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ターン、さぁ反撃の時 


城主は、すうっっと大きく、深く息を吸い込んだ



城主はクリストファーの目を覗き込みながら、毅然と話し始める



「クリストファー王太子殿下様……

必ず貴方を私が御守り致します


貴方は何があっても、生きて、生き抜かなければなりません。


そのような星回りを持つ者が、偶にいらっしゃいます

 

実は貴方の伯父様、ヘルヴィム元王太子殿下様もその様に、私にかつて依頼されました」


「え?」


「『唯一つの願い』ーーー…覚えていますか?

あの願いを

 

”ここでの最大の切り札”を、たった1つだけの万能の依頼を、貴方の為に行使したんです。


『ジャパンに来たら絶対に守ってくれ』……と、そう願われました」


「ーーーーーそんな!!」


 

「”あの子は特別だから……ーーー自分とは違う。

だから何が何でも守って欲しい”


愛されてるんですよ、貴方は。


それを真に自覚してーーー……必死に踏みとどまり、ずっと愛してくれた人々に同じく誠実さを還して欲しいのです。

 

キャッチ アンド リリース……

釣り人、河川の恵みを再び放流する太公望達の様に、いささか変な例えですが。


与えられた愛に、同様の返礼を示すべきだと思います」


「……」

 

 

クリストファーは果敢に、厳しい事柄を要求する彼女を真っ直ぐに、ただひたすら凝視する。


瞬きすらしない、不思議なキラキラした瞳。



『いい目だわーーーー!』



城主は嬉しく思い、だからふっと やわらかに優しく微笑んだ。




「貴方は私の誇りです。

 

お心に忠実にーーー正しいと思われた事を」


 

「!!」



彼の透き通ったラベンダー色の瞳が、瞬間ぱぁーーーっと緩むと


……一気に涙がはじけた。



城主は そんな様子を黙って見つめていた。



彼女が語ったのは……王太子が唯一愛した女性。


キャサリン王太子妃殿下が夫君に心を込めて送った、はなむけの



…… 「最後の愛の言葉」



あの時「緊急脱出用装置」は、誰かがその場に残り確実に操作せねばならなかった。


本来ならば、”ただの事故ならば”、そうでは無かったのだが、今回は最悪な不幸な想定、万が一のケース、「暗殺」だったから事情は丸ごと変わってしまった。



巡洋艦搭載のマザーメインシステムは、艦長自らが暴漢の襲撃を食い止める為に


「彼だけを生かす為に」


余計な他機能は、”艦長席で”、彼自身の手で全て破壊し尽くした。


王太子妃は、それを正確に意向を酌んだからこそ、その言葉が出た。



この世には沢山の、数多の真砂なす「別れの言葉」がある。


温かな言葉

 

憎しみの言葉

 

怒りの言葉

 

「愛してるよ」、の代わりの言葉

 

再会を込めた言葉



そして2度と再び会えない事を自覚しながら発する、永遠に……相手を愛する事への約束

 

ーーー不変の誓いの言葉。


キャサリンの発した呟きは、まごう事なき「それ」であった




ーーーーー貴方は私の誇りです


お心に忠実に

正しいと思われたことをーーーー





クリストファーの、大きく見開いた綺麗な薄紫色の瞳からーーーー


後から後からハラハラと、清らかな涙の雫が零れ落ちた。



彼は顔を俯き隠すこと無く、立ったままーーーーーー


ひっそりと、嗚咽すら恥じるかの如く、微かに密やかに身体を震わせていた。



まるで水晶の塊を液体にしたかの様な透き通った2筋の汚れ無き流れが、音も無く、滑らかな白い肌をつたい落ちていった。


ただーーー宝石のような涙だけが


ひたすら

 

彼の瞳から溢れ続けていった。



どこもかしこも真っ白い無彩色の白の部屋。

 

淡い……心を落ちつかせる柔らかな光源の光。



白銀に光る王太子の、美しいひたむきさ。


 

