これからの話について ②
「『城』特殊部隊の有能な班長の信繁は 私に。
執務室でまだ情報が『鉱山』だと想定した状態の時に、彼はギリシャ神話に登場する『トロイの木馬』と例えていましたよ?
言い得て妙だなあ〜と、彼の柔軟な男性らしからぬロマンティックな発想力に感嘆しました。
貴女はその道の専門家、舞台幻術に詳しき方ですから、私からの説明は無意味ですが。
『トロイの木馬』とは、神話でのトロイア戦争時の、神への素晴らしきギリシャ軍の残した捧げ物です。
唯一群衆に逆らい捧げ物を戦利品として、城壁に守られる難攻不落の街に入れるのを反対する人物〜 いわゆる”アンチ”ですね?
ーーーこれが神官のラオコーン一家。
アンチを押しのけ排除、欲望に目がくらみ慎重さを軽視し反対意見を詮議せず、木馬を我が物として引き入れんとしたトロイヤの興奮する民衆。
豊かな国ーーー自ら、トロイの王国を結局滅ぼした者達の示唆に富む逸話です。
ぇえ彼らは喜々と、おそろしい国を滅ぼす災厄を自ら招き入れました。
まぁ陰謀、計略、奸計を用い、都市攻略を行ったギリシャ軍の行いの悪辣さについては 個人的には私は好きではありませんが。
双方の戦争という非常事態における、人間の剥き出しの欲望のグロテスクさ〜
騙され易さーーー
その『えげつなさ』には、文化や科学が凄まじく随分進歩、進化した今の時代であっても全く ”変わらない”
私はそこに肌が粟立つ強い恐怖を感じます。
地球ギリシャ神話は、勿論比重は勝者であるギリシャ軍にあり、彼等を華やかに高らかに褒め称え賞賛し、或いは悼むのを目的にする壮大な叙事詩ですが。
よく読むと、もっと大局的、どちらの善悪のジャッジも 本当はしていないような気が致します。
それの証拠に帰国後、総大将は妻に策略で殺害され、英雄も散々に帰国の途で酷い目に遭い、どんどん戦友や将兵を失うのを残酷に目の当たりにしますからね。
神話の神様は、皆〜大変に移り気で気まぐれで 嫉妬深いのです。
『ルールを造る側』に存在する神の彼等に、ソモソモ理屈なんて物はあって無きが如しです。
彼等神々同士のしょうも無き 見栄や策略……
切りの無い支配欲や場当たり的な恋愛ゲームに振り回される人間の、溜息をつきたくなる愚かな様子には正直、敗者も勝者もございません。
いいですか??
あの情報は決して『宝の地図』などではありません。
実際の所、お姉様は……
タレイア様も、言いたくは無いですが、とんだ厄介なモノを見つけ出して来たものです」
城主はフーーーッと溜息をつき、しなやかな指先で再びメモリーが挿入されたケースをクルクルと回し遊び始めた。
表裏表裏表ーーーーー…… ケースが風車に似て 目まぐるしく回る様子。
まるで高速回転で ”人間の運命”が、神話の神々の手の内に面白半分に翻弄される脆さ儚さに、今のアグライアには感じられた。
城主は指先の遊びを続けながら、こんな事を重ねて言う。
「絶滅した先住民族が、どうしてあの物質を これ見よがしに大神殿建造に使用したか、今となっては皮肉としか思えません。
だって? 『仕掛けた者達』にとっては、アレは敵対者の欲望を際限なく誘発させ、手を汚さずーーーー!
自分達にとって犯すべからずの、神聖な物を汚す者達に死の天誅を下す、相手を一撃必殺で必ず仕留め…打ち倒す事が可能なのですからね?
