精神への旅へ ⑦
パタンーーーーー!!
「少女」の姿のタレイアは、朱い絨毯を敷き詰めた廊下突き当たり。
〜植物模様の繊細な金細工がほどこされ、白と金色で美しく装飾された大きな扉を、1人で軽々と開けパッと中に入って行く。
「お姉様ーーーー……!」
姉を追いかけるアグライアも、タッチの差で何とかたどり着き、今にも閉じそうな扉の端の1部を必死に掴み取り、人1人分開け放つ事に成功する。
『えっっ??』ーーーどういう事?!
ギッーーーーッ、意外に重い扉を必死にこじ開けて中に滑り込むと、思わずアグライアは息を吞んだ。
扉 扉 扉 扉 扉 扉 扉
ーーーーーーーー 扉 !!
~見知らぬ、大小 素材も様々な見渡す限り扉だらけの部屋にいたのである。
まるで、地球の古代の画家の描いた、精密に精緻に描いた〜だまし絵の世界。
目もくらむトリックアートに似た不思議な迷宮の中、自身がいつの間にか紛れ込んだかと目眩がした。
キイ~
直ぐ後ろ、扉が動く音がする。
ハッと後ろを見るとーーーー今し方入って来たばかりの扉は消え失せている。
しかし〜確かに、有った場所に、果たして別の必死に探し求める人が居たのだ。
「……タレイア……」
小さな姉が、自分をジィッ……と見ている。
アグライアに対し堪らなく可愛らしくニコッと笑う。
「こっちよ!」
「待ってッッ……!!」
「い〜や〜〜……♪」
それからも沢山の部屋の扉を開けて、再び鬼ごっこのように、アグライアはひたすら姉の姿を追いかけて駆けて行く。
……パタン
夫婦喧嘩の部屋。
……パタン
些細な成績の事で、あの空港で別れる少し前の年齢に外観が見える姉が「父」にガツッと殴られていた部屋。
”叱られた訳”は〜学年で1番では無かった!と……! 大人側の見栄のエゴイスティックで無茶苦茶な理由。
容赦ない暴力に、細い体はプライベートルームの床を吹っ飛び、無惨に倒れて転がった。
「止めて下さい!」
〜聞き覚えのある声。
誰かがドアを、怒りにけやぶらんばかりに入って来た。
「ーーーまたお前か……」 ペッと憎々しげに呟く父。
制服姿の叔父ロームルスは、素早く状況を見ると舌打ちする。
「任務で偶々立ち寄れば、またこれですか?
子どもに可愛そうではないですか!」
恐怖で怯える姉をすっぽり背後から抱き混み、切れた唇の血を優しくハンカチで押さえ止血する叔父。
ーーーきつく睨み合う2人!
「今後もし何かあったら私が面倒見ます、この子を守る為に私用の最新式円形ドローンを大統領保安部警備にこの子様にプログラム初期設定させ直しました。
ーーーもう貴方はこの子に手を出せませんからね、ご自愛ください」
「ハッ! 笑わかせてくれるわ、ーーーお前に何が出来る?
誰か、子分の気の弱い奴に全部押し付けるだけだろ?
それとも狼のお前が住む、銃弾飛び交う恐怖しかない戦場にも連れて行くというのか?」
馬鹿にした表情の ゲラゲラ下品な高笑いの父ーーー
グッと拳を握りしめ、ブルブル睨み付ける 怒れる叔父の姿……!
『一体……どういうことなの??』
殆どが、辛い部屋ばかりーーー幸福な場面、幸せな部屋は全然無い。
追いかけても追いかけても、スルリと寸前で逃げる姉。
それでも諦めずアグライアは ひたすら追いかけ続けた。
果ての無い世界を、悪夢にしか思えない悲愴な部屋を通り抜けて兎に角どんどん走った……!
そんな中ーーーー奇妙な事に次第に気がつく
~叔父ロームルスの登場する部屋が奇妙に多いのだ。
何故か、ほんの僅かずつ、少しずつ増えていったのである。
『彼がそんなに私達の元に来ていたかしら?』
ーーーそうは思えない。
そして、何処か優しい眼差しの印象を感じた。
最後だろうか?!
