帰国へ ⑤
「いきなり起き上がると辛いですよ?
先ずはこの薬をお飲み下さい。
ーーー単なる 頭痛によくきく痛み止めです」
「何がーーーあったんですか?」
「貴女は 悪者に拉致されたんです。
でも成敗しましたので、こんな怖い思いはアレが最後です。
アグライア様は 本当に冷静に頑張ったと思いますよ!」
訳がわからずポカンとする表情のアグライアの前に天使の微笑み〜にっこりと笑む雅よりコップ1杯の水と1粒の錠剤、医薬品セットが差し出される。
「フレイヤ王女様がーーーあぁもうお妃様ですが。
彼女のシューズに、気心の知れた医療スタッフの発案で、城を出る時、こちらでオンオフ可能な微弱電波の発信器が踵に取り付けられていたんです。
〜妊婦さんだから、お体からなるべく離れた位置で。
しかし、絶対身につけておられる『靴』が良いと個人的に思います〜
その 小さな機転のお陰で、我々は直ぐに暴漢が襲い来る現場に急行出来ました。
今回もーーーー何も無ければ勿論いいのですが、もしも何かがあったときの事も考え、24時間で電池切れを起こす発信器を失礼ながら取り付けさせていただきました。
プライバシーの観点から半永久的に〜の装置ではありませんのでご安心を!!
そのシューズ、凄く素敵に似合います!!
あ〜〜〜〜
同じデザイン〜お姉に作ってあげようかなぁーーーなんてーーー僕 思ってしまう程にすっごく可愛くてとっても足が素敵に綺麗に見えるんです!
うちの班員も、実は美しい御御足にボーッと目が釘付けだったんですよ?!
ですので、この先も大切に愛してあげて下さい」
雅はゆっくりとした口調で優しく語りかける、
「僕達は直ぐに城と連絡を取り救出後に速攻、新たに上空に飛び戦艦上部の最も目立つ位置の甲板ヘリポートに機を強行着艦させました。
貴女を担いだのは班唯一の女性職員、最も長身の力持ちの彼女ですので、彼女ならば男の俺よりもスマートな対応が出来ロームルス閣下も絶対に安心なさる筈!と信繁さんは言いました。
〜あの可愛いウサギちゃんのぬいぐるみをフレイヤ様に託したのが彼女なんですよ!
とんでもなく戦艦は広いので、いちいち細々説明するより勝手に向こうからやって来る様こちらも敢えて仕向けた訳で、当然まぁ〜大騒ぎになったんですが?
理を持って説明しても聞き分けの無い 面倒な相手は、信繁さん子龍さんの2人で瞬殺しました。
今だに相手は医務室の別の区画でキューッと伸びているって話です。
『偉いさん』は、誉れ高いトールの軍人なのにそのざまは何だ!
それに馬鹿なのかお前達は情けない!!っとーーー頭から湯気出して、さっき激怒していましたが。
そもそも信繁さん子龍さんペアのあの最強バディに勝てる訳ないんですよ、そりゃそうですよ!
信繁さんは 高校時代3年連続優勝というとんでもないタイトルホルダー。
某武道の支部長であり職場では今や〜100人以上居る厳つい生徒を導く教師です。
子龍さんも指導員になりたてですが段位的には 最高位の黒帯、でっかい重戦車が2台暴れまくったようなモノです。
こうした事を想定し、頭脳派の信繁さんはナスチャ〜女性メンバーに貴女を任せて自分はあらゆる護衛に徹しました。
ほんっと 運悪く何も知らず彼らと対戦したトールの方々は気の毒ですね」
雅は首をフリフリアグライアの意識がない間の出来事を語るのだ。
「あの空間の照明を 自在に操作したのは僕です。
今僕が膝に乗せているこれが翻訳機も兼ねている、人工知能搭載の部外端末にハッキング可能だったりとか?
