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信繁の弟分、ジャーマンシェパードの甘えんぼ北斗星について


「家に居た北斗星は賢くって、でも巨体のくせに超がつく程甘えん坊でーーーおかしいだろ?

 

俺が公園のベンチに座り丁度膝横に”お座り”の体勢でアイツがしゃがむと、顔の隣に長い顔の目線が来るんです。

 

俺と同じく愛犬を散歩させている見物人が端で見ると、縮尺が明らかに変で、なんとも言えず超おかしかったそうですよ?」


「それは又ーーー……大きいですね!」

 

「ええ。

今でも何であんなに大きい犬だったんだろ?って謎に思いますが、兎に角彼は特別に巨大でしたね。


よくーーー『狼の血が入ってるんじゃ無いの?!』って驚きで聞かれましたがそんなこと無いです。


全く別の血筋らしいんですよ?

 

まぁ、元々は牧畜関係の使役犬……

ーーー牧羊犬ですからね、シェパードは。


自由な性格の羊を追いかけ、欧州の大地をガッシガッシ駆け抜ける為


時には……羊泥棒や、エサとして狙う本物の狼とも勇敢に戦う、肉体が大きくて勇猛で頑丈な心身を持たねばいけなかった犬です。


まぁだからなんですかね、足も太く、耳も大きく

 

……何もかもでっかい犬でしたよ」


 

信繁はクスクス笑う。

 

楽しげで……嬉しそうで

 

『余程その愛犬……

北斗星に思い入れがあったのかしら?』


クリストファーも何だか話を聞いていてウキウキした

 

「ところが……なんです

あんなに強面の恐い厳ついガタイと顔なのに……

北斗星は人間や子どもや……ちっさい小型犬が大好きだったんです」


「え?!」

 

「〜本当ですよ!

大喜びで側に寄ろうとハイになるんで、その度に制止が大変で。


当たり前ですが、当然先方にはカンカンに怒られるし……!


それに普段は普段で、”片時も離れたくない”っていうのか、まるで俺のストーカーでした。

 

あんなに馬鹿でっかい犬種なのに、室内犬だったんです。

 

イタズラするから外に放り出すと寂しがって、悲しげに絶叫するんですよ?


別の物置を北斗星専用にしたら、ドアを破壊されてボコボコにされましたよ。


まるで飼い主が酷く虐待してるみたいに、ご近所迷惑、五月蠅くて五月蠅くて

 

でーーーやむなく、古風なジャパン風に言うと本宅に『座敷犬』〜ですかね?


玄関のタタキで家人を見張り、ノシッと陣取って満足そうでした」

 

「〜〜〜〜〜!」


「さっきの話〜休憩で北斗星と一緒にベンチに座る時でもね?

 

ピタッとというかべたっと言うのか、膝に全身をくっつかせて更に俺の靴にドスッとお尻を乗せたがるんです。

 

一杯『抜け毛』が、生え替わりの時とかジーンズにベッタベタにつきましたよ?

〜元々ソレ多い犬種なんです。


まぁソウイウコトを犬がする場合は、彼等の世界では深い信頼の証らしいんですが、コッチは結構重くってね。

 

どけってグイグイ腕で押しても、自分の甘えたがりの心が満足しないとワザと知らん顔をされました」


「それかわいいじゃないですかっ!」

 

「ウーーーン…どうなんでしょうね


何しろウチの犬は、ひえ〜っっっとビックリする程有り得ない位に甘えたがりでして。


ーーーー俺の妹の碧にもデレデレでしたよ?


ヒョイッと立ち上がって2足になると、明らかに妹の碧より形状が大きいのでモフモフの毛皮に埋もれてまってね。


”お兄ちゃん助けてぇ〜〜〜!”

って。


まぁ”本人”〜じゃなかった”本犬”?

 

親しみの愛情表現のつもりなんでしょうが、過剰というか濃いって言うか……


何ともかんともでした。

 

北斗星は滅茶苦茶勘が良く賢いから、中々の悪戯もアイツに散々されました」


「エエエエッッッ?!」


「頭が良くって滅茶苦茶勘が良いから、自分が山や部活の合宿に行って数日間留守になると感じ取った途端速攻ーーーー


よく普段履くお気に入りのシューズを隠されました


朝〜毎回大慌て!!

 

”オイお前俺の靴片方どこやったんだよ〜〜〜っ!”


でもアイツは悪そーな顔をしてもーーー

スンスンキュンキュン鼻を鳴らして『ふーんだ!』って顔で。

 

ジト〜ッてウルウル目でいじけるばっかりでね


『私をおいて行くご主人様が悪いんですーーッッ!』


そんな〜すねっすねの空気をまき散らかして。


北斗星は隠し場所を絶対に教えてくれないから、もぅ出発の時間が来てるしワァワァワァワァ上や下への大騒ぎでね。


とうとう、しょうが無いから自分の部屋にもぅ1足〜


”そうした時の為に”

 

新しい奴を予め予備に、脚立でないと取り出せない高〜い所に忍ばせて隠してましたよ?

