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帰国へ ③


「結局、渋滞は解消されないんですね〜」


「まぁ そんなもんだ、大昔 鳴り物入りで導入されたんだけどな?」

信繁は溜息をついた。



渋滞で延々と切れ間なく続く交通網の生き物に似た輝きは、今だ行った事が無いトール「王城」主催で開催される舞踏会。


アグライアが想像しているイメージと少し似ていた。



例えばーーーーー

暗闇で松明の光に、チロチロと蠱惑的な輝きをはなつ宝飾品の数々。


貴婦人の首元や耳元を彩る、職人が心を込めてプラチナと宝石で作り上げた 最高級の芸術品の燦めき。


「素敵ーーーー」ウットリと心が震える。



トールでは、軍事機密の観点から滅多にこうした機会は無かった。

 

決められた航路以外の上空飛行は、固く法律で禁止されている為にジャパンの対応の大らかさに胸を打たれた。



「いいんですか? こんなに自由に飛んでしまっても?」



「勿論全面フリーダムというわけではないよ、それなりに飛行禁止区域もあるぜ?」



それは突然の「参加」だった。


「実は この先でも大きく1カ所がーーーなぁ、上通ったら 下界の基地内部が丸見えだ。


なった事は無いがーーーースクランブル発進で攻撃される。

とはいっても やはり緩い〜か?


他惑星の方には『どっかおかしい!!』と、めちゃくちゃ奇異に思われるかも知れないなーーー」



「もしかして子龍様は『連邦英語』が話せたのですか?!」



アグライアは子龍の 突然の滑らかな会話の参加に、魂が吹っ飛びそうだった。



『じゃあ今まで、信繁様にだけ話していたと思っていた会話は、翻訳機無しで彼に全部知られていたんだーーーー』


 

きゃーーーーー!!

あまりの恥ずかしさに、頭が真っ白である。



「コイツは代々、ジャパン外交官を輩出する家系出身なんです。

ほぼ 惑星間のどんな言葉も理解出来ます。

相互意思の〜無理の無い伝達が可能です。


〜やっぱりおまえ、まさか!!と思ってたが、『それ』伝えてなかったのか?」



「だって? 特に『聞かれてなかった』からな、それに、色々とマズイ『ルート』にも繋がってる。


近くにいたら気味悪いだろ、妖怪『サトリ』みたいで。

ガキの頃から『気持ち悪い気持ち悪い』って散々でさ。


何でも聞き取られるって恐怖だろ? 相手にって。


結構ヘンなコンプレックスなんだよーーーーー俺にとってはな」

 


子龍は機長席から後部座席に横顔で少し振り返り、ニヤッと屈折した笑みを浮かべる。



アグライアは 感嘆の息をフゥッと吐く。

『なんてこの人達は 凄いんだろうかーーーー』

 

「〜知られちゃった以上、もう隠す必要も無いな!!

あとちょっとだが宜しく!お嬢様!!



あ〜 向こうに、閣下ンちにニューイヤーのカードおくってやるから楽しみにしてな?


俺の新作の 毛筆作品だ、ちゃんと落款も押しといてやる」

子龍は鬱屈を吹き飛ばす様子で優しく晴れ晴れと笑うのだった。



「わーいいな いいな!!

彼〜子龍さんはプロの書道家なんですよーーー!!


先月、内閣府から来年の広報誌の題字依頼が来てたでしょ?

軽すぎて全然そうは見えない人だけど〜〜〜!」



「こら雅! 最後は余計だ。

いらんこと くっちゃべるなよ?」



アハアハ笑いながらアグライアに向かって チラリ切れ長の眼で鮮やかに流し目を放つ、そんな子龍である。


アグライアは堪らず、クラーーーーーッと膝に突っ伏した。



『ここにも、究極の殿方がいるだなんてーーーーーー!!

