フレイヤの愛しい人との再会 ①
『そろそろーーーかしら?』
フレイヤは、今日地球からアグライアが帰還した事を既に「王城」〜彼女の側であれこれと世話を焼く女官達から聞き及んでいた。
「ーーー本当に王子様は アグライアお嬢様を、夫君であるラファエル殿下の お2人目のお后様〜としてお迎えになさるのでしょうか?」
「王家 王族に生まれてきたものにとって有力かつ〜富貴な人物を後ろ盾に持つ事は当然よ。
個人的感情、どうこうできる次元の事ではないのーーー私の息子の事も含め」
「しかしーーー!!
あれ程に見た事もないほど可愛らしい、いたいけな 生まれたばかりの天子様を母親であるフレイヤ妃から無残にも取り上げただけで無く!
あのように勝手に、貴族の姫君と『婚約』〜許嫁にさせてしまうだなんて、ご生母であられるフレイヤ妃殿下のお気持ちを 少しは!!」
「それは違うわ?
誰が悪いわけでも無いの、勝手ではないしーーーー仕方が無いの、私は無力よ。
トール国内において、富む資産も人脈も何もない以上、殿下の愛情のみしか頼るよすがの無いーーーしかもかつて『罪人』〜公開処刑の身の上であった私よ?
息子と婚約したお姫様はトールきっての名門家ご出身、彼方の方も生まれたばかりの可愛らしい天使よ? この縁談、さぞや思い切りと勇気が必要だった事でしょう。
これが現在 最上の、息子にとっての生きる道〜策ではないのかしら」
「ですがーーーーー!!」
「仕方が無いの」
フレイヤは深い溜息をつく。
息子の事は、実は 生まれて直ぐに様々な相談を、自ら頭を下げロームルスに知恵を仰いだ。
ロームルスの、彼の仲介があって 初めて成立する婚姻契約、彼無くしては この「縁談」は、まず成立しなかったのは明白だった。
〜本当にいいのですか?〜
〜えぇ 閣下の思し召すままに〜
自身の生国を滅ぼした実質的な策略家と手を組むのは 精神的に厳しく辛い選択だったが、息子への深い惜しみない愛情と、とある理由に於いて。
誰よりもーーーー!
生まれついての誇り高い 生来の彼女の矜持すら越えたのだった。
〜才能も実力も、自信すら全て揃っていたとしても、必ずしも一番大切な時にポテンシャル全開で役に立てるとは限らないと言う事です〜
ーーーもうあの言葉を聞いてから 随分時がたってしまった。
あの頃 それがどんな苦しい、どうしようもない慚愧と悔恨と後悔、哀しみの気持ちから発せられた苦痛の叫びだと。
その重さに ただ驚くばかりでちっともわからなかった。
〜貴女は 神様に愛された人間です〜
それを発した人物は、自分が想像も出来ないほど高い能力と実力、誇り高い心を持っていたのに。
〜ええそうよ、私がどれ程、運に恵まれた側にいたか 今ならわかる。
いやーーー今だって現在も、私はその立場にいるのだと。
様々な人達の無償の恩情で、私は 辛うじて生かされているのだわ?!
そんな事もわからぬほど、私は全くの子どもだった。
もう1度会って謝りたい。
しかしその相手はもう2度と、一生自分とは会えない相手だった。
惑星トールから地球、ジャパンの地は あまりにも遙か彼方の場所だ。
しかも「城」は、何人とも迂闊には立ち寄れない特殊な空間に位置している場。
ジャパンにいたとしても、存在すら殆どの国民は知らされない、全く手の届かない極秘収容施設だ。
彼 信繁はーーーー 二度と会えない あの最後のお別れの時に、この愚かな私に優しくこう言ってくれた。
〜この先もしも、この世で本当に貴女が一人ぼっち、自ら命を絶ちたくなる程に辛く悲しい、耐えられないと感じる事がございましたら。
私の為に 生きて下さい〜
聡明な彼は、こうなる状況を、まるで未来予知の様に的確に察していたのだわ。
あの「言葉」と、ほんの一瞬の 接吻が無ければとうに私はーーー!
