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帰国へ ④


「あのーーーーちょっと宜しいですか?」


アグライアは恐怖で揺れる声と心を 必死に押し殺し、出来るだけ普通に聞こえるように発声する。



「この戦艦の艦長様は、こんなに機関部に近い下部にいらっしゃる事がおありなのでしょうか? 


事故〜いえ故障があったとはいえ、艦長室はもっと司令部に近い、どの様な有事にも すぐさま対応しやすい場所の『上階』ですよね?」



「たまには いらっしゃります」

彼はチラとも振り返りもせず、奇妙な猫なで声でアグライアに返答した。


一行はどんどんと尚も深く深く、アグライアが悶々と考えている間にもスタスタ歩みを進めていく。

 


『怖いーーーーー!』



誰もが無言、アグライアの小刻みに震える掌に嫌なじっとりとした汗が滲んできた。



『誰か助けて!!!』


祈りも空しく、鈍い 地の底を這うような重低音が取り囲むばかり、1本道で逃げ場は無い。



「さてーーーと、アグライア様ーーーーー」

 

それは突然。

ピタリと男は立ち止まり、アルカイックスマイルを浮かべてキュッと振り返る。


「随分我々を〜綺麗な顔をして 手こずらせてくれましたね?アグライア姫」



アグライアがーーーーー大勢の男達に 無言の圧力で追い込まれたのは。

回廊突き当たりの果ての、尚も薄暗い 大きな何もない筒状の空間だった。



天井の先が見えずグルリと高所を、やはり幾重にも回廊が巡っているが不気味な程に 人っ子一人いない。



「ここは最終兵器ーーー本来巨大ミサイルを収納する場所なんですよ。


今はジャパン政府の求めに応じて『武装解除』によりーーーーーーー

スペースコロニーに置いてきた為、入っていませんが?」

 


目を大きく開いたアグライアの面前で、担当官の男は右手の細く長く美しい指を首の後ろに躊躇いも無く回す。


不思議な事に、アルカイックスマイルは頬に張り付いたままだ。



「ヒッッッッッッッ!!」

アグライアはよろよろと後ずさる。



それは男の首筋からカチリと微かな音がしたかと思うと、信じられない光景が展開されたからだ。



最初の表情の、男の「笑い顔」のまま硬く凍り付き、一気に色彩を消失、薄い透き通ったグレーの塊が顔面を覆う。


目と鼻と口、耳の「穴」を残してへばり付き、頭皮には同じく銀の糸のような髪がヘアスタイルそのままに張り付いていた。


担当官の男「だった」人間は制服の衿の前を大きくはだけさせると、喉の遙か下に手を差し込み、そのままグイッと一度に軟体動物にしか見えない半透明の塊を頭部からむしり取る。



ハハハハハーーーーーーー


アグライアを取り囲む男達の間からどこからともなく忍び笑いが沸き起こると、不安と恐怖で小さく身をすくめる彼女の全身を黒い呪いの如く纏わり付くのだ。


現れたのは、先程の柔和な男性とは似ても似つかない人物〜目つきの鋭い壮年の男性。


襟元のボイスチェンジャーを最後に外すと、まとめてギュッと無造作にトール軍 制服ポケットにねじ込むとニヤリと微笑む。



「ヨシタカの作品はこうしていつも素晴らしく完璧だ、さて〜貴女には恨みはございませんが、生憎こちらも商売でしてね。


しかし〜まさか浮き世離れした理想主義者ばかりのこの国の軍人達に、よもや我らの百戦錬磨の英雄がーーー


〜ああ地球で『ゴーストシップ』だの『幽霊船』と呼ばれておりますがね、あの素晴らしい猛者達がいとも簡単に討ち取られようとは。


この目もくらむ怒りと悔しさは、お気楽な貴女には生涯理解できないでしょう。

彼らへのせめてもの手向け、貴女は供物ーーー恨まないで下さいよ?」



『助けて、誰か助けて!!! ーーー信繁様!!』



それは『仮面』を剥がした男ーー首領が、アグライアの細い首筋に、命の炎を消すべく両手をかけグッとひと息に満身の力を込める、寸前の出来事。



バッツ!!

突然、元々は薄明るかった格納庫内の照明。

周囲近辺が、いきなりパァッーーーーーー!!


真夏の直射日光か? 

〜はたまた太陽が照りつける真昼の如く、空洞全体、どこもかしこも一息に明るく光輝く。

 


ガシャン!!


瞬間、全て消えた。

何もかも闇の中に沈んだ。



「何事だ!!」

「目、目がーーーーー!!」



アグライアの周囲を取り囲んでいた男達は首領を除外、元々深夜帯の時間のせいなのか暗視用のゴーグルを、あらかじめ頭部に装着していた人間が意外に多かったのである。


何の前触れ無く、急激に光の光度が激変ーーーチェンジしたせいで、繊細なゴーグル機器の光学自動設定がこの激変についてこられない。


強烈に明るくなったかと思えば〜 今度は真っ暗闇という人工的環境の揺さぶりに対応出来なかった。

 

それは強烈な強い光を見たりすると誰でも起こる、所謂「残像」という人間の網膜が起こす悪戯。



「何だ!!」 一瞬の変事に男達に動揺が生じる。



「どういうことだ?!」


ゴーグルを身につけていなかった首領本人も、アグライアを突き飛ばし、両目を押さえて怒鳴っている。



『え??』

彼女の視線の先、遥か高所の何も無い空間が、ピカリ一閃したのは覚えている。


〜が、その先の事は、残念ながら。


ーーーいきなり背後から強い力で全身を抱き込まれ、鼻と口元に、柔らかくツンとする香りの物体を、強引に押し当てられ意識を完全に手放したせいで記憶にない。



ふーーーーっとーーーー意識を取り戻すと、自分が病室らしき場所のベッドに寝かされていた事に気がつく。



「痛っツ!!」



ーーー頭が酷く痛い。

 

まるで頭蓋骨の中に、ドクドク早鐘のように波打つ心臓があるかのようだ。

 


「気がつかれましたか?」


『え??』


そこには、信繁と同じ(に見えた)〜装備を、重そうに華奢な体に付けた雅がいる。


雅は無機質極まりない大量生産品のパイプ椅子に チョコンとキュートに座っており、彼の膝には見覚えのある例の翻訳機が どっしり招き猫の如く鎮座している。


元々ーーーー美少女と見間違えられたり、他惑星の人間からキンダーかと思われる童顔の雅。


なんだかチグハグで不思議、いまだ夢の中のような奇妙な感じである。


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