いざ出陣!!
ひとりクリストファーは、抜けるような肌色、メラニンが存在しないミルクを固めた様な白い肌に紫外線防止の医薬系乳液を何度も塗りこめる。
「失礼致します」
塗りにくい背後の首筋……かなりの深い襟ぐり
耳の後ろーーーー
そういった場所は流石に手が届かない為、信繁に手伝ってもらった。
実にのびがよく、べたつかず使いやすい
「こんなに使いやすい物は初めて!」
「ではその様にクリス様からだと伝えておきますね、きっと医局の調合師も喜びますよ」
「城」衣料部特製の衣装上下は、見えない部分にも心憎いまでにサンブロックの特殊な素材と防御機能が施されている。
よって直ぐに、これは製作に相当時間がかかったというのがわかる。
その証拠に、聞くとまだたった数分前に出来上がったばかりというのだ。
香しく爽やかな真新しい繊維独特の、サッパリとよい香りがする仕立て上がりの衣類。
クリストファーは感謝しつつ、ユックリ丁寧に袖を通す。
『ア……イイ感じだ……』
柔らかくーーーきつくなく、さりとて大きすぎず動きやすい。
ーーー可動域も完璧だ。
裁断し、縫製し、一心に……この特殊で面倒な衣装を製作した人物達の見えない努力と真心を思う。
しかも飛び入りなのにも関わらず、チャンと時間に間に合わせてくれたのだ。
絶対、早く早くとせかされながらの中、本当に時間との闘いだった事だろう。
全てを想うと、心がじんわり温かくなった。
今後の行程はーーーー……
信繁の操縦する、全角度視界が遮られない「特殊災害用ヘリ」でネオ宇宙空港へ
ただし、首都圏にあるジャパン最大級の国際宇宙空港がより広く利便性をより増す為のオープン直前の追い込み拡張工事中だったため、あえて別の場所と変更された。
新たなる設定は、近県にあるアイチ・トコナメ沖の宇宙空港
確かに規模的には中堅クラスだが、使い勝手と実績と機能性は決して負けていないといわれている地方宇宙空港が選出された。
そこまで、クリストファーは城から直接向かう事に決まった。
警備が厳重な「表側」の病院で検査入院後ーーーー
新造されてまだ間もない、ジャパンの宇宙航空技術の粋を結集して建造された 最新鋭高速宇宙巡洋艦で、祖国D-01コロニーへと帰国する流れである。
ただし……最大の難問が一つ。
何処に「元親友」
〜ウィンストン一派が攻撃の為、潜伏しているか判らないのである。
あれ以降すっかり、なりを潜めてしまっているのだ。
ここまでそうなった以上おびき出し、戦術としては迎え撃つしか打つ方法はない
ーーーつまり彼自身
クリストファー王太子殿下そのものが「最高の囮」、美味しい餌なのだ。
あの時、結局巡洋艦墜落現場で襲撃者の捕縛は出来なかったのが、今となればあまりにも痛かった。
そうーーー
信繁の見立てた通り現場に現れたのだが、先方も相当な名うての手練れで実力は拮抗していたから仕方がなかった。
しかも暴漢は現れた時と同じく、不利とみるや深追いはせずサッサと逃げたのだ
それに上空からの子龍の積極的支援、空撃は殺害目的では無く、防衛と救出が主目的である。
スルスルと、不気味な影の如く撤退を決め込んだ為に、いくら勇猛とされる信繁班も、現在班長を欠く圧倒的不利な状態でそれ以上の追撃は出来なかった。
過去地球上でこうした戦術に極めてなれていたのは草原の覇者遊牧民とされ、結果歴史上最大規模と言われる領土を誇る大帝国を築き上げた。
だから信繁班の対応は無駄な労力を要さず削られず、戦略的広義の意味では最も適切だったと言える。
「済みませんクリス様、我々が下手を打ちまして」
「そんな事ーーー無いです」
穏やかな気分での話し中、控えめなノックの音と共に城主が病室に訪れた。
「体調はどう?」
柔やかにーーーー…優しく微笑みかける。
「ええーーー何とか」
「それは宜しいですわね」
「……」
信繁が探る様にじぃっと見つめる中、城主は花の如くわざとらしい程美しくニッコリ笑った。
