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恋の結末 ⑤

明々と照明が灯るクリスタルパレス建物内に入ると、ロームルスがアグライアの手を取る。



ロームルスは愛する錦鯉の住まう入り口の優美な池の端を通る。


沢山の零れんばかりに贅沢に咲き誇る花々の部屋を幾つも過ぎ、とうとう最奥の最も広く1番美しいとされる、庭造りの名工の手で常に特別に丹念に手入れされた広間で漸く足を止めるのだ。



アグライアは アッと思わず口元に手をやる。


「叔父様〜が??」


「ーーーーまぁな」


視線を逸らし少し照れ笑いを浮かべ、それでも横目でチラッと彼女に目を向ける。


そこには、クリスマス用の飾り付けを上品にほどこされた、まるで天井を突くかに見える見事な巨大ツリー。


沢山のーーーー沢山の、フワフワカワイイ ツリーの上、吊り下げられた天使の人形達が愛おしい雰囲気で。


トナカイやサンタクロースなどの、本当に手の込んだ繊細なジオラマ飾り。


そして何よりも、至る所に隙間無くギッシリと飾られた深紅の薔薇の花や、ふっくら咲き初めんとする蕾。


広場の、目に入る場所全てに美々しく 煌びやかにデコレーション。


アグライアは知らなかったが、愛の女神ビーナスの涙から生まれたという伝説を持つ、紅色の深紅な薔薇の花言葉〜



「情熱的に貴女を愛します」

同色の薔薇の蕾は、告白の意味を持つ事をーーーー



またロームルスが 拘りをもって用意した薔薇の、とある「本数」にも、大変重要な意味を含む。

 

その総数が指す意味とはーーーー 「真実の愛」の告白である。



「君はまだ今年1度も? クリスマスの祝いをしていなかっただろ?

それからーーーー」


ロームルスは ゆっくりと片膝を床につき、アグライアの両手を手に取る。


惑星トールでの「正式の」 ーーーー男性が行うプロポーズの様式。



「昔 小さな君の方から、クリスタルパレスで『逆プロポーズ』されたっけね。

あの時の返事をPerfumeを贈ることでシャレめかし誤魔化し 私はしなかった」



『そんな昔の事ーーー本当に覚えていてくれたのかしら?

言った私ですら 記憶に一切無かったのに』


あたふたする動揺に、ロームルスはクスッと笑う。

 


「アグライア姫、私と結婚していただけますか?」


ロームルスは着用していた上質のコートのポケットから布張りの リボンと鈴蘭の花飾り付き小さな箱を取り出す。


繊細な飾りはあの日の婚約の約束〜思い出の鈴蘭のパヒュームを模したからだろうとアグライアはすぐに解る。

 


ロームルスは丁寧に小箱を開封し、彼女に向けて捧げ持つ。


ツヤツヤなヴェルヴェットに守られ、艶めく宝石のリングが収められている。



アグライアはコクンと頷くのが精一杯、胸いっぱいでーーーー


ミステリアスな蒼い宝石が星のように燦然と燦めく大粒石のリング、ロームルスは跪く自らの手で愛しき女性の左手を取ると、白く美しい薬指に通す。



「ーーー綺麗だな、全てにピッタリだ」 ロームルスは満足げに微笑む。


「やっぱり君の瞳に、この色はよく似合う。

タレイアよりも 僅かに青みがかっているからね」


 

「ーーー綺麗 〜何という宝石ですか?」



「『ブルーモルフォ クリスタル』ーーージャパンで採掘されている宝石だよ、今回の冒険の記念にもなるだろう。

 

この石は本来地球に存在しない、どうしてだがダイヤモンド以上の高度を持つ謎の結晶体なんだ。


〜とはいえもう既に殆ど掘り尽くされていてね、産出する海底鉱山も先日閉鎖が本決まりだと惜しい事に ジャパン政府から発表されたんだ。


珍しい貴重な物質だが、本当によい物は君の美しく澄んだ瞳にそっくりな色なんだ。

結婚の約束〜婚約の誓いに贈るにはこれしか無いと思い、これはと言う原石を大急ぎで方々探したよ。

未来、凄まじく貴重な宝石になるだろうな。


そんな事はともかくーーーこの絶品の美しさは堪らない、優しい君の面影が目にちらついて眺める度に幸せな気分になれた」



アグライアは恋した人が、そこまで自分を見てくれていた事に胸が痛くなってしまうのだ。



「それからーーーー言うのが遅くなったが、誕生日おめでとう アグライア」


「ーーーー覚えていて下さったのね?」



スラリと立ち上がったロームルスは、『当たり前だろう?』

キョトンと不思議そうな表情を浮かべ首を傾げる。



「大切なーーー君の生まれた日の事を、私が忘れるはずは無いだろ?

