幽霊船との海戦 ②
ーーーーそれは突然だった。
青白く輝く鏡に似た美しい海面の1カ所、ボウッっと突如 赤い稲妻が走った。
みるみる内に、海面が海坊主の如く丸くふくれあがったかと思うと!
ブワァッーーーーーー!!
黒い筒状の塊が2基、凄まじい速度で海中から押し出され、海面に当たった衝撃で「蓋」が開き 中から一気にミサイルが射出される。
ヒュウヒュウ薄気味の悪い轟音を蹴立て、禍々しい鈍い光を反射させ上空目がけて駆け上がってゆく。
スルガ湾を美しく照らし出す月の光、月の女神に祝福されたかの風雅な背後の海岸の景色とは対照的な、凶暴で禍々しく恐ろしい光景であった。
ミサイルは狙い違わぬ正確無比の標準で、上空を飛行する信繁が機長として操縦するヘリを襲った。
1秒後、確実にヘリの機関部を打ち抜くかと思われた。
暗殺者 幽霊船の、ジャパンにおける「アグライア殺害」の役目は終了したかに思われた。
ーーーーーだが凶悪なミサイルは、何もない虚空を、フッと空しく通過しただけであった。
一体全体何があったのか??
「しっかりつかまってろ!!」 信繁は叫ぶ。
視界に「赤い稲妻の光」が入った瞬間、機長の彼は一気に海面ギリギリまで上空からヘリを急降下させ、それと同時に機体を捻る様に宙返りさせたのだ。
航空機、優秀な戦闘機パイロットが出来るとされる高等技術〜!
バレルロール、木製の樽をゴロゴロ転がす様子に見立てた回転飛行方法である。
ローターの構造上の問題でヘリでは有り得ない 見事な飛行テクニックである。
「敵さんに見せつけてやれよ!機長さん!
〜こちとら凄いんだってな! 目一杯ビビらせろ!!」
不安定な気流をモノともともせず、信繁は長時間 徹底的に仲間達とホログラム映像で、ありとあらゆる攻撃を想定した。
ビジュアル使用での 立体的な打ち合わせ済みの作戦を粛々と決行する。
「子龍!」
「オッケー 機 長 さ ん !!」
副操縦士の子龍は、通過したミサイルに対し、下方から容赦なく迎撃の射撃を遂行する
幽霊船〜射出ロケットの噴射口が、海中で撃った事で夜目にも朱く輝いたせいで潜った場所は容易に確認できた。
「バーーーーカ!」
子龍の放つ火器の正確な狙いは、尾翼とロケット弾の腹を叩いた。
ダーーーーーーーーーーーーーーン!!!
幾らも行かずミサイルは全て激しく朱く空中爆発で夜空を染め上げ、爆風が強くヘリを揺さぶった。
「行くぞ!!」
叫ぶやいなや信繁はグンッと再びヘリの高度を一気に急上昇させた。
ヘリが上昇に転じるのと同時、海面すれすれの場所を再びロケット弾が4基襲来する。
しかしなぜか、信繁の操縦するヘリコプターは以前の高度まで上がることはなかった。
それどころか、スルガ湾相当な沖合いーーー
ポツンと離れ小島の如く1つだけ不自然に設置された「養殖筏」に、海鳥に似た優美な滑空でスルスルと最接近してゆくのだ。
「GO!!」
ガシャン!!