「暫く1人にして下さい」
フレイヤは忠実な侍女にそう言い残すと、静かにドレッシングルームに入室、愛用のスツールに座った。
隠し戸棚を 音が出ない様にそっと開くのだが、もうここを何度開けたのか 回数など既に覚えてはいない。
狭い中には2つの物だけが収納されている。
信繁から貰った、金色のオルゴールとオマモリである
フレイヤは金色のオルゴールの方を取り出し、キュッとネジを巻くと、懐かしい美しいメロディーが零れ出す。
1回ーーー2回ーーー3回ーーーーーー その時 彼女の予想外の事が起きる。
カチッッツ!! 『えっっ??』
フレイヤは慌ててオルゴールを取り上げて観察するのだが、装置の何処かが耐久性〜使用頻度を越えてしまい金属疲労で動力部が パチンと破損したらしい。
幾らネジを巻いてもーーーーもはや、指先に軽い手応えが返るばかりだった。
『そんなーーーー!! 嫌よ!!』
フレイヤは豪奢なテーブルに突っ伏して肩を震わし、涙に暮れしゃくり上げる。
その時、軽い控えめなノックの音が聞こえる。
「フレイヤ妃殿下、よろしいでしょうか?
大王様のお召しです、急なので そのままでも良いとの事です」
女官の遠慮がちな音と共に、おずおずと 用向きが伝えられる。
「わかりました」
フレイヤはノロノロと化粧を軽く整え、侍女の手を借り適度に衣類を改めると、連絡役を務めた〜まるでお人形の様な美形の容姿を持つ小姓の先導に付き従い、玉座の鎮座する謁見の間に向かった。
ーーーーーーいよいよだわ。
時が動いたのだとーーーフレイヤは覚悟を決める。
夫である方の側妃話がこれから始まるのだろう。
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惑星トールは銀河有数の軍事国家だが、実は驚くべき信じられない価値観を持つ国でもあった。
(一夫一婦制の国家である惑星フレイ・第5王女フレイヤ姫にとっては)
「城」から恩赦の形式で開放されたのち、この国の美貌の末の王子ラファエル殿下の妃になって1番驚いたのは、祖国とは真逆の恋愛観を持つということだった。
amoreーーーー
何より特に、愛を基板とする国家であること。
トールが 一夫多妻制と言う事情(逆バージョンも少しはある)は、かなり銀河でも有名、それについてフレイヤも一応は知らないわけでは無かった。
ああだこうだと尾ひれをつけた様々な話は、自身の元職場である王立宇宙軍の女ったらし色事師の男性先輩陣から面白おかしく既に聞き及んでいた事実だった故だ。
しかし、具体的にどういうことかとは、この星で暮らすまで 見当もつかず。
ーーーつまりこうだ、愛はもちろん本気の恋には必ず責任も派生すると言う事。
軍事国家故の事情で恒常的な戦闘により、例えば1隻の戦闘艦が宇宙空間で沈むと一瞬で尊い数多の人命が失われる。
多岐にわたる艦内の職業、それぞれの職種の職員を想う悲しみの総数は100〜いや4桁に及ぶ事すらある。
母国や他の戦艦に乗船する、悲嘆に暮れる残された家族達の生活や人生の救済システムとして、王家・民間とも「一夫多妻制」、特例にはなるが「一婦多夫制」が法的にも堂々導入されている。
愛情とは無形のものだけではない。
物質面でも決して差が起きない様にする事は、しっかり法的にも厳しく明記されている。
例えば家長である男性が、扶養の妻のひとりにドレスを新調した場合、残りの妻達にも平等に同レベルか、でなければ金額的にほぼほぼ等しい品を贈るのが犯すべからずな男性側心得とされていた。
10人正式な妻が居た場合、10着の値段を揃えるドレス代を文句を言わず支払わなくてはならない。
〜これは家長が女性の場合でも全く同様、ひとりの夫に、何か嗜好品や車両等を買い与えた場合、残り全員の夫にも同じく等しく依怙贔屓せずに買い与えなくてはならない。
10人正式な夫がいる場合、お気に入りの夫が仮に競走馬が欲しいと言えば、残りの夫達用にも9頭のサラブレットを自分の裁量で購入せねばならない。
フレイヤは正直にこれは大変なことだと妙に感動を覚える。
もしも自分が家長の立場で夫となる人物が複数だったら、彼等全員を満足させ養えるのか?