それは〜ちょっとショックだな、将来の君の夫として。


ーーー何があっても私についてきてくれるかい?」



優しく大切に抱き締められ唇の上で交わされた愛の約束。


アグライアは香しい甘い吐息と共に しっとりと背骨まで蕩けそうなキスにて大切な、ずっと憧れ続けた愛おしい人に返礼するのだった。




クリスタルパレス 薔薇の甘い香り立つ空間、愛の誓いをかわす2人の密やかな 神聖な誓いを目撃しているのは、天空に冴え冴えと輝く 満天の星々の輝きと香しい深紅の薔薇のみ。



これ以後 仕事漬けだったロームルスの、過労死一歩手前の超不規則な生活は、巨大屋敷に共に住まう 愛しい新妻の元に戻るために大いに激しく改善されることになる。


これも全て偉大な 恋の力。





「アーーーよかったよかった。


いやぁ〜〜〜ロームルスが仕事のしすぎである日突然バッタリ、若くして心筋梗塞で死んだら本当にどうしようかと思ったよ?!


誰が私ーーーを 彼以上の能力と実力で支えてくれるんだい?


なぁーーー?? そう思うだろ? お前達も??」



彼の盟友が愛しい可愛い人と、上手く行ったとの嬉しい報告を受け取った際、リーズ大王はニヤニヤと側近のアーサーとガラードにそう語ったという。


「全くです!!」



今回の慶事はーーーーーー「本当に良かったな!」


強面ながら実は心配性でもある有能で忠実な側近、アーサーらを驚喜させる。


かくしてロームルスとアグライアの婚約の報道は、お節介な王命にて迅速に行われる事となる。



*************



怖い物なしの ロームルスにとってただ1つ 気がかりだった事があった。



それはマスメディアの反応ーーーー


銀河星系をまたにかけ、真実を追究する活動を行う、どの国からの収賄にも絶対に屈さないという事で有名な鉄の報道集団。


電脳ジャーナルの存在だった。


 

嘗て自分は惑星フレイの攻略に於いて散々に非道すぎると電脳ジャーナル社主・主幹とやりあった事実がそれはもぅ、呆れるほど記憶にも生々しい。




「お前が『狼』だと言う事がよくわかった。

人の心を持たない野獣のお前がーーーーいつか人を愛する時。


その時。


俺達は散々にーーーー お前を心より呪い嘲笑ってやるからそう思え!!」


ロームルスは 『笑止!〜何をコイツら馬鹿げた世迷いごとを言うんだ?』


で〜せせら笑うどころか、更にこれ見よがしに挑発的高笑いをして見せた上で


「やれるものならやってみるがいい」


ーーー全くもって全然言わなくても良い捨て台詞を得意げに、しかも鼻息荒く高らかに言い放ったという、しょうも無い勝ち誇る自分を思い出すのだ。



「覚悟をしとけよ」


と、極秘会談相手の主幹は不気味に眼をぎらつかせて言い放ち、話し合いは決裂した。



あの時自分は、まさかこうなるなどという事をーーーー

愚かな事に 露程も予想をしていなかった。



あの誇り高く反骨心溢れる男は、絶対にあの最後の会見の事を。


〜陰で護衛する彼の部下の面前にて完全否定、激しく恥をかかせた自分の事を今でも決して忘れてはいないだろう。


自分の事をどう悪口雑言、呪いと共に書き立てられても構わないーーーが。

愛するアグライアが、批判と嘲笑に晒され、毒々しい悪意による残酷な中傷誹謗の的にされるのだけは耐えられない。


「彼女が苦しむ姿だけはごめんだ」



本当に今更だが、自分の愚かさとどうしようも無い舌禍癖を呪いに呪った。



ーーーーつまり全て自業自得、後の祭りなのである。


公正を旨とする彼らが「私情」に走るとも思えないが。

〜かといってあの有言実行の鐡の集団が、誇り高き名誉を傷つけられたままで放置するとも手加減するとも思えない。


つまりは誰もが「狼」と恐れる男の 初めての敗北だった。




ところが ロームルスにとって全くの予想外の事が起きたのである。



電脳ジャーナル配信記事に悪意ある表現で書き立てられるどころかーーーー!!


極めて魅惑的な〜幸せそうな表情を浮かべるアグライアの、誰もが頬を染めるロマンティックな記事の配信〜


飛びきりの可憐なロマンスとして大々的に特集。

それも透明感溢れる麗しの妖精の如しの繊細極まるホログラム映像が添えられて 銀河世界に一斉に送信、発表されたのである。



「ーーーーどういうことだ??」 



〜呪いと嘲笑いは何処へ行ったんだ?!


