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配信


「惑星トール軍 最新鋭 軍用宇宙戦闘艦  ジャパン宇宙空港に緊急着陸」


(ジャパン政府広報部 内閣総理大臣・公式声明より一部抜粋)



永らく「平和主義」を標榜し、他国の如何なる軍事戦闘系列の軍用機・宇宙戦闘艦も古来よりネオアメリカ軍その他~


旧来の知己である 地球内、ごく限られた国以外の入国を厳しく制限し排除してきたジャパン政府に、今回有り得ないともいえる特例的な事象、珍事が起きた。

 

トール軍の巡航していた最新鋭宇宙戦闘艦が、機関部マシントラブルと、それに伴う艦内での突発的人身事故の為、緊急を要する人命の救護救援をジャパン政府に打診 依頼した事に端を発する。



ジャパン最大級のハネダ宇宙国際空港に接岸後、結果これに反対する市民の激しいデモ活動が、敷地を取り巻く各所各海岸、また海中にて船舶を使い大々的に展開されている模様である。


混乱による事故をおそれたジャパン国防軍が、混迷する空港四方に配備され、厳重にガードを行い、近隣の住民および 施設利用客の万全の安全を図っているという。


騒ぎに伴い、正式に内閣総理大臣による 今回の超法規的処置〜

異例の特例処置によるコメントがライブ中継にて発表された。


「今は丁度クリスマスシーズン。


ジャパンの私どもの間にも、時を越えた『クリスマス休戦』

〜クリスマスの奇跡〜が、あっても宜しいでしょう。


なにせこの目出度き祝祭には、必ず『奇跡』がつきものですからね」


伝統的に、真面目で融通が利かぬと銀河間でも定評のある、かの龍に似た形状の島国のリーダーの思わぬユーモアの効いた発言。


銀河連邦加盟惑星 各国の電脳メディア所属の記者陣はニヤリと微苦笑がこぼれたことだろう。


戦闘艦はマシンの修繕と 人命の医療施設への搬送を急ピッチで終え、一両日中に必ずジャパンを離れる事とした。


今回の特例的恩情による、ジャパン政府への謝意が公式発表として、惑星トール・リーズ大王直属の王城広報スポークスマンから配信され行われた。

 


「クリスマス休戦」という 銀河歴史的に名高い慶事が目の前で達成した瞬間は、今後 銀河の人々の記憶に永く留まることであろう。



今回憲法上の絶対的規範よりも、惑星国の見知らぬ名も無き いち兵士への尊き人命への配慮を最優先した、ジャパン政府の崇高な勇気と英断に心よりの敬意を表す。



~以上 銀河連邦加盟惑星共同・代表広報部所属。

電脳ジャーナル 記者クラブ配信~





「よくあの『トール軍』が、ーーーこの国に弱みを見せましたよね?」



執務室、城主の前で 信繁は呆れた口調で小言を言う。



「戦死した兵士の遺体ですら 絶対に敵軍に渡さないという『鉄の掟』があるほど仲間意識が強いという風評〜


あの国の、そうした気質と習性は大変に有名ではないですか?」



それに対し、城主は執務室〜


デスク中空に起動させた巨大モニターを見ながら机備え付け、まだ張り替えが新しい重厚なピカピカな白い革張り椅子を、さっきから子どもの様にずっとクルクル回して遊んでいる状態である。


モニターにはジャパン国防軍と、激しい間断無いシュプレヒコールを高々と上げるデモ隊との睨み合いが、先程からずっと延々映し出されて一種即発、危険な雰囲気である。


城主はサラリと美しい黒髪を左耳にかける。



「あ〜その事?? ひょっとして気になる?」


「当たり前じゃないですかーーーー!」


信繁は呆れるも〜口には出さなかったが、流石に自分の上官の癖は知り尽くしている。


へんに子どもっぽい、傍目には異様な挙動不審な行為ーーー

特に左耳に髪をかける仕草には要注意だ。



何か、「超危険な任務」が口から飛び出す時、或いは「言いにくい事情」がある時ーーー


そう、出来事に絶対に何か一枚噛んでいる場合〜特に腹に一物がある時の予兆、典型的な誤魔化し、悪魔の行動パターンなのだ。


信繁は焦らず根気よく彼女が口を開くのを待つ。




「『五人会議』メンバーも、ジャパン内閣府中枢ーーーーも

特に内閣調査室〜 ”内調”がね?


