闇落ちからの改心 ①
信繁は結局、
「証拠不十分」と言う、実にいい加減な理由で釈放された。
「娘達が居る大伯母や、もう1人の子どもの居ない叔母夫婦
俺の身元引受人は、俺からの頼みも有り叔母夫婦だった。
うんと年下の純真無垢な従姉妹姉妹に俺のせいで酷い風評被害が有るのはチョイ考えただけでもぞっとしたからな。
そう考えると、なるべく遠く彼女ら家族とは離れていた方が良いと思ったんだ
”一緒に住みましょう!”
叔母達は心配の余り温かい生活を提案してくれたが、コッチも迷惑を考えて即断即決で断った。
何て言うかーーー……
自分の中の荒れる獣のようなドロッとした、無明の闇みたいな黒い感情を既に自覚していたからだ。
それにーーーー彼女の仕事は新興の観光業……
新進気鋭のマスコミ大注目のホテル女性社長という最も人目と、移ろいやすい社会的評判が重要な仕事だ。
俺は一族にいない方が絶対に良かった。
1度でも疑惑の渦中になった人間が身内にいて、人気が命の客商売がなり立つはずが無い。
ーーー下手すりゃ巨額の赤字を抱えて倒産だ
俺自身が不良債権化だなんて真っ平だったよ……
だから俺は『1人になりたい』
そう言って頑強に押し切った。
”…何か困ったことがあったら直ぐに相談してね?!
とにかく学校には行くこと!〜”
そう言って
ーーーーそれが唯一の『条件』で
新しい住居、完璧な防犯設備が整った、そう言った意味では”最先端のマンション”と、当面の生活費その他を全て用意して心配し気遣ってくれた。
『わかったよ』
生まれて初めてーーー嘘を故意についた。
そんなの全然守る気も無かった。
その後ーーー俺は荒れに荒れ、ケンカに明け暮れ深夜そこら中の盛場を徘徊した
誰の話も受け付けず 何も耳に入らなかった
ーーーーどうでも良かった
変わり果てた家族や家人の葬儀と様々な手続きーーー
長い解剖が終わって漸く返ってきた妹の埋葬。
北斗星の野辺送り。
ーーー拘留される直前に、全てギリギリで終わってたからもうする事すら無い。
唯々全てが空しかった。
ようやくベッドに入ると……今度はだ
明け方になるといつも決まって……同じ時間に
どこかで
どこからか……
飼い主を
『ご主人様散歩の時間ですよーーー』…って愛しげに呼ぶ高い波長の犬の鳴き声がした気がした。
コレは俺の北斗星への罪悪感から来る幻聴かも知れないがーーー
でも確かにあの当時俺の耳には聞こえて来た。
それはもぅハッキリとな。
キリキリーーー……胃の腑がねじれるようだったよ
俺は2度とこの先犬は飼えない」
「……そんな」
「俺は更に堕ちていった。
あんなに幼い頃から遮二無二打ち込んだ、人生そのものと言って良かった武道でも。
唯一俺の身に残った『技能』ーーーでもだ。
愛情が消えていた
すっかり、何かが壊れて変わってしまった。
以後はーーーー
『手負いの虎』だと言われやりたい放題。
なんとか出場した試合でも、わざと反則すれすれのダーティーなやり方で過剰に相手を痛めつけて倒した。
審査員にバレ無い様にしたのは
しかし、”そう言うあくどさ”はーーーー
客席で観覧している支部長先生方には丸見えだった。
皆苦虫をかみつぶした様な顔つきだったよ。
でも俺はーーー”弱いのが悪いんだ”
ニヤニヤ笑っていた
そうーーーー……
俺は何の役にも立たなかったんだ。
武器を持たない平和で無力な家族の為に、命より大事な妹の為に
イザとなったら口ばっかりの、不甲斐ない俺の代わりに……
孤独に戦って死んでしまった北斗星。
頭の中がごちゃごちゃになり、心の中が沸騰した。
『誰かが意図的に自分を〜 家族を嵌めたんだ!』
暗い怒りと呪い〜…自暴自棄で、坂道を転がり落ちる
トコトン堕ちるところまで落ちていった
俺も人のことは批難出来る人間ではない。
病んでくさって荒んで、世界中を壊れてしまえと呪っていた事があるからな。
ーーーだからクリス様の気持ちが少しは解る。
生き残ってしまった、どうにもならない苦しみがな」
信繁は静かに語る。
「僕なんかーーーたいしたことないです」
「いや、人との比較なんか意味が無いよ?
クリス様が今現在胸が押しつぶされそうに苦しい
……悲しい。
……それだけが現実で、世界の真実なんだ」
「……ぇえ」
「実は俺の話には……一応はオチ、この続きがある。
〜指導員の
支部長先生方の『大先生』だという事で、ある日ふらりと、うちの道場本部にな
お付きの人もつれず、本当にたった1人、運命の、あの人がやって来た。
その日は『道場に絶対来い!』
ーーーでなけりゃ破門だぞ!
先生や先輩方から厳重に口を酸っぱく言われていたから、本部道場に渋々居たのさ」
「それって〜誰なんです?」
「『城主』だよ」
「!!ぇえっっっ!」
「ぁあ……
今から思うと、ホント全く有り得ない事なんだがなーーー!」
信繁はーーーひどく懐かしげな遠い目をする。
「ぁ……今から思うと ホント重要な役職的に全くーーー
有り得ない無防備な事なんだがな
最も〜部下の迷惑顧みず
……ソウイウクダラナイコトを平気でする事こそが、実はあの人っちゃ人……なんだけどな」
信繁は『信じられないッ…』
〜呆然絶句するクリストファーに向かい、ほんのりと優しい柔らかい笑みを送った。
キュッと口の端が上がる
信繁のどことなく面白げな微笑み。
ーーーだが落ちついた口調で、幸せそうな懐かしげな声
思わずドキッとする
どうしてっっ?!
「とにもかくも、シラーーーッとーーー……
城主……はた迷惑な彼女は……『特異体質』とかで。
今となんら全く変わらない同じ様な容姿だった。
艶々の見事な、腰まである真っ直ぐなロングヘアの黒髪。
雪よりも白い、白磁に似た白い肌。
謎めく蠱惑的な黒い瞳。
まるで生きた『お人形』のようだったよ?
最初俺は、痴漢撃退の護身術を習いに来た素人。
てっきりーーーー見学者か入門希望者かと思った。
『何かご用ですか?』
不審げに用向きを聞きに行くと、俺をじっと見て、フッ……と急に笑った。
『ふぅん… 貴方が、手負いの虎?
ーーーーー嘘でしょ?!
冗談ぽっくりこだわ?
そんな目をした人間が、強い筈なワケが無いし』
不敵に暴言を吐き 桜色の花弁に似た唇を綻ばせた
『冗談ぽっくりこ?!』
ーーーー何なんだコイツ!!




