素晴らしい特別の景色
「ぇっとーーー少し聞いていいですか?
あの火炎の柱は何だったんです?『竜巻』ですか?」
「いや違うなーーー〜ちょっと定義が違う」
まぁ龍が起こした回転なんだけどさ~〜と、クリストファーの質問に信繁は面白そうに返答をする。
「今日少し、積乱雲がでてたろ?
ほらモクモクしてる、あのばかでかい雲。
雲って言うのは海水温が高かったりーーーや、地上の水分が地熱や太陽光でぬくめられて出来たもの。
広義では、水蒸気がフワフワ空中に浮かぶ塵にくっついて、極小水滴や氷の粒になって浮遊してるもんなんだよ。
暖かい空気、上昇気流が舞い上がり、上空の冷えた空気が水分たっぷりの空気を冷却し
ーーー重たいからガクンと落ちてくる。
それらが強い風力で寄せ集まった塊、それが原理だ。
で〜今日の気象状況に加えて。
ここの地形は夕方に山や陸からの冷えてきた空気と、海からの温かい空気が激突し、大気の状態が不安定になり易くてね。
だからこそ、その時起こるぶつかり合う上昇気流で、富士の裾野の豊かで細やかな自然環境が保たれてるんだ。
そんな僅かな時間に起こる『ダウンバースト』ーーー!
下降気流っぽいところに高温の何千度もの火の塊が流れこんで来たらどうなる?
黒龍の火炎の最大最高温度は3000℃以上だ
激しい上昇気流が一気に生まれて突発的旋風ーーーガストネードが起こる」
はぁ~っと目を丸くして聞き入る彼に信繁は謝った。
「だからーーー
一発勝負のこの時間を狙う為、あんなに急いで、地の利の気流を逆手に取った戦術のせいで。
ーーー苦しむクリス様に、俺達は本当に無理をさせた。
作戦の為とは言え 非常に強引で悪かったと思う」
信繁は 最後に「済まない」ーーーそう付け加える。
『謝る必要なんて無いです』
クリストファーは心の中で思った
『だって貴方ととこんなーーー!
滅多にない空中戦の大冒険をする事が出来るなんて、一欠片も〜
ーーーー全然思いもよらなかったのだから』
彼は信繁とマドレーヌを食べた時の、楽しかった事を脳裏に思いだした。
”〜苦難を享受し銀河を旅する旅人”
自分の名前の由来をきちんと理解してくれ役割を指摘された時
一体ーーーーどれだけ嬉しかったか??
救いがもたらされたか?
この人は自分を深く理解してくれたーーー!!
嬉しかった、心が震える位、うきうき舞い上がった
本当に泣きたい程 感動したのだ。
ツーーーンと鼻の奥が痛くなる。
ーーー目が涙で霞む。
『~確かにジャパンに来て、悲しいことも辛いことも、本当に短時間で沢山ありすぎました。
ーーーが、それでもやっぱり私は来て良かったと心から思います。
きっとこれが私達の、D-01の人間の宿命だったと思います。
僕はこの体験を 生涯忘れないでしょう。
いいえーーー忘れることなんか出来ません。
皆さんが知恵を絞り、体を張り、無償で命懸けで守り抜いて助けて下さった僕の小さな『命』をーーー!
この先ずっと大切にする事をこの場に誓います。
この国難で生き残った僕は、故郷の皆の幸福の為に捧げていきます』
「ところでーー〜」
信繁が急にゴホンと咳払いした。
言いにくそうにーーーーボソッと言う。
「手が痛くなりませんか?」
「????」
視線と笑いながらの指摘で、ハッと手をぼんやり見て思わずギャッと言いたくなる。
「〜〜〜すみません!!」
「いえいえ」
カーーーーッ!!と みるみる頬が紅くなる
”水筒のカップ”
コップを今までギュッと握りしめていたのだ。
『信じられないっ!!』
クリストファーのアタフタする目一杯の動揺に、彼は楽しそうな笑みを浮かべる
「ではーーーもう1杯 ティーを如何ですか?
大切なお体 上空のせいで冷えたでしょう、何事も命あってこそ!です。
”命あってのモノ種”、ニンジャだってそうでしょ?」
「ーーーいただきます」
フフフと悪戯っぽく〜面白そうな目をした信繁が、手を伸ばし受け取った器の中に再度、コポコポ温かで香り高いミルクティーを注いでくれた。
ふーーーっと、口をつければ飲み物の、甘く柔らかな香りが心を癒やす。
堪らない。
体の隅々まで細胞が喜んでいる、そんな生き返る心地がした。
「!」
ふと見た機外には信じられない景色が広がっていた
スルガの海洋ーーーー七色の硝子
ーーー遠く遙か彼方まで広々キラキラと輝く水面
「うわぁーーー!!」
信繁はそんな様子の彼に柔らかな声をかける
「クリス様、そのまま振り向いて下さい。
これがジャパンでも有名な、シズオカ側からの富士山だ。
ーーーどうです?
シズオカとヤマナシが・・・・・・
未だに美しさにおいて一歩も譲らない奇跡の光景だ。
華麗なヤマナシ側の富士もたっぷり見たしーーー
コロニーDー01でそんなのクリス様ただ1人だろ?
ずっと、えばりん坊の大臣達に自慢できるぞ!」
信繁の言葉に従いヒョイと王太子が振り向くと、視界いっぱいに茜色の夕日に染まる霊峰富士の山が見えた。
「綺麗・・・・・・」
鮮烈で鮮やかな色彩は、スルガ湾の暮れなずむ海の色と穏やかに溶けて馴染み、魂が震え思わず言葉を飲み込む程の雄大な風景を作り出している。
クリストファーはこの日初めて、悲しい涙以外のあたたかい涙を白い頬にはらはらとどこまでも零した。
何てこの世は美しいんだろうか……!
2人が搭乗する小さなヘリコプターは、薄暮迫る天と地の狭間の世界を優雅にバラバラと飛び続けていった。