ほっそりとした体を包む 匂い立つ儚い輝き。



ーーーーそれは美しい姿だった。



あえて彼の姿を例えるならば、汚れなき純粋の愛の花ーーーー


輝く純白の尊い百合の花の化身の様に。




誰しもがクリストファーの為に、彼を守ろうと願うだろう。


王太子を庇おうと奔走するだろう。


そんな奇跡の燦めきが、今確実に静かに存在していた。

 


突如スタスタと寄った信繁が彼の柔らかな、現在はフワッと長くなった銀色の髪を、左手の長い指でグシャグシャッと遠慮無くかき回す。


「痛いよ〜痛いよぅ!」


クリストファーは、泣き笑いの格好で頭を揺らしながらもポタポタ泣き続けた

 

その姿は、まるで、仲の良い兄弟が子犬の様にじゃれ合う姿にソックリで



『ーーーそれでいいのよ』城主は思った


 

痛いと感じるのは、人間らしい感覚が戻って来た印で、極めて良い兆候だ。


ーーー本当にショック症状の状態の初期段階。


末端患部からの出血を止め、心臓を全力で守る人間の肉体防衛システムの為に、全ての血液が体の中心に集中する。



手足は冷え、最重要なパーツ、「脳」に回す血液すら大幅にカットされる。


だから脳が、一時的に酸素不足になり脳貧血が起こる。


つまり「失神」状態である。



この状態下では、大抵痛覚がふっとんでいるため何も感じない、とても危険な状態である。


『ここ、城を出たら、この方には確実に!

 

情け容赦ない、魑魅魍魎うごめく修羅の地獄の門が扉を開けて待っているわ!


この先ーーー死よりも辛い試練を与えるに決まっている』



城主にはそんな様子が、手に取る様に感じられた。


そうだーーー

如何にも上品な綺麗な顔つきをした「鬼達」はーーーーー


上等なエサ……

 

美味なる犠牲者が


クリストファー様が堕ちてくるのを舌なめずりし、今か今かとあんぐり口を開き待ちかまえている。


本当に悪いものが、醜いなりをしている訳では決して無い。



クリストファー王太子殿下様は……

 

喰われたくなければ〜!


自力で冥府の呪いを吐く者共を、斬って斬って斬りまくって成敗しなければならない。


こんな状態では戦えない。


生き残る確率も限りなく低い。



取りあえずは、特に集中しなくてはならない相手との直接勝負である。


それもクリストファーの手の内を幼い頃から側で見て 何もかも知り尽くした厄介すぎる相手だ。


それも……話によると、優秀な最高の頭脳を持つという同い年、実にやりにくい面倒臭い人物。


私の直感が正しければ、彼の背後には恐らく最強の地獄の主、閻魔大王が控えている。



「どうかご無事で。

必ずあのチップをお父上様に見せて下さい」



クリストファーの泣き笑いの顔がサッとゆがむ。

 

真っ赤な目から、再び大粒の涙が零れそうになる


 

「・・・・・・・・・・・・」


「必ずですよ?」




信繁が、『今それを言うのかよーーー!!』


〜そんな事を言いたげな、苦い困った顔をする。


が、城主はフンッと……全く可愛くない様子で無視し話続けるのだ。



「いいですか?

クリストファー王太子様が、それを依頼者のお手元へ安全に、現国王様にお見せになるまでが任務です」


「……」


「完遂させなければ、まず、伯父上ヘルヴィム元王太子様の、自分のお命と引き替えにされた事柄


その身に向けられる事がわかっていた、D-01における国民全ての非難と憎悪

 

〜それら全てを黙って飲み込み、何もかも王族の名誉も尊敬も、不断の努力も皆打ち棄て、この世における最悪の処罰を受けられたこと。


優しい弟君、貴方様のお父様の代わりにーーー

兄としての深き愛情から潔くお引き受け下さったお気持ちと。


誇り高きーーーー

母国と国民を、真に愛してこらてた兄上様の志。


それから必死に、欺瞞の嘘をつく自分を責めたて罪悪感と戦われつつ、国政を若くして引き継がれた貴方のお父様のお気持ち。


この双方とも、このままでは何処へも行けません。


今回がやりきれない呪い、その捻れを正す最初で最後のチャンスです。


どうか貴方が……その出口の無い行き場を失ってしまわれたお二方の苦しみを。


どうしようもない、永い苦悩のお気持ちを昇華させてあげて下さい。


残念ながら、もう時が経ちすぎてしまいました。

 

満足な生者と言える、”事件関係者”は、今現在少数です。


ヘルヴィム伯父上殿下の公式な名誉回復は、まずもってもう不可能なのですよ?