確かに、クリストファー王太子殿下本人の言うのは本当の様だ。
『ふーん、少し顔色がよくなった気がするわ?』
彼女はサイドテーブル上にある、綺麗に何にも乗っていない空の銀盆をチラリと見た。
僅かに残るパン屑と、卵の黄身とクリームから、どうやら盛りつけられていたのはタマゴサンドとフルーツサンドと見て取れた。
『ーーーなる程ね』
タマゴサンドは休憩時間、信繁が特に好んで食べているのを見かけた事がある。
談話室で勉強をしている際に片手に持ち、時間を惜しむよう黙々と食べながら決まって真剣な難しい顔で、業務の情報データを見つめていた。
彼にとって 気合いを入れるいわゆる「勝負食」なのだろう。
確かに短時間で高カロリーが取れる消化にいい食品の1つである。
そんな普段の性分をよく知っている誰か、おそらく最年少の班員である雅が……
ーーー雅は精鋭「信繁班」が誇る、ショートカットの”まるで天使みたい!”
城の女性職員に大人気、女の子ソックリの美少年、優秀な技術専門隊員なのだが
『おそらく彼が気を利かせたのね?』
ーーー城主はそう察した。
きっと信繁の事だから、1人で全部食べる事無く、王子様と仲良く分け合い食したのでしょうね?
何だか微笑ましいなと笑いが零れた。
『そういえばーーー!!』
信繁は何故か人臭いところ、人間の出入りがザワザワとある場所。
……どういうわけか、仕事の為の作業の〆や高度な勉強をする事が多かった。
『うるさくないのかしら?』
信じられないが、彼的に全然関係ないらしい。
「どうだ凄いだろう!」的なハッタリ、威圧や高慢な自慢、見せびらかしとも全く違う気配なのだ。
たまに居る、運動部強豪校レギュラー選手特有の習性かしらね?
対外試合の為の長距離移動中、寸暇を惜しんでというより、莫大な隙間時間を合理的に有効活用する為、人目なんかへっちゃら!
黙々と参考資料の読み込みをするアレの名残、まるで”職業病”…延長線上の事かもしれないと思う。
進学校の、進度が速くしかも質・量双方ギッチギチに求められるキツイ勉強。
ーーー同じく激しい倒れそうな肉体勝負の部活の両立はそれくらいタイトにせねば、とても目的レベルに達成出来ない。
かつ帰宅後、記憶には絶対不可欠な良質な深い睡眠も取れない。
勉強は脳を酷使し、部活は体をいじめ抜く。
睡眠は強度のストレスを全てをリセットし、翌日以降の最高の鮮やかなパフォーマンスの為には欠かせないのだ。
全く永遠の謎だが「人それぞれ」
信繁なりのトライのスタイル、バイオリズムがあるのだろう。
「クリストファー王太子殿下様」
城主はスゥ〜ッと息を吸うと、残酷な役割を説明し始めた
彼女だけには、少しずつ彼の目に光が宿ってきたのがわかった。
彼の感情が動き始めた、この機会を絶対に逃してはならない。
つまりここが正念場だと感じた。
クリストファー本人には固く伏せられていたが、実は意識を失っていた際に転送移植の映像ベースになる彼の短期記憶
ーーー研究室装置で全てスキャンしていたのだ。
……この過程で王太子が、自身の目で墜落時に「何を?」
……『どう見たか?』を
彼女も研究員も、そして護衛役の信繁も、この時正確に知ったのだ
キャサリン王太子妃が、どう彼に、自身の死の間際、「発言」したのかも。
高難度レベルの「読唇術」を各言語別にマスターしている城主には解読する事は技術的にも、特に造作も無い事だった。
(緊急時の特殊な業況下であったとしても)
本格的な転送移植は、やっと保つガラスのように細やかで繊細な理性に最後の決定的な衝撃を与え、精神を完膚なきまでに粉砕したかに研究員以下皆思った。
ーーーーそれは信繁さえもである。
但し、城主はそうは思っていなかったから揉めに揉めたのだ。
「何を考えてるんですか!」
信繁は状況全てを知っていたため大反対した
「あまりにもクリス様がお可哀想なのでは?!
