クリストファーの寂しさ
信繁との会話
クリストファーは本当はもっともっとーーーー彼と話したかったと思った。
あまりにも時間が足りなすぎる。
親友のウィンストンに対するとも違う気持ち
『今までーーー誰ともこんな風に。
対等に付き合った事が無かった』
クリストファーは、ただ名残惜しかった
本当に心残りで、仮にーーーー自分に〜
あくまでも……『もしも』の仮定の話だが
”僕に仲の良い頼れる『兄君』がいたら”
ーーーーーこんな感じなんだろうか??
強い憧れ、苦しい程の渇望。
嘘偽り無くそう求めていたのだ。
クリストファーが、まだ幼い時代のキッズの頃、深夜ふと目が覚めて。
たったひとりきりで、警備のキツイ部屋からベランダ伝いに〜
まるでニンジャの様に、秘密の縄ばしごで降りた時のことである。
ーーーこういう『冒険』の時の為にひっそり、蔦の植え込みに隠していた”秘密の特製道具”で抜け出して
ふらふらと、プライベートな庭園にコソッと抜け、深夜の王宮の探検へと出かけた事があった。
『何だろう?……』
別棟の、両親のプライベートルームの明かりが小さく不自然に灯っていたのを見つけた。
場所的にーーーー父親の部屋の所に違いなかった。
クリストファーは子猫の様にそっと……コッソリ建物に忍び込んだ。
当然、防犯カメラも侵入者探知のシステムも無い場所からである。
そんな事は予め調査済みだった。
侵入しーーーそっと物陰から覗き込むと、すっぽり埋もれる様にソファーのクッションに深く身を沈ませた父王がいた。
彼1人で、たったひとりきりで起きていた。
信頼で結ばれた仲のいいーーーー妻
優しい彼の母はどうしてか?夫の側に居なかった。
『どうしたの?』
何をしてるの?父様?
その時ーーーーー……ウフフアハハと小さな声が聞こえたのだ。
?
父親は何かを見ていた。
『僕?ーーーー……じゃない!
誰?
それって誰?…なの?』
1度も見た事の無いホログラム映像を父親は見ていた
彼は「子どもの頃の伯父上」と、よちよち歩きの父
ーーーーー遠い昔に
侍従によって撮影されたホログラム映像を、寂しそうな、切ないまでの泣き笑いの表情でじっと眺めていた。
カチッ
『!!』
小さな音。
クリスタルグラスがテーブルに置かれた音ーーーーだった。
クリストファーは驚いた。
『父上は健康を気遣い、王宮のパーティー以外ではアルコール類を滅多に口にしないのに?!』
その晩は、キャビネットに飾られていた上等なブランデーを開封し、なみなみとクリスタル専用グラスにタップリ注ぎ、時折〜
……口に含んでいたのだ
『どうしちゃったの?父様……』
ーーークリストファーはそっとその場を離れた
探究心旺盛な彼は…
父以外の少年の映像が、伯父上の姿だと思い出したのだ。
いくら父にとり最愛の息子といえど
決して”立ち入ってはいけない”ーーーーー
見られたくない秘密。
見てはいけない。
見たことが知られてはいけない。
そう言う類の、秘められた領域に踏み込んだと感じたから。
ーーーごく幼い子どもだってそれくらい『わかった』
深い孤独とーーーーーーー…有り余る哀しみ。
そっとしておくべきだ。
しかし父上は、何故かあの時とても幸せそうにも見えた。
それが何故なのかは”わからなかった”が、今は父の気持ちが誰よりも理解出来る
クリストファーは今にしてそう思う
もうーーーー過ぎ去った取り返せない日々
幸福感で充ち満ちた輝く時間
ずっとそれが夢の様に、悠未来まで続くと信じて……
すっかり疑ってもいなかった幼すぎた自分達。
伯父上は彼の父にとって、永遠の憧れの、賢くてひたすら優しい理想的な兄君だったのだ。
『ーーーー寂しいよ』
そしてーーーーーーあと少しで
この温かい時間すらも終わってしまうのが悲しい。
また涙が零れて堪らない、胸が潰れそうに孤独だ。
「お待たせしました。
遅くなり済みませんでした」
「!!」
どうやらーーーー
信繁もかなり慌てて着替えて来たらしい様子だったが、彼の姿を見た瞬間ぽかんと口が開きそうになった。
『うわーー……』
ーーーー格好いいッッ!!
着替えたある種の正装?!
現在着用の厳つい”パイロットスーツ”……
特殊な戦闘服姿は目が覚めるような俊敏なオーラを放ち、ワイルドさ全開だった
ギッシリ大勢、例え同一姿の隊員に混じっていたとしても、一目で判別できそうなほど、それはもう凄かった。
溜息が出そうな程破壊的で、男性的色気すら発散させる野性的な姿。
「?? どうかされましたか?」
〜不審そうな困ったような表情がコレが又、どうしようもなく眩しい。
キラーーーーっと言葉を無くす程の壮絶パワーを放つ美しい風貌。
ここまでの別格の男性って、そうはいないのでは?!
実用的な無駄のない航空機専用の戦闘服は、しなやかな身のこなしを一層華麗に引き立てる役目をしていた。
実際、着用者をより俊敏に行動できるように工夫され、極限までシェイプ、余分がそぎ落とされたタイトな工夫〜性能そのものが、潜在能力を見る者により強くより圧倒的にアピールしていたと言った方が正確かも知れない。
『ウィンストンもそうだったけど、女性よりも綺麗って絶対反則技だよ!』
クリストファーは心の中で、ブウブウ信繁に抗議した
操縦席に着席した機長である信繁は、カタカタ震えるクリストファーの様子を さり気なくチラッと見た
『まぁやっぱり随分、不安そうだな』
ーーーそれはそうだ
この先何があるかは、自分だってわからない
しかし、襲撃は「あるに決まってる」訳で
何故ならば、特殊なルートで
「彼がここを出る」
ーーーこの空路を通る事は、あえて既に”公表済み”なのだから。
『そりゃまぁ恐いに決まってるサ!』
……心象を察し
信繁はわざとらしくーーーぶっきらぼうにこんな事を言う。
「ヘリを動かしまっちゃったら俺の場合、多分機搭載の人工知能マニュアルを使わず、オール手動操作になる。
全身作業が忙しくーーーまず会話どころじゃなくなるし?
それにローターのブレードスラップのパラパラ音で、状況によってはイヤホンをしていても音声がまるで聞こえないかもしれない。
だから、ここで今言っとく」
「?……何を…ですか?」
「ーーー……そうですねぇ『昔話を少々』、ってところですか?」
「ーーーーーー」
信繁は細かい震えが「怖いからだ」と思ったのか、何気ない様子でクリストファーの肩をぽんぽんと叩く。
「あのなぁ、流石に今回は俺だって怖いよ」
「まさか!」
「嘘じゃ無い。
でもな、それって大切な事だ。
探検家にとって最も大切な事は……『臆病さ』だと昔俺の父が言ってたんだ。
そうでなけりゃ危機が察知出来ずに、必ず死ぬんだそうだ。
それにーーー……」
「??
『それに?』……?」
「俺には今よりもーーーーもっとはるかに、な、恐ろしい事が昔あった」
信繁は大きく息を吐いて、前方の若干クラシックなホログラムメーターを見つめて訥々と話し出す。
それは信繁の
……壮絶な
ある時期の地獄のような、彼自らの生い立ちだった




