帰国へ ③
「何だか嫌な予感がするな。
エンジンは念のため、まだ切らない方が良い気がする」
「そうだなぁ、直ぐ 『飛べる』ようにしといた方が良い。
この先ーーーー何があるか俺にも判らん」
「ーーーーはどうかな?」
「そりゃフツー有るだろ? 名案だな」
信繁と子龍は密やかに 二人のみで急場の作戦を立てた。
煌々とーーーー特殊な投光器のお陰で、隅々まで日中の如く 白く白銀に輝くハネダ宇宙国際空港、遥かな遠方までよく見える状態である。
「報道ヘリが凄いな」
「まぁマスメディアの関心の的だからな」
信繁はコックピット副機長席で、ふーーーっと大きく息をついた。
「では行きます」
「このヘリの事は頼んだからな」
機長席に代理のパイロットを残し残りの信繁班メンバー全員で神経をとがらせ、アグライアを守る陣形で甲板に降り立つ。
「お待ちしておりました」
するとカツカツと靴音を立ててどこからともなく、トール側の戦艦クルー責任者が待ち構えるように接近してくる。
「アグライア様、ジャパン逗留及び任務ご苦労様でした」
左右に 屈強な護衛官を従えた、代理を名乗る トール軍側のクルー責任者。
『〜おそらく軍の広報も担当するのだろうな』
信繁は心の中で値踏みをし、目鼻立ちが整い、好感度が如何にも高そうな軍人がアグライアの前に微笑みながら進み出るのをじっと見た。
「??艦長様は?」
「顔が割れーーーー目立ちすぎるーーーので、私は彼の代理人です」
「アグライア様、では私どもは寂しいですが ここでお別れです。
今までお疲れ様でした」
「今まで本当に有り難うございました」 アグライアの瞳が涙で緩む。
城「信繁班」 令嬢を送り届ける役目が終わった瞬間だった。
信繁達も、ジャパン国防軍が行う正式な儀礼にのっとりビシリと敬礼〜挨拶を行うのだ。
信繁以下彼らは国防軍とはハッキリ切り離された別個の組織図で行動しているので、同様の〜形式に捕らわれる必要性は無かったが一種の慣習〜様式美である。
班リーダーの信繁に責任者の男性も 返礼として、トール軍正式な規律でもって正しい敬礼を返す。
信繁は自身の金属製の薄い板に彫金された身分証を提示、相手も同じくサッと胸ポケットから所属階級の記載された麗々しい手帳型合金製の身分証を取り出し、彼の目の前に差し出した。
信繁は小さなブラックライトの光源をポケットから出し、蒼い光で表層を舐める様に照射、相手方も 全く同様の行為を行った。
信繁の滑らかな指先の動きで、サーッとホログラム映像による、本人の近影像。
それからトール軍徽章および王家の紋章が浮かび上がる。
この時代電子製の物は幾らでもハッキングやコピーが簡単に可能、それ故に クラシックな唯一絶対な一点もので特別な認証は 安全の為行っている。
「お手数をおかけしました。
確かにご本人様と確認が出来ましたので、こちらの身分証はお返し致します。
大切な身分証を有り難うございました」
「いえ此方こそ、細かい恩情に対し心より感謝致します。
作戦の上手さと勇敢さには敬意を表します、勇気とご英断誠に感服致しました。
城 責任者の方にもどうぞお伝え下さい」
信繁も 社交儀礼の微笑みを浮かべた。
彼が差し出した「引き渡し完了」を文書で証明する電子書類ワンセットに「代理人」ーーーその担当官は、流れる流麗な筆跡でサインを書き込んだ。
責任者の男が、長いしなやかな右手を差し出し 握手を求めたので信繁も丁重にそれに応じる。
「アッッッッッ 済みません!!」
突然、信繁から先程、側で書類全てを丸ごと受け取った筈の雅の口から悲鳴がこぼれた。
ーーー皆の視線が集中する。
雅の慌てふためいた視線の先には先程トール側担当官が サインインに使用した電子ペンが、当の本人の靴先に 再びコロコロと転がり戻っていたのだ。
おそらく手が滑りパシッと 不運にもはじけ飛んでしまったのだろう。
青年は咄嗟の事にも動じず担当官は素早く右手でつまみ上げると、美しい微笑みを浮かべ 丁寧に自ら雅の手に渡した。
「有り難うございました」
「いいえ」
会釈をした雅は、ニコッ!!と、見る者の心を惑わし蕩かす満面の輝く天使の微笑みを浮かべる。
「惑星トール軍 最新鋭・軍用宇宙戦闘艦ですので、装甲の堅固さが格段に強力です。
こちらにおいで下さったならば、もう御身は確実に安全です、アグライア様 こちらにどうぞ」
アグライアは信繁達を振り返ると、切なげな瞳で深く会釈をする。
出航前の大量の荷物の搬入で、忙しく動き回るドローンやロボットの為、大きく開かれたままの戦艦の巨大扉から艦内に入っていった。
「信繁さんーーー?」
「これはーーーーまずいぞ?」
「わかっている、子龍」
コロリうって変わった雅の険しい瞳と、完全に戦闘モードと化す子龍。
先程の甘い表情を消し去った、全身から鋭い緊張感をみなぎらせた信繁の視線が交錯する。
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「今から艦長の元に貴女様をお連れ致します」
「随分広く大きいのですね」
彼等は内部にしつらえたエレベーターで一旦 最上階まで上がった。
アグライアは初めての最新鋭戦闘艦内部に先程からずっと、きょろきょろと物珍しさのあまり視線を彷徨わせている。
『でも どうにもおかしいですわ?』
降りた後に、誘導された長い回廊の途中、心の中で呟き首を傾げた。
周囲にも沢山の空間を交錯する 別の回廊が立体的に延びていた。
アグライアは過去、戦艦では無いが、1回り小型の宇宙巡洋艦に、叔父ロームルスの付き添いの為に招待され、短期間乗り込んだ事があったのだ。
その時艦内を丁寧に案内されている。
彼女は未知の場所ゆえに何度も好奇心で質問、こうした建造物の大体の構造は把握したのだった。
「どの艦も大体このような配置なんでしょうか?」
「勿論 軍用と民間では利便性と運用面から、仕組みこそは違いますが、どうでしょうーーー?
ほぼ同様な 被る箇所が多いと思います」
過去のその時の記憶と、今回の案内とは どうも矛盾が多くあるのだ。
『艦長の元に行くーーというのは艦長室に行くと言う意味なのかしら?
少なくとも私達が戦艦上階の、司令室に行くのでは無い事は確かだわ?
だって〜』
アグライアはゾクリと 嫌な予感に総身を震わせてしまう。
『本当にーーーこのまま、この方を信じて 進んでいってもいいのだろうか?』
コッソリと周囲を見回すと、当初2人だったはずの護衛官の数が、いつの間にか背後に増加しているのだ。
ーーーいや そんな生易しい状況ではなかった。
はっきり取り囲まれていたのだ。
当初 先頭は案内役の担当官の男性と、彼を警備する人員1名、アグライアの背後に彼女を守る護衛官1名ーーーだった筈。
それがいつの間にーーーーー????