タレイア様の情報、『元々無かった』事に、見て見ぬ振りをする〜

つまり『知らぬ存ぜぬ』ーーー最後まで押し通す事に決定したわ?」


 

城主は面白そうに信繁に告げる。



『やっぱりこの人はバッチリたくらんでいたか!』

信繁はハァっと、大きく溜息をつく。


 

『まぁ、そりゃそうだろうよ〜』


おおよそ、わかっていた事だけどさーーと信繁は心の中だけで呟く。



「ーーーーで??

あの『騒動』と それがどう繋がるんです?」


信繁はモニター内の ”絶賛放送中の大騒ぎ” を 顎でしゃくった。



「あの情報が『鉱山』では無く遺跡〜


ーーー特に、失われた先住民族の聖地に立つモニュメント、極めて重要な宗教施設という位置づけで皆腰が 完全に引けてしまったのよ?


何だかんだで、神聖で霊的な存在は彼らにとって、微妙な影響を及ぼすジャンルですからね?」


 

「”鰯の頭も信心から”ーーーですか??」


「ふぅん、随分古風な言い伝えを知っていて心強いわ?

 

そういった物を馬鹿にする愚〜というか、古来からの聖なるものを愛おしく大切にする気分を『侵害』する、どうにも寝覚の悪い後ろめたさはね?


正直ーーー誰も負いたくないものよ。


『情報』をオープンにしたとたん、言い出しっぺの自分に、ワンサカ謎の不幸が大量発生して降りかかりそうで そんなの私だって嫌だわよ!!


現に〜『大統領一家』ーーーバチが当たったのか『アレ』だしねーーー?」



「同情します」 信繁も然もありなんと深く頷く。



「この職業で。

〜運気が下がるのだけは何があっても絶対勘弁してほしいものだと思わない?」



「俺もかなりゲンを担ぐ方なので、まぁ、大統領ご一家の事についてはーーー


正直自業自得と言いますかーーーよくやるよ、ご愁傷様ですとしか。


ああした禁忌には、ずっとそれなりの理由が現実に続いて来たからこそ皆避ける訳ですし、まぁその、アレです」 


信繁は手を合わせて南無南無と深く同意する。



「で〜あの騒ぎだけどーーーーー?」


城主はモニターをじっと見つめ出し、受信部分以外は全て半透明だから対面している信繁の様子もよく見えた。


因みに 視聴中の映像は信繁からは反転して像が見えている。




「『事故』はホントにホント。

トール軍の最新鋭戦闘艦の予備艦の1つで起きた事柄だったの。


アグライア様はスペースシャトルでジャパンからコロニーへ渡り、コロニーで戦闘艦のどれかに乗り込み帰国〜という至極真っ当な手筈になっていたわ?」



「それで?」

 

「トールの戦闘艦はその1艦だけでは無いから、当初の計画通りに進めることも出来たけれど、戦艦の機関部のマシントラブルでの事故、宇宙空間は何があってもおかしくないからね?

 

『今回は』誰のせい〜でもないと思うわ


でも、乗り込んでいた軍人の方が負った負傷はね?

実際は、生命の危険を伴う程の悲惨な重篤な状況だったのよ?


コロニーの貧弱な医療施設では、とてもとてもーーー!!」


城主は溜息をつき 大きく首を振った。



「そういう事でしたか……」

信繁も気の毒そうに眉をしかめた。


「事故を起こした艦の艦長は、トール軍 艦隊総司令官が自ら新兵の頃から目をかけ育て上げた優秀な若手よ?


事故を『隠蔽せず』〜即報告したのは 正直見上げた心意気だわね?


トール軍、現・宇宙艦隊総司令官ーーー


総司令官は元々ロームルス閣下と戦友ーーーというかまだ若い士官学校を出て直ぐの頃、閣下は色々あって、このご友人を体を張って助けたんだそうよ。


敵対する派閥の将校から謀殺されそうになった、この同期生である彼の命を守った事があるのよ。


ーーーなかなかイカシテルじゃない? ねぇ! 


