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精神への旅へ ⑨


姿形が大きくなったタレイアはアグライアの言葉に首を振り、微かに小さく微笑むのだ。




と、囁くような綺麗な声で 声を震わせ、美しい旋律を歌い始める。



涙と共にアグライアもその調べに合わせて唱和する。





天井が見上げるばかりに高い、クリスタルパレスの、透明なキラキラしたガラス造りの空間一杯に……



それは清く高らかに……!


奇跡のように美しい 透き通った歌声が響き渡り満たして行く。


滑らかに聖なる2つの声が混ざり合い、交差、やがて1つの輝く音の帯に変調する。


眩しいばかりの音の奔流が虹の光の渦として可視化するーーーーー……




「わぁ……!」 ーーーーー綺麗!!



悲しみを浄化する奇跡。



様々な箇所から粉々の光の粒子がヒュンヒュンと飛び集まってくるーーー


 


1つの巨大な塊になる。


目の前の高所に どんどん大きな図表が現れてーーー


アグライアとタレイアは互いの腕で固く抱きしめ合って共にそれを見上げた。




キーーーーーーーーーーーーンッ!!


最後の光の塊が……ピースがパァッとはまった瞬間、前触れも無く突然起きる。

 


鼓膜をつんざく巨大な爆発音……!!



一気に姉妹を取り囲むーーー仮想現実空間が眼も眩む放射する光に包まれた。


色調を更に変え、何もかも巻き込み サアーーーーーッーーー 


周囲全てが溶ろけ消え失せ、眩い光源しかない白く強く鋭い光に包まれる。



余りの輝きにとうとうアグライアは 目が開けている事が不可能になる。




「封印」を解くキー




それは2人にとって大切な聖歌、讃美歌 アメージンググレイスだった。



タレイアの脳内に転送されたアグライアが宿主に精神を寄り添わせ〜


”2人が1つ” になり

 

「同一のDNAを持つ2人」が歌唱の音階を合わせ「同時に」〜

姉妹二人が暗証キーを開放させる為に「特定の歌で働きかける事」。

 


しかもーーーピッタリ何もかも完全に同調させねばならない。



アグライアは全くあずかり知らない事だったが、それこそが「父」が最後に仕掛けた ”秘密を守る障壁”


「神殿」ーーー場所の地図を得るための唯一の方法。



流石に彼は 娘達の性質を知り抜いていた。



キーの存在は、自分達姉妹の存在、つまり生命自体が ”生体暗証” になっている事を、あの恐るべき状態で

「どうだ凄いだろ?!」


〜得々と語る、既に異常者と化した、父親からタレイアも聞かされ知っていた。


 

タレイアは捕縛され、女性として 例えどんな酷い事をされても。


クーデター首謀者に心身共に壊されてすら絶対に口外しなかったのは、それを喋ったら最後、大切な妹の身にも確実に危険、恐ろしい災いが及ぶからに他ならなかった。

 


『あの子だったら必ず、私の祈りがわかってくれる!』


タレイア自身も、最後は妹との心の絆を固く命懸けで信じていたからこそ、この一瞬に賭けたのだ。


勿論「特殊施設」〜

2人の精神を同調させ、シンクロを可能にする特別な装置や設備が無ければ再現は出来ない事ではある。


「生体認証キー2体分」と、条件の「2つ」。


この極めて難しき2つが揃って、漸く初めて解錠可能だったのも、娘の精神に仕込まれた重すぎる負荷を生じさせる厄介事だった。



「ヤレヤレねーーー」


「今から『コピー』します」


「ーーーーお願いね」



「上手くいきますようにーーーとっっ!」



主席研究員は メモリーに落とすべく機器を操作、素早く座標と詳細地図を特殊メモリーにダウンロード開始する。



「時間がかかる?」


「案外そうでもーーー無いでしょうね?」


「じゃぁ無事に戻ってこられそうでよかったわ?」


「ええまぁ、そちらは今回は大丈夫です!」


 

タレイアの生体、「脳」の……記憶の中の、装置が創り出した仮想現実世界に出現した貴重な座標地図。


城主・主席研究員達は、特化した特殊専用記録媒体に複写し完璧に取り出すことに成功を果たす。



すると~ ダウンロードされたと同時にーーー!!