男性の欲しがる様なオモチャはなぜか高額なケースが実に多い。
「まぁ何とか、経済的な部分は当然だとしても愛情もと言うのは実際、大変な事だわ!!」
「でも少なくとも喧嘩ばかり、些細な事で諍いの多かった父母よりもこの点だけは人間的にある意味まともだわ」
ーーーーそんな事を回想するフレイヤだった。
さて愛情面ではこんな習慣がある惑星トール。
愛と生活を共にするパートナーが戦地に赴くと、祖国に残された側はどんなに寂しくとも「愛」を捧げ貫く事を、最上の美徳、高貴さとして位置付けている。
一方、出陣する側も、自分を待つ人物を思い、別離の寂しさ・如何に深く相手を想っているかを、セッセと電脳通信にしたため熱く語るのがこちらも犯すべからずな絶対的聖なるマナー
〜というか、しなければ即離婚案件である。
よって毎日毎日、毎朝毎昼毎夜
極秘作戦中以外では絶え間なく気を遣い、情熱的に感動的な文言を衛星回線で語りかけるのだ。
嘘偽りも無く 本当に「毎日」の日課として。
〜よってネタ切れもしくは文章が思いつかない者のためには、こんな痒いところに手が届くサービスも充実している。
歴史的有名なフランス戯曲の主人公シラノ・ド・ベルジュラックばりの、ヒロインであるロクサーヌに捧げし恋の告白名文レベルが満載の、美文ガイドブックにハウツー電子書籍。
俺様、ワンコ系、癒やし系カワイイ系真面目男子系、ありとあらゆる様々スタイルの文例集も何でもござれ、バージョン別で唸る程に電脳にて配信されている。
当たり前だがそればっかり桃色台詞特化の人工知能ももちろん開発、毎日の様に何かしらの新作モデルの発表、恋愛市場花形ナンバーワンだ。
「君の事をずっと愛してるよ」
いつも素敵だね」
〜ならまだ初々しく可愛らしい極々初級編だ。
中級編では
「優しい唇を思い出すと 僕は夜も眠れない。
君にベッドの中よりキスを送ります」
「船窓から煌めく星々を見ると、僕のために微笑んだあの日の君の輝く瞳を思い出したよ」
「虚空に輝くあの星は、素敵な君だ。
あぁ流星になって君の夢に降りてゆきたい」
「光り輝くミルキーウェイ、初めて解いた君のドレスの飾り紐だね」
そして「上級編」になるとーーーー!!
「もう絶対無理!! 無理無理、ほんっとに無理!」
こんな〜〜あからさまな文面を送るだなんて!!
フレイヤはドキドキの動揺が収まらない。
ピー!でピー!でピー!なホットな直接的官能的な表現ばかりが最初から最後までギッチギチ隈無く並ぶ。
〜というか何所を無作為に開いても濃密な官能小説ばりである。
キャ〜〜〜〜♡♡♡な、中でも一番当たりが柔らかいものを、おそるおそるゆっくり目で文章を追っているだけでもフーーッと脳の中心が焼き切れそうだ。
むろん直接アクターが見本を演じる動画指南バージョンもある。
「どうするこうする」と実に細かい丁寧な指示付きだ。
「もしもこれを本気で大好きな人に言われたら」
当たり前だが芸術家が模範演技として本気モードで見せるメッセージ動画は、当然全てがカメラ目線。
美しい貌の瞳瞬きも極力抑え、顔を決して無用に不自然に動かさない態度、潤んだ澄んだ瞳でジィッと目の奥を覗き込んでの集中力高め姿である。
(こちらも「当然のマナー」だと、あえて最初のページや画像にデカデカ太字フォントで書かれている)
そんな事、大好きな男性にされたら自分はもう、全力疾走で逃げるしか無い。
優等生育ち、融通の利かない生真面目なかわゆいフレイヤである。