さまざまな事柄を一手に引き受けられる自分にとって本当に優秀な相棒な訳ですよ。
それからーーーーー先ず子龍さんが。
あの格納庫、高所の回廊で、視覚的に動揺した間隙を縫い リーダーを狙撃。
貴女に、揮発性麻酔薬を嗅がせたのは信繁さんです。
意識を失い倒れると同時、不夜城開発の音響緩和パテで聴覚を保護、あの場から速やかにお体を運び出しました。
『アグライア様は音楽の分野の 優れた芸術家だ』と〜聴覚の完全な保護は最も信繁さんが強く主張した事でした。
その後、僕達はお約束の、音響・閃光、催涙弾全てを放り込み、あの場を短時間で制圧しました」
雅は彼女のショックを表情を見ながら計算し、なるべく柔らかくソフトな表現で語りかけた。
「相手は大量殺人すら意に介さない傭兵でした。
僕の遠方からの照射によるスキャニングで、あの場にいた全員、自身の生命が消えると同時、体内に埋め込まれた小型時限爆弾が作動するという 厄介極まりない相手だと確認が取られたので〜
子龍さんの射撃の腕を見込んで『一発勝負の賭』
ーーー生命の危険が無い、ある意味安全な場所への狙撃を行いました。
でももしも失敗すれば、爆発の危険がある訳です。
最も生命が危ぶまれたのが、他ならぬ 拉致され、リーダーと至近距離にいるお嬢様だったのです。
子龍さんの狙撃と同時に、間髪を入れず、信繁さんが単身 救出に全速力で飛び出しました」
「そんなーーーー!!
もしーーーその作戦に失敗したら?
ーーーーー信繁様は〜〜どうなっていたの??」
雅は困った様子で頭を振る。
「勿論 巻き込まれました。
リーダーの男の死亡と共に、瞬時にーーー木っ端微塵に爆死していました」
アグライアのサッと真っ青になった表情を見て、雅はニコッ 軽やかに微笑む。
「この作戦は 長い付き合いの、お互い阿吽の呼吸が通じ合う驚異のあの2人だからこそ実現実行可能でした。
ここ1番のチームワークは、本当に素晴らしかったです。
本気であの2人がタッグを組んで、よもや死ぬなんか絶対にありません!」
それを聞いてアグライアは安堵のあまり、瞳からーーーー
後から後から涙がポロポロこぼれて止まらなかった。
雅は優しく清潔なハンカチを彼女にそっと渡すのだ。
「リーダーとおぼしき男がーーーー狙撃が成功し 無力化されれば。
後は指揮系統不在の為 何とでもなりますから。
信繁さんが子龍さんと喧嘩しつつ彼らを生かした理由は、身代わりにされた方の救出、拉致監禁場所の特定があった為です。
〜多分出血で、身包み剥ぐトール軍の制服が破損するのを彼らも恐れたせいでしょう、あんな非情な集団から辛くも生き延びたのは奇跡的な強運な事ですよ。
ですがこんな広い艦内では、仮に命があったとしてもいずれ衰弱死が避けられませんでした。
僕達は、古来ジャパンの戦国時代から地の利を生かした戦法〜
特に戦国時代における山岳戦『山城攻め』の戦略を熱心に研究しています。
歴史はーーー経験則の塊。
何処かに膠着する困難な現状を打破するヒントがあるものです。
ヘリは固定翼機のような高所の場所には向かない為、自分達にとって死活問題だったので。
どうしたら難攻不落の、人はとても通れないと思われるルートから攻め上り相手を落とすかーーーを。
優秀なクライマーとして山岳地帯に精通した信繁さん発案と指揮で、ホントに何度も討論しタイム計測をし。
ホログラム映像でも 仮想イメージトレーニングをしているんですよ。
今回その経験と訓練が とても役に立ちました」
「でも、私には、一体何処にいらっしゃったのか、全くわかりませんでした」
「それは『城』の秘密兵器のお陰で、実験機の光学迷彩システムの最小の応用です。
ですがどうかここだけの話、ロームルス閣下にはご内密に♪」
『そうかーーーそうだったのね!』
アグライアは「種明かし」〜あまりの鮮やかな救出作戦に感嘆の溜息を漏らす。
しかしーーー 一方どうしてもわからない事もある。
「あの〜どうして彼らが『偽物』だとわかったんですか??」
「ああその事ですか〜〜」
雅はクスクスと楽しげに 思い出し笑いをする。
「僕は予めーーーー
今回ジャパンに訪れるトール軍の今回の最新鋭戦闘艦全クルーの内部資料をハッキングしていたんですよ。
電脳のサイバー空間のあれやこれや 仁義なき戦いは何処もやっている事です。
入手した資料では、顔や履歴以外の部分が実際は特に知りたい事でした。
僕はむしろ、そんな見逃しがち、その他の裏側の事を重要視しています。
経歴は経歴、それよりも『何故そうなのか?』に、その人の本当の人となりが 丸ごと出るんですよ。
クルーの特徴や癖、嗜好がーーー僕は ほぼ全て頭に入っていました」
アグライアはポカンとした 「まさか、本当に全部??」
「そうです、それが僕の仕事です。
『暗記力』の特技のお陰で、『信繁班』のたった1人の欠員が出た時、僕は激戦の選抜考査に通過したんです。
全問正解は僕1人でした」
雅はニコニコと邪気なく微笑む。
「僕達に あの時対応したクルーの責任者の方は、電子書類へのサインインも 信繁さんへ行った握手も『右手』で行っていました。
しかし僕の資料によると、彼は明らかに『左利き』だったんです。
もっとも、彼が信繁さんと同じ様に普段は利便性の高い『右利き』として生活しているのかとも思ったので、ちょっとしたテストを行いました」
「まさかーーーあの電子ペンを落としたのはーーーワザとだったんですか!」
「あまりこういうやり方は、実際 褒められた事では無いんですが。
しかし咄嗟の反応、どちらの利き手が出るか〜は本能に基づいた行為なのでまず嘘がつけません、人間の身体はそういうふうに出来ています。
それにもう一つ、彼は電子ペンを手に取った際、明らかに『利き目』が右〜
視力でも左右で必ず優劣、片側優位の方があるでしょう?