しかしお2人の懺悔のお気持ちは、繋ぐことが可能です。



ーーーー私の個人的意見を申せば、おそれながら。


伯父上様もお父様も、ああした難しい世界に生きる者としてもう少し、思慮深さと注意深さと用心と、周囲への慎重さ等々。

 

上手いやりようが本当はあったかも知れません


それはこの先ーーーー


その仮説や仮定、現実間の答えについては、貴方自身がその手で見つけられ実践し、自らの方法論で『発見』


新しき風が吹くのを感じられる事になりましょう」


「……」

 


「いいですね?

もう1度ーーーくどいように繰り返しますが、双方とも、このままでは何処へも行けません。


今回の来訪がーーー

わだかまりと心の捻れを正す、最初で最後の最大の機会です。



えぇ……クリストファー王太子殿下様。

それが今回の、貴方の、『本当の任務』なのです。


いいですか?

 

『今』も『この先』も……貴方しか出来ない重大な役割です。

 

この世の誰も肩代わり出来ません」



すると急に、ずっとうつむいていた小さな白い顔がフッと上を向く。


たっぷりの涙に濡れていた、薄紫色の瞳がホンノリ意志の光を帯びた。



「色々と有り難うございました」


震えるように微かで小さいが、芯のある「王者」の覚悟宿る声だった。



『どうかご無事で クリストファー王太子殿下様……!

お心に忠実に、正しいと思われた事をーーー』



城主は、心の中でも再び小さく呟いた。




未来の事がわかるのは、所詮、全知全能の、何処かにいるかも知れないーーー


悪戯好きで意地悪の、ええ……カミサマだけ!!


ほぉ〜んと悪趣味で、所詮この世、”人の世”なんか、最高の盛り場……!


遊園地か、いいえ、もっとお手軽なゲームセンターみたいなところ!!


詰まるところ、取るに足らない面白おかしい暇つぶしに決まってるもの。


ーーーエキサイティングな、単なるお気楽な遊技場に過ぎないのだわ!

 



ーーーーでしょう?、ねぇお父様

 

きっとーーー

今も私の御側にいる最愛の優しいお父様。



そして……貴方



私も今から あの方、ヘルヴィム元王太子殿下様と私との『遠い約束』を守りに参ります。


どうか……この私を御守り下さい


いつも貴方方を尊敬し、心より愛している私にお力をお貸し下さい』


 


祈るようにそっと静かに目を閉じキュッと 形のよい艶めく唇を嚙み締めた。



そうして〜……ユックリ……目を開くと

 

いつもの現実的な「城」を統べる最高責任者所長ーーー


キリリと頼もしき総指揮官の顔になる。


 


『そろそろか……?』


信繁は密かにーーー……そんな城主の様子をさり気なくチラと見守っていた。


精神に気合いが入る瞬間の ”約束事”



2人だけに通ずるーーー”とある符丁”……!!



彼の名前を ”もう1つの別称”


歴史が世間に知らしめた華麗な通称で呼び、「自分に命令する瞬間」



「その時」ーーー


彼女の黒い瞳が輝き、全てが動的に運命の如しに動き出すのだ。




『”その瞬間”が、俺は大好きだ!』


魂が震える、生きているという実感と、たぐいまれな充足感



ビリッとーーーー武者震いが起きる。




「では信繁ーーー”幸村” 作戦開始です」



「はい!」




『ーーーさぁ来たぜ!』


信繁はキリリと姿勢を正した



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