そんなの酷いわ!!』



ーーー極上美男子の彼に ニコリと、個人的に優しげに微笑まれている姿が〜

信繁様の時の様に、他の女性職員に見られなくって本当に良かったわ!!


〜私 幽霊船に狙われるまでも無く、闇から闇に、城内で暗殺されていたかも!!

 

大正解的な、あまりに恐ろしい展開を想像、ホッと胸を撫で下ろしたのだった。



「でも、気持ち悪いだなんてーーー!!

そんな酷い嫌らしい侮辱を仰る方がいるんですか?」


アグライアは呆然としながら質問するのだ。



『そりゃあーーー私も。

信繁様との個人的会話が筒抜けだったなんて、恥ずかしい〜とは思ったけれど。


多分子龍さんは優しい善い方だ。

〜何と言っても、あの信繁様とはご友人、いい人に決まってるわっ!!』



アグライアにとって子龍は、物凄いハンサムでミステリアスで雰囲気も抜群。

スタイルもずば抜けて際立ち、信繁とは違う色っぽさがあると思えたのだ。



『これだけーーー友人思いで、確かにちょっと何処か怖いけど?


性格良し、家柄も良く頭脳明晰、整った容姿の男性に『気持ちが悪い』だなんて

えーっと、身の程知らずにも程があるって言うのかーーー?』


アグライアは、何で子龍が屈辱的なそんな事を、子どもの頃より言われてきたのか、よくわからなかった。



「羨ましかったんですよ」 雅がニッコリ笑ってアグライアを見つめる。


彼は独自にチューンナップしたとおぼしき超小型自動翻訳機付き何か装置を、デンと機内小机の上に乗せ上げた。


「難しい外国語はわかりませんし〜言えないので。


僕は信繁さんや 子龍さんとは違って語学の才能が 全く無いんです」


そう恥ずかしげに片言の連邦英語で言うと、パチリと装置のスイッチを入れる。


人工知能搭載装置は、雅の音声を模した可愛らしい音声にてスラスラ言葉を翻訳し始めた。

 


「男性にとって『気持ちが悪い』と、特に女性に言われると物凄く傷つくし、どうしたって感情論になるから、どうにも反論しにくいんです。


論理的なものならともかく『気持ちの中の 好き嫌いの問題』になると、本当に手の打ちようも無く どうしようもない。


だからーーー狡くて悪い人達にーーーですね、そこをいいように突かれたんだと思います。

だってーーー子龍さん素敵な『善い人』ーーーだから」

 


予想外の褒め言葉、子龍は恥ずかしそうに赤くなり プイッとそっぽを向く。



「いつもと立場が違うな?」


信繁はそう言うと、自身の信頼するバディーであり、また内心誇らしい大親友でもある子龍を見ながら楽しげに大笑い。



「男でも、女性に対して『気持ち悪い』ってーーーー

言いなりにならない相手を無理やり自分に服従させようと、敢えてそんな言葉を意図的に放つ者もいます。


心理的に圧迫・圧力をかける為に『取りあえず気に入らない』と同じ技、直ぐ口に出す劣悪な人種がいますが、あれは最低です。


ーーー全く恥ずべき行為です。


僕もニヤニヤと『女性的で気持ちが悪い』と、馬鹿な先輩にしつこく言われた事がありますが、速攻『論理』で、同じ『感情論』で返り討ちにしてあげました。



〜男性の『ヒステリー』、執着って、ほんっと見苦しいです。


排水溝のヌメリより くっさくて『キモチワルイ』ですよ?


あぁ先輩は自分を捨てた彼女さんに〜自分の部屋の掃除までさせてたって本当ですか?


