恋の結末 ②
「謁見の間」は広大かつ華麗な広間である。
「どうしてリーズ大王〜 陛下はいつも格式ある『玉座』に座られないのですか?」
ロームルスは怖い顔で睨み付ける。
「なんで? ーーー今更だろ、お前と私の仲じゃないか?
どうしてあんな座り心地の悪い古くて固くてカビ臭い ゴリゴリの椅子に自分だけ座らなければならないんだよ、不公平だ!!
私だって皆みたいなふかふかな椅子がいいんだよ、1回でもあそこに座ってみたら君もわかるよ、拷問だよ〜?」
「そういう事を平気で仰るから、固くて真面目な、王家の行儀を教える侍従長に毎度毎度 私がガミガミ『平民が王者を誑かす』しつこく叱られるんですよ?
『ジャパンからその昔、王家に嫁いだレディー桜様はあれ程に素晴らしかったのに、どうしてこんな生粋のトール王家の人間がこうもだらしないのですかね?』
ーーーー会う度に 私が嫌みを言われるんです!!
もうお互いいい歳で、寮同室の学生時代とは違うのですから。
リーズ様もキチンとトール大王らしい体面を保つ努力をして下さいませんと困ります、まぁ自分との面会時は諦めますが」
「う〜ん やっぱりお前は話がわかる!!
で!お願いだから今日だけこの椅子貸してくれないか?」
「だから何でです?!」
「だってさーーー?
お前の物は何でも良く見えるんだよ、いつもいい物を揃えてるからなーーー」
「それは私の椅子です。
形が変形するような 変な座り方はやめて下さい!」
ロームルスはブツブツ零す大王を、しっしと無情にも一段高い位置にある立派な玉座に追いやった。
「しょうが無いなぁ」
そう言いつつも、渋々従う姿が、いかにもこんなやり取りが常日頃行われていると想像された。
トール大王との「謁見の間」は、新年の行事のためにこもかしこも新品の新しいものと取り替えられ飾り立てられていた。
こぼれんばかりの美しい花々が、ピカピカに磨き立てられた銀製の花器に盛りつけいけられ、甘くふんわりと馥郁とした良い匂いをあふれさせていた。
1段高い場所に据えられた玉座の前に、会議に使いやすそうな長テーブルが デンと据えられている。
そして最も上座に当たる上席の場所には、とある椅子が備え付けられている。
長時間着席していても全く疲れなさそうな高価な、肉体工学を極限まで追究した機能性抜群のロームルスお気に入りの椅子である。
それは毎夜ずっと延々と続く仕事〜会議続き等で、やむなく人の肉体が耐えられるように用意された大切な命を支える道具であり、凄まじい日常が偲ばれる品でもある。
ところがそれに先程まで トール大王は、あろうことか悪びれも無く、それもあぐらを掻いてどっしり座っていたのだった。
大王は輝く黄金の金の髪、巷に流布するホログラム映像よりもずっと若く活力に満ちた人物。
『映像よりもずっと何倍も綺麗な方だわ!!』 アグライアは息を呑む。
「やあ、君が妻達が口々に『噂』する秘蔵の姫君〜 アグライア姫だね?
ガードが硬いロームルスが、私が出席する王城のパーティーには 絶対に連れてこなかった訳がわかったよ、これほどの可愛い姫君だったらまぁ〜当然だな」
「ーーーお戯れをお止め下さい。
偉大なるリーズ大王様の恋愛ゲームには不向き 全く適してはおりません」
「それは残念だな」 大王は楽しげに朗らかに笑う。
それに対しロームルスはブスッとした顔で、構わず謁見の本題に入る。
「お渡しする資料は3つですーーーーこれが1つ目の資料です」
長テーブルの上に カタリと、電子端末を置く。
綺麗にビッシリまとめ上げた電子書類が入力され、バックアップなし、ハッキング防止のため電脳に繋がらない仕様、装置のコピーすら不可、特殊タブレット端末である。
「では大王様 お納め致します。
ーーーアグライア 〜あのケースを出しなさい。
それから多分、今からの話は長くなるから君達も 立ってないで自由に座りなさい」
「ーーーはい」
「では失礼致します」
アグライアは おずおずと叔父の隣ーーーー
下座に着席すると、すんなりとした首にずっと大切にかけていた、大ぶりだが軽量の特質を持つ、今にも溶ろけそうなキャラメル色の琥珀製ペンダントの鎖を引き出し、先端部のみを 細く繊細な指先でつまんだ。
ロームルスは礼装のポケットから〜 カード型の小さなコントローラーを取り出すと、アグライアに向け 躊躇わず数字コードナンバーを、ピピピピッと何桁も押すのだ。
カチャッと微かな音をたてて鎖から、キャンデーに似た美味しそうな琥珀ペンダントヘッド部分だけがあっさりと外れる。
アグライアが対角線を指で挟むキャラメル色の元ペンダントヘッドの中には、ケースの中央に貴重な「神殿」座標地図のデーター、城で渡された記録チップが納められている。
城で城主が偽装で命じて作らせた装飾品で、色彩が糖蜜が如くに白くクリーミーなせいで中が全く見えず、しかも元々相当に重量が軽いので、内部に物品が仕込まれていたとしても扱いやすい。
「どうぞ」
アグライアは叔父の前に ケースを指先で提出する。
「本当によく頑張ったな」
ロームルスは深く頷き受け取ると さっと席を立ちツカツカ歩くと端末機と共に大王の前に差し出した。
「これが2つ目です」
「でーーー3つめの資料はーーーその方が?」
「えぇ、先程さっと目を通しましたが実に簡潔で素晴らしく 戦艦襲撃事件要点をキチッと押さえ、しかもわかりやすい見事な報告書です、流石ですよ。
ーーーではこれを」
ジャパンでの襲撃事件、詳細な「報告書」、それを納めたメモリーチップは3つ目の資料として。
ロームルスの手により、スッと長テーブルの上に置かれた。
その後、随分長時間が経過、複雑な話し合いがとうとう終わろうとする頃だった。
大王は側に控えた小姓に、ある人物を「謁見の間」に呼ぶように命じる。
「軽装でも構わないと伝えてくれ。
彼女はどんな時も瑞々しくて、生来の輝きでそれは美しいからね、余計な飾りは寧ろ必要ないのだよ」
トール大王が 小姓に呼び寄せるよう命じた人物。
彼が溺愛する〜1ヶ月程前、末の王子であり、大王が溺愛する子息ーーー
「トールの大天使ラファエル殿下の妃、フレイヤ妃であった。
『とうとう あの話が始まるんだわ』
アグライアは小さくカタカタ 指先が震え始めた。
その姪の様子を、ロームルスは横目でじっと観察をしている。




