帰還後の仮眠 ①
アグライアの洋服は惑星トールへの帰還中、宇宙空間での移動中に再び起こりそうな宇宙酔いを防ぐ為ストレス軽減に ゆったりとした肌触りのよい生地で、城テーラー部で仕立てられていた。
シューズは、ワンピースの雰囲気に合わせた上質な素材で、地球電脳通信にも配信された最新流行、女性の目を「欲しいっ」確実に輝かす 可愛らしいデザインの品!!
お洒落は足下から〜この靴だったらどんな惑星でも高評価よ!〜
テーラー部所属の〜敏腕スタイリスト選択、これっきゃないでしょ?
イチオシの自慢の逸品である。
尚、彼女には秘密であるが、電波のオンオフ操作が遠隔で可能な極小発信機が踵に仕込まれている。
「わぁぁっっーーー!!」
アグライアが履いてみると、ストンとーーーーー!!
まるでシンデレラの靴のように ピッタリ彼女の足に馴染んだ。
信繁らが格納庫に巨大なヘリを無事に着陸させると、そこには既に一足先に、黒龍と帰還した城主がアグライアと共に佇んでいた。
「アグライア様 ただいまーーーー!」雅はあくまでも元気だ。
ぴょーんと明るく駆け寄ると、そのままサッとハグをして離れた。
「お嬢様〜 もう大丈夫ッすよ!!」
「ちょいちょいのちょいで宇宙空港まで 行けますッから〜〜〜〜〜!!」
他の隊員もワイワイがやがや緊張がほぐれたのか 楽しげに話しかける。
「今までこのような寒い場所で、長時間お待たせて済みませんでしたね」
「アグライア様をお送りする機長はこの俺『子龍』です、大船に乗った気でお任せを!」
1番最後に降りてきた信繁をチラ見し、自分を指差し勝手に約束した子龍に信繁は流石に困った顔をした。
「そうねー敵はいないはずだから、もう普通の通常飛行でいいわ。
今回『実験機』で、貴方の試したい飛行操法 全て許可します。
信繁は副機長として う〜んと楽していいからね!」
「〜わかりました、でも30分酸素カプセルで仮眠させて下さい」
『ーーーー決定事項なのかよ。』
気分がくらーっとよろめきつつ信繁は返答を返す。
「勿論!!」
「そんじゃ ごゆっくり〜〜!!」
「もっと休んでてイイッすよ〜〜〜」
とーーー城主は急にクルリとアグライアの方を振り向いた。
「『仕事虫』の信繁が、ホントにちゃんと休憩するか見張っててくれない?」
「えっっっっ??」
アグライアは突然の事に何をどう反応していいかわからないーーー内に、グイッと手を引かれて 信繁の前に連れ出されたのである。
「友人として何か話したい事あるんじゃない?」
耳元でコソッと話しかけられ真っ赤になった、事実その通りだったからだ。
「では一緒に来ていただけますか?」
信繁は優しく悪戯っぽい茶色の瞳で、彼女に クスッと微笑みかけるのだ。
まさか最後の最後にこんな機会が巡って来るとは思わず、アグライアは益々頬が赤くなって 俯いてしまうのだ。
「アッジフライ! アッジフライ!!」
「サーケ! サーケ!」
「班長! ごゆっくり〜!!」
『〜〜〜アイツらーーー〜〜〜』
アグライアはキョトンとした表情で、細い小首を傾げ 後ろを振り返るのだ。
「あのぅーーー皆さんが仰るーーーー『アッジフライ』〜って、これから行く 場所の名前ですか?」
「ーーーーそれは違いますよ」
信繁は心のこもった 仲間の、温かな見送りの声に首をすくめる。
「こちらです。」
信繁はアグライアの歩調に合わせ ゆったりとだが迷いなくスタスタと施設内を進んで行き、携帯していた武器、装備品一式を、通称「武器庫」〜武器保安格納係にザラリと一括して預ける。
「了解です」
「30分後、再び取りに来ますから。」
そうにっこり笑い尚も先に進んだ。
「どうかされましたか?
