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恋の結末 ④


「さてーーーと、疲れたろう??

先ずは食事を取ろう、アグライア」



混乱の余り、アグライアは何がなんだかわからなくなった。



『フレイヤ様の旦那様〜王子様へ嫁ぐお話はどうなったの??』


〜まるで何も叔父から聞かされておらず、全てがモヤモヤと疑問符で彩られて。


 

ロームルスはアグライアを 自身の専用飛行艇に乗せると 「では頼む」

ーーーそれだけ言い、パイロットに飛行艇を発進させる。


 



「着いたーーーーここだよ」


「わぁ〜〜〜〜〜!!」 



『綺麗ーーーーーー!!』



到着した場所は彼女の言う様、今正に広々した地平線に 夕日は穏やかに沈もうとしている。


茜色と紫の細雲の見事なコントラスト、見渡す限り広々と広大な夕暮れの景色。

暮れなずむ空を渡る、ねぐらに向かう鳥達の一群。

今は冬ゆえに葉を落とした低木に剪定の葡萄の木々の群れ。


目に映る全てがうっとりする雄大なおおらかさを含み、混乱の最中である彼女の心をさらった。


ロームルスがアグライアを招待した場所、小さなシャトーは、彼女の想像を全く超えていた。


彼女の故郷とは違うが、何処か郷愁を誘う素晴らしい大自然の中にあった。


シャトーを一部改築して出来たレストランは、空気の綺麗で清涼な高台にある。


ロームルスが彼女を招待したのは、1日たったひと組しか予約を入れないという会員制レストラン〜!


マスメディアに一切出ない、本当に限られた人間しかたどり着くことすら不可能という別格の店舗だったのだ。



本当に特別のーーー

記念日の客しかオーナーは引き受けてすらくれないという、途轍もない隠れ家。


経歴としては、その昔、王城のレジェンドと言われ大勢から惜しまれつつ引退したシェフが、実家のシャトーに手を入れ、趣味的に経営する店。


レストランの窓に ポポポッと温かい光が灯ったのが見え、その灯火が幸せの象徴に映る。


アグライアはロームルスにそっと何も言わず手を引かれる。


こんな風にロマンティックに手を繋いだことは記憶に無くて、2人とも無言で、一切の何も 言葉を発しなかった。


アグライアは、一言でもウッカリ喋ったら夢のような魔法が淡雪のように解けてしまいそうな気がしたのだ。



「ーーーーですか?」

「ーーーーーなんだ」


「それはーーーー でとうございます!

ようございーーーーーすてきなーーーーま ですね。」


「あぁーーーーしい」

「それはお祝ーーーーないと?! で、いーーーーーーー?」


「ーーーーにしたい」

「クリスターーーーーか!?」


「あぁーーーーな?」

「いいじゃーーーーーか!」

 


ロームルスは、穏やかな口調で伝説のシェフである大将と、和やかに何やら話し込んでいたが、彼女はフワフワと心ここにあらずーーーで、全く耳に入ってこず、叔父が予約した素晴らしきレストランの食事の味がドキドキしすぎ まるでわからなかった。


 

ゆったりと長く続くコース料理が終わり、最後のメニューであるシェフの自慢の料理〜


手の込んだ 飴細工のリボン、カラフルなフルーツの可愛らしい素敵な飾り切りで盛りつけられたレストラン名物〜

新鮮で極上の素材のみで作り上げられた 滑らかで優しい味のジェラードが、恭しく目の前に運ばれる。


その時になって、ようやくアグライアは「謎」を口にする。


「あのぅ、私はラファエル殿下の元に嫁がなくても宜しいのでしょうか?」


「あの話はなくなった」


ロームルスは素っ気なく それだけ言うと、食後に供される砂糖入りの濃くて甘く 舌が焼けそうな程に熱く、深い香り立つコーヒーを飲み干す。



「?! ーーーーーどうしてですか??」

アグライアの問いかけに叔父は何も答えず シーーーーーンーーーーーー


気まずい 長い沈黙が流れる



『何か困った、手に負えない事件でもあったということかしら?

そういえばーーー大王様の仰っていた、あの場所〜って何なのかしら?』


考えれば考える程 無意味にグルグルと思考の迷宮にはまり込みそうだ。


 


「今からもう1度 遠出をするけれど、君は疲れていないかい?」

 


オーナーと柔やかに、別れ際に固い握手をかわしたロームルスはレストランを後にし、再び彼女と共に彼専用飛行艇に乗り込むと、ここで新たにアグライアに言葉をかける。

 

