フレイヤの愛しい人との再会 ②
『ミルキーウェイ……か』
フレイヤはポエジー過ぎ官能的過ぎる、全然足るを知らない痒い木っ端恥ずかしい電脳例文集をログアウトする。
その時フワリと突如、過去に収監されていた「城」医療スタッフの文学を愛する女性が、とある事を語っていた事を思い起こした。
『ミルキーウェイはジャパンでは天上の河、アマノガワと言うって。
語感もロマンティックで 素敵な言い回しよね!』
〜でもね、いつも気の利いた言葉なんて私は無理よ!!
とはいえ確かにいつ何時、戦場以外でも命が失われるかわからないのは本当ね!
贅沢な事に、人生の最後まで恋した相手に信頼され『愛』に包まれていたい〜それをここまで真面目に追求した国家というのは考えたら凄い事よね〜
フレイヤの世話を任されている高貴なレディ、エリザベス女官長は不満顔で納得いかなげな彼女の問いにこんな事を堂々言い切った。
「遠い星系の長期出張、別離の最中、孤独に耐えられず相手が他の恋人を作った場合、心変わりの不実さは責められますが
ーーーそれと同時に、どうしてもっと手厚い恋のメッセージをパートナーに送らなかったか?
浮気性の人となりを見抜けず、もしくはうっすら気がついていた筈の切っ掛けを放置、問題点を先延ばしにした事は果たして無かったのか?
あなた自身も責任と良好な関係性構築に手を抜き、人となりを見下し相手の自己犠牲ばかりを求め、自分の都合のいい様に御自身を過信していたのでは?
揉めて裁判に持ち込まれた場合、その様に必ず追求〜定番中の定番の質問として相手側離婚弁護士から糾弾されます」
フレイヤは終いまで聞いていてプルプル怒りに震えた
「繰り返しになるけど!!
もう1度言うけど! あんまりだわ!! そんなの!!」
「何故でしょうか」
「大体!! 一夫多妻制で、たった一つの筈の真実の愛がそんなにも複数あるだなんて変よ?!
理屈に合わない! これって大いに矛盾してるじゃ無いの!!」
カッと頭に血が上ったフレイヤは、ヤレヤレ顔のエリザベスに食い下がるのだ。
「酷いわ!!」
するとその発言に酸いも甘いもかみ分けたエリザベスは、しれっと〜
「無責任でも良い時代〜恋人関係ならばいざ知らず、法的拘束力が派生する結婚は双方に様々な多大な義務が生じるのです。
しかしまぁ、仰られる事は、あくまでも『制度』であり、そうされない方の方が 現実的には圧倒的多数です。
それを承知で、愛する2人は婚姻を結びます。
制度上〜法的にも複数の妻をめとる事が出来るのに『しない』〜
それを拒否するこれこそが『究極の愛』と思われませんか?
また自分以外の妻が居たとしても、私こそが『最も』パートナーを愛している〜
そう思い、お互い愛し愛され尽くされ、様々な試練を共に手を取り合って一緒に乗り越えてゆくこそが、真実の愛情では?」
ーーードヤ顔ド正論!
