精神への旅へ ②
アグライアの視界が、先程と同じ様子でみるみる蕩けだした。
スゥーーーっと、再びハッキリとした映像が浮かぶと、思わぬ展開が彼女を待ち構えていた。
それはアグライアが、誰からも知らされていない辛い真実ーーーー!
「何処をブラブラ 呑気に歩きまわってたんだッ!!」
姉タレイアと叔父ロームルスが揃って、永久凍土の彼方に設営されたベースキャンプにアイスモービルで命からがら帰還。
するとーーーイライラと!! 激怒する姉妹の父が待ち構え、姉に容赦なく怒鳴りまくった。
中心部の温かな温度に調節された巨大テントの中、震え上がる恐ろしい形相。
大統領ーーー
正直なところ、とても父親とは思えない男からの無情な第一声は、外部の氷よりも冷ややか、欠片も思いやりの片鱗も無い残酷で酷い声の叱責。
「ーーーごめんなさい」
タレイアは叱責にビクッと体を強ばらせ、ガタガタ揺れる小声で謝っている。
本当にまだ「少女」の形容が相応しい、小さな小さな体にしか見えないのに。
「それは 一寸
ーーーーーあんまりな仰りようではありませんか?」
同じテント内部に居た、堪りかねた表情のロームルスが助け船を出す。
〜見ておられなかったのだわ!だってお優しい方だもの!!
アグライアは痛ましく思うのだが、無情な状況はどんどん進んでゆく。
「随分な仰りようですねーーー
でしたらば、あの遭難地点に置き去り同様〜
最早自殺行為としか言えない無謀なフィールドワークを行った力ある大人達の、『責任の所在』は一体全体どなたが償い、罪はどうなるのでしょうか?」
「ーーー何?!」
「ええ、今回の失点はこの子にではなく、むしろ隊のリーダーである貴方の方にあるのでは無いですか??
私の言う事は違いますか! 是非お答え下さい大統領閣下!」
若い青年の姿の姉妹の叔父、ロームルスは彼女らの父親に正論で噛みついた。
「〜〜〜〜もう一度言ってみろ!」
「ぇえ幾らでも云いましょう、大体、どうしてこんな幼い子どもを!
この先天候が荒れるとわかっている状況で、すさぶ現場に連れ出したんですか?
軍事国家トールでも、こんな滅茶苦茶な軍事教練を幼年学校在籍の生徒には行いません!
今ここで 納得のいく説明を正式に求めます!!」
すると大統領、タレイアとアグライアの父は 嫌な薄笑いを顔全体に浮かべる。
「〜随分な言い草じゃ無いか」
見覚えのある悪鬼に似た昏い父の笑い、アグライアは嫌悪で吐きそうになる。
「〜惑星トールの ”王子様のご学友”〜
大王様の溺愛する能なし王子、トール軍の士官学校、幼年学校からの長年のルームメイトともなると物言いが、随分ご立派で 大層なものになるんだな?
ーーーぁあ?
一体ラオコーン大統領であるこの私に、お前は何様のつもりだ!!」
「……!」
「ははは ”貧乏人”のーーーーー
『地位』も 『資産』も、『自身が率いる大した部下』もいない〜!!
何も 持つものも無い、こ生意気な……!
……何処の馬の骨とも知れない、みずぼらしい小倅のくせに!
ええっっ?
血の繋がらない姉を奪った私が そんなに憎いか?
ーーーいいか?? 娘タレイアは私の『後継者』だ……!
今からこの国を将来守るべく、厳しく育て上げて何が悪い!!
何も持つ物が無い無責任でもいいお前とは、コイツはそもそも、生まれた時からの立ち位置が 大きく違うのだよ!!
この出しゃばり者めッッ、身の程を知れーーーっっ!!」
プライドの高い若いロームルスの顔色が、一瞬でにザッと変わったのが、アグライアにも ハッキリ感じ取られた。
ーーーーロームルスはーーーゆっくりとした身のこなしで、タレイアの前に体を割り込ませる。
後ろ手でガタガタと震える、小さな少女の体を優しく庇うように抱え込み、安心させるようにポンポンと小さな子どもの背中を柔らかくタップする。
「そこまで言うのでしたらーーー私からも1言申し上げます」
その時ロームルスの全身から、青白い炎がメラメラと立ち上るかに見えた。
顔は、角度的に表情はよく見えなかったが、本気で怒りを剥き出しにしているのは明白、叔父の想像を絶する威圧感に息を吞む。
「そうですか、いいでしょう。
”そうだ” としてーーーも、部下の命ですら。
ましてや正統な後継者の生命すらーーーー厳しい戦闘状態ならまだしも」
そこでロームルスは、大きな口元でクスッと笑う。
続いて、くっくっくっく冷たい、ゾッとする含み笑いを喉の奥で響かせるのだ。
「平時ですらーーー満足に守り切る事が出来ないトップなど、下の人間には 迷惑以外何者でもありません。
わかりましたーーー私は必ず貴方を越える、誰でも私の名を知るという、ひとかどの地位をこの実力で得てみせましょう。
大統領は、偉大な開拓者であられるご両親様から、ご立派な地位その他を。
〜ただ最初に生まれてきたと云う幸運だけで、易々世襲しただけではありませんか?」
「なんだと?!」
「近場だったとは言え、姉の緊急連絡で、ここまで違法すれすれ最短の高出力のワープ航法でトール軍演習星系空域の宇宙空間から駆けつけた私を……
『姪』を守った高い能力の自分を甘く見ないでいただきたい!」
「〜〜〜!!」
2人の男達の 激しい視線が空中で激突する。
「手をこまねくばかりの無能な貴方〜 本来、人の上に立つ器ではありません。
何故ならば、単純な救出活動の指針を、今回ですら全くマトモな方針も打ち出す事が出来ず、悪戯に怒鳴り散らし右往左往するばかり」
ーーーそこで再び、アグライアの有能な叔父はクスッと笑う。
「何の『救助活動』も打ち出せない、情けない父親とは名ばかりの貴方に変わって。
お義兄様に将来何かあったら必ずや姉の娘達を、私は全力で守り切って見せましょうぞ」
「ーーーやれるものならば やってみるがいい!!」
アグライアの父は 勝ち誇った悪魔の形相で怒鳴りつけ、傲慢な笑いを見せる。
それは男達が共にかわした、人生と信念をかけた宣戦布告に他ならなかった。
目の前の出来事はそこで終了する。
再度 アグライアの視界からーーーーサラサラと 目の前の映像が春の雪が溶けるかの如く儚く消え失せていった。
驚いて慌てて閉じた目を、ゆっくり開けると、そこはもうーーーー氷の地獄〜
永久凍土の大地と、先程のテント内部の激しい諍いの凄まじい様子は影も形も無くて。
今度は全く違う 優しい、穏やかな日差しが差し込む大統領府のパステルカラーが美しい姉の居住区域に転じている。
ひらりと綺麗なドレスの裾をなびかせた少女ーーーー!
目の端にまだ小さい頃のタレイアの可憐な後ろ姿が、パァッと飛び込んだ。
「タレイア 待ってーーー!! 」
やはり自分の姿も声も、相手には全く認識出来ないようである。
どうすればいいのかわからぬ侭〜 アグライアは 必死に姉の姿を追いかけた。