 

でないとアイツは体が長いし大きいし、おまけにパワーもあるしで、ドカッ!と棚に体当たりかまして悠々取り出せちゃうんですよ」


「スッゴ〜〜…!」


信繁はくすっと笑うと鼻を掻いた。

 

昔を懐かしむーーー蕩ける幸せそうな微笑みで、クリストファーは思わずしげしげと見入ってしまうのだ。


「〜ビックリですね…!北斗星」

 

「あぁ〜毎回

”何で俺の予定がスッカリわかるんだろうっ?ーーて〜本気でそう思ったよ!

 

案外『人間語』がわかったのかもな?」


 

「そうかもっっ!!」

 

「でーーーシカトし、人の言葉がさもワカラン振りしてたのかもな?」

 

「あり得るっっ!あり得ます!」


2人は声を揃えて屈託無く笑った。


「……北斗星がちっちゃい…まだ子犬だった頃、警察での訓練開始直前まで家で一時期預かって。


で…お役目終了。

 

無事現役引退したから再びまたウチで面倒を見る

……飼う事になったんだ

 

『お役目ご苦労様』ってな。


〜元の実家…北斗星の古巣でな。

 

だからまだーーー元気いっぱいで北斗星も『マダマダ行けますっ!』て……

 

気分は充分若いつもりだったんだろうな。


まるで子牛くらい有りそうな馬鹿でかい大型犬で、そこそこピークは過ぎてもメチャ力が強いから一寸。


普段はいいがアイツがハイになった時、運動量が親達の手にとても負えないって事で……!


当時学生の成長期の俺が毎日朝夕、結構な時間と距離の散歩を、早朝と時には夜間、武道の朝練代わりに大体1時間位〜


帰宅後のトレーニング、ランニングがてらしてたのさ」


「〜〜〜〜っ楽しそうッッ!

ーーーでも確かに毎日は大変そうだけど……!」



「ま〜な……毎日だからな。

 

〜サボろうもんなら朝早くから、響き渡る玄関でキュン鳴きが凄いのさ。

とてもじゃないが五月蠅くて寝ちゃおれないぜ!


雨の日も雪の日も、暑い日も行ったんだ。

な?学生時代の俺って凄いだろ?」

 

「……本当頑張りましたね、信繁さん」


 

「まぁな〜〜でも、引退したとは言え足腰もしっかりしてフリスビーなんかも得意でサ。

 

ホント喜んだんだ、楽しい面もあったよ。


俺がソレって投げると、ソーサーを空中でパクッとジャンプ1発ーーーー!


上手〜く華麗に軽々ダイビングキャッチするんだぜ?


ホント格好良くて惚れ惚れした


あ〜コレは!ッと思ったから更に細かく訓練して、で一緒に競技会に出場して優勝した。


アイツ俺にとって超メンドクサイがとんでもなく素晴らしい優秀で自慢な犬で


執着といじけやすい、ジクジクのストーカー気質なのはチョイ参ったがーー

 

本物の弟同然だったんだよ。

 

〜そういう訳で、又、警察犬としての訓練をキチンと積んだ正統派元使役犬だったから。


イザとなれば自分の代わりに、留守を預けられる物凄く頼りになる心強い奴だった。

 

で……

あの日。

 

俺が居ない時。

 

北斗星は犬ならではの卓越した聴覚と嗅覚で、人間の誰よりも早く異質な物音と匂いに気がついた……


異変を察知し、犯人と格闘……!

 

勇ましく戦ったーーー大乱闘を繰り広げたんだ。

 

自分だけ……たった1匹で獅子奮迅、孤軍奮闘だ。

 

建物の相当に広い屋外で……ね

 

『テリトリーである大切な本拠地に入らせるかっ!』


戦う訓練を警察で積み、責任感も桁外れに強いアイツの事だ。

 

きっとそんなふうに思ったんだろうな。


よもや自分が、それも肉体が脆弱な人間に返り討ちにあうだなんて、全く予想だにしなかったんだろうなぁ……」


「……」


「庭の土地の一角で、大量に流れ落ちた犬の血痕が見つかったから間違いが無いと思う。

 

勿論血液は北斗星の物だ。

DNA鑑定でも調べて確認済みだ。

 

相手は大型ナイフ、おそらく軍用サバイバルナイフと防具で北斗星対策で完全武装して襲撃したんだ。

 

アイツが、でなけりゃ負けるはずが無い。

 

ビリビリの細かい特殊化学繊維が周囲一面落ちていた。

 

〜ご丁寧に、現場には俺が普段よく履くメーカーと同一の型式、全く同じサイズの足跡が多数残されてた。

 

犯行を全部俺のせいに偽装する為だ。


地面は滅茶苦茶、これでもかと踏み荒らされてたって話だったよ。

 

タフガイの北斗星がどれ程激しく戦ったか、それの証明さ」

 

「そんな……!!