レディ、エリザベス女官長の言葉にフレイヤはグウウッとつまった。
トールの兵士は鐵の結束で愛する者のために戦い、雄々しく戦場で 危険な命懸けの任務に就く。
そして皆、必ず自分を待つ場所へ、最愛の者の元に帰り着こうと願いながら、獅子奮迅の活躍をする。
自分の為に頑張るのは限界があるが、こうなれば全く別である。
このメンタルの持ちようと発想こそが、惑星トールを驚異の最強の軍事国家と言わしめた秘密だった。
「〜私にはよくわからない理屈よ、女官長はお好きな殿方いらっしゃったの?」
見事に言い負かされ思わず刺々しく、皮肉っぽく聞いてしまった。
「えぇ、遠いーーーー悠昔。
私は遠い星系で亡くなられた、その方だけに、自身の一生の愛を捧げる事に決めました」
「!!」
「あの方はーーー素晴らしい方でした。
彼が私との婚約中に亡くなった際どれ程一緒に自分も死のうかと考えた……か。
でもそうしなかったのは、ボロボロの私を支えてくれた年下の親友の存在があったからです。
友情とはいい物ですね本当に、でもーー……」
エリザベス女官長は何故かそこで言い澱んでしまう。
「でも?」
「えぇ、まさーーーかーーー本当に まさか。
ずっと年下の、体操競技アスリート・オリンピアン、ゴールドメダリストでもあったその子が、病を得てあっけなく神様の元に召されるだなんて……
よもや私よりも命の燈が短いだなんて、当時思いもよらぬ事でした。
運命の神はその後、更に無常、彼女の愛した人の星は内乱で挙句にガス化して消滅〜
結果、愛する方と大切な一人娘は生存すら不明となってしまいました。
ですから私はこの世に 身を置いています。
彼女の産んだ忘れ形見、星の戦乱で行方知れずの一粒種の娘さんを探す為に私は生きています」
「ーーーーーー!」
フレイヤはあまりに重い愛の顛末に絶句してしまった。
彼女は美しく頭が良く類稀に気が利き如才なく上品、知りうる限り今まで見た事も無い程素晴らしい女性だからだ。
しかも経歴を聞き更にビックリ!
〜トールの現大王とは母親が乳母だった関係で乳姉弟、唯一彼が頭が上がらない人物だと噂されている。
接してみて生まれ育ちを知らずとも、今だって本人の魅力で望めばどんな方との婚姻も、幾らでも可能なのを日々の様子から感じている。
「フレイヤ様、この世を生きるというのは 誠に切ないですね」
フレイヤの生国 惑星フレイは「一夫一婦制」、側妃は王家に限り認められていたとは言え、王宮の御前会議にて満場一致の議会の承認が必要な国だった。
「ただ困った点も無いわけではないのですけれども……ねぇ」
様々な作法を教えてくれるトール側、フレイヤ付きの女官長エリザベスが苦笑しながら補足的に話をつなげた。
「??ーーーどうして??」
「だって、自分の身辺の仲間達が寄ると触ると
『パートナーが如何に自分を愛しているか?!』
〜強烈な自慢大会を繰り広げるんですよ??
素晴らしい見事な名文を贈られた人物は、押すに押されぬその場のスターなんです、それはもう、羨望の的ですよ?
でも案外、派手な言葉が真実とは限りません。
言われた状況や、たわいないけれど相手のピュアな本気の言葉が、グッと女心を掴むんです。
それをわかっているからこそ、皆羨ましいんです。
だからパートナーが帰国すると、別離の最中
なぜもっと、熱い気持ちのこもった動画メッセージや言葉をくれなかったの?
私寂しかったの!!もう愛してないのね?! だったら別れましょう!
とーーー結構な確率で、なりやすいんです」
「なにそれ!!」
フレイヤは思わずプンプン憤慨。
「それって、あんまりでは無いの!!必死に戦地で頑張ったのに?!」
「フレイヤ様、愛は我慢比べです」
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
エリザベスの話はつらつら尚も続く。
「じっと我慢を重ねるだからこそ、真実の愛でないと考えた場合、見切りをそうそうに付け、相手を開放させる為にも速やかに、合理的に手続きが行われます。
ちなみに二人の間で交わされた秘密の暴露〜主に性的なモノに関してになりますが、リベンジポルノ的なものは恋人間であっても処罰の対象、場合によっては極刑です。
そういう事はそもそも無法者〜ならず者が相手の人生を破壊するために行う最大級に卑劣な事、ですのでそこに愛はありません、独占と支配の欲があるのみです。
軍属であれば即座に最前線の、ごろつきの彼らに相応しい最も生存が厳しい地獄の様な部隊に配属されるしきたりでございます。
まぁ彼らにしてもその方が生き様として生き様的にも正しいかと、倫理の外側に生きる彼ら、何者にも縛られず能力が発揮出来、むしろ幸福でしょ?
