幽霊船 ①
信繁は執務室から退出すると間髪を入れず、すぐに班員全員に対し緊急招集をかける。
そんなに早い時刻ではないが、遅すぎる時間でもない。
彼等だってーーー都合がある。
用件は要点をまとめ手際よくチャッチャと終わらせるに限る。
『いい気分の時に 最悪な話を聞くのと〜最悪の気分の時に 最良の話を聞かせられるのと
ーーーどっちが幸福なんだろうな?』
彼はウーンと1人考えたがわからなかった。
ただーーーー ”こう言う場合”……
この言葉遊びを、実際に答えた人間が信繁の周囲に居るには居た。
例えば戦友の剽軽者の子龍の場合。
「ンなの、どっちも碌でも無いだろ?? アホか?」 即答でスパーンと余裕綽々に自分に答えたものだ。
或いはーーー雅!
「ぁーーーーどっちも僕だったらO.Kですよっ♡ だって〜状況なんてひっくり返せますから〜!
最悪の時に、最大のチャンス♡〜って事に自分の中ですれば良いだけでしょ♪
んーーーでも、僕的には、最悪の気分に最悪の話ーーーがむしろ最高!!
だって以後〜どうしたって 『上がるしかない』でしょっ?
信繁さんとの初めての出会いの時が僕にとって ”正にそうでした”ーーーから。
ですから僕、ぜーんぜん構いませんよーー♪」
『……』
信繁は軽く頭を振った。
今から班員にする話は、「自分と共に死んでくれ」、そう受け止められても仕方が無い、本気でヤバイ話だ。
変人揃いの彼らが…どう反応するかーーー?
想像も出来なかった。
************
城主の提案。
今後の空港までの道行きはーーーー
「何だよーーーー?? また『囮』って事かよ〜〜〜〜〜〜〜!!」
実際に ”開口一番” 呆れ顔の子龍の口から飛び出したのは これだった。
「子龍、お前は1度も『的』になったことがないだろーー?」
信繁が困り顔で指摘をするとーーーー
「そうですよ?! 信繁さんには僕、こんな事 言いたくないですけど?!
〜もうぅ!
これでもう果たして『何回目』ですか?
ここの職場、人使いが荒いにも程度問題ですよ!
生命保険とか後、労災申請の準備 大丈夫ですかっ?
死んだら貰う物は貰わないと!!」
『……!!』
先ず死ぬのかよ……
ーーー雅の言葉に……
「そーだよなぁ〜」
「全くだヨ!!」
「だけどさ俺らって今から新しく生保入れンの?」
「月々の保険料一般人より高くなるけど、入れんじゃね?確か」
「外資系、イギリスのロイズとかなら いんじゃねー?」
おーなるほどと全員がウンウン頷き ザッと立ち上がろうとする。
『……あんなに真剣に悩むだけ馬鹿らしかったかもな』
ーーー信繁は立ちくらみがした
『この自分達は絶対死なないという強心臓の根拠は!
コイツら どこから来るのか?!』
「え?……だって班長といたら俺ら死ぬ訳無いし?」
「なあ〜〜〜?」
「だよなーーーぁ……?」
「……!!」
ケロケロと〜顔を見合わせる班員達に、信繁は腕組みをし、難しい顔を作った。
「いやーーーー今回はいつもと違う、相手は通称『ゴースト シップ』〜
幽霊船といわれている怪物集団だ。
ネオアメリカ軍や、ジャパン国防軍の驚異の鬼のソナー追跡すら振り切った。
この前の『大学病院』ーーー
上物きれいさっぱり吹っ飛ばした『国籍・正体共に不明』の、エゲツナイ潜水艦だぞ?
そんな不気味な潜水艦が今回の相手だ。
親父さん達からの情報ですら何もかもが正体不明、銀河中を荒らしまわっているが組織としてはまだ若手ーーー
だが凄腕の、暗殺を中心に請け負う謎の集団としかわからないらしい。
ーーー正直 今後、何があっても不思議じゃない」
「別にーーー 逆にすっげーーー面白いじゃんか?」
「なぁワクワクだよなぁっ?!」
「……そんじゃあ??さぁ?
