これからの話について ①
「好きなところにかけてね、楽な姿勢でいてくれていいからーーー
辛かったら、そこに寝転んで聞いてていいわ?
本当に疲れたでしょ?」
「済みません」
……綿のように力が入らない体を白い部屋にて休め、充分な休養をジックリ取った後とはいえ、まだまだ体調は完全には戻り切ってはいない。
執務室に案内されたアグライアは、やっとの思いで身体をソファーに横たえた。
彼女の目の前の豪奢なソファーには城主が座っている。
時間はもう夕方を越えていた。
城主とアグライアの双方とも実際肉体部分、体の芯は泥の如くクタクタだった。
しかし脳内・体内にアドレナリンや脳内麻薬と言われるエンドルフィンが極限まで放出の為、殆ど異常なほどに気分だけはこれ以上無く高揚、研ぎ澄まされた精神状態だから辛うじて持つのも確かで。
ーーーこの状態で”睡眠”は正直辛いとも言える。
妙な物は逆に起きて全部使い切った方が、かえって予後が良く負担が少ない。
そんなこんなで身体の強度の疲労を何とかビシッと共に撥ね除けていた。
「持って行きなさい」
城主は頑丈なケースに入れた座標地図の記録媒体をすっと細い指先でつまむ。
広い客用テーブルの上でアグライアに向かって静かに滑らすように差し出す。
「!!どうしてですか?
軍事国家のトールが、これほどのーーーー
究極の破壊に繋がるかも知れない資源を手に入れていても宜しいのですか?」
ーーー禁忌の地より発掘された呪われた情報。
『このたった1個しか無い、実際何人もの命と引き替えにした貴重な情報だというのになぜ?』
ところがアグライアの不審そうな表情に、城主はうっすらと口元だけの微笑みを浮かべるのだ。
例えるならば、どこか超然とするこの世の者で無い様な、不思議な神秘的な美しさを秘めた微笑み。
「どうしてですか?」
ーーーあの紅い谷の、大神殿のーーー神の啓示を受け取る神官〜いや巫女が、この現世に突然現れたかの様に思わず息を吞む。
『今までとは全く印象が違うわ!!』
それ程、印象的な〜
目に見えない緊張感を全身にふうわりと 纏わりつけている。
「それはね?」
城主は淫靡に艶然とクスクス笑う。
アグライアは、不思議なーーー……
蠱惑的で魔的な黒真珠の瞳に囚われてしまった。
『こんな人も居るのだ』と、この不思議な空間に肉体に無理しても留まろうとする職員の気持ちが理解出来る気がした。
「さて、私と法曹部はラオコーンの法律と『銀河法』の法規に則って。
法規と法例で、こうした場合の権利がどうなっているか?〜をキッチリ詳しくこちらでも精査、最終的には ”会議を通して” 審議致しました。
元々ラオコーンの惑星開発の為の権利〜
『開発権』の中の一条 採掘権は、元々お祖父様が銀河法で認められ、『最初の権利』が確定登録されています。
『銀河法』により保護されている以上『開発権』〜
他人が採掘権を侵害することは、違法行為なのです。
では『お祖父様が亡き後の相続』ーーーがどうなっているかと申しますと?
現行で現実の権利について調べましたら、お祖父様の死後、実の息子、貴女のお父様では無く〜
『権利』は孫娘であるタレイア様に相続、1世代飛び越えて、全て遺産として譲渡されておりました。
驚くべき事にお祖父様は税法上の始末も、法律家との話し合いでキチンと滞りなくつけておられました。
つまりですね?
大統領の御尊父である ”生前のお祖父様”ーーー元大統領閣下は。
ご自身の息子の統治者としての限界を、おそらく多分 ”誰よりもよく見切っていた” と推察せざるを終えません。
これが人工知能〜 城メインコンピューター以外での ”人による会議”でも全員一致での結論でした。
そしてお姉様の飛び抜けた、天性の才能を、幼児期の利発な、打てば響く頭脳明晰な闊達な様子で的確に見抜いていたーーー!