助かった場合は更に激戦地へ、帰国は許されず延々とそれが生ある限り繰り返される言ってみれば追放刑、終身刑のシステム、逃亡は銃殺です」
「ではそのーーーー生き残った悪人ばかりがより集まった、獣じみた人間ばかりの巣窟があるって事なの?」
「ええそうです、投入されるのは全員蛇や毒虫、メンバーは曰く付きだらけですので。
でもお妃様、どうもそんな下衆な世界にも上には上が居るらしく、不思議と内部で綱紀粛正と言いますか序列が勝手に出来るそうですよ?
話はそれましたが、2人の関係を清算しない方が 貯蓄の保全、財産分与〜
お子様がいらっしゃれば養育費等で分散せず、多額の資産は構築し易いのですけど?
しかし、人生は想像以上に短いのです」
「……」
エリザベスは 恐ろしいホラー展開になりつつあった会話をそう締めくくった。
既に男児という『後継者』をなし、夫であるラファエル殿下は、王家の発展のため、「そろそろ次の妃を!」
〜トール政府機関「王城」に出仕する大臣達から公然と囁かれている状態である。
無事ベビー出産後のフレイヤはというと、彼女もまた既に「女神」と崇め奉り崇拝する何人もの、高貴なやんごとない身分の数多の素晴らしい容姿の男性より様々な熱烈な恋のアプローチを受けている。
ーーーで、何度も、二心無く親身に彼女を心配する女官達から、情熱的な「恋」が生まれるように、そんな華やかな場もいつの間にかセッティングされている日々なのである。
『余計なお世話よ!!』
余りにもの無茶なキャスティング、それもこれも王家にはよくわからない慣習があったせい。
務めを果たしたと公的に認められる妃にも「ある程度の恋愛の自由」
〜権利が、驚くべき事に与えられるのだ。
「どうしてお妃様は、あえて孤独であろうとなされるのでしょうか?
私どもには訳がわかりません」
「フレイヤ妃殿下のお幸せこそが、誠心誠意お仕えする我ら女官の心からの願いですから」
「夫君であられる王子様をひとえに想うお妃様の絆の深さには感服致しますが、このままでは お心とお体が保ちません」
「城」からトールに来訪したフレイヤ王女の、公開処刑事件の時の山猫に似た凶暴で荒れた様子からの、うってかわった別人の様に変化した穏やかな容姿。
劇的に変じたギャップ、瑞々しい淑やかな美女に生まれ変わった姫君の姿に皆度肝を抜かれ、トール王城・国民の誰しもフレイヤに恋をした。
〜高山の稀少なワイルドフラワーに似た煌めく眩しい生命の燦めき、鮮烈な彼女の魅力の放射に無条件にひれ伏した。
しかしフレイヤにとって 残念ながら、それらは有り難くない極めて呪わしい事で嫌で堪らないことでもあった。
フレイヤは夫である「命の恩人」恩義あるラファエルの気持ちを裏切る事にも強い拒否感を抱いていた。
また心の中で密かに想い続ける信繁への仄かな慕情までを、孤独に負け事もあろうに自らの手で不純な泥にまみれさす事を拒絶、罪悪に耐えられなかった。
『それだけは嫌だわ!!』
例えこの世で生きて2度と会えない相手でも、心の底から今でも聖なる心情を捧げている。
だから女官長エリザベスの気持ちが痛い程にわかったのだ。
「でもこの状況から逃れる方法が1つだけあるわ?
それだったら信繁様との、あの固い2人だけの約束を破った事にならない」
その方法とはこの世を捨ててトール王家ゆかりの尼寺に出家〜
つまり尼僧院に入り、以後は亡き人々の冥福と祖国の国民の心の平安を祈る生活を送ること。
ーーー俗世との縁を完全に全て自身の決断で断ち切る事だった。
一旦、尼僧院に入った場合、最高権力者であるトール大王といえども、性別が男性のため勝手な面会は不可能となる程の、女性にとってこの世で絶対的な聖域のひとつである。
『生きながら死んでいる〜今のままよりも、その方が遙かにましよ!!』
フレイヤは心の中で呟いた。
しかし激動の運命の歯車が、彼女自らもあずかり知らぬ予測もしなかった方向〜
大きくガタンと、何もかも巻き込み回転するその「時」は、フレイヤのほんの直ぐ側に迫っていた。