信繁班メンバーは雅以外全員、アナスタシアやヨンも含め、スライドドアを力任せに開放、謎の筏に到着するやいなや機から飛び降りた。
「せーーーーーーのっっ!!」
彼らは筏に被せられたぶ厚い防水シートを、前もって役割を任せられた班員が力任せに引きはがす。
残りの人員は予め床板にパーツをセッティングされて隠し置かれた「あるもの」を訓練通り手にする。
作戦会議での打ち合わせ通りのフォーメーションで、「地対空ミサイル」〜携帯型肩掛け式ロケットランチャーを、まずは先発の2名の班員で、ゴツイ台座を迷うことなく肩に担ぎ発射した。
簡略型とはいえ最大射程距離は5000メートルは固い、不夜城謹製の赤外線シーカーで難なく幽霊船が射出したロケットを捕捉する。
「ティッッツ!!」
筏は養殖筏に偽装した、足場がしっかり考慮された臨時砲台に近かった。
後ろに弾け飛びそうな発射時の強烈な反動をものともせず、先鋒を勤め上げた2名の班員達は仕事を終えるが早いか瞬時にドンドン位置を交代する。
彼らと〜
火炎や強い反動で接触等の危険のない安全な横位置に控えていた同数メンバーが、滑らかな猫の動きでするりと入れ替わる。
前に押し出される形の班員2名は、同じ揺るぎない姿勢でドウッッっと上空に弾幕が如しに放ち、ダメ押しに背後のもう2名が始末をつける。
幽霊船の放ったミサイルが、画像認識と特定音で「自ら敵を認識し反転を行い襲い来る性能を持つ」
性能として最新式火器である事を、信繁班が想定した上での策だった。
「どんな優れた兵器も生憎『癖』があるんだよ?」
Uターンして遠心力を付け向きを変えるその瞬間が隙となる。
どんな高性能なロケット弾でもこの地球に重力がある限りスピードが僅かに減速、横腹を見せる。
その時間0コンマ何秒?!ーーーかの恐るべき僅かのタイミングに特化したクレイジーで異常な攻撃方法である。
信繁は仲間を信頼し、子龍以外の優れた腕自慢のメンツに全て任せたのだ。
弾幕の張り方については別に何も、無から有の新しい戦法ではない。
〜「ジャパン」と、まだこの国が呼ばれていなかった古代の戦国時代。
「長篠の合戦」で、織田信長軍が、弾薬の物量作戦にて武田軍に行った歴史に名高い鉄砲隊の戦法である。
いわゆる鉄砲隊 三段構えの戦い方だった。
火縄銃〜マスケット銃の亜種で「本当にこの戦法が可能だったか?」については後年さまざまな検証が行われて来たが、信繁班は「実際に可能」と判断、それを自らの戦いに応用したのだった。
〜なにせ命中でなくとも、ほんの少し部分的に掠ればいいのである。
高速飛行するロケットは軌道をほんの少しズレた事で漏れなく仲間と接触、誘爆するかもしくは飛行装置が破損、不発弾と化す。
「たーまや〜」
「クッーーソ高い花火だーーー!」
命知らずのメンツの手によりロケットは4基あえなく破損から大爆発、暗い海面を朱い火花で彩ったのだ。
「来い!!」
撃ち終えた人間から次々に火器の装備を臨時砲台に投げ捨てると、目にもとまらぬ転がる早業でヘリに撤収。
ドーーーーーーンンン!!!
信繁操縦のヘリが再び急上昇するとほぼ同時、臨時砲台であった筏は幽霊船から魚雷攻撃を受け全壊。
激しい吹き上がる水しぶきと共に バラバラに砕け散り海中に没する様子を見、信繁は破壊されて沈んでゆく筏に向け コックピット内で小さく敬礼をした。
「明らかに幽霊船、焦ってんな?」
「よしっっ 計算通りだ!」
『そろそろだーーー』 信繁は、とある場所に向けて通信を出し、自分と敵との現在地の座標を送信する。
我を失ったと見られる潜水艦から再びミサイルが上空に発射されーーーー
その瞬間
ヴオオオオオッッッーーーーーン
ゴロゴロとーーー
何処からかの地底から沸き起こる、低い地鳴りに似た不気味な雄叫び。
ーーーーー同時に昏い夜空を 不気味に駆け巡った。
バシッツ!!
黒い塊がヘリのすぐ脇を通過、信繁操縦のヘリを強く叩き付けるような強風でグラッと大きく揺らして去る。
瞬時にメインローターの角度、テールローターの出力と尾翼を調整、グッと耐え忍ぶ。
「いよいよ真打のお出ましーーーか」
子龍の言葉に、信繁は大きく溜め込んだ胸一杯の息を吐き切るのだ
黒い塊ーーーーー
城、究極の極秘機密 生物兵器。
不気味な声の主は、城主の操る黒龍、漆黒の鱗を夜陰に煌めかせ、ヘリとミサイルとの間、うねるような素早い飛行で割り込んだ。
フッとーーー 大きく首を後ろに引き付けたかと思うと!!
ゴオッッッッッッッッッーーーーーー!!!
ヘリに打ち込まれんと向かうミサイル弾にひと息、恐るべき燃えさかる激しい3000度をゆうに超す、超高温の火炎放射を放った。
火炎は黒龍の得意技、まるで巨大な紅蓮の蝶が無数に羽ばたいたかに見える妖艶な凄まじい攻撃。
S字カーブに放出された 必殺の輝く炎の翼は、闇の潜水艦から射出された巡航ミサイルをあっさりと難なく排除する。
破片類はドロドロに溶け落ち、そのままバラバラと飴の如くに落下〜
冷たい海水で冷却されジュッと水蒸気の白い煙を吐き出しながら、残骸の全ては海中に残らず沈んで行く。
騎手を城主が巧みに務める黒龍はそのまま ザンンッッッッッーーー!!!
躊躇いも無く頭部から湾の水中に潜っていった。