そんな先見の明 『確固たる強固な意志』を感じます。
流石、万難を排してあそこに入植した1代目の方ーーー!
ええ! ロームルス様の指摘
『人の上に立つ器ではない』は……!
~絶対に触れられたくないコンプレックス
『なんでお前はそうなんだ?!』
〜おそらく幼少時より、親からずっと言われ続けた、見事に劣等感を直撃する究極の嫌み、タブーでしたでしょう。
それを『あの方』ーーー”閣下”は知らぬとは言え、真正面から指摘して挑発してしまわれた。
しかも正論と類まれな実行力で、完膚無き程に叩きのめしてしまわれた……」
「……」
「売り言葉と買い言葉と申しますか、貴女のお父様もこらえ性も無く、同じくド正論〜
あのプライドの高き閣下に同じ様に……!!
ロームルス閣下が学校で職場で、散々陰口をたたかれて苦労している事を
『自分は正しい』と偏見剥き出しで同じく言ってしまわれた。
そりゃぁ以後は、あのお2人は、お互い憎しみしか無い永遠に反発する磁石のS極とN極
年齢の違う究極のライバル、天敵でしたのでしょう。
せめてもう少し、言葉の使いようがあればでしたが、若さ故の、正に『若気の至り』
ーーー私にも身に覚えのある苦い記憶です。
で、誰よりもその弱点を深く自覚するお父様は『アイツだけには舐められまい』
有能すぎるロームルス叔父様の鼻を明かすべく、能力以上の無理をしすぎて
あげく、私情、劣情に走りーーーー自滅、我を失ってしまわれた。
この特殊なお気持ちに関しては 察して下さいね?
にっちもさっちもいかない、強烈な愛憎が精神の逃げ場として。
〜あれ程 欲しくて恋い焦がれて堪らなかったご自身が持っていなかった才能、それら総てを天から存分に与えられたお姉様に向かわれて。
今回の騒動~クーデターの源流ーーー
そうした内面の葛藤と弱みが遠因だったと思います。
ーーー心の弱さ、その隙を何処かの悪党の〜外国につけ込まれ。
更に脇が甘い故に、目先の利益に目がくらんだ側近及び、謀略を旨とする血も涙も無い国外勢力に足下を掬われてしまった。
叔父様〜『閣下』も、ただ有能で賢い人〜という頭でっかちタイプでなく、本当は誰よりも負けず嫌いで心が熱く、俊敏で行動的な人ですからね?
ーーーなにせ”狼”
お父様も、戦いを挑む相手が悪すぎました」
指摘として身内に対する考察、真面目な話を聞かされて、余りにもその通り過ぎてアグライアは俯いてしまった。
そんな彼女を労るように城主は話を続ける。
「お父様がお嫌いでしたでしょう??」
アグライアは本当の直球に 驚きで顔を上げた。
「無理も無いーーーと思います……
あれ程偏執的に、たった1人に執着を見せている以上、姉妹間に愛情や扱いに捻れが無いはずはありません。
お父様は、法的な意味合いでも、貴女のお姉様を絶対に手放す訳にはいきませんでした。
自分には 採掘権が法的に無い訳ですしね?
でもお父様の『本心』はーーー本当に嫌だった事は、娘の〜彼女が側からいなくなる、全ての可能性を失うことでした。
既得権益は勿論でしたでしょうが、それよりもアイデンティティーの消失。
最も重要だったのは、拠り所にしておられた、終生のライバルに ”目に物を見せる” というーーーー
野心が達成できなくなる恐怖だと感じます。
その可能性、最強のカードを消失する事ーーー!!