格納庫という、あんな寒い場所にずっといらしてご気分ーーーが悪くなられたんですか?
お薬手配しましょうか?」
長身フライトスーツ姿の信繁は誰が見たって遠方より目立つし、大体がそれはもぅ水際だつ凛々しさである。
さっきから廊下ですれ違う女性職員の目が猛獣のようで怖すぎるーーーー!!
放たれる殺気に、並んで半ば怯えて歩く彼女に不審そうな 困ったような表情が眩しい。
信繁は固まってしまったアグライアの手を取り先を急いだ。
それがまた、無理に身体を引きずるのでも無い、彼女の動揺と呼吸をくみ取った絶妙なエスコートなのだ。
人見知りが激しいアグライアにしてみれば、すらすら、まるで夢の中を歩く気分。
『こんなに男性に、丁寧に親切にされた事なんて、叔父様以外にあったかしら』
信繁はブンブンと首を振るアグライアを不思議そうに見つめたが、何も言わず、大きな体幹で周囲から守る姿勢である場所に向かう。
「あと少しで『城』から帰られるのですねーーー少し寂しくなります」
信繁はポツリと言葉を零した。
思ってもみない反応ーーーーどう答えていいのか慌てた。
『そりゃあ、少しぐらいは友達〜というか、知り合いです〜程度に少しは認識して欲しかったの。
でも、でもでもーーーー!!
あまりに素敵すぎて、そんな事おこがましくて言えないしーーーー』
つい頬が赤くなり本心から そんなふうに思えるのだ。
「もしもーーーもしもですが、ジャパンに私が来訪出来ましたら。
そうしたらーーーまたお会いしていただけますか?」
「勿論!
ですがその時は、愛するロームルス閣下とご一緒にお姫様は 是非いらして下さいね」 信繁は明るく陽光のように笑みを浮かべる。
それから突然、反転しやるせない表情を浮かべた。
「あの方は、貴女の事を聖なるものとし、誰よりも案じて大切にしています。
同じ男として、その気持ちは痛い程わかります。
貴女が〜大好きなお姉様を一番に考えるのも理解できますが、男が誠実にプラトニックに貴女に捧げ尽くす気持ちをどうか むげになさらないで下さい。
見方を変えれば女性にとって迷惑、性的に気持ちが悪いただの執着だと考えるのもわかりますが。
ーーーある種、傍迷惑で厳しい意見で 恐縮ですが」
「それで良いのでしょうか?
私にはどうして自分に関心を向ける価値があるか、そのものがわかりません。
ーーーーそもそも男性の心理がわかりません」
「1番悪いのは、心から大切な人を 不安にさせる事です。
私の個人的意見ですがーーーそう思っています。
本気で好きならば、しかし怯え〜精神が強い恋心に寄り添えるまで成熟していないならば男は待てますからご安心を。
〜特にあの方は心身共に非常に人並外れてタフな方ですよ。
ええ、貴女の心のうちは、貴女だけのものです。
同じく決断する権利を誰恥じる事なく持つのも出来るのも、貴女だけなんです。
誰も肩代わりなど不可能な事に自分には思えます。
ですから充分に悔いなき答えを出せばいいと思いますよ」
アグライアは自分の悩みが、優柔不断さが、時に相手を傷つけている事に思い至り 愕然とした。
つまりは優しいのでは無く「狡い」
〜誰からも良く思われ大切にされたい、いい顔をしたい。
悪者に思われたくない、でもって嫌われたくないーーーーー
「信繁様はーーーー誰かに憎まれたり、嫌われる事なんて無いでしょ?」
アグライアは焦りから、つい失礼な質問をしてしまった。
『しまった!!』 思わず口を押さえ狼狽える。
ーーーところが信繁はクスッと笑い
「全く同じ内容の質問を閣下からされましたよ?」
あっさり そう答えたのだ。
「私は、それは買いかぶりすぎです〜そう答えました。
誰かに既に聞いていると思いますが、自分の家族は、過去のある事件で皆亡くなりました。
未だ犯人は検挙されていません。
『城』諜報力をもってしても現在でも『迷宮入り』の殺人事件です」
「えっっ?」
アグライアは思いもかけない返事に 息を吞んだ。
「事件以後 私はずっと、どうしてこんな悲惨な事がーーーと。
父も母も祖父母も私にとって、多少の変な所はあるものの理想的な愛すべき完璧な人々で。
妹に至ってはカワイイ〜悪戯な悪魔と天使が合体したような、魅力そのものでした。
何故あんな事が起きてしまったのか?
