第5章 実験機
城主は身支度が済んだクリストファーを連れて、とある格納庫に案内した。
「うわぁ……!大きいーーー」
「この他にも幾つかーーーーーー実はございます。
ですが案内はご勘弁下さいね?」
「ーーー…え?!まだ他にもあるんですか!」
「当然です、ここはそういう、言ってみれば、この世とあの世の狭間の超常空間ですから。
何だって出来ますし、イザとなれば如何様にも拡張が可能なのです」
城主はクスクス笑う。
『それにしてもーーー大きいや』
見上げると天井が遙か彼方に遠く感じる
しかし角度を変え、普通に直立し立った状態で真っ直ぐに前方の遠くを見ると何故だか直ぐ側にも見える。
そんな、どこか遠近感が変な巨大な空間には、数基の様々なタイプのヘリと固定翼機、飛行艇が納められていた。
『あれは一体何??』
ーーーと…! 彼はその中の1機のヘリに思わず心を奪われた。
別に〜「見つけたっ!」……というのでも無く、ごく自然にスゥ……っと視線が向いたのだ。
『なんだろう?』
大きいと言えばーーーー大きい、でもとんでもなく巨大というわけでも無い。
もっと大きな〜
車両輸送用とおぼしき回転翼機もチラホラあったのだが、だがしかし余りにもそれは目を引き美しくユニークだった。
スマートな機体ながら他を圧する威圧感と、圧倒的な美
その場にあったどの機体とも全く似ていなかった
魂を奪われそうな強烈な個性
気持ちがグイグイ引き付けられる
信繁は先程、今回の出発のための身支度を整える為に彼等2人と別れ別行動になった為、今現在は彼に付き添っては居ない。
格納庫には城主と王太子以外は、つなぎとキャップ姿の、工具片手のキビキビ動き回る整備員の他は誰もいない状態だ。
「!!城主」
人の気配を察して ハッと顔色を変えた彼らは2人の姿を見て全員直立不動、一斉にサッとキャップの横に手をやり敬礼する。
城主はにっこりと柔らかな微笑みを浮かべ片手を振る。
「皆そのままでーーー楽にして良いわ、今やっていた仕事を続けなさい」
アイコンタクトでも そう〜
遠くに居て持ち場の作業をする人員にも合図を送った。
「王太子様は体調は如何ですか?」
「取りあえずは。
先程からこちらにはーーーー
お見苦しいところばかりお見せして…
様々にご心配をお掛けして申し訳ございません」
「いえ〜こちらこそ、ここはなかなか普通の方にはストレスが大きな場所です。
あの頑丈な体を持つ信繁も、来た当初はかなり参って居た様で、空間の歪みがキツかったようです」
「ーーーぅそ」
クリストファーは驚きの余り、綺麗な菫色の目がまん丸になった。
そんな様子に彼女は面白げに微笑む。
「あのぅ、あそこにある黒曜石に似た外観のヘリーーーー
随分〜変わった外見の機体ですね」
城主は『?』と 怪訝そうな顔で振り向いた
「表面が 黒い輝く鏡みたいです。
あんな美しいヘリコプター 生まれて初めて見ました!!」
興奮で目を輝かせ 頬を紅く染めた。
「矢っ張り男の子ですねぇ、ああしたものが先天的にお好きなんですね。
でも黒曜石だなんて、例え、形容の仕方が洒落ています」
クスッと笑った。
「でも、外の人々には絶対にご内密に。
勘が良い航空機〜兵器関係の方に聞かれると後々色々と面倒ですので。
あれは出来たばかりの、城の新兵器ーーーー
簡単に言えば量子ステルス〜『光学迷彩』搭載航空機なんです。
便宜上、我々は『実験機』と呼んでいます。
まだ色々と不安定ーーーーで、乗りこなすのが難しい気難しい機なんですよ。
あぁ〜『主席テストパイロット』は信繁、『副操縦士』は子龍です。
元々バディの二人ですが、彼らが奇妙に結束が固い理由には、職務上のそれもありますよ」
城主は嬉しげに笑って唄うように返答をする。
「では この、ごくありきたりな防災ヘリに擬態した、高性能回転翼機内部に入ってお待ち下さい。
”あの美しいヘリ”で無くて申し訳ないのですが、でも操縦者〜パイロットは信繁です。
彼の操縦テクニックは天才と言っても差し支えないでしょう。
ぜひ期待して下さいな。
抜群に、大変にいい腕前ですよ!
さて……彼はもうすぐ来るはずです。
ここから見えない所に戦闘ドローンを三桁待機してございますので、御身は安全ですからね、ではご機嫌様、良い旅を!」
クリストファーは、それからしばらくはポツンと…
護衛もなくひとりきり。
1人ぼっちだった。
ーーーそうこうしている内に信繁がやって来た
信繁が格納庫ヘリにスライドドアをガラリと開けて乗り込んだ際、寂しさのあまり機内のシートで小さく丸くなりぶるぶる震えていた。
ーーー先程あんなに大見得を切ったものの、怖いものはやっぱり怖いのである。