これは内部からのグズグズな崩壊を目論むことが出来る ”一発逆転”の最高の秘密兵器となりうる、強烈な最強の呪いの籠もった呪物、情報です。
正に信繁の例え〜指摘通りの『トロイの木馬』そのものです。
それが ”わかる者だけ” 『獰猛な内包する危険を飼い慣らせるか??』
もしくはーーーー
『無視できる人間』のみが、宝を得る持ち主に相応しいという”諸刃の剣”
私はここの『城』……総責任者所長です。
ですから施設内で関係した人物全ての安全と生命保持が 最優先重要事項です。
ですので ”本来” それ以外の事柄は、私の守備する事ではございません」
「それは『関係ない』ーーーと言う意味ですか??」
城主はアグライアの問いかけに、面白そうにニッコリ微笑む。
「まぁねーーー『関係ない』と言い切るのは余りに無責任、流石に乱暴過ぎる発言ですけど?
でも事実『そうなの』です、全然私の本筋の職務に関係ございません」
「……」
「ええーーーー私にとってもこの情報は、あまりに途轍もなく大きく深すぎ、明らかに手に負える『分』を越えます。
それでも強いて、国際間の立場を憂慮〜考慮するならば。
私の祖国ジャパンが この情報を巡り、今後トールの新兵器による攻撃により一瞬で無残な水蒸気にならなければ良しーーー!
まぁね?融通の利かぬ官僚的答弁ですが。
面倒事がこれ以上我がジャパンに持ち込まれる前に、サッサと叔父上ロームルス閣下に持っていって下さいな。
『これ』が、この、銀河を怯えさせる特殊収容施設〜
『城』を統べる総責任者からの、ささやかな立場における私からの『正式回答』とお考え下さい」
そんな風に、城主は身も蓋もない回答を言い切ると花の笑みでニコニコする。
「ーーー色々と貴女が呆れるほど長々と話しましたが?
叔父様にはアグライア様からこの様に〜
『厄介すぎて手に負えないから、サッサとそっちで引き取ってくれ!!』
私が匙を投げた〜とでも?
まぁ適当に、何だかんだ好きな理由を作ってくっ付けてお伝え下さい」
「!!」
ビックリ仰天唖然とするアグライアに、やっぱり花園の可憐な花の蕾が綻ぶかの様子、城主は相も変わらずフフフと美しく微笑みかけるのだ。
いつの間にかーーーーうつらうつらと、まるで魔法に掛けられ操られたかに深く頷き
ーーー急にハッと覚醒する。
アグライアは、叔父が城主についてあんなにも事細かに、あれこれ指南していた理由が良くわかった気がした。
『不世出の方だとトールで恐れられているーーーー
軍事参謀長官の叔父様ですら手を焼く相手に、愚かな私ごときが敵う筈が無いーーーですもの』
つまり自分は 『軽く鼻先であしらわれ、からかわれた』のだ
何も知らぬ子ども扱い〜
『きっと、仰らないけれども、さぞや歯ごたえが無くつまらなかったでしょう』
アグライアはあまりの不甲斐なさに、しょんぼりと項垂れてしまうのだ。
『でもーーー私はどこか楽しかったの!
何て驚異に満ちた〜驚きと目もくらむ楽しい時間だった事かしら?
苦しい宇宙酔いにも耐えて ”ここ”、特殊収容施設 城まで来て本心から良かったって思えるの!
この数日間の出来事は……
多分これからの私のーーー 一生の宝物。
そうよ!今後の生涯、決して絶対に記憶から失われる事は無いわ?!
それだけはーーーぇぇ、絶対に絶対に確かだと言えるもの!!
私は忘れない……素晴らしい人達との出会いと想像を絶する出来事!
死ぬまで大切にする素晴らしい大切な思い出……!』
アグライアは、この奇跡とも思える出会いと触れ合いに心から感謝した。
「こちらに来て 本当に良かったと思いました。
こんなことを言うのは、気が引けますがーーーー
私はーーーー実はずっとワクワクして楽しかったんです。
素晴らしき体験と……素敵な人達との出会いが、大変に幸せでーーー
……っっ 本当に今まで有り難うございました」
ーーー……と……
『?……』
城主はアグライアに悪戯を企んだ 面白そうな微笑みを浮かべたのだ。
「ところで、お姉様と出会われてスッカリお忘れのようですが……?
