。
自分の為にこの人は泣いてくれるだろうか?
ーーーーーーいいや馬鹿馬鹿しい、泣く訳がない。
いつもの様にフンッと鼻先で笑い
「2度と生まれ変わってくるんじゃないわよ!?」
そんな風に無常にキッパリ言いそうだ。
ぁあ……まぁそんな終わりも小粋でいいじゃないか?
逆にそれでこそ彼女だ。
そんな事を信繁は心の中で呟く。