〜特に風呂場やキッチンの排水溝のドロドロに参ったわねぇ、どうすりゃここまで汚れるのっ〜って、呆れて驚いてましたよーーーって。


それ以来 僕を見るとそそくさと逃げ出します」



「雅はマジで強いなあーーーー」

「怖っっ!! その情報力が〜〜〜〜!」

 

「俺は掃除が好きさ、排水溝のヌメリより酷いって そりゃ最悪だなぁー

彼女も逃げる筈だ!!」


「ーーー班長として心強いよ」


「そりゃ戦闘なら班長と子龍さんで無敵だ。

でもさ〜オレ、雅に口喧嘩で勝てた奴 今まで全然見た事ねぇし〜?」


「そーだそーだ!!」

「誰も勝てる気がしねーーーーわ!!」


「いやーそんなぁ〜それ程でも〜〜〜」


「褒めてねーーーーし!?」 するとお約束的に全員で突っ込む。

すると雅は ウフフと満面、天使の微笑みを浮かべるのだった。



「出たな 微笑み殺し!!」 ここで皆も声を揃え大合唱〜


「まぁあれだ、色っぽく、言葉責めして欲しいかもな」

「全くだよ、あの顔でねちっこく ウフってしばいて欲しい〜♪」



アグライアは、見た者はついうっかり見とれながら同意してしまうという、雅独自の必殺技に目が離せなくなった。


 

アグライアは雅に哀れにも「口撃」にて撃沈された先輩とやらに少々同情を覚えた。


ーーー全く怖すぎである。




そんなこんなで和気藹々、子龍が機長として操縦する実験機は、気味の悪いほど何も妨害工作を受けずに、宇宙船発着基地として有名なジャパン最大級のハネダ宇宙国際空港に到着する。



無論深夜であっても、未だ激しい「ジャパン国防軍」と「デモ隊」との睨み合いは続いており、一種即発状態。


信繁らは海側から双方を刺激しないよう、実験機を光学迷彩で一切の痕跡を隠しまた激しい音も消失させた。


着陸後、何もない空間から突如人間があらわれる様が運悪くマスコミの中継にて発表されぬよう、当然だが 其方の対策も万全に行った。



子龍は戦艦の甲板の幾つもあるヘリポートの中でも外側より死角〜

比較的目立たぬ場所に実験機を手堅く滑り込ませた。


ヘリは、狭い空間にぶら下げた吊り荷をしつつ 無事に押し込む事が難しいと言われているーーーが、今回は厄介なそんな事も無い。


子龍はやや大胆な操縦法にて、無駄なホバリングをする事無く流れる手さばきで2点のレバー操作と、足下のペダルを巧に踏み込みながら、エンジンに莫大な負担をかける事なく高度を下げつつ目標地点に回り込む。



下手なパイロットだと、上空にホバリングをしながら着陸地点を探すのだが、その場合はエンジンの負担が1割以上無意味に起き、テールローターの調整も行う必要性が追加される。


たったそれだけの為に煩雑かつ複雑な操作が発生、必要になるこの点は地上車両の駐車と何ら変わらない。


例えるならば、上級ドライバーがきわどい縦列駐車や車庫入れをスッと一発オッケー、1回も切り返さずに滑らかに入庫するのと似ている。


子龍は思い切りよく 降下予定地点の中空に着くとそこで初めて下降のためだけの、たった1度のホバリングを開始。


集中し、ジリッジリッ、教本模範的レベルに数センチ刻みで機体を正確に降ろす、素晴らしい操縦テクニックである。


「ピッタリに止まったな、相変わらず凄いなお前」


「そりゃまー副機長のナビがいいからだぜーーーー!!」


子龍は嬉しげな調子、それでも流石にホッとした表情で信繁に返す。


大切な信頼する友人より、緊張が解けた状態にてそう褒められた事で照れくさそうに、甘く蕩ける様に解けるかに笑う。


誰が向けられたって思わずドキッとしてしまう、子龍が放つ究極の笑みである。

それは信繁とて例外では無い。



「たく、お前って奴はーーー」

「んぁ?」


「まぁ兎に角良かった、お前に任せてよかったよ子龍、本当にお疲れさん」


ややそっぽをむき、信繁は動揺をを見せずいつもの調子でさらりと流した。


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