貴女の『唯一の望み』を叶える『権利』は、まだ無傷で生きています。
ーーー発動していません
……アグライア様? 其方は『これ』を どうされますか?」
『!!』
途端にアグライアは 頭をブンブンと横に振るのだった。
「……こちらでッッッ!!
随分な無理を言って 規則を曲げて不作法に押しかけた手間のかかる私と。
それに、この施設から見捨てられて、収容されなければ絶対に命を失っていたに違いない姉に、ここまで充分に良くしていただいたのに。
その上ーーーこれ以上だなんて 贅沢です!!
本当に身の程知らずです……!
ですから私は要りません。
その権利を……この場で放棄致します」
「ふぅん…… そうですーーーかーーー?」
ハッと気がつくとーーー
直ぐ目の前に、身を乗り出して中央のローテーブルに手をついた城主の黒真珠の瞳が近くにあった。
「了解致しましたわ? 無欲な御方……」
……耳元で 唇が艶やかな言葉を囁いてーーーー
一瞬
アグライアの頬を優しい柔らかな温もりが、羽根のように通り過ぎ、カァァァァッ……蒼白に青ざめていた貌を瞬時に紅く染める。
スラリと長い伸びやかな腕をパタパタ、大きく鳥の様に振るわせながら大慌てでソファーのクッション、つまり背もたれに子鹿の如く限界ギリギリまでピッタリドスンと飛びづさった。
突然あの熱いーーー心臓まで蕩けた甘いキスが脳裏に甦って来る。
「!!〜!!〜!!〜!!〜……!」
「くす……ッッ……純情な方。
ちょっと 〜……面白かったから からかっただけです。
貴女が余りにも汚れ無き〜聖なるそのものなので!
『唯一つの願い』放棄の事〜了承致しました、そんな人は今まで私の人生初めてですよ?
アグライア様は、随分と無欲な方ですね……」
彼女のアワアワ全身大恐慌に陥った、超慌てぶりに城主は全く気を悪くするでも無くーーー
城主は優しくふんわりと美しい微笑を浮かべる。
彼女には、実は職務上『今回に限り1つ』だけ〜……!
〜あのガチャガチャ小うるさい「五人会議」にかけるまでも無いが、絶対に単独でも効果絶大ーーーの……
アグライアの為に確実に『城主として』 ”輝かしき未来を造る為に最高の力添えが出来る” とある究極の権限があった。
今までも時々ここ一番で…… 〜「その力」を自ら振るった事がある。
〜フフン……?!
これはいよいよ今回、久しぶりに発動させる時が来たようね?
〜いやーーーそうでもないか……?
『あれだけ』は 私だけしか出来ない裏技、彼等には恩が売ってある事だし?
純粋なこの子の名誉の為〜と言えば?まーーー 聞いてくれるでしょう。
だって勇敢な殿方ほど、健気な美人に弱いしーーーねぇ?
でもサプライズを発動したら、アグライア様さぞやビックリするでしょう。
あ〜〜あ〜〜あ〜〜〜あ〜〜〜〜〜〜〜〜
その時の驚きの可愛らしい表情が見られないのはホントーーー面白くない。
〜〜残〜〜〜念ーーーーー
ぁ〜〜〜〜〜〜! つまんないわぁ〜!』
彼女は まだ緊張と慌てぶりが全くさめやらない令嬢の純情可憐な様子を見て
『やっぱり この子ったら見ていて飽きないし ホンット面白いわぁ……♪』
クスクス、恐慌を起こすアグライアの思惑とは全然真逆な事を思っていたから人が悪い。
アグライアに自分が可愛いという自覚が無いのが更に良し!!なのだ。
『どう考えてもこのキュートな赤ずきんちゃん、あの狼さんには勿体ない!』
〜心の中で思いっきり楽しげに、城主はクスクス笑うのだった。




