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これからの話について ③



アグライアは執務室での話し合いが終わると、急激に強い疲労を感じた。


ーーーーー無理もない事。



フラフラといきなりの激しい目眩〜立ちくらみを覚えたが


「大丈夫ですか?? 」


執務室扉の外で待機していた心配そうな信繁の姿をみとめ、グッとこらえるのだが、しかし目敏い心配性の信繁は騙されない。


「今直ぐに休息をとって下さい!」 ダメでしょうと叱られた。



手際のいい信繁の目配り、あっという間に「姉が使用していた」と同型の介護用具


〜なめらかな動きが印象的だった水素エンジン搭載、上等の「チェア」が用意されてやって来る。


「ッッーーー有り難うございます」

 

「いいえどう致しまして、では ”お嬢様” お手をどうぞ!」

 


信繁は茶色がかった瞳でクスクスと微笑みかけ、わざと大げさな物言いと身振りにアグライアもつい思わずプッと笑いがこぼれてしまうのだ。



『彼程の男性を、一時的にも独占してしまうだなんて!!

これって、なんて凄く贅沢な事かしら?


この機会が得られる為なら どんな事でも、本当に!

幾らだって何でもするって言う職員の方はきっと大勢いらっしゃる筈よ?』



そうだ、こんなのは圧倒的な特別待遇なのだ。


途方も無い幸せに身がすくみそうで……心が、くすぐったくて。


今でもーーーどんなに離れていても〜……

心を捕らえて放さない、惑星トールに居るフレイヤ妃殿下の事を思い浮かべた。

 


『私も、そんな女性になりたい!』


でもーーーなれるかしら?

 

信繁の力強い腕で、危なげなく上手く乗れる様、手を貸してもらう。


床から数㎝浮かび上がるチェアになんとかフワリと座り込むと、思いの外、ゆったりとした クッション部の設計に驚いてしまう。



「!!こんな椅子初めてです!!

トールには無いので ビックリしました」


「まぁジャパンは、昔から〜変な細かな部分を拘り抜いて、様々に開発する事に長けていますからね?


生活の、ほんのちょっともの快適さを追求するマニアックさは今でも地球ナンバーワンですよ!」


信繁の薄茶の瞳がフフンと自慢げに輝く。



「パン生地のーーー発酵したてのふわっふわの生地に、指を きゅーーーーっと入れた様な……!

 

はい! ドキドキがたまらない、溶けるような柔らかな感じに設定しました。


如何ですか? 私はアレ好きなんです、”上手く”ーーー出来ていますか??」



「ハイッまるで、本当にフワフワの雲の上に乗っている感じです!!」


キャーーーッーー♪と、子どものようにはしゃぐアグライアの膝に、信繁は更に体が冷えないように、手触りの優しいブランケットをそっっ……とかける。


「このまま設定を広げて、居心地の良い、地球の王侯貴族が現在使用する最高級のフカフカなベッドの感覚を再現〜


ーーー今 こっちも体感する事も出来ますよ?」

 


「ホント!?」

アグライアのキラキラする目を見て信繁はぷっと吹き出してしまう。



彼女の「如何にも女の子」〜な純粋な感覚に……

信繁は、殺伐とした気分がフッと癒やされるのを感じた。



『ピュアで真面目でーーーーいい方だな。


どうして、あんなに閣下が心配して大切になさってるのか、そりゃぁ男なら誰だって、こんな彼女を守りたいと思うだろうな。


だけど閣下はーーーこの方を本当に手放せるのか?』



彼女を休息する為の医療棟に送った後、城主とののっぴきならない、気の重いシビアな話し合いが行われるのが信繁にはわかっていた。



しかしそんな心情を全く出さずに微笑みかけて、あくまで楽しい話題をどんどん敢えて振った。



「〜体を休めないとダメですよ?


今は副交感神経が活発だから興奮状態ですが、必ず後から反動でドッと来ます。

ーーーいいですね!?」



オチとしてーーーそう話を繋いで結末をつける。


「……はい」

信繁の指摘にアグライアはコクンと頷いた。


医療棟につくと、一体どういうカラクリなのか手際よく「チェア」の設定をアグライアの好み〜さらにカスタマイズして変えてくれた。



「わあ〜〜〜〜!!」

チェアの角度といい 柔らかさといい!!


しかも、体感の温度まで!!