脳内仮想現実世界、あんなにキラキラ金色に輝いて浮かんでいた座標地図は、終了したと同時に一瞬でパーンーーー


バラバラ、粉々に、薄いガラス破片の如く小さく細かく砕け散ってしまった。

 


「〜〜〜〜何なのよ!!」 城主は悔しそうに舌打ちする。



「『大統領』は、何処までも細部まで抜け目なく考えていた様ね!」



座標地図〜その「オリジナル」、光の塊は 元々の小さな光に分裂、消滅した。


 


「と言うことはーーーーー」


「まぁ、『そうでしょう』ねぇ」


コピーも この様子では…… 「複写」は不可なのだろうと容易に想像つく。


ただこの事で、最大のメリットは勿論ある。


ずっと不確かだった「仮説」、信繁も語ったタレイアの脳内のバグが本当に綺麗さっぱり破壊出来た事だろう。


おそらく今後、後遺症すらない。

その悦ばしき事が計器でも確かに実証できた事。


つまりこの施設で体力を戻すリハビリさえ盤石に細やかに行えば、外の世界で妹と共に健康に生活が可能となるのである。



「タレイア!!ーーーー」



樹脂カプセルから無事救出され、衣類を介護服に整えたアグライアが、真っ先に行った事は。


怪物に似た巨大装置から、万が一を考え時間を充分にかけて脳と肉体を慣らし、ユックリ安全に射出された姉、タレイアの姿に走って駆け寄る事だった。


シャーーーーッッ!!


収納装置 前面カバーがオロオロする彼女の前で開き、無残なおびただしき電極や装置を纏っている壮絶な様子。



ーーーそれでも美しい姿が現れる


 

「ーーーーアグライア?」


ヘッドセットを外されて、漸く素顔に戻れたタレイアの貌。


最初にーーーー 掠れているが極小さな声。


ゆっくり今まで何も映さなかった碧い瞳が光を灯し、かすかに生気を取り戻す。



ずっと長い間「綺麗な お人形」タレイアの、意識が戻った奇跡の瞬間だった。



「良かったーーー本当に良かった、私がわかるのね! 

わかるのね?お姉様ーーーー」



ボロボロの涙にけぶる目で 妹は姉の痩せた体に取りすがった。

目から銀色のしずくが次々に首筋に落ちてゆく。



パチ  パチ パチ パチ パチパチパチーーーー



研究所の至る所から 最初は小さく、そしていつしかーーーー!!


割れんばかりの空間を揺るがす盛大な拍手と歓声が、ヒュウヒュウ沸き起こるのだ。



下手をしたら自分の命も失ってたかも知れない〜!


善良で人の良い、ただただ姉想いの〜


どこか自信なさげなーーーー 

自分に自信が無く自己評価が低い、いたいけな若い女性が、自らを奮い立たせ必死に勇気を振りしぼり、命懸けで最後まで頑張り抜いた救出劇。


信じられない有り得ない事を、ついにやり通したのだ……!


まさにーーーー奇跡が起きたとしか言いようがない出来事である。



「まぁ『クリスマスシーズン』だものねーーー」



〜普段は厳しいカミサマも、仏心ならぬ悪戯な神様心を出したんでしょう!


城主は口の中で小さく嬉しげ、楽しげに呟くのだ。



兎に角良かったーーーーー……



************



「子龍の執務室乱入」「乱闘事件」、城主自らがアグライアと信繁双方に対し

 

「行き過ぎ・やり過ぎだった」


皆の見守る前にて〜”直接正式に謝った” 

 

因みに信繁も 「自分も怒りすぎて済みませんでした」

神妙に丁寧にぺこりと頭を下げた事で、場はワッと更に明るく和んだ。


締めに双方握手で手打ちにした事で、今夜起こる筈だった大乱闘大事件は無事回避されたのだった。



そんなこんなの総ての大盛り上がりの熱狂と興奮が一段落すると……

 

城主と、簡単にもう少し温かく身なりを整えたアグライアは2人きりで〜

執務室で今後の身の振り方について語り合う事に決まる。


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