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左手首のブレスレットについて

左手首の「ブレスレット」は、信繁の高校生最後の誕生日を祝う特別製の品だった。

 

その僅か数日後が、トーキョーで行われる武道全国大会当日だった。



「必ず勝ってこい 絶対優勝してくるんだぞ!!」


誕生日に熱く激励され、社長である〜


呆れつつも深く敬愛していた父手ずから、それは自室の金庫から出され直接もらった品であった。


特別な、代々連綿と受け継がれてきた品


18歳になった彼への父から、まるで託されるように渡された贈り物だった。



水晶加工は近隣の県の特産品とは言え……


信繁には…〜質実剛健

 

浮ついた事を嫌う堅実な家庭の経営方針を考えると、随分思い切った品に見えた


 

高価な素材が、例えばブラックダイヤモンドに金、惜しみなくふんだんに使用された本格的な厄除けの御守りだとすぐに気がついた。


無敵の運気を上げる素材の一つである ブラックダイヤモンド。


その他には最強の石配列が選択

 

その上〜ご丁寧に、各種の守護神カービングまで繊細に石表面に施されていた。


どれも素晴らしい、しかもレーザーではなくて手彫りだという。


生き生きとしたダイナミックな彫刻、本当は誰も見たことが無い架空の霊獣なのについジックリと。

 

長い時間飽きずに見入ってしまいそうな程、どれもに魂が宿る素晴らしき腕前の彫り物であった。


一体誰がーーーどんな風に…!

 

これ程高度な凄い技術の彫刻を行ったのだろうか?


それもこんな硬い水晶の表面に?!

 

納められていた落ちついた色の桐箱は相当、時代がかった古き物のように見えた

 


信繁には読めない程流麗達筆の美しき箱書きが、更に価値、古色蒼然とした長い歴史の深みを醸し出していた。



「さぁな?」


渡した当の父親も”彫り師”等、製作者が誰なのか?

 

意図したことは実は知らないという。


但しーーー……「言い伝え」で


語り継がれる約束では、持ち主は必ず直系の自らが後継と目した次世代に譲渡する事……!


一応、そういう申し送りがあるという。


「信繁は大切にしなけりゃダメよ?」

 

”父の唯一の形見”として、彼の姉である大伯母に渡そうとすると拒否された。


「これは貴方が受け取る物なのよ」


会社を継がないのに?

どう言う事だ?

 

言い伝えと矛盾するでは無いか…!

 

「そう言う意味では無いの」

 

「後は彼方が渡したいと思う人に譲れば良いの」


神秘的な、実に謎の多き装飾品ーーーー

 


当時信繁はそう言った装身具に、実は貰った当初それ程大した興味も拘りも無かった。

 

ただ〜自分の勝利を信じ、親として 真っ直ぐで無償の愛を捧げてくれる父の気持ちが無性に嬉しかったのだった。



「お兄ちゃん頑張って!! 」


世界で一番綺麗な 妹の元気で天真爛漫な声


天使そのものの光輝く笑顔が今でも弱気になると夢に出る



ーーー自分を励ます。



映像や思い出の品

 

丸ごと石油燃料で燃やされてしまった今


「ブレスレット」は、唯一手元に残った大切な家族の絆、気持ちの依り代だった




「実は捨てようとした事、何度でもあるんだな」



「どうしてですか?」



「何で自分だけが? 


 ーーー全然勝ってねーじゃん!!


ウソつけ看板に偽りありじゃんか!

ーーーーだとかね。



そんな気持ち〜からだなあ」



すいっと体を伸ばす。

 

ヘリ内部の中空に浮かぶ映像計器を点検する。



「今でもーーーもう跡形もない自宅の。

 

炭化して焦げ臭い燃え残りの柱が乱立しているフラッシュバック、バンバン見るしさ。

 

あれギョッとするぞ? いきなりで。


っったく何年も何時まで見せるんだよ~って位にな。


単にバグなんだが、自分でも大概しつこいと呆れるぜ?


ああ、ホ〜〜ント

変な脳の誤作動の働きには勘弁してくれ!

