精神への旅へ ③
「タレイア!! 」
パタン
彼女の姉は、とある大きな扉を開けて中に堂々入って行く。
アグライアもーーーーどっしりと重量のある大扉を静かに開け入室する。
貴重な地球産マホガニー素材で造られ、細かな流れるような草花の彫刻、色とりどりの輝く宝石と夜光貝。
可愛らしい天使像が繊細に方々美しく埋め込まれ装飾されている。
そこは天井どころか壁一面、ギッシリと貴重な〜紙で出来た古く貴重な本が納められた蔵書室である。
書籍だったら 電子書籍で充分事足りるのに?
タレイアは何故?ーーー
アグライアは そこを訝しく〜不審さに首を傾げる。
何か、理由があるの?? ーーー全くわからない。
姉は 何度も何度もその蔵書室に通い詰めていたのがアグライアにわかる。
様々な時系列の違う姿形の姉、映像が、目前に現れては消え、消えては〜現れていたからだ。
それに見た目も年齢も、明らかに少女から大人に変わって行くのだ。
彼女が手に取る物はどうやらいつも ”同じ書籍” と言っていいものだろうか?
相当に古い 四隅の角がひしゃげてめくり上がり、装丁がボロボロに傷んだ、ごつごつした大判革カバーの本!
それから惑星ラオコーン創世の秘密ーーーー
この惑星の地質学書と、入植当時の人物がしたためた詳細な図表〜
手書きで、どうやら繊細な風景画も挿画としてかきこまれている、おそらく最古の地図と思われる痛みきった小さな本。
ーーーー嘗て ”誰かの所有物”
それも永年持ち歩いたらしき手づれた愛用品だったらしいモノらしき、擦り切れ使い込まれた黒革の小さな手帳の、2点だった。
数え切れない繰り返しの映像の果てに、姉はとうとう「何か」を ”発見”〜
したらしい。
その理由、何故かというと、ほうぅ〜という可愛らしい溜息、星の如くキラキラした瞳でそれは察せられたからだ。
様々にワードを打ち込んできたタブレット型電子記録媒体を、タレイアは両手で愛おしそうにギュッと心から大切そうに抱きしめている。
「これでーーー!!
優しい叔父様にやっと恩返しが出来るわーーーー」
頬を赤らめ、ぼうっと夢見る うっとりとした表情。
ーーーーまさか!!
アグライアは心臓が止まりそうになる。
姉が暗がりで浮かべた表情は紛れもなく、真剣な恋をした女の子だけが浮かべるものだった。
薄暗い蔵書室の風景から、急激に ザザッと激しく映像が乱れ〜
そしてーーーー!!
見渡す限りの何も無いーーーーー
日が燦々と照る赤茶けた砂漠のど真ん中、いきなりアグライアは放り出された。
いいや、正確には ”何も” ーーーーーー無くは無かった。
何処かでシャリシャリと砂を掻くシャベルや重機の掘削ドリルの鈍い音が、微かなユラユラ動く風の流れに乗り、彼女の元にも聞こえてきたからだ。
温度は無いが音と声、風力は体に感じる不思議な世界。
派手な色彩、赤茶けた砂〜と言うのとは少々語弊がある。
辺り一帯……
本当に真っ赤な紅色の、有り得ない強烈な色彩の場所だったからだ。
幼き日、ベッドタイムストーリーとして、おそろしい声色を使い、何度も何度も繰り返し語っていた「とある砂漠地帯」の事を突然思い出す。
「ーーーー『紅い谷』だわ!」 アグライアはゾッとする。
〜祖父の代から我が家に仕えるというベテランのナニーが、生者が絶対に行ってはいけない禁忌の所があるって。
この世の者では無い精霊の住む場所として、昔話で私達を怖がらせてたわ!〜
そう! 生きた心地がしない。
彼女にとって目の前に広がる世界は呪われた、死した亡者だけが住むこの世の涯の冥界の地だった。
紅い砂山に何度も足を取られ苦労しながら必死に……「音〜
”予感”に向かって、全力で走る。
走って走ってゴロゴロ転がって、埋もれて、又立ち上がって、這いつくばって〜
赤い砂まみれに全身塗され、視界を遮る小高い丘は 四つん這いで登り切る。
紅い砂は、さらにより一層濃度を深め、色彩を毒々しく濃厚に強く鮮明に変えていく。
「姉様、貴女は一体何をーーー何を見つけてっ!!
ーーー実際は何をしようとしたのっっ?!」
今回も 体感温度だけは感じない、砂のジャリジャリだけだ。
でもきっと熱い!!
”本物”は現地は熱波で死にそうな地獄だろう!
それだけに、異様な程震える恐怖を感じる。
姉は、城主から聞かされていた貴重なレアな結晶物質がそんなに欲しかったの?
今までどんなに血眼になっても、ほんの少量しか、銀河の何処からも発掘されていなかった筈よ!
何をーーーー 貴女は、不吉な禁忌の「紅い谷」で見つけたって言うの??
お姉様!!
タレイアが丘の頂上に登り切ると、その向こうは正しく真の「紅い谷」だった。
燃えるような紅の景色ーーー!!
見下ろした瞬間、不気味な 〜正体不明な音の正体もわかった。




