幽霊船 ②
「成る程ねーーー話が見えてきたぞ? ーーーーつまりーーー」
子龍がキャスター付き椅子をギイギイ言わせながら、フーンと答えた。
「そっかーーー潜水艦が潜むには もっとも適した格好の場所〜っていう訳ですね?」
雅が後を引き継いで信繁に聞く。
「理由はもう1つあるけどな?」
信繁は皆に答えて振る。
「此処はジャパン国防軍とネオアメリカ軍・海軍司令部のあるヨコスカからも、それなりに距離があるんだ。
イズ半島が〜海の間をバッと分断している関係でね。
幽霊船〜病院ミサイル攻撃で ”お膝元”〜というか……?
兎に角、目と鼻の先の『庭先』で凶行に1度及ばれたせいで、現在彼らは高いプライド〜両方共メンツを潰された状態なんだ。
マスメディアからは連日連夜 『この役立たず!!』と嘲笑馬鹿にされ放題、それはもう両者カンカンなんだよ。
そんなデンジャラスな監視の厳しい場所で、まず2度目はないだろ?」
首都まで含む地域の 大きな海図をパッと映写、信繁は指示棒でピタッピタッと2つの基地を先端で指し示した。
「潜水艦で、もっとも高性能で、高速とされる奴だって現在ですら精々40ノットちょいだろ?」
「? ”それ”ーーーってどれ位の事ですか?」
子龍の信繁への問いかけに、雅がぴくっと反応した。
信繁は「ウーン〜〜〜」顎に手をやるとこう返す。
「雅の質問に答えるーーーと、だ、時速約74〜5km…ってところだなーーー?
それですら、あくまでも『最高速力』〜
海も安定、穏やかで〜何もかも艦の調子も良く、性能マックスの状態でだ。
でもーーーなぁ、モーターやバッテリーに負担がかかりすぎるからな。
実質30分が『いいところ』だな?
それを越えたら、あっという間に海上を航行する艦船に追いつかれるだろう。
既に余力なんて無いし……
ましてや音速を超えられる航空機〜特に戦闘機の敵ではない。
”遅い遅い” ”音速を超えられない癖に!” ……っと〜……散々言いたい放題悪口言われる俺達の操るヘリですら、小型でも時速400km近く出る凄いヤツも今日日〜全然珍しくないからな?
つまり潜水艦よりも遙かに高速だよ」
信繁の的確な説明に班員達は納得する。
「水の摩擦力ーーー ”抵抗力”って凄いからなぁ、しゃーーーーないわな?」
「スッカスカの地上の大気とは違うモンな?
みっちみちの液体、あんな中身ぎっしりの強い摩擦に打ち勝って? 四捨五入で時速80は凄いぜよ!!」
「まーーなーーヘリが海面にドーンと腹打ちしたら間違いなくぶっ壊れるぞ?
ローターなんかーーー!!ぐにゃぐにゃのアメちゃんだぜ? アメちゃん!
一見透き通ってヤワそーに見えて、水〜海面は高い所から落下するとコンクリみたいな強度だかんな?!」
「信繁ーーーそいつの潜航出来る『深度』は?
普通深海では水圧から限度がある筈だ。
それとエンジン音とかーーーソナー探査からの、ヒントの1欠片すらないのか?
全然 わかってないのか?」
「普通の潜水艦なら400〜600メーター位で大陸棚使ってO.K.だが。
ーーー正直『幽霊船』が、どの程度の性能なのか?
〜国防でも謎だらけだそうだ。
1000mぐらいは〜多分いけるんじゃないか?と。
城主の話では、内閣府内調、国防担当官は想定している」
「ミサイルを発射する時、船体のハッチの開閉があるじゃないですか?
深度が10メートル増すごとに1平方センチ当たり1㎏の水圧。
それが1000メートルだなんて、指先ほどの大きさに100㎏もの、途方もない水圧がかかるって事ですよ!!
繊細な構造の開閉部が、容赦ない〜恐ろしい圧に耐久出来るとは僕には思えません!」
信繁は雅の質問に難しい表情を浮かべた。
「『理屈』では確かにそうだ。
だがーーー実は今まで……極秘情報で一応ふせられては居る、公表をされてない事件で、この潜水艦の仕業とみられる謎の巡航ミサイルによる爆撃〜
荒っぽい『暗殺』が様々な超大国領海内で行われているんだ。
いつもスルリと歴戦の海軍から逃げおおせる事から、恐るべき尋常でない潜水能力と、突拍子も無い、有り得ないスピードを長時間保持できる動力源を持って居るのだろうと専門家から考えられている。
何でも、あっという間に現れたり、そうかと思えばフッと消えたりするそうだ。
俺には俄に信じられないけどな?」
「それはーーーなんだか不気味で怖いですね」
「あぁ。
それに加えてーーーだ、とんでもない戦闘技術を有していると見ていい。
そんなところから、ゴーストシップーーー ”幽霊みたいな恐ろしい船”
ジャパンでは直訳して『幽霊船』と、海に関係する基地で、誰彼も無く言い倣わす様になったんだそうだよ?
彼等は強い。
乗員も、戦い方ーーーー
発想や仕切り方から言って 戦闘のプロだろう。
海洋専門の『傭兵』だと言うのが、各国諜報部共通認識だ」
「そっかーーーーーーだから俺達が『囮』なんだな?」
子龍がボソッと口にする。
「1発でもミサイルを発射させたら、今度こそ謎の潜水艦の位置情報が明確に確認できる。
ーーーそこをすかさず叩く、まっ、『そういう事』だな??」
「ご名答!」
信繁は相棒子龍にむけてパチパチと 小さく拍手をする。
「今時、戦闘機すら、ドッグファイトは余程の事でない限り行わない。
彼らですら一瞬で勝敗が決まる、殆ど『待ち伏せ』作戦だ。
対空ミサイルだったら飛行速度はマッハ3くらいだが、ハイパーソニックミサイルだとマッハ7なんて常識だ。
マッハは大気中を飛行〜運動する物体と気温やその他諸々の相対速度を表すものだから変化する。
でもざっとの大体の計算で、1マッハ 時速約1200㎞って計算のところが多いかな?
ーーーーとても避けられるもんじゃあない」
「そうだな ”実験機”も、その幽霊船も〜な! ーーーーお互いにな。
それを、『不可能を可能に』『やれっ!』って言うのが 今回の肝なんだな?」
「その通り、相手の思考の逆を行く『頭脳戦』だ、出来るか?」
信繁の問いかけに、子龍はニヤッと唇の端を上げて悪魔みたく綺麗にただ嗤う。
「俺達を誰だと思ってるんです?? 信繁さん」
「なぁ?」
「だよな〜?」
「ーーー〜って事だよ? 『機長さん』?
心配すんなーーーー思い切って行け。
いつもの様にな!
俺らはお前に全面的に従う、異議は無い」
子龍が長い腕で優雅に腕組みをして堂々と力強くまとめた。
それが「城」きっての精鋭班と呼ばれる信繁班〜
ーーーーー全班員達の総意である。




