黒龍の登場
『多分ーーー地上の方
ーーーーこのヘリの真下からだ!』
何??!
今度は何なの?!
上下逆さ状態のクリストファーが慌てて顔を回し音がした方を見ると、前方視界を一瞬ふさぐかに大きな鈍く光る、黒い影の塊が!
大きな衝撃音と、一陣の突風をドンッ!!ーーーー……!
もろに強く浴びせかけ突き抜けた。
ーーー恐ろしすぎて思わず目をつぶった。
巨大な「何か」ーーー
赤々と、したたる光の恒星、沈み行く真っ赤な太陽に向かい高速で飛翔していった。
小さな人影が乗った、黒々鈍い艶の鱗を煌めかした怪物がウネウネ、おぞましいまでに夕闇の空を駆け上がる。
「あれが『黒龍』ーーージャパンの工学と生物学の粋だ!
乗り手は城主だよ!
よーしっ おっしゃーーーーーッッ
いいタイミングだ!! 」
「〜〜〜〜!?」
だがクリストファーは余りの驚きの余り口がきけなかった。
漸くしばらくしてやっと声が出る。
「黒龍ーーーーですか?」
「そうだ。
『城』が誇る生物兵器の1頭だ。
彼らがここに居る限りーーーー誰も手出し出来ない。
生物として、龍の体内がどういう仕組みになってるかは俺は知らないがな?
僅かに”公開されている話”では黒龍のあの『鱗』は戦闘艇のジェットエンジンや 発電所のガスタービンと似たような素材らしい。
世界最強の耐酸化性、耐熱性、耐腐食性〜!
ーーーそして最硬度
全て必要な条件を満たした、最強の構成の超合金製だ。
古典的な手法と、ジャパン最先端の科学を融合したクリーチャーだ」
「高熱に耐えれるというんでしたらセラミックとか、金属だったら地球の鉱物資源であるタングステンなんかも〜
確か融点が、3000℃の高温を超えますよね?
じゃぁタングステンと、ベリリウムの合金なんですか?」
信繁はキラキラの嬉しげな顔をした
「ぃや、どれも違うな。
クリス様は本当に物知りですねーーー
ちよっと話しただけでも驚く程よく勉強をなさってるのが充分に察せられます。
ーーー俺にはそれがわかりますよ。
ジャパンは”古来から”、セラミック〜炭化や窒化の素材研究に強いんです。
資源が無い分、技術開発で生き残りをかけました。
セラミックは軽量で〜熱に確かに強いが、例外を除き強度に問題がある。
仰られた超合金は、硬度としては全く申し分が無い。
2つをドロドロに溶かして……1度合金にしたら切断はおろか研磨すら手に負えない。
融点以上の高温で溶かした後、鋳型に入れて、整形し固め、そのまんま使うしかない程にね。
ーーーー人類史上類を見ない程、硬質だ。
大昔、首都の湾海底掘削事業の際に、ドリルの刃として使用された。
驚く事に、ただの1度も刃こぼれ無く、使用出来たって言う伝説があるんだ。
ガリガリ岩盤削っても何ともない、が、ただ一つ重大な欠点もある。
ーーー重いんだよ。
それじゃぁ龍が飛べない、”自由で無くなる”
それにタングステンは酸化に脆弱だ。
1000℃が限界で、酸化し無くなってしまうんだよ。
加えて”ベリリウムの持つ個性”〜『強い毒性』〜
砕けて粉になった物を吸い込んだ場合、呼吸器に甚大な被害が避けられない。
黒龍を愛する、城の飼育員はどうなる?
騎手『城主』はどうなる?
大体ーーー『平和主義』を掲げるこの国で、核兵器の材料の1つであるベリリウムがそう易々と大量に自由には出来ないんだよ。
黒龍が生き続ける限りーーー半永久的にな」
信繁は上空を振り仰いだ。
黒龍が縦横無尽に思うが侭 ーーー空を駆けている。
パァッッとーーー!
眼の眩む光に囲まれて見えた。
飛行艇は全機パニックを起こしたかの様に、銃火器を集中放火する。
龍は全く意に介しないどころか、面白がるように、直ぐ側をスルリと飛び去る。
ある機体がーーーー……
激しい渦を巻きローリングをしながら空中飛行する黒龍に向かって今度はミサイルを2基撃ち込む。
「無駄なことを」
チラッと見上げ信繁は低く冷たく呟く。
黒龍は明後日の方角にぽんっと、極小の火球を吐いた。
「どうして?」
「まぁ見てて下さい」
「??」
どういう訳かミサイルは黒龍を追尾しないのだ。
『?!〜〜〜〜何で?!』
放たれたソレはーーー不思議なことに龍の脇をするっと通過後、凄いスピードで人魂型の小さな火の塊を追った。
「ーーー〜〜グルゥ……」
黒龍は大きな不気味な唸りを1声上げ、グググッと一瞬首を大きく引いたかと思うと、ボアッッと尾翼に向かってメラメラ輝く燃える火炎球を2発吐き出した。
ドオオンッッッ!