少女の姿の『姉』が、様々なチカチカ鋭い光を放つ宝石……が、そこかしこに埋め込まれた、迎賓館の顔と言える、扉。
ーーー広報部自慢の、手の込んだ優美な象嵌細工。
専用に調合された蜜蝋ワックスで、職員の手で専用の梯子を使い毎日艶々にピカピカに磨き込まれていた重厚な黒檀のドッシリした背の高い巨大扉の前。
アグライアは〜 立ちすくむ「小さな姉」と共に向かい合っている。
少女の姉ーーーーー
何故か彼女は1人で入ろうとしなかったから。
「一緒に入りましょう」
アグライアは優しくタレイアの手を取るのだ。
「……」
どうしてなのか、小刻みに震え怯えている。
しかし今度は、しっかり触っても暗い影のように霧の如く消え失せたりしない。
キィーーー……
全体重をかけて扉を開くと、内部はそれはそれは美しい世界が広がっていた……
中にはまだ若い母と小さな自分達、そしてーーーーー
惑星トールの 王立宇宙軍の美しい正装姿。
式典用の真新しい制服を着用した目にも清々しい、それは凜々しい装束の叔父ロームルスが居た。
『そうだこれは~!!』
叔父が現在の大王様が未だ〜 呼称が”殿下”と呼ばれる王子様だった時代、確か大王様の代理ーーーの ”表敬訪問”
遠い星系へと、殿下に付き従う有能な懐刀の随行員として、航海に旅立つ前、特別に皆で会った時の朝の記憶だ。
泣き笑いの母の話ではーーーもうこの先は、家族といえど王子様を御守りする任務上〜!
王城から公表された物以外は、自分達の行動の細かいタイムテーブルは暗殺を恐れる為に言えない規則。
そして滅多な事では、帰国するまで逢えないと云う事だった。
惑星間の歪んだ時差を何度も無理に通過するワープ航法の為に、つまり〜
……失敗する可能性もあって。
この世で再び、生きて会えるかどうかもわからないからと〜
それでーーー母と姉妹3人で、叔父様と会った日の大切な思い出だ。
父に無理を言って、惑星トールに遙々「故郷に里帰り」の名目。
生まれて初めて、銀河でも、あまりの美しさで名高い植物園〜
”トールの宝石” と呼ばれる ”ここ”
私達姉妹が憧れて止まなかった観光名所ーーー「クリスタルパレス」に出かけた時の光景だ。
どこもかしこも清々しくて美しくって、植物園だから手入れされた豊な緑が美しくって夢の中の世界で〜
ありとあらゆる素晴らしい初めて見る花々が、満開に、丹精込めて整えられていた。
懐かしく思うアグライアの視線の先には、柔らかな微笑みを浮かべ……
まだ何の学校教育も受けていない頃の私と、当時の「幼い自分」を優しくからかう叔父のリラックスした姿があった。
「叔父様はどなたかお好きな姫君様とかいらっしゃるの?」
可愛らしい声で、「小さな自分」が無邪気に聞くとこう答える。
「ぅぅん いやしないよ〜〜?今のところ勉強と任務が『恋人』だよ!」
「え〜〜〜〜〜〜? うっそだあぁ!」
「本当だよ? 叔父さん皆に嫌われて怖がられているからね?」
幼いアグライアは『ふーーーーん』小首をかしげ、納得いかない表情で俯きながら答える。
「じゃあ〜! 可哀想だから私が大人になったら結婚してあげる!!
ひとりぼっちじゃあ 叔父様寂しいでしょ?」
「あはははーーー!!」
ゲラゲラ腹を抱え 笑いこけるロームルス
「もーーーーっっ!」
可愛らしくホッペを膨らませ、小さな拳でぽかぽかと殴る。
勿論、厳しい軍事訓練で鍛え抜かれたエリートコースを歩む軍人が、その程度の子どもの拳の打撃が痛い筈など無くて。
それでもーーー幼い彼女に調子を合わせ
「参った! 降参します姫君!! お嬢様!」 大げさに痛がったのである。
ーーーなんとも平和で、実に微笑ましい光景に見えた。
アグライアの手と繋いだ、実体化している「幼いタレイア」の手がギュッと力を増した。
彼女はハッとし、「姉」の視線の先に 見るともなしに目をやると、そこには馬鹿馬鹿しく無邪気にふざけ合っている2人を、少し離れた場所から じっと悲しげに見つめる姉〜
幼いタレイアの姿があり、小さな姉は口を開く。
「ロームルス叔父様は私にはあんなに心を開き ふざけては下さらなかったわ?
私は『守るべき自慢の姪』それ以上でもそれ以下でも無かったわ?
だから必死に努力したの。
そうすれば私を認めて下さったから、振り向いてくれた。
お父様のため~と言うのは嘘だったわ?
本当の心はーーー
私をただの1人の女の子として、叔父様に見て欲しかったのよ」
「……タレイア」
小さなタレイアの握りしめる力は より一層強く変化する。
「でも叔父様にとって、本心で可愛くて仕方が無いのは私では無かったのよ?
ーーー全然貴女は気がつかなかったでしょ?」
フッと溜息をつくと、小さなタレイアは実妹の表情をじっと見上げてこう語る。
「叔父様にとってどんな時もーーー本当に大切なのは貴女だったのよ?」