信じられないほど 今の気持ちにピッタリで、体の全てが包まれる感覚に今直ぐにでもふっと蕩けそうな眠りに落ちそうだった。



病室付きの医療スタッフがマジックの如くにスルスルと、壁面の一部に元のベッドを収納しアグライアの為にスペース……


最適な広さの空間を空けてくれた。



『相当無理をされたんだな』


「足を ちょっと上げますね?」 


信繁の設定変更で、チェアは更に形を変えて脚部が上昇し、より姿勢が楽なリクライニング状態に変形する。


全くーーーー……いたりりつくせり


「気持ちいいわ……」


「では これを飲んでお休み下さい、脱水症状をおこされそうで私は心配です」



信繁はそう言うとストロー付き、ボトル入りスポーツドリンクを差し出す。

量はさほど多くないタイプのボトリングである。


「!!〜〜〜有り難うございますッ」



モジモジっと受け取ると、コクコクと一気に全て飲み干す。


「美味しい!!」


嘘じゃ無い、丁度いい感じに冷え、喉を潤す 堪らない美味しさだ。



アグライアはその後……暫くして〜ぼーーーーっと、瞼を閉じ。


今にも意識をコトンと手放しそうな状況が続き、信繁はそっと側を離れる。


彼のさり気ない照明のリモコン操作、元々彼女を柔らかに照らしていた明かりもグッと更に、スポット照明のみに気持ちよく落とされる。


ふんわり夢うつつ、トロトロ変化した表情を見てーーー『後の事は任せた』


信繁はサッと警備の警護役隊員と医療スタッフに、アイコンタクトで ”自分の意思” を伝える。



スースー 気持ちよさげな寝息を立て始めた彼女の睡眠を邪魔しないよう、起こさない様に気を遣いながら。


自分が居ない事に気がつかれないよう、足音を忍ばせそっと白い部屋の中から退出する。



『ーーーとにかく、今は夢を見ない程の本当に深い眠りが必要、中途半端な睡眠は、奇妙な夢の元だ。


〜コイツのせいで、かえって体力が消耗し疲労が蓄積するからな!』



実は、部屋の空気中に微かな睡眠誘導剤が混入されている。


医療スタッフ達は ”していて当然” の特殊防御マスクを使用している為、意識に全く影響はない。


信繁も「あの程度」なら〜既に自身も薬物の耐性、「眠れぬ夜の共」睡眠導入剤が激務故に肉体に染みついており、別に何も影響が無かった。



またーーーー室内には、より深い眠りの為に微かな 「1/fゆらぎ」を含む素晴らしいリラックスを呼び寄せる特別な音波も予め発生させてある。


『このままアグライア様は、ほんの一時、夢も見ず深い眠りに落ちる筈だ』


 

一瞬後ろを、信繁は出たばかりの病室をチラと振り返る。



『今だけでも ゆっくりとお休み下さい』



目が覚めたらーーー!!


彼女には、また逃げられない激しく厳しい現実が待っているのだから。



信繁の表情、すぅーーーっと顔つきが変わる。


もぅ先程迄の甘やかな、人の善い優しい柔やかな男性の面影は既に無い。


そこには「別人」ーーー

 

キリリと引き締まる、見るからに優秀さを感じさせる凜々しい闘う男の貌があった。




『国立総合大学病院の事もそうだが、今大変な事態になっている、宇宙空港での大騒ぎの元凶をあの人は必ず知っている筈だ。


また何か隠し事〜たくらんでいるに決まっている!

 

そうだ ”あの”ーーー俺達の素敵な滅茶苦茶な人は』


 


信繁は 今後の作戦、それからアグライア嬢の帰国についての打ち合わせの為。


信繁班を取り仕切る凄腕精鋭班の班長として、秘書課を通り抜け、城主との話し合いに執務室扉前に立つと


コンコンコンーーーーーー! 軽やかに扉をノックをする。



すぅーーーっと、胸いっぱい、大きく息を吸い込んだ。



「信繁です、到着しました」 インターフォン越しの声


「どうぞ」


「入ります」


静かに「城」 蜘蛛の巣の中心ーーーー



この世の全ての情報を握るが〜意図的以外は、絶対にそれらが流出する事がないと言われる場所。


「ブラックボックス」化した、魔女の住まう部屋〜


信繁は執務室の扉を丁寧に、だが大きく開け放ち覚悟を決め入室するのだった。




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