何気ないその声に、彼独特の労りの優しさが滲み出ている事に気がついた。


「少しーーー」

ここで彼女は、ハッと目を見開く。


何故ならば今までだったらーーー例え疲労困憊でも「大丈夫です」と叔父に、虚勢を張って笑顔で答えていただろう事に突然思い至ったのだ。



正直に素直に〜叔父に感情を、当たり前のように伝える事が出来た事に他ならぬアグライア自身が驚愕。


その様子にロームルスも、姪の何かの変化を 感じ取った様子に見える。



「君は軍籍でも政治家でも無いのだから、もっと、自由に豊かな感情を出していいんだよ??」


ロームルスは碧い目を細め、つい恥ずかしくて目を伏せる彼女に微笑み 優しく語りかけるのだった。



肩を振るわせるアグライアの瞳から、ポロッと銀色の雫が頬を伝ったかと思えば、堰を切ったように 後から後から溢れ始める。


ロームルスは普段着席するソファー定位置の場所から腰を浮かし、音も無く立ち上がるとゆっくり彼女の横に座り直し


「今まで何もわかってやれず すまなかった」



微かに嗚咽し、顔を両手で覆い隠し震える彼女の体を優しく、しっかり両腕で抱き締める。


「あのオーナーは私の古くからの友人でね、お互い同じ頃、それぞれの天職と定めた仕事に就いたんだよ。


私が出会った頃、彼は厨房の片隅で可愛そうに、銅の鍋で彼の才能を妬んだ先輩に殴られていた。


どんなにピカピカに磨いても、〜まだ汚れてるからやり直せ!!〜ってな。


私は私で、無理に酒を先輩から大量に飲まされて吐瀉した同僚を背中を摩り介抱し、裏通りで途方に暮れながら 世話を焼いていた時。

 

偶然、顔をパンパンに腫らしてゴミバケツにもたれかかっていた彼に出会ったんだ。


『どうされたんですか?』 優しい男気のあるオーナーは〜あぁ当時は青年だったがな。


直ぐに異常を察知、近くにあった狭い自分の部屋で友人を休ませてくれたんだ。

流石飲食業の人間で、彼は慣れたもんだったよ。


『これを飲んで!』大量の水を飲ませ、トイレで喉に指を突っ込んで胃洗浄を。


その同僚〜技官だったんだが、あと少しで急性中毒の一歩手前、本当にきわどいところだった。


漸くなんとか大事にならずに、起き上がれるようになってから、お互いの野心というか、将来の夢を3人で、ポツポツ狭い部屋で語り合ったんだ。


その時ーーーー私と友人は 固く約束してね。


『これ〜!という大切なパートナーを得たら必ず君が作る料理でお祝いするよ』

『おうおう 任せとけ!!』


今夜やっと、その遥か遠い時代の約束が果たせ、私はホッとしているのさ。


何度 『オマエは〜!! 本当に俺との約束守る気があるのか?』

ーーーーなんてな。


冗談めかせて1人で彼の拵えてくれる絶品料理を食べる度、散々オイオイと小突かれたよ。


君のことを打ち明けて相談した際、『任せとけっ!』


満面の笑みでそう誓っていたよ、君に〜結婚の許可を出すリーズ大王陛下以外でトールの人間で一番最初に婚約の紹介、純真な君に会えて本当に喜んでいた。


『素敵な〜オマエには勿体ないカワイイお嬢さんだな!!』

さっき、そう褒めていたよ」


「えっ?!」


アグライアは、心づくしの大切な料理を呆然としながら食べてしまったのが申し訳なかった。


「ごめんなさいーーー」


「多分君の事だ、何がなんだかわからなかったろう。

でもーーーそれでも、全ての料理を綺麗に平らげてくれたじゃ無いか?

 

以前のレストランでは、心ここに在らずでこんな風じゃ無かった。


君は今日、全然違っていた。

とても幸せそうに、ひと皿ひと皿 大切に味わって食べていたように見えたよ」


「ーーーーー」


「色々と落ちついたらもう1度、改めて彼の作る料理を食べに行こう。


実はーーーだ、あのレストランの素晴らしい内装はな、さっきの話の酔っ払い技官が退職、実家のアパレル会社を継いで彼と私で研究開発した特殊繊維で出来てるんだ。

 

接着剤も毒素なし、防炎防カビ〜優れた耐久性を考慮して作った素材、彼のレストラン開業のお祝いに2人で〜


いやーーーー! 

賢いアーサーや、美的探求に優れたガラードにも審査して貰い、全館プロデュースしたもので大変だったが楽しかった、客筋にも大変な好評なんだよ?」


ロームルスはちょっとばかりフフンと得意げに語るのだった。



「叔父様ーーーー」


『そんなに色々と私の為に〜ごめんなさい!

信じ切れなくってーーーーごめんなさい!

本当に〜〜〜〜ごめんなさい』



「君は笑っていた方がいい」



隣からキュッと抱き締めると、ポロポロ再び腕の中で泣き出してしまった彼女の前髪をやさしくかきあげ、紳士的に礼儀正しくキスを額に落とすのだった。



アグライアは飛行艇がクルクル旋回しながら降り立った時、やっと大王の言った「あの場所」が何処だったのか理解する。



そこは王城 大植物園の温室「クリスタルパレス」


もうすでに施設は閉鎖、とっくに門扉は閉められている筈の遅い時間帯にもかかわらず全館全ての灯りは点灯、キラキラ輝きは宝石のように眩しく、水晶の如しのガラスを通して温室内部から煌めく光を透き通らせて反射させている。


ーーーー透明度抜群のガラス造りの建物全体が燃える炎に見える。



『うわぁーーーー』 アグライアは思わず声を無くす。



まさにその名の通りーーーー正しく水晶宮であった。



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