利目とはそれを言うのですが、彼の視線は右中心〜つまり『右目』で物事を見ていました。
不思議ですよね〜資料では彼は『左利き』なのに? ありえない事です」
アグライアは雅の流れるかの、あまりに理路整然とした観察力に返す言葉が無かった。
「それから 後ーーーーこれを見て下さい、僕個人の『身分証』です。
ホログラムも何が何と書かれているか、照射してよく読んで下さい」
そう言うと、胸ポケットから彫金された金属プレートに、小型ブラックライトの円筒形装置を添えるとサッと前に差し出す。
「あっっっっーーーー!!!」
「気がつかれましたか? そうです、どこにも僕たちの身分証に『城』の文言が入っていないんです。
にもかかわらず、あの責任者の男性は『任務』と〜
しかも あろうことか、極秘収容施設〜『シロ』と発言しました。
信繁さんも直ぐに その事を怪しいとにらみました。
それで僕らは、貴女方が戦艦に入られると直ぐに城主と連絡を取り 救出に向けての対策協議に入りました。
おそらく貴女は案内で楚々とゆっくり歩かれるけれども、我々側は全力疾走で追跡、そのわずかなタイムラグにて必ず追いつけると、そこに賭けました。
とにかく緊急を要する事でしたので、薬品を使うなど、貴女に対し荒っぽい対応になり 大変申し訳なかったです」
雅はペコリと頭を下げる。
「では僕達はこれで」
雅は膝上で大切そうに抱え込んでいた翻訳機兼秘密道具をジックリと見下ろす。
「やっぱりーーーー喋った本人の『声』や『言い回し』が上手く表現出来た方がいいですね。
これでも充分だと言う方は 多いんですが」
まるで大切なペットを愛おしむ様に、彼は ぱたりと装置に手を置くのだった。
「信繁さんの連邦英語は性格無比、それにとにかく音楽のように美しいですし。
子龍さんの発声は クールで今時っていう〜 凄い格好いい感じがしますもん!
いつかきっと!!
そんな微妙なニュアンスまで伝えられる翻訳機を、僕は開発します!」
『翻訳機が紡ぐ友情ーーーそんな時代が来たら、当たり前のように出来る様になったら、もっと生きやすい世界が来るかも知れないわ?』
実際、アグライアは、優しい信繁の仲間内の会話が「??」だった。
気の置けない様子の会話に、自分も参加したかった。
新たに旧来の翻訳機を使おうにも いかにもで、それは自然じゃ無い仕草。
「私も そんな機械があったらいいなと思うわ?」
「僕が話せる様になるよりも、きっと早く世の中にでますよ。
いえ 出して見せます!」
雅は明るく微笑み アグライアにそんな風に言い切った。
雅の次に入室の、アグライアの様子を見に来た心配顔の素晴らしい長身の美女であるアナスタシアには、真剣に丁重にお礼を言う。
城主には既に、フレイヤから託されていた銀河を遥々超えて旅したウサギのぬいぐるみの返却と、今回の宇宙での模様を記録したチップを城に到着後、直に渡し終えていた。
「あの子の事、向こうでもあんなに大切にしてくれてありがとうございます、どうしてもそう言いたくて、フレイヤ様にも是非!」
「そんなの勿論です!!」
パァーーーっと顔を輝かしグスっと涙ぐむ姿を見て、こちらこそ命を助けてくださりありがとうと心を込めてハンドシェイク。
女性同士たっぷりハグをし、今後への友情の継続と、心よりの幸せなお礼を共に重ねるのだった。
そんなこんなの後、信繁班は来た時と同じく 風のように最新鋭軍事宇宙戦艦から退去した。