これこそが、彼が真に最も恐れていた事態だったと思います。
そんな怯えや憎悪を……人知れずたった1人抱え込んでいたお父様の姿を、現在大人になられた娘の貴女はどうお感じになられますか?」
「どうって言われても、返答に困ります」
アグライアのその態度を見て、城主はひっそりと笑う。
「貴女は、感情をため込むところが少々お父様に似ていますよ?
ーーー私の目には それが心配、危険にうつります」
俯くアグライアの頬がカッと赤くなる。
「人には、感情を受け止める許容量があると常々感じています。
少しずつーーー理性的に『入れ物』を大きくする方法もございますが、しかしです。
〜自ずと限界値にも 拡張限度がございます」
「ーーーどういう事でしょうか?」
城主はクスリと真正面から、ジィッとアグライアの瞳の中を覗き込んで来る。
何か別のーーーー
先程とは全く違う、知らない人格が自身の内部で蠢いている気がして言葉が出てこず身体が強く硬直した。
「貴女はどうお感じですか??
お父様の事を哀れで愚かだと、嫌悪を感じるならば。
貴女自身にも必ず内面に同じ様に被る状態が、恐れながら精神的にあると言う事です。
貴女は、自らの『嘘』を、このまま生涯演じきるおつもりですか?
叔父様の前でーーー」
「!!」
「無駄な事はお止めなさい〜リスクが高すぎます。
いつか壊れてしまいますよ? お父様の様に……
貴女はそこまで魑魅魍魎渦巻く ”王宮政治世界”にて〜
生憎、非情が演じきれる程の度量がある、器の人物ではありません。
今ならば、まだ引き返す事が出来ます」
「私にはサッパリーーー何の事だか わかりませんが?」
アグライアがムッとした表情で返事を返すと、すると城主はまた先程の笑みを浮かべるのだ。
「判断し 決断するのは貴女です。
誰も貴女の人生を肩代わりは出来ません、良く覚えておいて下さい」
城主はそこまで言うと、沈黙してしまった令嬢の表情を 再びじっと見つめると
その後、机の上の特殊なケースをヒラリ手に取り、入れ物の角と角を指で挟み込むとクルクル器用に回転させて遊び始めた。
ーーーどうやら既に、彼女の関心は他に移った様子に見えた。
一通り気分よく遊ぶと、城主は再び話し始める。
「あの『メッセージ』をお姉様が考察~作られた時とは既に、大きく時代と星々を取り巻く情勢・事情が違うのです。
ぇえ全くーーー!!
あの古式ゆかしき富貴な事でも有名な惑星フレイを、星丸ごと入手した『トール』は、現在銀河の覇者と言っても過言ではありません。
ですので、かの国以外の国や星が『持つ』と逆に、周辺惑星国やコロニー都市はよりいっそう欲望をかき立てる面倒な事になりますね。
大きな悲劇と戦乱〜 ”結果”
銀河連邦諸惑星を巻き込む混乱が起きる事でしょうね?
いいですか? そうなれば、ここ『城』も、例外ではありません。
否が応でも大国達の気紛れと思惑に、散々に翻弄される事でしょう。
それは避けたいのです、総責任者所長として」
「……!」
「『トール』がこの秘密を握れば、”これは敵わん”
銀河は暫くは 〜『現状のまま』
かの国が侵略戦争を新たに仕掛けなければ、そういう事になります。
少々の間、あと10年ちょっとは、トールもゴタつく『惑星フレイの統治』で手一杯でしょうから。
宇宙のパワーバランス的に ”その方が良い” のです。
この先残念ながら、銀河間で 局所的な不毛な小競り合いの歴史は幾多もずっと性懲りも無く綴られることでしょう。
しかし10年後のその頃には、きっとまた新型の宇宙船なり、新しい新鉱物を使用したエンジンの開発が 急務で行われている筈でず。
技術というものは日進月歩で全く留まることを知りません。
ですから安心して『これ』を 叔父上様にお渡し下さい」
『この方は そこまで深く考えていたのッッ!』
アグライアは驚きで、最早返す言葉が無い。