もし幽霊船を『捕獲』、拿捕出来たら、ねーーー班長の秘蔵の『ウィスキー』
俺達全員にも振る舞ってくれますよねーーー?」
「よし 決定!!」
「そうだそうだそうだそうだ!」
「そりゃあスッゲーーーッッ〜〜〜〜〜……!!」
ウウォオオオ……ウウォオオオ……ウウォオオオ……
『何故そうなるッ!!』
びっくり仰天の信繁の思惑を、サッサとアッサリ無視し、班員達は勝手にド派手に、いきなりドドドドドンッと大盛り上がりに盛り上がる。
「絶対約束ですよ!!」
「サーケーー サーケー サーーケッッッ、サーケ」
『……約束なんかしてないぞ? コラッッ!』
「だってさーーー子龍は、班長にとってサ〜『別格』で……恋人で〜〜〜ううううううう……っっ
長い付き合いで、特別扱いは仕方がないし諦めますが?」
『〜〜〜なんじゃそりゃ、全然仕方なくないゾッッツッッ!』信繁は仰天する。
ーーーしかも断じて恋人じゃ無いッッ!!誤解を招くだろ!!絶対に!!ッッ!
「ーーー雅に、ならまだしもヨンまでなんてーーー
先を越された〜話を聞いた日にゃあ〜〜〜俺っち悔しくて……ぅぅぅ、嫉妬で夜〜枕を涙でシトシト濡らしましたァ!」
『だから……嫉妬ってなんだよ! そんな変な事は無いぞッッ!!』
「ヤッホー、やリィ、これで大いばりで、『やっと』〜〜〜〜!
『羨ましいだろ?』……って他班の男どもに山程自慢できますーーーっ!」
「そうだよーーー『マジかよお前 飲ませて貰ってねーの?』
あの”エエエッ!” とチラリン……バカにした目〜
ク〜〜〜〜〜〜〜
ホントに長年つろうございましたよ……! 殿ーーーっっ」
「やーーーっぱ『箔』だよなあ〜〜〜〜〜〜!!
『信繁さんに認められた』 って言うのはなあッ??」
「そうだそうだそうだそうだそうだ!!」
「ダヨナ〜〜〜〜〜〜!」
『ーーーーーーー』
〜途方に暮れた信繁が子龍の方をチラッと見ると『しょうがないだろ?』……
ヒョイッと小面憎く肩をすくめる様子が目の端に入る。
何だかよくわからないモチベーションアップの流れーーー
『っったく……しょうがないなぁ……』
信繁は ”取りあえず”ーーーー
実家の父が嘗て社長業をつとめていた会社経営を、無理言って頭を下げて依頼、以後の会社業務を滞りなく引き継いでくれた優しい大伯母、叔母らに連絡をとる必要性があるなと感じた。
自分が普段飲んでいる「嗜むもの」はあくまでも地元通常版だが、彼女達なら、既に「販売終了限定版」の特別ウィスキーを何本か、地元のつてで販売店から探し出してくれるかも知れない。
『出来たら、毎度俺の下で体を張るアイツらに今回はそれを飲ませたいからな』
やれやれ……信繁は深い深い溜息をついた
****************
馬鹿騒ぎが 何とか収まると、信繁は「城」特殊部隊専用・作戦用コンピュータールームで宇宙空港までの作戦展開の説明に入る。
今回はヨンにも召集をかけた戦術、重大な戦いである。
コンピュータールームは信繁の先輩である藤吉郎、渾名は「藤」という男性の管轄、縄張りだ。
「うーん、君らばかり楽しい酒盛りだなんて、仲間はずれみたいで寂しいなぁ」
「ーーー藤先輩らもどうぞ、参加、是非よろしくお願い致します」
「フッ悪いねぇ、そう来なくっちゃ! 僕らもモチベーション上がるよ信繁君」
「ーーーー」
信繁はコンピュータールームの空中に、勢ぞろいの班員に今後説明する海域の海図と立体地図〜
ホログラム映像を愛用 ”銀色の指示棒” で指し示した
これらの海底資料は有難い事に、事情を知る情報通の藤が直ぐに完璧に用意をしてくれたものである。
信繁が指示棒を敢えて使用するのは、レーザーポインターだと映像背後に光点が突き抜け間が抜け、イマイチ何となく好きになれない為である。
彼は前近代的な道具を、そんなこんなでいつも使っていた。
「先ずこれを見ろ」
「スルガ湾〜の……海底地図ですね?」
海釣りに詳しい班員の1人が、パッと一目見るなり信繁に発言する。
「そうだ、スルガ湾は我が国でもっとも深い湾だ。
白浜から少しいっただけでドン深でーーーー2キロも沖に行けば、深海魚の住む水深2〜300mの真っ暗闇の海の底だ。
近海で大物ーー 大昔ではクロマグロだって狙え、説明の通り、沿岸部が急激にドカンと落下しているから珍しい深海魚も捕ることが出来るという有り難い素晴らしい漁場なんだよ。
特にーーーー海底の隆起が複雑な場所は『銭を産む場』なんて言い伝えでまである。
地図上ではイズ半島先端の、イロウザキと。
ーーーシズオカの最南端の岬〜 オマエザキとの『ラインの北側』
細長い海洋国家 ジャパン列島でも、かなり特異な海底を持つ『特別な海』だ」
「え〜〜〜〜?なんで?」
「イズ半島はな、元々は、ジャパン大陸を司るプレートとは全く別の、フィリピン海プレートにのっかった火山島だ。
信じられないだろ? あの半島が 本当は『島』だったなんて?