激しい衝撃波を残し、あえなく双方連鎖反応を起こし2発とも空中爆発。
信繁は???な顔をするクリストファーに種明かしをする。
「龍は変温動物だが、普通時の体温は一定だ。
人と同じくらいの、36〜37℃に保たれている。
そんな微量な低温に、ミサイルの熱反応システムが一々反応するわけがない。
そんな物に毎度毎度右往左往していたら、莫大な経費をかけて開発もしくは購入した兵器が、飛翔する野生の鳥類についてってしまう。
と言うのも、鳥類は案外体温が高いのさ、だから、そこで我らの守護神『龍』の出番ってわけさ。
な?いいアイディアだろ??
それと鱗には特殊な塗料が塗布されているからレーダーにも引っかからないよ?
さてーーーアイツら目視だけで、一体全体何処までやれるかな??
ジャパンを守護する最強の荒ぶる神ーーー
龍神にどう立ち向かうのか、さぁさぁお手並み拝見と行こうじゃないか?」
発言中 信繁は笑わなかった
名うての武士、居合い斬りの凄腕剣士が白刃をかざし敵に迫るような、ゾクッとする黒い気配を漂わせていた。
「さあて ソロソロっかな?」
今度も謎の言葉を呟くと、手足をーーー
いいや再び忙しく全身ごと動かし始める。
「一気に『急降下』しますから!!
ーーーいいか? 身体に力を込め、体幹をしっかり固めてつかまってくれ!」
「……?!」
『どうして?』
一切の訳がわからずも、只事の無い気配を察し、クリストファーは信繁の指示通りの体勢になる。
「うわあああああああ・・・・・・!! 」
信繁は”言ったとおり” 決して嘘は言わなかった。
かなり高かったはずの高度から、一気にヘリを地表樹木がはっきり見える高さまで落下させたのだ。
死ぬ!
絶対ーーーーーーー死ぬっっっ!!
恐怖の落下が終わりーーー
ゼイゼイ死にそうな思いで息も絶え絶え隣を見ると〜
「スカイダイビングみたいで楽しいだろ?」
「……」
ん? 彼は嬉しげで、全く動じていないので呆れてしまう
その時ーーーグルグルとーーーーー……!
硬直するクリストファーの目の端に、悠な頭上にいた筈の黒龍が真っ逆さまに地表目がけて急降下している姿が入った
「!!」
ぐんぐん、あれよあれよと巨体とヘリと距離の間合いが近くなる。
歯を剥き出す異様で巨大な真っ黒な龍・・・・・・
それはまるで、最悪の悪夢に似た恐ろしい光景だった。
『〜〜〜〜ぶつかる!!』
思わずクリストファーは目を瞑り 手で顔を覆った。
バシッとグラグラ強烈な揺れがヘリ機体を揺らした。
「おっとぉ!!」
耳に信繁の面白がったような声が聞こえた
「〜〜〜〜!」
おそるおそる 手を顔からどかすとーーーー
すぐ目の前ーーー…と言って良い至近距離。
怪物の黒龍は突然長い体をスルスルとくねらせ、一気呵成に向きを反転させるやいなや急上昇に巨体を反転
ーーー再びの上昇をするところだった
それはーーーーー
恐怖と優美さが融合した不思議な目くるめく光景に思えた
『うわぁぁっっっっ〜・・・・・・』
黒龍はまるで全身が黒いダイヤモンド いやーーー
なんとも形容しがたい、硬質な輝きを煌めかせていた。
美と恐怖と強靱なパワー……!
「凄い…!…」
クリストファーは魅入られたように黒龍の姿を目で追った
「綺麗ですねーーーー龍は・・・・・・本当に」
「だろ?
黒龍は、しかも賢いし優しいんだよ。
よく自分で フーッと吐いた煙で輪っか作って遊んでる。
コレが又、凄く可愛いんだ〜
滅茶苦茶キュートなんだよ
この前なんか、一体誰が教えたのか、”ハート”をふわっと吹いてたよ。
まぁ黒龍なら、自分で技術を編み出したかもしれないけどな?」
「〜〜〜〜何それカワイイ!!」
「時間があったら〜…
クリス様に、黒龍のおしゃれな芸を是非見せたかったよ。
うん実際、あの姿を見て、アイツにときめかない奴はいないぞ?」
「ホント?!」
「ホントホント。
性格と事情を知らないとーーーー
黒龍の怖い外見の様子に皆震え上がりビビるが、何度見てもあれは凄いぞ!!」
信繁はフフンと自慢げに返事をする。
黒龍はヘリと気流が重ならない程度の高さ上昇で、今度はいきなりピタリと空中停止。
長い体をそのままにーーー……
そのまま、頭部をグイッと海老反り程に大きくそらした。
ゴオオオオオオオオッッッッッーーーーーーーー!!