何がいけなかったのか?
今でもーーー部屋で1人の時、ふと考えてしまいます。
集中して仕事と勉強に打ち込む時だけ、そちらになんとか逃げ込める事が出来ます」
信繁はハーーーーッと深い溜息をついた。
「ここへ来てから 1つだけ判った、理解した事があります。
『完璧』なものなど有りはしないということです。
不完全で〜歪なのがこの世界です。
一見『完璧』なものほど何処かに歪みが生じます。
それが事件の根幹にあるのでは〜と。
あの日 私は現場にいなかったので、何があったかは勝手に想像、妄想するしかありませんが?」
信繁はアグライアの方に体を向けて真剣に静かに語りかける。
「結局は泣いても笑っても 人生は1度きりです。
不本意にも〜 理不尽に突然断ち切られる事もございます。
貴女は弱そうに見えて、実は芯のしっかりとした強い女性です、僅かな時間ですが接してみてそう確信しています。
ですから 悪戯に未来を恐れずに果敢に今を生きて下さい」
「有り難うございます。」
アグライアは体を震わせ泣き出してしまい、信繁は優しく彼女の不安を包み込むように肩を抱いた。
「大丈夫ですーーーー大丈夫です。
この先必ず上手くいきますからーーーーーー」
粉々に粉砕されそうなアグライアの心細さに、彼の嘘偽りの無い優しさが染み渡る。
「暫くこのままで、いて下さいますか??」
静かにしゃくり上げる 彼女の気持ちが治まるまで、信繁はジッとしていた。
「そんなにーーー何でも抱え込み、考え込まなくてもいいんですよ?」
たった1人で、誰にも本心を打ち明けずにーーー健気に全てを抱え込もうとしていた生真面目さが信繁にはただ切なく映る。
信繁はアグライアが落ちつくと優しく手を取るとそれからさらに 5分ほど歩いた。
ブレスレット型の『識別証』で解錠、突き当たりの狭い区画に進入すると天井・壁面からフワッと殺菌用の様々なライトの光源が照射され、次に強烈な強風が壁面の様々な場所から 1度に放出される。
「つきましたよ」
そこには沢山の忙しげな医療スタッフが歩き回り、見慣れないチューブ状の装置が数多く並んでいる部屋である。
「よう信繁。 久しぶりじゃないか〜」
「そっちこそ! セツ!!
今日は不夜城から出てきてるって城主の執務室で聞いたからな?」
「で? そっちの可愛らしいお嬢さんは?? 珍しいな、朝は猛吹雪か??」
「アグライア様だよ。
俺が『入っている間』守れるか? ーーー大切な方だ」
彼らが話す言語が 全く理解できなかったが、一生懸命聞き漏らさないように耳を傾ける。
そこで信繁がよくしていた『ジャパン風』挨拶を真似し 頭をぺこりと下げた。
信繁と話していた男性医療スタッフはーーーその様子に驚いた表情を見せる。
「何でお前の周りにはーーーー! いつも性格のいい子ばっかりなんだ?
全く不公平だよ!! 」
文句をブウブウ垂れるのだ。
アグライアは簡易応接セットに案内され、ここでどうやら信繁の仮眠中 待機、待つ事になるらしいと察する。