衛星画像を見て思ったんだが、元々はアワジ島より悠にデカイ 活発な造山活動を行う火山島だったんだろうな。
それが太古の昔、何100万年もの大昔、大陸移動でホンシュウと衝突して今の形になった」
「おおおおお……」
「ほおおおおおーーーー」
「マジかよ?!」
「昔は島?! 信じらんねー〜〜〜〜〜!!」
「ハッっ、そう言えば! 先は三角っぽい不思議な形だよなーーーー!」
部屋にザワザワ溜息が漏れる。
「スルガ湾はプレートとプレートとの丁度 ”境目” 例えばお前達の大好きな2枚の焼きたてで切り分け前の、巨大カステラがあったとする。
水蒸気と熱気でホカホカと柔らかいーーーーー
それが面と面でギュウギュウ押し合い、そーっと剥がしたとすると?
ーーーーとすると……どうなる?」
「2枚と2枚の接面でーーーー折れずに ドでかい谷が出来る……かな?」
「そう、細長い船型の海の盆地が出来上がる」
銀色の指示棒で信繁は ポンポンとーーー『1番深い場所』とおぼしき海図の場所を突いた。
「この海の『谷』の続き〜最も深い部分は……2500〜3000m
ーーーーだから深度6000mを境目に名付けられる〜海溝とは呼ばれず
海溝より深度が浅い、『船状海盆』と言うんだ。
電脳通信で〜ジャパンでは格好付けてなのか『船状海盆』とは言わず『トラフ』っていう名前で呼んでるけどな?」
信繁は一旦話を切り、グルッと班員を見渡す。
「あーーーそりゃあその ”船状何とか”ーーーよりもサ、『トラフ』のほうが言いやすいし?
なんかーーー ”格好”よくね? ”虎”だなんてさ?」
「斑入り」
「まんま虎模様じゃね?!」
「ダヨナーーーーー!カッケー!」
「うん」
「気持ちわかるわ♪」
違〜〜ーーーーぅッッッッーーーーッッッ……!!
『ーーーーいいのかそれで?!』
「ホントホント!!」
「それに お豆腐みたいで美味そうだ!!」
「おおおおお……そりゃそうだ!」
『……』
腹の虫に正直すぎる部屋のメンバーは信繁の戸惑いを余所に、皆ウンウンと頷き合いそれぞれの「熱き豆腐愛」……!
〜豆腐に何をかけると美味いかベスト3〜
各自勝手に様々に披露し始めたのである。
「マヨは邪道でしょ?」
「いや〜……タルタルソースはいいぞ? あれ原材料〜マヨと卵と玉葱だろ?」
「オイオイオイ……!
『タルタル』に今、絶対王者様であるピクルス様が中に入ってねーぞっっ!!
そんな物は俺は断じて認めなーーーいッッ!」
「そういや ドバッとサラダドレッシングは美味い 〜調理が簡単だし?」
「さんせーーー!!」
「はちみつレモンは??」
「なんじゃそれ?! だったら焼肉のタレっしょ」
「じゃぁここは1発、恒例の『挙手』だな?
はーい『めんつゆ』がいいと思うヤツ〜〜〜〜〜〜!!」
ーーーー信繁は頭を抱えた。
『やっぱり世論の反応はそんなもんか……』
余りの驚異のゴロゴロ脱線ぶりに…… フーーーッと堪らず大きく溜息をつく。