で、その時、閣下と同じく貴族階級出身で無かった『彼』は、戦闘艦操舵が飛び抜けて優秀であった為に、何所でもよく有る”妬み嫉み”、某事件の首謀者に仕立て上げられてね?


誰も彼を信じる人間がいなかった最悪の時にーーー若き日のロームルス閣下だけが彼の言葉を疑わなかった。

 

ーーー本当にたった1人の味方だったそうよ。


事件当時、青年将校だったロームルス閣下は単身、居並ぶ幕僚の勢揃いする会議に乗り込み得意の演説〜


誰もが『もっともだ』と頷く論陣を張り、止めの勇ましい啖呵迄切って〜その足で拘束中の友人を電光石火の早業で独房から助け出されたの。


その事で、今でもトール軍 宇宙艦隊総司令官スレイプニル殿は恩義を感じ親しくされているとか?」



「ーーー人に歴史有りですね」


何だかスペクタクルな展開、信繁は男として普通に感動し好意的な相槌を打つ。



「ロームルス閣下はね、トールの誇る最新鋭戦闘艦で起きた重大な事故のあらましを知るやいなや、直ぐに行動に移し、総司令官と対策に乗りだしたのよ。



『こういう場合は〜なるべく派手に決着をつけた方が逆に目立たず、世間の同情を買う』


ロームルス閣下からアグライア様込みの緊急アクセスがあった時は、流石に唖然としたわね。


ほんっと 凄い方よねぇーーー

 

乗組員が負った負傷は〜電磁波による肉体深部をおかす熱傷だったのよ。

 

要するに巨大な電子レンジに入った様な物。

医療データによると直ぐに手当をせねば進行が進み、身体の出血性ショックから呼吸困難状態〜


要するに、生命の危険が伴う本当に危険な状態だったわ?


ジャパンは火傷〜熱傷治療における分野は地球1・2を争う程の特殊な高度医療を特技として持つ国。


この国だけが、乗員の尊い生命を助ける事がおそらく出来るの。


だからね? 今回に限り。

トール軍最新鋭宇宙戦闘艦の宇宙空港への着陸は、憲法上有り得ない事態であっても、事情が事情故に、誰も不審に思わない。


というよりもーーー?

〜人道的見地から〜むしろ『当然』だと考えられる〜


そうロームルス閣下は言ったわ?


アグライア様も 一旦収容されれば、もぅあの大学病院のような危険な目に遭わずに無事帰国出来る。


まあ〜常識的に考えて、銀河最強を誇る国家所有の最新鋭戦闘艦にケンカ売る相手はいないでしょうからね!


戦闘艦の性能の秘密も、多少ならばジャパン側に漏れても構わない。


どちらにせよ『平和主義』を掲げる以上、他国間との積極的な戦闘行為は有り得ないわけですし?


ーーー知った所で無駄知識よね。


ジャパンを『巨大なブラックボックス』〜閣下はそのように判断したのよ。



トール側は、情報の確保、アグライア様の救出、乗員の生命救護。


〜上手くいけば 事故も隠蔽しなかった事でーーー世間で逆に評価が上がり。



また彼等の母国では、事故原因究明の為のモルモットになる事で『処分』が相殺されるかも知れない。

 

つまり、一石二鳥どころか〜三鳥も四鳥もいけるかも知れないと踏んだのよ。


ジャパン内閣府も、銀河最強の軍事国家に恩が売れ、また『大きな嘘』を隠す為に多少の犠牲は仕方が無いと腹をくくった。


ーーーで、『代償』に、この騒ぎよ?」



「〜成る程……」



信繁は両国間の余りのしたたかな論理に舌を巻く。

 

 

「後は俺達は宇宙空港へ……

アグライア様を ただ無事に着岸中の戦艦にお連れすればよい。

つまり、そういう手筈、段取りという事ですね?」


信繁の茶色っぽい瞳が微かに悪戯っぽく揺れた。




『ふーーーん、この笑いが現れたと言う事は。


怒りまくって張り詰めた 彼の気分に、少しは余裕が出てきたと言う事かしら〜?』



城主は少なからずホッとし、胸を撫で下ろす。



「そう、こちらでも万全の制空権の確保は行います、だからあの大学病院の様な目にはあわせません」


 

城主は静かに確信を込めて言い、黒真珠の瞳がキラリと輝いた様に信繁には見えた。




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