貴女はーーーー!
一体全体、ご自分が、一体今から何をしようとしているのか本当にお判りになっているんですか!」
彼の本心からの激怒。
激しい怒りに満ちた目で真剣に詰め寄った。
「お前取りあえず落ち着け!」
「だが子龍!」
「そうはいっても、他に方法が有るのか?なぁ相棒」
「ーーー」
「ーーー無いだろ?
そうじゃなかったら『プランB』、今すぐ可哀想でない代案を出せよ?ぁあ?」
「〜〜〜〜〜っっ!!」
信繁の同僚である子龍が間に立ちとりなし、必死に何とか引き留めた程だった。
『余りにも可哀相ーーーか、まぁそうよねぇ』
事実、信繁の言うとおりだと、彼女も内心では思ってはいた。
ーーーーそうだ、彼が正しい。
研究実験室に、ずっと最初から付き添って居たにもかかわらず入らなかったのは、自分に対する彼のはっきりとした「抗議」の表明。
就業中、私情を挟む事を信繁は嫌う。
彼は城内部でも群を抜いて優秀な、特殊部隊リーダーの1人だ。
私情を挟む事は場合によっては大切な人員・部下の生命を失う事につながりかねない。
優秀さゆえに、それが良くわかっているからだった。
なのに ”その彼が”ーーーー
あんなにもハッキリ、当該施設の統率者である自分に拒絶を見せた。
ここまで露骨なあからさまな態度を見せる事は、今まで滅多に無い稀な出来事。
『ーーーーはぁ……』
あの20代そこそこの若さで、ここまで立て続けに……
普通の人間だったら一生かけてもおそらく絶対にしないであろう、恐ろしい異常で激動、過酷な体験をドミノ倒しに体験してしまった事に胸がギュッと詰まる。
クリストファー王太子殿下はこの先、一生、この悪夢から逃れられないだろう
それがどれ程辛い事かは、自身の体験上たっぷりすぎる程に知っていた。
しかし彼は、1国の将来を担う、逃れられない宿命を背負っており、それが彼の「運命」である。
だからその先の世界に、光明を求めて進まなければならない
甘えは許されない。
そうーーー!
普通の人間には絶対に越えられない壁や苦難にも、必ず打ち勝たねばいけない。
城主の頭に様々な”過去の出来事”が、まるで走馬燈の様に矢継ぎ早に駆け巡る。
”見なかった事”…
さり気なく無視した方が良いのか?
……いいや、心情的にも放っておく事は出来ない。
そんな事は大いなる恥である。
自分はこれまで数多の帝国や王国、共和国、共産圏の国々の滅亡を目にしてきた身の上である。
彼の母国は 今が正にターニングポイント
それをーーー後になって気がついた時には時既に遅いのだ。
今しか無い
軌道修正するのには今の時しかないのだ!
『ーーーまぁね、貴方はきっと私を激しく憎むだろう。
でもそれでいい、貴方が持つ 正当かつ当然の権利だから。
私はそれで全く構わない』
彼女はそれでも祈ったーーーー
少々の手心ではどうにもならないかもしれない無惨な厳しい運命に
サディストで過酷な運命の女神に……
それでも心の中で真摯に祈りを捧げる
彼の為
ーーーー……クリストファー王太子殿下の為に
キャシー様ーーーキャサリン王太子妃殿下
貴女の、大切な宝物をお守りする為に、ほんの一時
どうか私に、僅かなお力を お貸し下さい。
私に、運命を打破する勇気を
自信を
ーーーーーーーーお与え下さい