勢い良く前方へ、グイッとしなる頭部。
前回と比べ物に成らない燃えさかる炎の業火の放出!
黒龍は地表と平行に、一息で凄まじい威力の火炎を扇型に吐ききったのだ。
火力は相当で、真っ直ぐ渦を巻き竜巻状に天に登り上空を炎で焼き尽くす。
龍を倒すべく反撃のため密集状態で襲いかかっていた飛行艇達は、殆どの機がガツンとたまらずに空中衝突した。
致命的なダメージこそない様子ではあったが、薄く煙を出し……
ほうほうの体で全機いずこともなく飛び去った。
「やったな…」フーーーっと胸一杯の吐息をつき、信繁は呟いた
黒龍は1度〜下層階で留まりーーーー…
ホバーリングで大人しく待機していたヘリに最接近し、そのままグルリと一周すると現れた時と全く同じ様ーーー!
まるで蝋燭をふき消すかの如く不思議な事に、巨大な禍々しく美しい黒い姿が どこかにふっと見えなくなった。
「あの調子じゃ、飛行艇の高価な精密部品は全部パー、綺麗に破損だなあ」
「一体〜何が起こったんです?」
「あぁーーーー
熱でかなりの人工知能のチップが焼き切れたって事。
ザッと俺が見たところ〜あの鋼板の飛行艇は大気圏突入用では無いんだ。
装甲の壁面の断熱冷却仕様も、あんな安っぽい様子じゃそこまで徹底してるとは思えないしな。
おまけに、今の黒龍との予想外のアタックで液体ジェット燃料相当量使ってるんだ」
「そうーーーなんですか?」
「ぁあ!
恐慌状態になってーーー何度もガンガン、側で見てもコイツら馬鹿じゃないのかって程エンジンの火力を吹かしてた。
『アフターバーナー』って聞いたことあるだろ?
あんな無茶な事したらいくら燃料積んでたって1度に大量に消費しちまぅ。
エンジン1つあたりそうだなぁ、1秒で約400㏄近くは燃料無意味に燃やしちまった筈だ。
あれじゃぁーーー持つはず無い。
多分タンクのジェット燃料、現在アイツら殆ど空だぜ?
空飛ぶ航空機で空中でガス欠だなんて、オイオイ洒落にもなんないぞ?
そうだなぁ……”残量”
ざっとーーー
潜伏先への復路分のエネルギー、マジでギリギリあるかどうかだな」
「!っ〜〜そうなんですか??」
「まぁなぁ〜こっちも一応本職なんで、状況見りゃ大体の総量は解る。
俺も意図的に仕掛けたが、どれだけ城主と黒龍に散々無駄燃料費使わされたか考えると本当に怖いぜ?
たったあれだけの僅かな戦闘ですら1機当たり、ジャパンサラリーマン初任給1ヶ月分は確実に吹っ飛んでるんだよ?
そうした物資のダメージ、兵站を削って資金源を断つ事も今回の主眼の1つだったんだ。
結構『現実的』だろ?
あっちは大っぴらに補給路なんて無い筈だしな?
それから『羽』〜翼のついたものは不時着したら最後だ。
どんな優秀な高価な機体でも”アウト”、機械整備士の修理が絶対的に必ずいる。
ああこのヘリは燃費計算して燃料充分に積載しているから大丈夫だよ、俺はそんな下手を打たない」
信繁はハハハハハと愉快に楽しげに語った。
「大丈夫ですか? ーーーあのぅ 炎見ても??」
『トラウマとかでパニック誘発しないんだろうか?』
「中のクルーは見た所 全員大丈夫だろうから、まあ何とかなぁ。
俺も一応ジャパンの真面目な『公務員』だからね、社会人としてあんまり無茶は出来ないんだよ。
当然、禁忌の『殺人』は犯してはいない」
信繁はここでも面白げにあははと笑う。
『精神的に強いなあ~やっぱりーーーー!』
この人は凄い! クリストファーはフゥと感嘆の溜息を漏らした。
「だからーーー少なくとも。
繊細で飛びきり高価な新型飛行艇は、全て検査でドッグ入りって訳だ。
計器類は特に自動操縦の人工知能精度が、強烈な高温の熱源に引きずられてバッチリ何もかもずれてる。
ってかーーー溶けちまってズタズタの筈だ。
例え燃料が艇にギリギリあったとしてもだ、墜落が怖くて俺達をもう追っちゃあこられない。
だから危機はめでたく去ったのさ」
信繁は淡々と論理的、理路整然と理由を答える。