 

ーーーだよなあ」



ブツブツ言いホログラム計器板の確認作業を続け、満足したのか、いよいよ人工知能搭載型特殊ヘルメットを装着する準備に入る。



クリストファーの全身を襲う震えはいつの間にか消えていた


「貴方は本当に、凄い人です」

 

そんな事をキラキラ尊敬の眼差しで言う



「買いかぶりすぎだって、全然そんなんでもないぜ?」


 ぶつぶつと秀麗な眉間にしわを寄せ、ぷいっと目を合わさず言う

 

ーーー耳の縁がちょっと赤い




ああ〜今本気で照れてるんだなあ。


自分を大きく見せる為の自慢を全然しない、でもいざ行動すればどんな事柄も手際よく完璧以上に出来る人だ。


ーーーいやむしろ優秀すぎる彼にとって、出来ない事の方がずっと少ないのかも知れない。



『こんな背の高い賢い野生の豹みたいな人に、世の中の事など何も知らない〜


ビックリな世間知らずの僕が思うのも可笑しな話だけど!』



もうーーーなんて可愛い人なんだ……!!


 


クリストファーは楽しい気分に包まれた



「んじゃ、そろそろいくか? 王子様」


 

「王子様はいい加減、やめて下さい」


ポッと紅くなる。

 

『だって信繁、あなたの方がプリンスだから』




無事ヘルメットを装着した信繁は 特殊装置で管制に指示を出す。

 

指示が返るのに、少し間が開いた。

 



「それからーーーー」


「?」


どうやら何故か

 

言おうかどうしようか、ひどく迷っているらしい事柄らしい


 

信繁は前方のメーターに視線を揺らし、困った様な深い溜息を零した



「あの滅茶苦茶な人を、どうか許してやって欲しい」



彼の言う滅茶苦茶な人〜ああ『城主』の事だ!!




『そっかー、信繁は彼女が好きなんだ……』




胸がきゅんと疼く



ぁあそうか


だからーーー

お付き合いする人が居ないんだ。



「わかっています。


……彼女は〜責任者として、するべき事をしたんでしょ?

あえてーーーー

嫌われる前提の役目を引き受けてくれてまで。


耳障りの良い事でなく。

誰も言いたがらない真実を、進んで見せて言ったんでしょ?」



『強くて優しい信繁が、彼女の事を何故好きなのか僕には納得できる』



クリストファーは凛と明るい眼を信繁に向ける


 

「将来の僕が!

この先ひとりでも困らない様にですよね?


あの方はーーー強い人ですね。


僕も国を守る一国のリーダーとして、いつか彼女の様になりたいと思います」


「ありがとう」


信繁はフーッと息を大きく吐き、目を閉じて言った。




するすると格納庫のヘリ上部の暗い壁が割れ始める。


天井に偽装していたが、巨大な扉が仕込まれていたのだ。



 

外部からもカモフラージュされているらしい大扉が、音を殆ど立てず軋みもせずスルスルと全開してゆく。




「わあ・・・・・・!」


 

王太子の頭上に、「門」が大きな口を開けている。



天上から降り注ぐ七色の光の奔流

 

クリストファーは思わずうっとりと目を奪われる。


美しいーーーーー

 


とても綺麗……!




ヘリ・コクピットの中は、元々シースルーの構造上かなり明るかった

 

がーーーー……

 

それを上まわる悠に豊かな美しい輝きが一気に外から流れ込む。


さらに不思議な光で全身が満たされる。




特別な光

 


世界を分ける輝き



頭上の外界への入り口は、キラキラ弾力的に揺れる光と虹の塊の巨大な皮膜にしかみえない


まるで清流のーーー


音の無い静かな水底から天空を見上げているかの様だ。



滲んで揺れてチラチラ瞬く



目を細めないと全体像が見えないーーー…

 

眩しい光彩の洪水の隙間から

 


微かに向こうの空の風景が透ける



……同じ時間帯なのだろうか?

 

それとも……?

 

こちら側と、あちら側



今から新しい冒険が始まる





大切に胸のポケットに挿していた〜

 

さっき信繁からもらったばかりの洒落たサングラスをそっと装着し、ヘルメットを被る。


 


ヒュンヒュンヒュンヒュン……


既にエンジンが充分温まっている状態


随分前より準備万端だったヘリの巨大な回転翼が低い振動音と共に、更に高速回転に転じ、どんどんスピードを増し加速してゆく。



気合いを入れる

 

息を大きく吸う


 



「準備はいいです」

 

「行くぞ」



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