ロームルスは まるで狐につままれたような心持ち

『一体全体何があったのか??』

 


理由に思い当たる事が何もなく、もうすぐ結婚式を執り行う、心から愛する大切な人に さり気なく水を向けてみる。



「そういえば? 城に滞在中、総責任者の素敵な方に、とっても奇妙な事を尋ねられたの。


『慣習で 客人であっても、たった1つだけ〜どんな願い事も叶える』って。

だけど 私はその権利を放棄したの。


だって、もう散々にお世話になったから、それ以上は申し訳なくって。


『そんな人は今まで初めてですよ? アグライア様は随分無欲な方なんですね』って〜

私は所長様にそう言われたの」



ロームルスは がーんと雷に撃たれたというよりも、全身を強打されるに似た直感が閃く。


「彼女だ!!」


ロームルスは直ぐにリーズ大王経由極秘回線より 「城」所長である城主と連絡を取る。



「ーーー何ですか? 血相を変えて」

 

「電脳ジャーナルーーー

配信記事は、あれは君の尽力、裏からこっそり手を回したからだろう?」



ああーーーと、類い希な美貌が 少し悪戯げに表情が面白そうに微笑む。



「だってアグライア様 〜貴方には本当に勿体ない謙虚で善い方だもの?


あの方でしたらもっと幾らでも、掃いて捨てるほど、お若くて性格の良い適当な殿方がいらっしゃるでしょうに!


本当に『恋は盲目』で 困ったものですわ?


全く、何処かにいらっしゃる恋愛の神様は、ヤンチャで悪趣味でホントかないませんね!」



『〜よりによって あんたがそれを言うか! それを仕組んだ鬼はあんたでしょう!!〜

なんてねーーー子龍にまた怒鳴られそうだけど?』

 

 

城主は心の中だけでフッフッフッと こっそり含み笑いをするのだ。



「城に特別な『慣習』が おありだとか?」


「ええ、しかし あの方はそれをお断りになられましたわ?

そんな無欲な人間に私はお会いした事がございません。


長い間迷宮入りとされたーーージャパンが運営する某スペースコロニーで起きたスペースシャトル爆破テロ事件。


ロームルス閣下は最悪のあの事件が最近、電脳ジャーナルにより解明され、主犯のフィクサーと犯罪組織幹部が軒並み捕縛、裁判にて起訴され現在係争中だと言う事をご存じですか?」


「あの事件か、記憶に残るーーー悲惨な悲劇だったね。


私も少なからず義憤に駆られ調査、しかし背後に大きな闇の存在が見え隠れし情けないが、地球から遠い惑星住みの個人では 手も足も出なかった」



「私は、被害を受けた関係者の方々と、ひょんな事で職務である収監を切っ掛けに 知り合いました。


電脳ジャーナルに 事件詳細のレポートを

ーーー確たる証拠をつけた上で、トップにリークしたのはこの私です。


あそこにはその事で、個人的に大きな貸しがありました。

閣下と電脳ジャーナルとの激しき軋轢も聞き及んでおります。


本来我々は中立な立場です、が、何事も例外はあるのですよ。


タダで美味しいスクープ記事をモノにした事実。

その時の恩義〜

私の労力と引き替えに、アグライア様への風当たりを、そちらで少しでも和らげていただけるよう社主・主宰 主幹の方にお願いしたのです。


『閣下の 提灯記事は書けないが、うら若き姉君思い、勇敢で勇気ある純粋無垢な姫の名誉を汚す事は男として恥ずべき事!


わかりました、今回その様な事はさせません』


ーーーーそう確約が取れました」


「〜〜〜〜〜〜!!」



ロームルスは絶句、あの配信記事の裏側で、その様な駆け引きが行われているとは思わなかった。



「私がアグライア様を気に入って、すべて気紛れに行った事です。

別に見返りが欲しかった訳ではございません。


全く、あのお嬢様はポロポロ泣き虫なくせに 驚く程に無鉄砲で勇敢でーーー


『狼』とあだ名される すわ恐ろしい貴方の事を、どうしようもなく、心の底から本気で愛する健気な彼女の事を、この先 生ある限り、ずっと大切に幸せにしてあげて下さい。


それがコチラからの、今回の労働に対する要求です」


「有り難うございます」



ロームルスは深々と頭を垂れ、どうしようも無く涙腺が緩みそうだったが なんとかグッと奥歯を噛み締めこらえきった。

 


「どういたしまして。

それよりも ウチの信繁、必ず返して下さいね??

 

そっちにアグライア様への護衛で出張扱いで付き添った彼がいないと、こっちも仕事がたまってたまってーーーホント しょうが無いので」



城主はニコッと〜全く大したことも無さげにロームルスに微笑みかけるのだ。



春風のような優しい微笑み〜


彼女にトール歴代の大王及び 軍事参謀長官達が皆 うっとりと心酔しきった理由が 改めてわかった気がしたのである。



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