信繁はそこで一旦小さく言葉を切った。

 

スゥ……と息を吸い込む。


「彼がーーー……『見つかった』


刀折れ矢尽きた北斗星が力尽き、”発見された”のは一体何処だったと思う?クリス様。


死力を尽くし戦った犯人との格闘……致命傷を負った闘争現場じゃ無い。


何とはるか遠く離れた妹、翠の部屋だった。

 

彼は、自分が失血死寸前の瀕死の重傷を負いながらも、それでも……

 

俺の病気の妹を何とか助けようと必死に、碧の元へと痛みでボロボロの体をおして行ったんだ。


現場と庭に道々、落ちていた血液の量から言って、最早体を起こし立ち上がるのもやっとの状態を執念で引きずって歩いて。


何とかそれでも、朦朧となりながらも血だらけになりながら屋敷内に入っていったんだよ。


通路には所々階段だってあったんだ。


苦しかったろうな、実際よくぞ頑張った

 

本当にーーーよくもまぁ動けたと思うよ?


あの筋状に、床に滴り落ちる血痕の痕状態で。


ただ……

 

そうしてたどり着いた妹は既にその頃こときれていた。

 

肺に激しい火災の煙を吸った痕跡……

法医学の解剖所見では生体反応は一切無かったんだ。


碧の直接の死因は絞殺。

頸椎をグッと捻られ、犯行グループの誰かが捕まえて押さえつけ羽交い締めにし一瞬でカタをつけたらしい。

 

相当な強い力で、”何が起こったかわからない位ほぼ一撃だったろう”


ーーー法医学的にそういう見解だった。


他は何もされてない。

強姦もされず綺麗なままだった。


ーーーー検視官の話じゃな」


「……」


「だからこそ俺に余計に嫌疑がかかった


『せめて苦しませずにって、お前妹の碧さんを”そうしたんだろ”?』ってな」


「ーーーそんなっっっ!」


「しかし、どうして『それ』


細かく、激しい火災現場だってのに死因がわかるかというと、彼女は燃えなかった。

 

遺体はとても綺麗だった。

 

”スリーピングビューティー”……

 

ただスヤスヤ眠ってる様だったんだよ

〜だからだ」


「…どうして?!」



「……何でだと思う?」


 

「それってーーー!」


クリストファーはゴクッと唾を飲み込んだ。

 

1つだけ

ーーーたった1つだけの可能性!


でもそれを言うのは余りにもーーーー辛い。

 

直ぐ隣に居る信繁には辛すぎる言葉で、酷い理由だった。


そんなクリストファーの気持ちを察したらしく信繁はフッと微笑む。

 

まるで何もかもを超越したかの、綺麗な邪の無い透き通る笑みだった。


「俺の弟ーーーが、北斗星が、傷ついた全身で守ってくれたんだよ……


まるで燃えさかる炎から盾の様に、妹のちっちゃな体にガバッっと蓋みたく覆い被さりーーー


満身創痍の自分が身代わりに火災の、激しい火の手の犠牲になったからだ。


普通”獣”は火を何よりも生理的に怖がる

 

なのにーーー最後まで本能に逆らい頑張った。


賢いアイツはそれだけじゃ無くて燃えなさそうなモノを……

 

特に、部屋の燃えていない防炎仕様のカーテンを、最後の力を振り絞り口で引き千切って咥え下ろし、スッポリ妹に覆ったんだ。


他にも、似た様な物で碧の周囲をグルッと囲み、最後に自分がその上に折り重なる様に乗った。


ーーースッポリ馬鹿でかい大きな体でな


庭で死闘を繰り広げた彼の大きな体に、ガソリンは一切かかってない。


だから燃焼には時間がかかった。

 

体の下になってたはずの防炎のカーテンには、もう北斗星の血液は殆ど付いては居なかった。

 

つまり……残ってなかったんだよ。


そうしてーーー

『どうしてかピクリとも動かない妹』を必死に守って逝ったんだ。


アイツは、北斗星は妹も心から大好きだったんだからな。

 

息をして無くとも助かるかもと、彼なりに、引退したとは言え、誇り高い元警察犬の北斗星は絶体絶命絶望的な中……

 

妹の、碧の生存に、一縷の望みを賭けたのさ」


 

「そんな……!」


 

「それからーーーー俺はーー……


俺は……家を離れる時

 

”自分の居ない時必ず妹を守れ”

碧だけは何とか助けてくれと


ジョークを交えていつもーーーいつも

 

『お前人を守る警察犬だろ?』って繰り返し言ってたのさ……

 

北斗星は身に迫り来る火が、ソリャ恐かったろう。


だが……自らの命が尽きようとする最後の瞬間まで、使命と俺との約束を守ったんだよ。


アイツは妹の為に命を捧げた


俺は全てを知って

……どうしていいかわからなかった」


 

信繁は口をつぐんだ。

 

静かな空間が広がる。


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